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第二章 尾張国編「さまよう赤い糸」
第二話③ 道三対面(3)
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───面会は三日後、場所は尾張の富田、聖徳寺。
道三の対面の申し出に対し、信長はすぐに承諾の文を返した。
面会の日の朝。
信長が派手な柄の浴衣に半袴姿で帰蝶の前に現れたので、帰蝶は目を吊り上げた。
「私の父を侮らない方がいいわ。父が見限ればその場で首を取られて、この城は父のものになってしまう。そうやって今の立場を手にした人なのよ。そんな格好で父の前に出るなんて、殺されに行くようなものだわ」
「どんな格好をしても結局俺は俺だろ?殺される時には殺されるんだ」
信長は言うと帰蝶を振り返り、いたずらそうに笑って見せた。
「信長、何を着ても俺は俺というのなら、直垂を着てちょうだい。大急ぎで準備したんだから。そんな恰好で行かないでよ」
帰蝶は叫んだが、信長は鬱陶しいとでもいうかのようにひらりと手を振っただけでさっさと出て行ってしまう。
橘が、肩を怒らせる帰蝶の背中をぽんぽんと叩いてなだめた。
「帰蝶落ち着いて。殿もああ見えて周到に用意してるんだ。ご一行のさまを見てごらん」
帰蝶は気を取り直して御殿から出ると、城の門前にある馬出しまで行き、圧倒されて立ちすくんだ。
広大な馬出しに、先触れのほかにお供が八百、三間半の長槍をもつ兵が五百、鉄砲、五百。弓も五百ばかりそろって馬に乗っていた。すべての兵が鎧を身に着け、完全武装を整えている。甲冑が触れ合う音が物々しい。天高くつき上げられた、尋常ではない長さの槍が、空を遮って不穏な影を落としている。今にも戦が始まりそうな鬼気迫った雰囲気だ。
唯一、これが戦の準備ではないと分かるのが、信長の恰好だった。
萌黄の紐で髪をぐるぐる束ね、浴衣の着流しに半袴。いつものバカらしい様相の信長が馬出しの中央で意気揚々と馬の鼻先を操っていた。
尾張の富田。
農民たちが田植えに精を出す水田に、青空が映っている。
ここは、信長が聖徳寺に向かう通り道。
農民の住むあばら家に、男二人が身をひそめている。住まいの主が田植え作業で不在にしているその小屋で、斎藤道三と明智十兵衛光秀は、じっと座って戸口の隙間からあぜ道を見つめていた。
───どのような準備で参られるか、先んじて把握しておいた方が有利では
光秀がそう道三に進言して、「待ち伏せ」を実行したのだった。
光秀は、道三と信長の対立を何としてでも阻止したかった。すべては帰蝶のため。
舅と娘婿との対面、これを単なる親交を深める場、と理解するには情勢が悪すぎた。
両者の腹に別の目論見があれば、刀をまじえることになりかねない。いわば一触即発の面会なのだ。
しかも舅はマムシと呼ばれる斎藤道三。婿が本物のバカだとわかれば首を取って那古野城などさっさと自らの手に収めてしまう心づもりでもおかしくない。
油売りから出世した損得勘定の鋭いマムシは、ついでに交易拠点の熱田の湊も手に入れて、美濃国にさらなる富を送り込もうと内心ニヤついているかもしれないのだ。
なんとか道三様に、信長殿を気に入ってもらわなければ、と光秀は画策していた。
───信長殿はこの通り道を、正装に身を固めて重々しい軍隊を備えて通る。その威厳たっぷりの隊列を見れば、道三様は信長殿を軽視することはないだろう
そう踏んでいた光秀は、信長の一行が現れたとたん息を呑んだ。
すぐにでも戦に臨める規模の軍勢と、完璧な武装。なのに、大将である信長は丸腰、ふざけた格好で首のすわりたての赤子のように馬上にふらふら座っている。
───信長殿、それはまずい
光秀は遠く信長を見据え、内心で彼をなじった。
険しい表情の兵士の群れが逆に、ふざけた格好の信長のばかぶりをひときわ引き立ててしまっている。
───姫が信長のために上等な直垂を用意すると言っていたはずなのに
道三がため息を漏らして、言った。
「あれだけの軍勢に守られて、あの間抜け顔はなんだ。光秀、お前はどう思う」
光秀は鮮やかな柄の浴衣を睨み付けながら答える。
「あのお姿は・・・ひどく・・・」
光秀は素早く考えを巡らせ、再び口を開いた。
「ひどく・・・恐ろしい方です。信長殿は」
「なぜ恐ろしい?」
「間抜けな姿が偽りで、あの軍勢を率いるだけの威厳を持った信長殿こそが真実。だとしたら・・・恐ろしいとは思いませんか」
光秀は神妙な面持ちで道三を見た。
「偽り?」
「周辺の敵方を油断させるための策です。相当の思慮深さをお持ちの方にちがいない」
「信長が思慮深いのか、はたまた頭でっかちのお前の勘ぐりすぎか・・・確かめに行くとするか」
道三は立ち上がった。
途中の小さな寺で休息をとる予定の信長を追い越し、聖徳寺に先回りした道三は、本堂で婿の登場を待っていた。
が、なかなか現れない。
じりじりしていると、約束の刻どおりに信長が数名の家臣を引き連れて廊下を歩いてきた。廊下には道三の重臣たちが勢揃いし、信長を出迎える。というより、その視線で威圧感を与えている。
信長は男たちに微笑みかけてその前を過ぎ、お堂の入り口に立ち止まり柱にもたれた。
道三はその姿を見て、目が釘付けになった。
これが、先ほど見たあの信長なのか、脇に控えた光秀に目で問うと、光秀はかすかに顎を引き、間違いない、と返してくる。光秀の目にも、信長の変身ぶりを目の当たりにした興奮の色が見てとれた。
折り目正しい鼠色の装束は、春の日を浴びて、銀色に照り輝いている。
無彩色の衣装は、信長自身の内なる輝きを一層際立たせているように見えた。
バカまるだしの極彩色の衣装は、信長が放つ命の輝きを覆い隠すための隠れ蓑だったのだ。
光秀がいった「偽り」こそが、この信長の実態を的確に言い当てたものだったのだ。
侍烏帽子の下で煌めく目に深い色をたたえて、信長は道三を見ている。
そこには初めて会う隣国の君主への畏れと、憧憬の色が見て取れた。同時に、血のつながらない父への愛着の念を示すような、愛嬌さえも備えている。
───たった二つの瞳の中に、これほどまでの多くの感情が見え隠れするとは
「信長殿であるな」
名乗るのを待たずに思わず道三が声をかけた。
信長はすいっと微笑むと、座して頭を下げた。
「織田信長にございます。お初にお目にかかります」
そして顔を上げて微笑むと、照れくさそうに、父上、と道三を呼んだ。
道三は唇の端を引き上げた。もはや目の前の底知れぬ魅力をたたえた若い男を、面白がっている風だった。
「帰蝶は元気にしているか」
「はい。先日も二人で鷹狩りに出かけました」
「鷹狩か。相変わらずのおてんばぶりだ」
「いっしょにいて楽しい女です。・・・他の女たちとは違う。そう、女と言うより、一緒にいて楽しい人間と言えばいいのか」
「それはよい。ただその言いぶりからすると、子宝に恵まれないのも納得というよりほかはない。嫡男を産めなければ美濃にお戻しいただいても一向にかまわない」
美濃に戻す、と聞くなり信長の顔つきが鋭くなった。
「・・・それは父上、和睦を解消すると言う事ですか」
突如、攻撃的な冷たい光を瞳に宿し、まっすぐに道三を見据えてくる。獲物を見定める猛禽類を思わせるその恐ろしい目に、道三は表情さえ変えなかったものの、内心ひるんだ。
この男は帰蝶がいる限り美濃を討つつもりはないのだ。もし和議を踏みにじるようなことをしてこの男を裏切れば、手ひどく殺され、絶命してもなお体を切り刻まれるのではないか。
───痛い目に遭いそうだ
道三は思った。
「和睦を解消するつもりはない。妻として役に立てないままそばに仕えるのは、娘が不憫だ、そういったことしかわしは考えていない」
と、つい本音が出た。結局道三は、娘が可愛いのだ。
信長の目に、帰蝶を愛する者同士の親愛の情が戻った。
「俺は帰蝶をずっとそばに置いておきたいのです。たしかに俺たちの婚姻は和睦のために結んだものです。国同士の思惑から見れば、帰蝶はただの人質かも知れない。でも俺にとっては、生涯の伴侶でもあるんです」
道三は不意にこみあげるものを、ぐっと堪えた。
───おれは、帰蝶を不幸にしてなどいなかった
道三はつねづね、自分が娘にした仕打ちを悔やんでいた。戦が絶えない世では当たり前のこととはいえ、愛しい一人娘を政治の道具として扱った自分を悔いつづけていたのだ。
―逆にこの短刀で父上を刺すことになるかもね―と言い放ったあの時の帰蝶の目は本気だった。
が、信長は決して帰蝶を政略結婚の駒として見ていなかった。この男に、帰蝶は間違いなく愛されているのだ。
道三は目頭が熱くなるのを堪えた。
「和睦はもちろん、継続だ。今後、信長殿の領地が攻め入られることがあれば、美濃から援軍を出そう」
「ありがとうございます。お父上が後ろ盾となってくれれば心強い。
俺はこのとおり、ただのばかだとこけにされています。
父が死んだとたんに周囲の者たちが俺を狙ってちょっかいを出してくる。父が亡くなって早々今川に寝返った大高城に沓掛城、それに俺を毛嫌いしてくる守護代の織田彦五郎・・・。
けど俺は、父が長年戦い続けて勝ち取った領地は、なんとしても守る。俺の代になってすべてかっさらわれるなら、さっさと死んだ方がましだ」
「早々に死なれてはこちらも困る。帰蝶をどうするんだ?生涯ともに過ごすつもりなんだろう? 信長殿の窮地には、私もひと肌脱ぐのを厭わない。父だと思って相談に来るがいい」
道三は言うと満足げに笑って立ち上がった。
無事に会見を終えたのをみとどけ、光秀は肩の力が緩むのを感じた。
夕刻の那古野城。
帰蝶は信長の帰還の気配がするや否や再び門前へと走った。
軍勢に囲まれ、またも信長は派手な柄の浴衣姿だった。
帰蝶は馬出しにひしめき合う軍勢を見つめ、隣にいた橘に、聞くでもなく呟いた。
「この田植えの時期に領民たちは集まれないはず。たった二日で、一体どこからこんなに大人数を」
「菫が集めたらしい」
橘が答えた。
「菫が?橘、それはどういうこと」
「あの子はただの農民の出ではない。それにただの影武者でもない。じつは光秀さまが忍びの一派から預かった子らしい。あの子が呼びかけただけで昨日のうちに各地から政綱のもとに、この手勢がそろった。おかげで政綱はついに信長殿に顔を覚えてもらえた」
「菫は、忍びだったのね」
急に気配を消したり突如現れたりする菫を思い、合点がいった。やはりただ者ではなかったのだ。
「じゃあ、その忍びたちが甲冑を備えているのはどういうことなの」
「あれは、信長殿が準備したもの。しかけはあの、髪をくくった紐にある」
帰蝶は馬にまたがる信長の茶筅曲げにぐるぐる巻かれた、萌黄の紐を見やった。
「殿はああして、紐や威を編む職人たちと日ごろ仲良くしてるんだ。こんな日に備えてのことだったんだろう。おととい、揃いの甲冑を千、と頼んで、今朝には届いたらしい」
橘はさらに得意げに続けた。
「そしてあの鉄砲。誰がそろえたと思う?」
橘はさもおかしそうだ。帰蝶が首をかしげると、「光秀さまの仕業」と言った。
「堺の鉄砲職人のもとに弟子入りして鋳造を学んでいた光秀さまが、現地から調達して昨晩三百挺ほど持ち込んだと。美濃のお方が尾張に鉄砲を融通するなんて、どうかしている。これが恋の病のなせる業か。あれは相当な病だね、かなりの重症だね」
そう言って橘は呆れ顔をしてみせた。
ひと月後。
帰蝶は三年ぶりに美濃の地を踏んだ。
道三と親交を深めた信長が、父娘の関係の修復のために里帰りを提案したのだった。
そのころ尾張国領内には、駿河の今川勢の侵攻が進んでいた。そのため稲葉山城へは敵方の目をかいくぐってお忍びでの帰還となった。
久々に対面した道三は、以前よりひと回り小さくなっていて、どこか心細そうな雰囲気を漂わせていた。逞しく頼れる父親が年齢とともに弱りつつある姿を見るのは、辛いものがある。
「私の死後、美濃は信長に託すことにした。遺言にも記すつもりだ。つまり帰蝶、信長と二人でこの美濃を守って欲しいと言うことだ」
有無を言わせぬ口ぶりだった。
帰蝶からしてみれば、道三の口から「美濃と尾張は戦いを交えることはない」と当面の確約が取れればそれでよかった。けれどもそこはさすが、深謀遠慮の道三であった。自らの死後までを見越して美濃の行く末を決めてしまっていたのだ。
「けど父上、兄がそれを何というか」
「義龍は嫡男ではあるが、当主の器ではない。信長は尾張を掌握し、父信秀の悲願だった美濃制圧を目指すことになろう。そうすれば義龍はかならず、負ける」
道三は先日の聖徳寺の会見で、信長をバカではないと確認したのみならず、わが子よりもはるかに上手であると悟ったようだった。人の実力のほどを見透かすことくらいは百戦錬磨の男が、そう判断したのであれば帰蝶はうなずくしかない。
「いずれ信長のものになるのであれば、無駄な血を流さずに決着をつけたいのだ。私は、義龍のことも死なせたくない。美濃の多くの者たちをこれ以上死なせたくないのだ。帰蝶、美濃の者たちを死なせるな。そして信長を死なせるな」
道三は、単に自分の領有する国を守っているのではない。国を形作る人々を、守りぬこうとしているのだった。
美濃の国をまもれということは、民をまもれということだ。道三はそう帰蝶に訴えていた。
帰蝶は道三の目をしかと見つめ、こくりと頷いた。
帰蝶は道三と面会後、その住まいである金華山の中腹の御殿を出た。それから山肌の石段を上って稲葉山城の天主に入ると、留守居をしていた光秀が出迎えた。
「姫、よく来たね」
光秀は先日の別れ際のわだかまりなど忘れ去った顔で、白い歯を見せて微笑んだ。その笑みはあまりに爽やかで、帰蝶は少し寂しくなった。別れ際のすれ違いだけでなく、その前に交わした熱い肌のふれあいすらも記憶にないような、あまりに無垢で健康的な笑顔だ。
こんなふうに光秀はいつも、都合の悪いことはなかったような顔をして、二人の関係を振り出しに戻してしまう。
「光秀、菫を通じて兵を送り込んで、鉄砲も三百丁、手配してくれたそうね。しかも、父上に―信長のばかは敵を欺くための偽り―と吹き込んだと聞いたわ」
感謝の意を伝えるつもりが、光秀の狡猾さをなじるような口ぶりになってしまった。でも実際、手口があまりに周到で帰蝶すらだまし討ちに会わされているようで、なんだか悔しかった。結局自分は光秀の手の上で踊らされている、という気になってくる。
けれども、あまりに自然に手を取って引き寄せて、当然のように抱きしめられると、すべてをこの男に委ねるのも悪くない、と思ってしまうのだ。
光秀のよどみない仕草は、帰蝶の心を丸裸にする。余計な思いをはぎ取られれば、ただ、光秀が好き、という純真で残酷な帰蝶の本性がむき出しになる。
「信長殿はバカを演じている。それを一番よく分かっているのは姫、あなただ」
抱きしめながら、光秀は帰蝶の髪を優しく撫でた。
「姫、俺は悔しくてならないよ。あなたがなぜあんな傑物にとついだのか。信長殿は大きなことを成しえる男だ。姫を託すには十分な男だ。彼が相手なら仕方ない、そう思える」
光秀はずるい。
信長に負けを認めたような言い方をしながら、帰蝶の肌に熱い手のひらを滑らせるのをやめない。まるで、妻としての帰蝶は譲っても、この心と体は俺のものだ、とその指先で帰蝶に教え込むように。
各地を遍歴し、何人もの大名から知略の将として仕官を求められていると聞く。その才をもってすれば女ひとりを籠絡するくらい光秀にとっては何でもないことなのかもしれない。恐ろしい男だ、と思うのに、その手にいざなわれて打掛を肩から降ろしてしまう自分がいる。
体の芯が、溶け落ちる。帰蝶はくずおれそうになって光秀にしがみついた。
「俺は信長殿のようにいつもあなたのそばにはいられない。でもあなたを守ることだけを考えているよ」
耳元にかかる熱い吐息で全身が紅に染まる。帰蝶は肩で息をして、頬に何度も口づけを受けた。
「光秀、これ以上はだめ」
「だめといいながら、体は悦んでいる。いけない姫だ」
指先で弄ばれ、悔しいのに体が光秀に翻弄されるままに感じ、応えてしまう。
金華山を夕日が照らしている。紅い夕日を頬に受けて、帰蝶は光秀にしがみつき、愉悦の叫びを洩らした。
道三と信長は対面後、関係は良好なものとなった。
信長が今川方の村木砦を攻撃した際には、道三が信長の本拠地である那古野城を守ったほど、信頼関係は厚いものとなっていた。
しかし、その戦から一か月後。
突如、道三が隠居し、義龍に家督をゆずったと知らせが届いた。
美濃は信長に託す、そう約束したはずの道三が、美濃国の当主の座を、信長ではなく義龍に譲ったのだった。
道三の対面の申し出に対し、信長はすぐに承諾の文を返した。
面会の日の朝。
信長が派手な柄の浴衣に半袴姿で帰蝶の前に現れたので、帰蝶は目を吊り上げた。
「私の父を侮らない方がいいわ。父が見限ればその場で首を取られて、この城は父のものになってしまう。そうやって今の立場を手にした人なのよ。そんな格好で父の前に出るなんて、殺されに行くようなものだわ」
「どんな格好をしても結局俺は俺だろ?殺される時には殺されるんだ」
信長は言うと帰蝶を振り返り、いたずらそうに笑って見せた。
「信長、何を着ても俺は俺というのなら、直垂を着てちょうだい。大急ぎで準備したんだから。そんな恰好で行かないでよ」
帰蝶は叫んだが、信長は鬱陶しいとでもいうかのようにひらりと手を振っただけでさっさと出て行ってしまう。
橘が、肩を怒らせる帰蝶の背中をぽんぽんと叩いてなだめた。
「帰蝶落ち着いて。殿もああ見えて周到に用意してるんだ。ご一行のさまを見てごらん」
帰蝶は気を取り直して御殿から出ると、城の門前にある馬出しまで行き、圧倒されて立ちすくんだ。
広大な馬出しに、先触れのほかにお供が八百、三間半の長槍をもつ兵が五百、鉄砲、五百。弓も五百ばかりそろって馬に乗っていた。すべての兵が鎧を身に着け、完全武装を整えている。甲冑が触れ合う音が物々しい。天高くつき上げられた、尋常ではない長さの槍が、空を遮って不穏な影を落としている。今にも戦が始まりそうな鬼気迫った雰囲気だ。
唯一、これが戦の準備ではないと分かるのが、信長の恰好だった。
萌黄の紐で髪をぐるぐる束ね、浴衣の着流しに半袴。いつものバカらしい様相の信長が馬出しの中央で意気揚々と馬の鼻先を操っていた。
尾張の富田。
農民たちが田植えに精を出す水田に、青空が映っている。
ここは、信長が聖徳寺に向かう通り道。
農民の住むあばら家に、男二人が身をひそめている。住まいの主が田植え作業で不在にしているその小屋で、斎藤道三と明智十兵衛光秀は、じっと座って戸口の隙間からあぜ道を見つめていた。
───どのような準備で参られるか、先んじて把握しておいた方が有利では
光秀がそう道三に進言して、「待ち伏せ」を実行したのだった。
光秀は、道三と信長の対立を何としてでも阻止したかった。すべては帰蝶のため。
舅と娘婿との対面、これを単なる親交を深める場、と理解するには情勢が悪すぎた。
両者の腹に別の目論見があれば、刀をまじえることになりかねない。いわば一触即発の面会なのだ。
しかも舅はマムシと呼ばれる斎藤道三。婿が本物のバカだとわかれば首を取って那古野城などさっさと自らの手に収めてしまう心づもりでもおかしくない。
油売りから出世した損得勘定の鋭いマムシは、ついでに交易拠点の熱田の湊も手に入れて、美濃国にさらなる富を送り込もうと内心ニヤついているかもしれないのだ。
なんとか道三様に、信長殿を気に入ってもらわなければ、と光秀は画策していた。
───信長殿はこの通り道を、正装に身を固めて重々しい軍隊を備えて通る。その威厳たっぷりの隊列を見れば、道三様は信長殿を軽視することはないだろう
そう踏んでいた光秀は、信長の一行が現れたとたん息を呑んだ。
すぐにでも戦に臨める規模の軍勢と、完璧な武装。なのに、大将である信長は丸腰、ふざけた格好で首のすわりたての赤子のように馬上にふらふら座っている。
───信長殿、それはまずい
光秀は遠く信長を見据え、内心で彼をなじった。
険しい表情の兵士の群れが逆に、ふざけた格好の信長のばかぶりをひときわ引き立ててしまっている。
───姫が信長のために上等な直垂を用意すると言っていたはずなのに
道三がため息を漏らして、言った。
「あれだけの軍勢に守られて、あの間抜け顔はなんだ。光秀、お前はどう思う」
光秀は鮮やかな柄の浴衣を睨み付けながら答える。
「あのお姿は・・・ひどく・・・」
光秀は素早く考えを巡らせ、再び口を開いた。
「ひどく・・・恐ろしい方です。信長殿は」
「なぜ恐ろしい?」
「間抜けな姿が偽りで、あの軍勢を率いるだけの威厳を持った信長殿こそが真実。だとしたら・・・恐ろしいとは思いませんか」
光秀は神妙な面持ちで道三を見た。
「偽り?」
「周辺の敵方を油断させるための策です。相当の思慮深さをお持ちの方にちがいない」
「信長が思慮深いのか、はたまた頭でっかちのお前の勘ぐりすぎか・・・確かめに行くとするか」
道三は立ち上がった。
途中の小さな寺で休息をとる予定の信長を追い越し、聖徳寺に先回りした道三は、本堂で婿の登場を待っていた。
が、なかなか現れない。
じりじりしていると、約束の刻どおりに信長が数名の家臣を引き連れて廊下を歩いてきた。廊下には道三の重臣たちが勢揃いし、信長を出迎える。というより、その視線で威圧感を与えている。
信長は男たちに微笑みかけてその前を過ぎ、お堂の入り口に立ち止まり柱にもたれた。
道三はその姿を見て、目が釘付けになった。
これが、先ほど見たあの信長なのか、脇に控えた光秀に目で問うと、光秀はかすかに顎を引き、間違いない、と返してくる。光秀の目にも、信長の変身ぶりを目の当たりにした興奮の色が見てとれた。
折り目正しい鼠色の装束は、春の日を浴びて、銀色に照り輝いている。
無彩色の衣装は、信長自身の内なる輝きを一層際立たせているように見えた。
バカまるだしの極彩色の衣装は、信長が放つ命の輝きを覆い隠すための隠れ蓑だったのだ。
光秀がいった「偽り」こそが、この信長の実態を的確に言い当てたものだったのだ。
侍烏帽子の下で煌めく目に深い色をたたえて、信長は道三を見ている。
そこには初めて会う隣国の君主への畏れと、憧憬の色が見て取れた。同時に、血のつながらない父への愛着の念を示すような、愛嬌さえも備えている。
───たった二つの瞳の中に、これほどまでの多くの感情が見え隠れするとは
「信長殿であるな」
名乗るのを待たずに思わず道三が声をかけた。
信長はすいっと微笑むと、座して頭を下げた。
「織田信長にございます。お初にお目にかかります」
そして顔を上げて微笑むと、照れくさそうに、父上、と道三を呼んだ。
道三は唇の端を引き上げた。もはや目の前の底知れぬ魅力をたたえた若い男を、面白がっている風だった。
「帰蝶は元気にしているか」
「はい。先日も二人で鷹狩りに出かけました」
「鷹狩か。相変わらずのおてんばぶりだ」
「いっしょにいて楽しい女です。・・・他の女たちとは違う。そう、女と言うより、一緒にいて楽しい人間と言えばいいのか」
「それはよい。ただその言いぶりからすると、子宝に恵まれないのも納得というよりほかはない。嫡男を産めなければ美濃にお戻しいただいても一向にかまわない」
美濃に戻す、と聞くなり信長の顔つきが鋭くなった。
「・・・それは父上、和睦を解消すると言う事ですか」
突如、攻撃的な冷たい光を瞳に宿し、まっすぐに道三を見据えてくる。獲物を見定める猛禽類を思わせるその恐ろしい目に、道三は表情さえ変えなかったものの、内心ひるんだ。
この男は帰蝶がいる限り美濃を討つつもりはないのだ。もし和議を踏みにじるようなことをしてこの男を裏切れば、手ひどく殺され、絶命してもなお体を切り刻まれるのではないか。
───痛い目に遭いそうだ
道三は思った。
「和睦を解消するつもりはない。妻として役に立てないままそばに仕えるのは、娘が不憫だ、そういったことしかわしは考えていない」
と、つい本音が出た。結局道三は、娘が可愛いのだ。
信長の目に、帰蝶を愛する者同士の親愛の情が戻った。
「俺は帰蝶をずっとそばに置いておきたいのです。たしかに俺たちの婚姻は和睦のために結んだものです。国同士の思惑から見れば、帰蝶はただの人質かも知れない。でも俺にとっては、生涯の伴侶でもあるんです」
道三は不意にこみあげるものを、ぐっと堪えた。
───おれは、帰蝶を不幸にしてなどいなかった
道三はつねづね、自分が娘にした仕打ちを悔やんでいた。戦が絶えない世では当たり前のこととはいえ、愛しい一人娘を政治の道具として扱った自分を悔いつづけていたのだ。
―逆にこの短刀で父上を刺すことになるかもね―と言い放ったあの時の帰蝶の目は本気だった。
が、信長は決して帰蝶を政略結婚の駒として見ていなかった。この男に、帰蝶は間違いなく愛されているのだ。
道三は目頭が熱くなるのを堪えた。
「和睦はもちろん、継続だ。今後、信長殿の領地が攻め入られることがあれば、美濃から援軍を出そう」
「ありがとうございます。お父上が後ろ盾となってくれれば心強い。
俺はこのとおり、ただのばかだとこけにされています。
父が死んだとたんに周囲の者たちが俺を狙ってちょっかいを出してくる。父が亡くなって早々今川に寝返った大高城に沓掛城、それに俺を毛嫌いしてくる守護代の織田彦五郎・・・。
けど俺は、父が長年戦い続けて勝ち取った領地は、なんとしても守る。俺の代になってすべてかっさらわれるなら、さっさと死んだ方がましだ」
「早々に死なれてはこちらも困る。帰蝶をどうするんだ?生涯ともに過ごすつもりなんだろう? 信長殿の窮地には、私もひと肌脱ぐのを厭わない。父だと思って相談に来るがいい」
道三は言うと満足げに笑って立ち上がった。
無事に会見を終えたのをみとどけ、光秀は肩の力が緩むのを感じた。
夕刻の那古野城。
帰蝶は信長の帰還の気配がするや否や再び門前へと走った。
軍勢に囲まれ、またも信長は派手な柄の浴衣姿だった。
帰蝶は馬出しにひしめき合う軍勢を見つめ、隣にいた橘に、聞くでもなく呟いた。
「この田植えの時期に領民たちは集まれないはず。たった二日で、一体どこからこんなに大人数を」
「菫が集めたらしい」
橘が答えた。
「菫が?橘、それはどういうこと」
「あの子はただの農民の出ではない。それにただの影武者でもない。じつは光秀さまが忍びの一派から預かった子らしい。あの子が呼びかけただけで昨日のうちに各地から政綱のもとに、この手勢がそろった。おかげで政綱はついに信長殿に顔を覚えてもらえた」
「菫は、忍びだったのね」
急に気配を消したり突如現れたりする菫を思い、合点がいった。やはりただ者ではなかったのだ。
「じゃあ、その忍びたちが甲冑を備えているのはどういうことなの」
「あれは、信長殿が準備したもの。しかけはあの、髪をくくった紐にある」
帰蝶は馬にまたがる信長の茶筅曲げにぐるぐる巻かれた、萌黄の紐を見やった。
「殿はああして、紐や威を編む職人たちと日ごろ仲良くしてるんだ。こんな日に備えてのことだったんだろう。おととい、揃いの甲冑を千、と頼んで、今朝には届いたらしい」
橘はさらに得意げに続けた。
「そしてあの鉄砲。誰がそろえたと思う?」
橘はさもおかしそうだ。帰蝶が首をかしげると、「光秀さまの仕業」と言った。
「堺の鉄砲職人のもとに弟子入りして鋳造を学んでいた光秀さまが、現地から調達して昨晩三百挺ほど持ち込んだと。美濃のお方が尾張に鉄砲を融通するなんて、どうかしている。これが恋の病のなせる業か。あれは相当な病だね、かなりの重症だね」
そう言って橘は呆れ顔をしてみせた。
ひと月後。
帰蝶は三年ぶりに美濃の地を踏んだ。
道三と親交を深めた信長が、父娘の関係の修復のために里帰りを提案したのだった。
そのころ尾張国領内には、駿河の今川勢の侵攻が進んでいた。そのため稲葉山城へは敵方の目をかいくぐってお忍びでの帰還となった。
久々に対面した道三は、以前よりひと回り小さくなっていて、どこか心細そうな雰囲気を漂わせていた。逞しく頼れる父親が年齢とともに弱りつつある姿を見るのは、辛いものがある。
「私の死後、美濃は信長に託すことにした。遺言にも記すつもりだ。つまり帰蝶、信長と二人でこの美濃を守って欲しいと言うことだ」
有無を言わせぬ口ぶりだった。
帰蝶からしてみれば、道三の口から「美濃と尾張は戦いを交えることはない」と当面の確約が取れればそれでよかった。けれどもそこはさすが、深謀遠慮の道三であった。自らの死後までを見越して美濃の行く末を決めてしまっていたのだ。
「けど父上、兄がそれを何というか」
「義龍は嫡男ではあるが、当主の器ではない。信長は尾張を掌握し、父信秀の悲願だった美濃制圧を目指すことになろう。そうすれば義龍はかならず、負ける」
道三は先日の聖徳寺の会見で、信長をバカではないと確認したのみならず、わが子よりもはるかに上手であると悟ったようだった。人の実力のほどを見透かすことくらいは百戦錬磨の男が、そう判断したのであれば帰蝶はうなずくしかない。
「いずれ信長のものになるのであれば、無駄な血を流さずに決着をつけたいのだ。私は、義龍のことも死なせたくない。美濃の多くの者たちをこれ以上死なせたくないのだ。帰蝶、美濃の者たちを死なせるな。そして信長を死なせるな」
道三は、単に自分の領有する国を守っているのではない。国を形作る人々を、守りぬこうとしているのだった。
美濃の国をまもれということは、民をまもれということだ。道三はそう帰蝶に訴えていた。
帰蝶は道三の目をしかと見つめ、こくりと頷いた。
帰蝶は道三と面会後、その住まいである金華山の中腹の御殿を出た。それから山肌の石段を上って稲葉山城の天主に入ると、留守居をしていた光秀が出迎えた。
「姫、よく来たね」
光秀は先日の別れ際のわだかまりなど忘れ去った顔で、白い歯を見せて微笑んだ。その笑みはあまりに爽やかで、帰蝶は少し寂しくなった。別れ際のすれ違いだけでなく、その前に交わした熱い肌のふれあいすらも記憶にないような、あまりに無垢で健康的な笑顔だ。
こんなふうに光秀はいつも、都合の悪いことはなかったような顔をして、二人の関係を振り出しに戻してしまう。
「光秀、菫を通じて兵を送り込んで、鉄砲も三百丁、手配してくれたそうね。しかも、父上に―信長のばかは敵を欺くための偽り―と吹き込んだと聞いたわ」
感謝の意を伝えるつもりが、光秀の狡猾さをなじるような口ぶりになってしまった。でも実際、手口があまりに周到で帰蝶すらだまし討ちに会わされているようで、なんだか悔しかった。結局自分は光秀の手の上で踊らされている、という気になってくる。
けれども、あまりに自然に手を取って引き寄せて、当然のように抱きしめられると、すべてをこの男に委ねるのも悪くない、と思ってしまうのだ。
光秀のよどみない仕草は、帰蝶の心を丸裸にする。余計な思いをはぎ取られれば、ただ、光秀が好き、という純真で残酷な帰蝶の本性がむき出しになる。
「信長殿はバカを演じている。それを一番よく分かっているのは姫、あなただ」
抱きしめながら、光秀は帰蝶の髪を優しく撫でた。
「姫、俺は悔しくてならないよ。あなたがなぜあんな傑物にとついだのか。信長殿は大きなことを成しえる男だ。姫を託すには十分な男だ。彼が相手なら仕方ない、そう思える」
光秀はずるい。
信長に負けを認めたような言い方をしながら、帰蝶の肌に熱い手のひらを滑らせるのをやめない。まるで、妻としての帰蝶は譲っても、この心と体は俺のものだ、とその指先で帰蝶に教え込むように。
各地を遍歴し、何人もの大名から知略の将として仕官を求められていると聞く。その才をもってすれば女ひとりを籠絡するくらい光秀にとっては何でもないことなのかもしれない。恐ろしい男だ、と思うのに、その手にいざなわれて打掛を肩から降ろしてしまう自分がいる。
体の芯が、溶け落ちる。帰蝶はくずおれそうになって光秀にしがみついた。
「俺は信長殿のようにいつもあなたのそばにはいられない。でもあなたを守ることだけを考えているよ」
耳元にかかる熱い吐息で全身が紅に染まる。帰蝶は肩で息をして、頬に何度も口づけを受けた。
「光秀、これ以上はだめ」
「だめといいながら、体は悦んでいる。いけない姫だ」
指先で弄ばれ、悔しいのに体が光秀に翻弄されるままに感じ、応えてしまう。
金華山を夕日が照らしている。紅い夕日を頬に受けて、帰蝶は光秀にしがみつき、愉悦の叫びを洩らした。
道三と信長は対面後、関係は良好なものとなった。
信長が今川方の村木砦を攻撃した際には、道三が信長の本拠地である那古野城を守ったほど、信頼関係は厚いものとなっていた。
しかし、その戦から一か月後。
突如、道三が隠居し、義龍に家督をゆずったと知らせが届いた。
美濃は信長に託す、そう約束したはずの道三が、美濃国の当主の座を、信長ではなく義龍に譲ったのだった。
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