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033.初勝利の快感。

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 残念ながら経験値を取得、という概念自体が僕には存在しない。
 けれど実際に体を動かして得たものは、真の経験となり僕の心と体に確かに刻まれた。

(悪くない。悪くないよ)

 勉強もスポーツも得意ではなかった。
 おそらく日本のそのまま持ってきた僕では、刺又のような枝に切り裂かれて、苦鳴をあげながら微生物に分解される運命だっただろう。

 それが今は真逆。

 頬と腕に二筋の傷があるがそれは浅いモノ。
 もうピクリとも動かないウォーブランとは違う。
 確かに魔物を倒し、僕の糧として取り込んだ。

「魔物を倒した後ってどうすればいいの?」

 僕の腕の傷をぺろぺろと舐めてくれるピュイの頭を撫でる。

「ウォーブランは枝先についた木の葉にだけ特別な効果があるなのです! 他は枝としての価値しかないなのです!」

 木の葉はどうやら鉄のように硬くなっていて、僕の頬と腕に傷をつけたのはおそらくこの木の葉なのだろう。
 見た目が完全に虫食い枯れ葉といった感じなので、飾りかと思ってしまっていた。

 魔力を失ったのか、もうオーロラのような揺らぎは見ることは出来ないし、その体は完全に枝と同じ感触。

(モンスターとはまるで違う……。遺体が残るってのはちょっと不気味だな)

 見下ろしながらそんなことを思う。
 先ほどまで動いていたと考えると余計に感慨深い。

 とはいえ勝った。

 僕は勝利を治めた。

 それは命の一方的略奪なのかもしれない。
 けれど、それでも僕は命を賭けて戦って、そして勝った。

(弱肉強食ではないけれど、全ての生あるものは他の個から奪わないと生きてはいけない)

 それはある意味では共存といえるもの。
 奪い、奪われ。だから命は輝き美しい。

(なんてね)

 さてと、と思いながら当たりを見渡し本来の目的であるエンスール草を探してみる。
 森の草葉の影からいくつかその姿を覗かせている。
 依頼は10株であったがそれ以上取ってはいけないという事はない。

(小説だと10倍とか20倍とか取ってギルドの人を驚かせるんだよね)

 最悪アイテムボックスに入れていてもいいが、現在の革袋ではそんなに詰めることは出来ない。
 どこでもアイテムボックスを出せるという力に、他人の芝は青く見えるんだなとか思いつつ、見えていたエンスール草を刈り取り、全部で16となった。

 その時、遠吠えのような声が耳に届き、ピュイが「強い魔物の気配なのです!」と翼をはためかせた。
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