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第三夜 怪異
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「正樹の奴、いったい何処に行ったんだ」新宿のホテル街を歩きながら、一条は毒づいた。
岸本杏殺害の現場を離れ、はや一時間。あれから一条は後輩の捜索を行っていた。SNSでもメールでも、念話で語りかけても返事はなく、呪術的な探索でも居場所を計れない。
ここまで連絡がつかないとなると、さすがに心配の度合いも大きくなる。とはいえ闇雲に探しても意味はない。適当なところで切り上げ、正樹からの連絡を待とうかと考えた。
その後も成果は上がらず、一条は一旦、神楽坂の事務所へ戻ることに決めた。だがしばらく
歩くと、表通りから脇道へと続く道で、三人の若者がモメていることに気付いた。かかわり合いになるのも面倒なので、一条はそのまま素通りしたが、少年の叫び声にその足を止めた。
喧嘩にしてはやけに必死な声だ。それに僅かだが異質な霊気も感じる。一条は面倒くさそうに赤茶色の髪を掻いたあと、踵を返し、早足で少年のもとへ向かった。
脇道の入り口では、金髪の青年が少年を殴りつけていた。
ただの喧嘩にしては過剰な暴力だ。一条は無視して行こうとしたことを少しだけ後悔した。
金髪の男が、少年を殴りつけようと拳を振り上げていた。その腕を、一条は背後から掴んだ。
「アァ? なんだてめぇ邪魔する気か」
「やり過ぎだ。もう遅いし眠いだろ。今すぐ帰れ」
眼を飛ばして振り向いた男の額に、一条は人差し指で触れ、暗示をかけた。
「あ? ああ。そうだな。帰ろうかな、うん」金髪の男はうろんな表情で歩き出した。
「お、おい、どうしたんだよ急に」
スキンへットの男が狼狽するが、一条はその男にも暗示をかけ、この場から離れさせた。
あとは顔に青痣をつくった少年だけとだ。一条は彼の体を起こさせ、声をかけた。
「またこっぴどくやられたな。何して怒らせたんだ?」
だが少年は一条には顔を向けず、脇道の暗闇をじっと見つめていた。
「あんた……早く逃げろ。あいつは、ヤバいんだ」
少年の忠告で、一条はようやく脇道の先にひとりの男が立っていることに気付いた。
ポロシャツを着た冴えない顔の男だ。男はぼんやりとした顔でこちらへと視線を向けている。それが妙に不気味だった。これだけ近くにいて、何故気付かなかったのか。そのことに警戒心を抱きつつ相手を観察すると、一条は霊気の感触から、男の姿をしたそれが怪異だとわかった。
反射的に、一条は全身に霊力を流した。
それとほぼ同時、男の上半身が膨張し、風船が破裂するようにして数え切れないほどの鼠へと変化した。鼠達は壁を走り、あるいは真っ直ぐに一条たちへと飛びかかって来る。
一条は少年の襟の後ろを掴み、強引に背後へ投げ飛ばした。
緋色の数珠のひとつを手のなかに砕き、黒い灰となった数珠を鼠たちへと放つ。
灰が触れた瞬間、鼠たちは瞬く間に発火し、全身消し炭の死体へと変わり果てた。
炎が消えたとき、後に残ったのは、上半身を鼠の群れに変えた筈の男の下半身だけだった。
だがそれも数え切れないほどの鼠へと変わったかと思うと、一斉に壁を走り、この場から去っていった。不利を悟って逃げたのだろう。
一条は鼠を逃さないよう結界を張ろうと考えたが、その前に少年のことを思い出した。
「おい、大丈夫……」か、と言おうとした所で言葉が止まった。少年はビルの壁に頭をぶつけ
て意識を失っていた。巻き添えにしないようにと、投げ飛ばしたのが裏目に出たらしい。
「あーやっちまった」一条は手のひらで顔を覆った。
咄嗟のことだったので加減が出来なかった。少年にはあとで謝ろうと思いつつ、彼に肩を貸して運びだそうとした。どういう理由があるかは知らないが、あの怪異が狙っていたのはこの少年だ。放ってはおけない。詳しく話を聞くべきだろう。
岸本杏殺害の現場を離れ、はや一時間。あれから一条は後輩の捜索を行っていた。SNSでもメールでも、念話で語りかけても返事はなく、呪術的な探索でも居場所を計れない。
ここまで連絡がつかないとなると、さすがに心配の度合いも大きくなる。とはいえ闇雲に探しても意味はない。適当なところで切り上げ、正樹からの連絡を待とうかと考えた。
その後も成果は上がらず、一条は一旦、神楽坂の事務所へ戻ることに決めた。だがしばらく
歩くと、表通りから脇道へと続く道で、三人の若者がモメていることに気付いた。かかわり合いになるのも面倒なので、一条はそのまま素通りしたが、少年の叫び声にその足を止めた。
喧嘩にしてはやけに必死な声だ。それに僅かだが異質な霊気も感じる。一条は面倒くさそうに赤茶色の髪を掻いたあと、踵を返し、早足で少年のもとへ向かった。
脇道の入り口では、金髪の青年が少年を殴りつけていた。
ただの喧嘩にしては過剰な暴力だ。一条は無視して行こうとしたことを少しだけ後悔した。
金髪の男が、少年を殴りつけようと拳を振り上げていた。その腕を、一条は背後から掴んだ。
「アァ? なんだてめぇ邪魔する気か」
「やり過ぎだ。もう遅いし眠いだろ。今すぐ帰れ」
眼を飛ばして振り向いた男の額に、一条は人差し指で触れ、暗示をかけた。
「あ? ああ。そうだな。帰ろうかな、うん」金髪の男はうろんな表情で歩き出した。
「お、おい、どうしたんだよ急に」
スキンへットの男が狼狽するが、一条はその男にも暗示をかけ、この場から離れさせた。
あとは顔に青痣をつくった少年だけとだ。一条は彼の体を起こさせ、声をかけた。
「またこっぴどくやられたな。何して怒らせたんだ?」
だが少年は一条には顔を向けず、脇道の暗闇をじっと見つめていた。
「あんた……早く逃げろ。あいつは、ヤバいんだ」
少年の忠告で、一条はようやく脇道の先にひとりの男が立っていることに気付いた。
ポロシャツを着た冴えない顔の男だ。男はぼんやりとした顔でこちらへと視線を向けている。それが妙に不気味だった。これだけ近くにいて、何故気付かなかったのか。そのことに警戒心を抱きつつ相手を観察すると、一条は霊気の感触から、男の姿をしたそれが怪異だとわかった。
反射的に、一条は全身に霊力を流した。
それとほぼ同時、男の上半身が膨張し、風船が破裂するようにして数え切れないほどの鼠へと変化した。鼠達は壁を走り、あるいは真っ直ぐに一条たちへと飛びかかって来る。
一条は少年の襟の後ろを掴み、強引に背後へ投げ飛ばした。
緋色の数珠のひとつを手のなかに砕き、黒い灰となった数珠を鼠たちへと放つ。
灰が触れた瞬間、鼠たちは瞬く間に発火し、全身消し炭の死体へと変わり果てた。
炎が消えたとき、後に残ったのは、上半身を鼠の群れに変えた筈の男の下半身だけだった。
だがそれも数え切れないほどの鼠へと変わったかと思うと、一斉に壁を走り、この場から去っていった。不利を悟って逃げたのだろう。
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「おい、大丈夫……」か、と言おうとした所で言葉が止まった。少年はビルの壁に頭をぶつけ
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「あーやっちまった」一条は手のひらで顔を覆った。
咄嗟のことだったので加減が出来なかった。少年にはあとで謝ろうと思いつつ、彼に肩を貸して運びだそうとした。どういう理由があるかは知らないが、あの怪異が狙っていたのはこの少年だ。放ってはおけない。詳しく話を聞くべきだろう。
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