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第四章 本能寺編「悪魔の祈り」
第四話③ 悪魔の祈り(3)
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一五八一年十月 坂本城
秀吉は鳥取城攻めから戻って信長に報告を終えると、すぐさま坂本城の光秀を訪ねてきた。
戦の余韻を体にまとい、目もぎらついている。とても落ち着かない様子で、座れと光秀が言うのに部屋を行ったり来たりして饒舌に話し続けている。
光秀はその姿に戦慄を覚えた。
「兄者、俺は人が人の脳みそを食らうのを見たんだ。うまいらしいぞ脳みそは。はははははは」
秀吉は武士として世に立ちたい夢を持ちながらも、人を殺めるのが大の苦手だった。戦場でも相手の戦意を奪うために手傷を負わせるばかりで息の根を止めるようなことはほとんどしない。
その男が鳥取城に過酷な兵糧攻めを行った。すぐに投降するように用意周到に始めたにもかかわらず、城主は味方のものたちが飢餓に陥っても降伏しなかった。
思いもよらない自滅的な籠城に、攻めている秀吉のほうも追い詰められた。死者を最小限にとどめて攻略するための兵糧攻めが、多くの人を餓死に追い込んでいった。
───早く降伏してくれ
祈るように城を囲む秀吉の目の前で、柵にもたれかかった敵方の領民が、こんなにひもじくて苦しいなら、いっそ殺してくれ、その槍で刺してくれと懇願してくる。
秀吉の手勢がやむをえず刺すと、その遺骸に人々が群がって肉をむしり取って食べるのだ。
やっとのことで敵が城を明け渡したころには、城内は死臭と獣臭、病から発せられる悪臭、排せつ物の匂いが脳髄を刺すほどだった。
秀吉は準備したかゆを生存者に与えたが、食べた人々の半数が死んだ。極度の飢餓状態で食物を口にすると、その衝撃で命を落とすと秀吉が知ったのはそのあとのことだった。
秀吉が繰り広げた残虐な状況に、秀吉自身が壊されていく。異様な目つきで笑う秀吉に、光秀は思い切り平手をくらわした。
「秀吉、もう鳥取城攻めは終わった。お前は帰ってきた。これからも生きるんだ。お前は次を見るんだ。目を覚ませ」
すると秀吉は見開いた眼に涙をあふれさせた。
「兄者・・・俺はもう限界かもしれん」
同じ年。
光秀は安土城天主に駆け上った。
息を切らして信長の居室にたどり着くと、挨拶もなしに信長に詰め寄った。
「信長殿、長宗我部との四国切り取り自由の約定を撤回するとはどういうことか」
「俺に向かってその態度はなんだ」
信長は立ち上がって向かい合い、光秀を睨みつけた。が、光秀は引かなかった。
「信長殿、私は長宗我部氏との関係を構築するために心を砕いてここまで来た。そのために家臣たちと婚姻関係も結ばせた。それもこれも戦ではなく人とのつながりで攻略するという方針にしたがってやってきたことだ。それをいきなり四国を敵に回すとはいったいどういう心変わりか」
光秀は一歩も引かなかった。
昨年の秀吉の鳥取城攻めの一件以来、光秀は、家臣団がおかれた過酷な状況を問題視していた。このままでは家臣たちが心も体もボロボロになってしまう。
そんな折、光秀がこれまで心を砕いて人間関係を構築しながら進めてきた外交政策が、信長の一言でぶち壊されたのだ。そしてとうとう、腹に据えかねたのだ。
「光秀、お前のその手ぬるい態度が、相手を調子づかせるんだ。もうお前は四国との取次役を降りてもらう。四国とは今後は武力行使で臨む」
「お待ちください、信長殿」
家臣の身内には、長宗我部に嫁いだものもいる。今後敵方にとっては織田方の身内は人質として扱われ、命が危ない状況になる。長宗我部元親も織田軍の態度の翻りに驚くに違いない。
光秀の面目は丸つぶれだった。
「私が何をしたと言うんですか」
光秀は口走った。信長が即座に答えた。
「お前は大罪を犯した」
信長に鬼のような形相で睨みつけられ、光秀は全身の血の気が引くのを感じた。
めまいに襲われ、視界が真っ白な光に遮られる。
「お前と帰蝶のことだ。蘭丸からきいた」
信長は噛み締めた歯の隙間から、低い声で呟いた。
光秀は申し開きもできずに深く頭を下げた。
もはやこれまでだ。光秀は死を覚悟した。
「どうかここで成敗してください」
帰蝶愛しさに、信長に秘密で何度も逢瀬を重ねたことは、信長の言う通り大罪だ。
こんな日がいつか来ると思っていた。それを解っていて光秀は帰蝶を愛し続けた。
愛することをどうしてもやめられなかったのだった。
しかし信長は、土下座の姿勢を取った光秀を足で蹴り上げた。
光秀は仰向けになって床に転がった。
「お前を殺したところで帰蝶は戻ってこない。冥土で再会などさせてたまるか。お前は生きろ。生きて俺に尽くせ」
信長は言いながら、光秀の腹を蹴り続けた。口の中に鉄臭い味がした。
視界がさらに白い光でぼやけた。痛めつけられる腹だけでなく、胸のあたりまでが締め付けられるように痛んだ。
呼吸ができなくなると、光秀はそのまま意識を失った。
一五八二年 五月
秀吉は中国攻めに出陣する前に光秀のもとをおとずれた。
光秀はこのとき、信長からとある人物の饗応役を突如言いつけられたところだった。
光秀が接待する相手は、徳川家康。
織田信長と同盟を組む三河国出身の大名で、最強と言われた甲斐の武田を討った男だ。
信長の家臣ではない点、立ち位置が光秀とは違う。家康は時に信長と肩を並べる立場として天下布武への道を支えてきた。信長にかしずく立場から一歩踏み出すことのできない光秀は、その立場に嫉妬することが何度もあった。彼はとにかく世渡りがうまい。穏やかな顔の裏で、腹ではどんなことを企んでいるのか皆目見当のつかない恐ろしさを感じる男だ。
はっきりひとことで言えば、光秀はこの男のことが気に入らない。
饗応役のうわさを聞き付けた秀吉は、光秀の心中を思い、出陣直前の忙しい最中に駆け付けたのだった。
「兄者、あの家康を兄者に接待させるとは、殿もあまりにひどい」
光秀の心中を知る秀吉は憤ったが、身分の差からすれば饗応役を務めるのはまったく不自然なことではない。名誉なことと受け止め、ありがたくこの役目を果たすのが筋だ。
そう秀吉に説明したが、秀吉は憤懣やる方ないといった面持ちで光秀の顔を見た。
「それより秀吉、お前は自分の中国討伐に注意を注いでくれ」
「そうだな。しかし・・・おれは鳥取城攻め以来、あの地獄絵図が頭から離れない。あの惨事をまた繰り返したくない、そう思ってばかりだ」
「戦を仕掛ける大将が戦意を失ってどうする?今は耐えて、悪魔が繰り広げる地獄絵図を目に焼き付けろ。おれがこの世から悪魔を退治したあと、お前が平らかな世を作れ」
「兄者、悪魔ってなんのことだよ?」
秀吉は光秀の下手な冗談だと思って笑おうとして、直後、つと動きを止めた。
───この目は・・・光秀の兄者はとんでもないことを考えている。
「悪魔が繰り広げる地獄絵図ってどういう意味だ。兄者がこの世から悪魔を退治するって、なんのことだよ。悪魔って誰だよ。この世に悪魔なんているもんか。しっかりしてくれ兄者・・・」
「二度とこんな惨事が起こらない世を、お前が作ってくれ。ただ、逆賊にだけはなるな」
光秀が微笑んだ。
秀吉はそのすべてを悟り切ったような顔を見て、激しい不安に駆られた。
───兄者は、なにかとんでもないことを考えている
一五八二年 五月一五日 安土城
三河から安土を訪ねて来た家康は、甲斐武田氏討伐という大仕事を達成した安堵と、悲願を成し遂げたことで湧き出てくる自信とで一回り大きく見えた。以前よりも威厳にみちたその姿を見た光秀は、家康が、信長が立つ高みに一歩近づいたのを感じた。
光秀の準備は入念だった。
まずは旅に疲れた体を癒す昼食に始まり、歌や踊りでの接待、京きっての茶人をあつめた茶会、そして夜は贅沢尽くしの饗宴を繰り広げ、体を休める寝所には心が安らぐ工夫を凝らし、閨を共にする女たちまで手配した。
饗応は二日間に及ぶ大々的なものだった。
家康は安土城で信長の接待を受ける間中、かいがいしく働く光秀のことをまるで下人のように無視した。
光秀は耐え、調理場に走って料理を確認し、饗宴の間では家康の盃が空けば酒を注ぎ、食べ終えた皿は素早く片づけの指示を出す。まるで黒子のように立ち働く光秀を信長は白い眼で眺めている。その目つきに気づいた家康も、さげすむような視線を光秀に投げた。
「殿、家康殿、その魚、召し上がらずにお待ちくださいませ。腐った匂いがいたします」
二人の間に進み出た蘭丸が、信長と家康に耳打ちした。
「ん?本当か」
蘭丸は素早く魚料理の皿を取って顔をそばめて匂いを確かめると、眉間にしわを作って首を横に振った。
「光秀、どういうことだ」
信長が光秀にたずねた。
「そんなはずはありません」
光秀は平伏して答えた。魚の鮮度には細心の注意を払った。苦心して取り寄せた氷で冷たい料理は徹底的に冷やしているし、煮物焼き物は火の通りに万全を期している。腐るはずがないのだ。
が、客人の前である。主君に歯向かう姿を見せるわけにはいかなかった。光秀は仕方なく、深く謝罪するしかなかった。
「蘭丸、ここで光秀を打て」
信長が言うと、蘭丸は一礼して立ち上がり、平伏していた光秀の肩に足を置いた。
京の司令官と言う並みならぬ立場にいる光秀は、このころはすでに朝廷からも位階のある官位を授かるほどの身分であった。その男がいま、十八になったばかりの小姓に肩を踏みつけられ、扇で頭を打たれている。
耐えがたい屈辱に、光秀は全身を震わせて耐えた。
この程度の罰では甘いくらいの大罪を、自分は犯してきたのだ。
信長はこれまで光秀が長きにわたって行ってきた裏切りを一生許すことはないだろう。どれだけの罰を与えても、怒りが収まるはずがない。
蘭丸に叩かれている間、饗宴の間は静まり返っていた。怯え、蔑み、様々な視線が自分に向けられているのを痛いほどに感じた。
この場から逃れたい、強く思ったその瞬間、光秀は気を失って床に頬を打ちつけて崩れた。
目を覚ますと、光秀を見下ろしている信長の顔があった。
光秀は慌てて起き上がって平伏した。饗宴の間を挨拶も無しに辞した失態は、もう取り返しようがない。
「光秀、お前は疲れている。饗応役はこれをもって解任だ。あとは堀に任せるからお前はここを去れ。お前がのびのびできる場所に行け」
微に入り細を穿ち細心の注意を払って準備した大仕事が、他の誰かにかっさらわれていく。光秀は体から力が抜け落ちていくのを感じた。
「私がのびのびできる場所とは?」
「戦場に決まってるだろう。中国だ。秀吉が、備中攻めの援軍を要求してきてうるさい。お前が行ってさっさと片をつけてこい」
そう言って信長は光秀をじっと見下ろしている。
天下統一のための大仕事を、信頼する家臣に託すまっすぐな目とは違う。
光秀を試すような、底意地のわるい昏い瞳をしていた。
家康の下でかいがいしく働けと言われた次は、秀吉を司令官としてあおげという。光秀の自尊心をことごとく踏み潰そうという信長の魂胆が見えた。
光秀は家康へのあいさつも無しに安土城をあとにした。
船で琵琶湖を渡り、坂本城に戻って戦支度をしなければならない。
───もう俺は、限界かもしれない
船に揺られて光秀は思った。
琵琶湖の水は夕暮れの空の淡い青を映し、鏡面のようにしんとしている。
このままこの水の中に身を投じてしまえたらどんなに楽だろうか。そんなことを考えて立ち上がった。
遠方に目をやると大船の影が見えた。船員たちが力強くこいでいるのだろう。みるみる近づいて来る。南蛮船に似た作りの船の舳先に立っている男の姿がくっきりと見えた時、光秀は思わず息を呑んだ。
「おーい、明智殿」
「助左衛門」
助左衛門が手を振っている。
体の線にぴったりとついた薄い白地の服を着ている。おそらく南蛮の着物だろう。初めて会った頃よりも体はがっしりと大きくなっていた。
帰蝶と二人で堺を歩いた思い出がよみがえり、生気が自然とわき上がるのを感じた。
助左衛門も思いがけない再会に満面の笑みを浮かべている。
単に、この男に会えてうれしい、そんな感情が、光秀の冷え切った心を温かくした。
そのころ秀吉は、中国攻めの最中にあった。
本陣の奥に控えていた秀吉は立ち上がって怒りをあらわにし、使者からの報告の書状を足元に投げつけたところだ。
秀吉は家臣を安土に置き、家康饗応の次第を報告するように指示していたのだった。
「魚が腐っていた?ありえないだろ、ばかもの」
───坂本城では俺を呼び、目の前で湖で魚を取ってごちそうしてくれたんだ。腐った魚など出すはずない。
誰かの言いがかりだということに疑いはない。
さらに光秀は、公の面前で懲罰を受け、その末に任務を解かれたという。光秀にとってどれほど屈辱的だったことか。想像するだけで胸が苦しくなった。
───俺がこの世から悪魔を退治したあと、お前が平らかな世を作れ
別れ際に言った光秀の言葉が、ずっと頭から離れなかった。あれはどういう意味なのか。戦地に居ながら夜床に就くたびにそのことを考えた。
───兄者は謀反を起こす気だ
何度考えてもその結論に達してしまうのが、嫌で嫌で仕方なかった。
秀吉は信長本人が援軍に来るよう、書状を一日に二度も三度も送った。
用意は周到だ。殿を呼び出しておきながらこういうのもおかしな話なのだが、実は備中討伐のめどはとっくに立っていた。
けれども、最後の討伐の仕上げは信長殿の手で行ってもらう。そう決めてあった。
この戦は本州西部制圧の総仕上げに当たる。その最後は、大将にこそ締めくくってもらいたい。
京から中国に向かう途中途中に信長が休息するための御座所も、ちゃんと建ててあった。
───俺に抜かりはない。だから早くこっちに来てくれ信長殿。・・・光秀のそばから、一刻も早く離れてくれ。光秀に殿を討たせないでくれ。兄者を、謀反人にしないでくれ
坂本城をあとにし、丹波亀山城で出陣の準備を終えた光秀は、懇意の仲間とのあいさつを兼ねて連歌会を催した。
その後、戦勝祈願に愛宕山を参拝し、また丹波亀山城に戻った。
そこで重臣たち数名と向かい合い、光秀は重い口を開いた。
「俺は今までずっと考えていたことを実現させる。できることなら一人で成し遂げたい。これからそれぞれが思う武将のもとに降ってくれ」
光秀の言葉で重臣たちは謀反を悟った。しかも光秀は一人で行うと言う。
天下を奪う意図がない。その意図があれば、入念な根回しを行って多くの支援者を取り込み、その下支えを強固にしたうえで謀反に踏み切るはずだ。
───これはただの暗殺計画だ。俺たちに天下は回ってこない。この計画に参加すれば、謀反人としての汚名を着せられて後世語り継がれることになる。
重臣たちはそれでも、光秀とともに立ち上がる決心をした。
それぞれが、君主信長のやり方に不満や憤り、不安を感じているのだ。かといって、武力で対抗しようにも、その戦力はあまりに強大で、勝つことなど不可能だ。
───大将が決めたのならば付き従うのみ
光秀は再三にわたって家臣団に離反を促したが、結局一万三千の兵が光秀のもとに残った。
一五八二年 六月一日
夜、出陣のための兵糧と玉薬を、備中に向けて発送した。
そののち、一万三千の軍を率いて亀山城を発った。途中休息を取り、偵察隊を放って信長が本能寺に滞在し、茶会中を確認した。
桂川を渡る手前で、光秀は軍勢に向けて言った。
「敵は備中にあらず。俺の敵は今、本能寺にある。信長殿の命に従って備中に赴く者たちは、川を渡らず備中に向かってくれ」
同日 本能寺
蛙の声が聞こえる。
起きろとばかりに鳴きたてるその声に、信長は枕から頭を上げ、外に向かって耳を澄ませた。
ふすまを開いてみるが、蛙の声は他の場所から聞こえている。隣の部屋につづく戸を開けると、そこに帰蝶が座っていた。蛙の声などではなかった。よく聞けば、帰蝶のすすり泣きだったのだ。
「帰蝶、そんなところにいたのか」
信長は帰蝶が生きていたと知り、これまで胸に居座っていた重苦しいものが一気に消え去る心地がした。
「こんなに近くにいたのなら、もっと早く顔を出せよ」
「今やっと、あなたの前に現れる決心がついたのよ」
信長を見上げた帰蝶の目に、もう涙はなかった。
どういうことだ、信長が尋ねると帰蝶は答えた。
「あなたを殺す決心がついたのよ」
帰蝶は立ち上がると、握っていた刀を掲げ、信長の胸に突き立てた。
「あっ」
声を上げて信長は起き上がった。全身に汗をかいている。
「どうされました?殿」
隣で眠っていた蘭丸も起き上がり、むき出しの白い肩に小袖を羽織った。
「蛙が・・・鳴いているんだ」
夢とうつつの狭間で、うわごとのように信長は言った。
部屋を見渡すと、床の間にちょこんと座る蛙の香炉に目が留まった。
「あの香炉はいつからここに」
信長が聞くと蘭丸は答えた。
「茶会用に運び込んだ道具を開いたら、紛れ込んでいたのです」
夢に現れた帰蝶は、本当にそこにいるかのように、ぬくもりのある肌を持ち、その場の空気を吸い込んで吐き、刃を突き立ててきた瞬間にはその体の重みすら感じた。
くっきりとした存在感のある夢だっただけに、目覚めると改めて帰蝶の不在を痛感した。その分、信長の抱く喪失感は以前よりも大きくなってしまったように思えた。
「どうして帰蝶は死んだのか?俺が嫌だったからか」
信長は誰にともなくつぶやいた。
「信長殿、帰蝶さまはもうもどらないのです。私がいつもおそばに付いていますから、もう悲しまないでください」
蘭丸は甘い声で信長に囁いた。
「お前と帰蝶は、別物だ」
信長は呟き、はっとして首を振った。
「すまない。今のは忘れてくれ」
蘭丸は言葉を失った。
蘭丸がどうあがいても、信長の心の大部分は今も帰蝶が占めている。
蘭丸はそのことに烈しい苛立ちを感じてきた。
そして今、自分が帰蝶にかわって寵愛を受けることはないと、はっきりと信長から宣告を受けた。その絶望感は、蘭丸を捨てばちな思いに駆り立てた。
「あの方は、陰で殿を裏切っていたのですよ」
「確かに裏切りだ。けど、あいつはいつも、俺だけをまっすぐに見てくれていた」
「・・・なぜまだそんなにも帰蝶さまを? あの方はもういないのですよ。私だけを見てください」
蘭丸は取り乱し、信長の両肩を掴んでその目を覗き込んだ。その瞳に、自分以外の何ものも映り込まないように顔を近付けた。接吻の衝動が、蘭丸の体の奥から突き上げてくる。
───殿、私はあなたをこんなにも愛しているのに
「蘭丸、まさかお前が・・・帰蝶を」
信長の顔が、みるみる蒼白になっていく。これまでの蘭丸の異常なまでの執着を思った。信長が蘭丸以外の者に目を向けようものなら、相手を排除しようと躍起になるところがある。そんなところも可愛いと思って見ていたが、帰蝶の話になったとたんに蘭丸の表情に鬼気迫るものを見た信長は、少年の異常な執着の裏に、恐ろしい殺意が隠れていることに気が付いたのだ。
そのとき、夜明け前のしんとした空気を揺さぶるように、大勢が騒ぐ音が近づいてきた。
「何の騒ぎだ」
「見てきます」
蘭丸は部屋から走り出て、すぐに戻ってきた。
「本能寺の周囲を囲まれています」
「どこの兵だ」
信長は咄嗟に枕もとの刀を取った。
「それが・・・桔梗の紋の旗のようなのです」
こうして、本能寺の変は起こった。
信長は刹那、動きを止めた。直後、唇の端をかすかに上げて微笑んだようにも見えた。
「光秀か・・・仕方ない、もはや受け入れるしかないようだ」
信長のこれまでの躍進の道のりを振り返れば、光秀の存在なしには語ることができないほどに、光秀は全身全霊で信長に尽くしてきた。
しかしその裏側で、信長の最愛の妻とむつみ合っていた。
最強の味方であり、最凶の敵、明智光秀。
信長は立ち上がった。ついに光秀との決戦の時が来たのだった。
防御のない本能寺の塀はたやすく破られ、矢の雨が降り注ぎ、刀をかざした軍勢が一気に流れ込んできた。
信長ははじめ弓矢で迎え撃った。唸り声を上げながら矢継ぎ早に射ち、弓が千切れると今度は槍を取った。蘭丸が槍を振って近づいて来る敵を迎撃している。敵方には逃げていくものも多くいた。それでも二百人そこらの信長の従者たちでは到底太刀打ちができない勢いだ。なにしろ本能寺に待機していたのは馬周り衆と小姓をのぞき、ほとんどが陣夫や侍女などの戦力にならない者たちなのだ。
「女たちは裏から出ろ」
信長は大声で奥に向かって叫んだ。わずかに後ろを向いた瞬間に、敵兵の槍が腕を刺した。
「うっ」
敵兵が槍を引き抜きながら、仰向けに倒れていく。蘭丸が脇からひと刺し急所に槍を入れていた。
押し寄せてくる軍勢を槍で突き、抜いてもう一人を貫いた。槍を胸に突き立てたまま敵兵が仰向けに倒れると、いよいよ信長は刀を抜いた。その瞬間、両脇から振りかざされた刀を避け切れず袖が切れて血が噴き出した。
真っ白な白綸子の寝衣が、鮮血に染まる。
信長は腿に刺さった矢を引き抜きながら奥の部屋へと進んだ。
蘭丸が追いかけてくる。
「蘭丸、俺はもうこれまでだ。この部屋に誰も入れるな」
戸口に立った信長は蘭丸に言った。
「はい」
蘭丸の瞳から涙があふれ出る。
信長はその細い顎を血にまみれた手でつかんで引き寄せ唇を合わせ、今生の別れを告げた。離れるなり戸を引いて、信長の姿は蘭丸の前から消えた。
蘭丸は周辺の戸を外して集めて幾重にも立てかけ、信長のこもる寝所を塞いだ。
「殿は誰にも渡さない」
廊下を敵兵が駆けてくる。蘭丸は叫びながら槍で相手を押しのけた。切られても、刺されても、槍を横に抱いて何人もの兵をまとめて押し返し続けた。
戸を閉めて振り返ると、すでにそこに待ち構える影があった。
信長は絶望の中で微笑んだ。
「もうここにもいたか」
体中から血が流れ出て、手足の力が入らない。体温が失われ、体はわなわなと震えている。
「信長殿」
「光秀か」
信長はうつろな目でぼんやりと揺らめく人影を睨んだ。構えた切先が、ふらふらと揺れる。
光秀は、信長の前に刀も抜かずに立った。
「あなたはここまで、天下布武を掲げ邁進してきた。しかし、あまりにも多くの敵に阻まれ、信じがたい悪逆な殺戮に手を染めることになってしまった。・・・信長殿、あなた自身もこんなはずではなかったと苦しんできた。そしてあなたは、苦しみから解き放たれるために心に悪魔を宿したのだ。自分が悪魔なのだと思えば、どれだけ自分の采配で人が死のうが、どのような死を遂げようが、どれだけ人々が傷つこうが、それもすべて悪魔の心が導いたことと思えるからな。
けど信長殿。あなたは悪魔ではない。純粋に天下布武を夢見た穢れない瞳の持ち主だ」
「今更説教か」
「俺は、あなたに巣食った悪魔の心をもらいに来た」
光秀が寝所についていた蝋燭を使って部屋に火を放った。
瞬く間に火は燃え広がり、灼熱の紅い波が天井を這う。
「織田信長はこれをもって、死ぬのだ」
部屋に煙が立ち込める。
信長は意識が遠のくのを感じた。
そのとき、光秀が部屋の奥に向かって言った。
「姫、信長殿はこちらだ!」
煙に遮られた向こうには、出入りできるほどの大きさの花頭窓があるはずだった。
そこからまた、誰かが入ってくる気配がした。
その次の瞬間、煙の幕を割って、帰蝶が部屋の奥から現れた。
長良川の戦いで、退却する兵たちに逆行してきた帰蝶の姿を思い出した。
「信長、助けに来たわ」
秀吉は鳥取城攻めから戻って信長に報告を終えると、すぐさま坂本城の光秀を訪ねてきた。
戦の余韻を体にまとい、目もぎらついている。とても落ち着かない様子で、座れと光秀が言うのに部屋を行ったり来たりして饒舌に話し続けている。
光秀はその姿に戦慄を覚えた。
「兄者、俺は人が人の脳みそを食らうのを見たんだ。うまいらしいぞ脳みそは。はははははは」
秀吉は武士として世に立ちたい夢を持ちながらも、人を殺めるのが大の苦手だった。戦場でも相手の戦意を奪うために手傷を負わせるばかりで息の根を止めるようなことはほとんどしない。
その男が鳥取城に過酷な兵糧攻めを行った。すぐに投降するように用意周到に始めたにもかかわらず、城主は味方のものたちが飢餓に陥っても降伏しなかった。
思いもよらない自滅的な籠城に、攻めている秀吉のほうも追い詰められた。死者を最小限にとどめて攻略するための兵糧攻めが、多くの人を餓死に追い込んでいった。
───早く降伏してくれ
祈るように城を囲む秀吉の目の前で、柵にもたれかかった敵方の領民が、こんなにひもじくて苦しいなら、いっそ殺してくれ、その槍で刺してくれと懇願してくる。
秀吉の手勢がやむをえず刺すと、その遺骸に人々が群がって肉をむしり取って食べるのだ。
やっとのことで敵が城を明け渡したころには、城内は死臭と獣臭、病から発せられる悪臭、排せつ物の匂いが脳髄を刺すほどだった。
秀吉は準備したかゆを生存者に与えたが、食べた人々の半数が死んだ。極度の飢餓状態で食物を口にすると、その衝撃で命を落とすと秀吉が知ったのはそのあとのことだった。
秀吉が繰り広げた残虐な状況に、秀吉自身が壊されていく。異様な目つきで笑う秀吉に、光秀は思い切り平手をくらわした。
「秀吉、もう鳥取城攻めは終わった。お前は帰ってきた。これからも生きるんだ。お前は次を見るんだ。目を覚ませ」
すると秀吉は見開いた眼に涙をあふれさせた。
「兄者・・・俺はもう限界かもしれん」
同じ年。
光秀は安土城天主に駆け上った。
息を切らして信長の居室にたどり着くと、挨拶もなしに信長に詰め寄った。
「信長殿、長宗我部との四国切り取り自由の約定を撤回するとはどういうことか」
「俺に向かってその態度はなんだ」
信長は立ち上がって向かい合い、光秀を睨みつけた。が、光秀は引かなかった。
「信長殿、私は長宗我部氏との関係を構築するために心を砕いてここまで来た。そのために家臣たちと婚姻関係も結ばせた。それもこれも戦ではなく人とのつながりで攻略するという方針にしたがってやってきたことだ。それをいきなり四国を敵に回すとはいったいどういう心変わりか」
光秀は一歩も引かなかった。
昨年の秀吉の鳥取城攻めの一件以来、光秀は、家臣団がおかれた過酷な状況を問題視していた。このままでは家臣たちが心も体もボロボロになってしまう。
そんな折、光秀がこれまで心を砕いて人間関係を構築しながら進めてきた外交政策が、信長の一言でぶち壊されたのだ。そしてとうとう、腹に据えかねたのだ。
「光秀、お前のその手ぬるい態度が、相手を調子づかせるんだ。もうお前は四国との取次役を降りてもらう。四国とは今後は武力行使で臨む」
「お待ちください、信長殿」
家臣の身内には、長宗我部に嫁いだものもいる。今後敵方にとっては織田方の身内は人質として扱われ、命が危ない状況になる。長宗我部元親も織田軍の態度の翻りに驚くに違いない。
光秀の面目は丸つぶれだった。
「私が何をしたと言うんですか」
光秀は口走った。信長が即座に答えた。
「お前は大罪を犯した」
信長に鬼のような形相で睨みつけられ、光秀は全身の血の気が引くのを感じた。
めまいに襲われ、視界が真っ白な光に遮られる。
「お前と帰蝶のことだ。蘭丸からきいた」
信長は噛み締めた歯の隙間から、低い声で呟いた。
光秀は申し開きもできずに深く頭を下げた。
もはやこれまでだ。光秀は死を覚悟した。
「どうかここで成敗してください」
帰蝶愛しさに、信長に秘密で何度も逢瀬を重ねたことは、信長の言う通り大罪だ。
こんな日がいつか来ると思っていた。それを解っていて光秀は帰蝶を愛し続けた。
愛することをどうしてもやめられなかったのだった。
しかし信長は、土下座の姿勢を取った光秀を足で蹴り上げた。
光秀は仰向けになって床に転がった。
「お前を殺したところで帰蝶は戻ってこない。冥土で再会などさせてたまるか。お前は生きろ。生きて俺に尽くせ」
信長は言いながら、光秀の腹を蹴り続けた。口の中に鉄臭い味がした。
視界がさらに白い光でぼやけた。痛めつけられる腹だけでなく、胸のあたりまでが締め付けられるように痛んだ。
呼吸ができなくなると、光秀はそのまま意識を失った。
一五八二年 五月
秀吉は中国攻めに出陣する前に光秀のもとをおとずれた。
光秀はこのとき、信長からとある人物の饗応役を突如言いつけられたところだった。
光秀が接待する相手は、徳川家康。
織田信長と同盟を組む三河国出身の大名で、最強と言われた甲斐の武田を討った男だ。
信長の家臣ではない点、立ち位置が光秀とは違う。家康は時に信長と肩を並べる立場として天下布武への道を支えてきた。信長にかしずく立場から一歩踏み出すことのできない光秀は、その立場に嫉妬することが何度もあった。彼はとにかく世渡りがうまい。穏やかな顔の裏で、腹ではどんなことを企んでいるのか皆目見当のつかない恐ろしさを感じる男だ。
はっきりひとことで言えば、光秀はこの男のことが気に入らない。
饗応役のうわさを聞き付けた秀吉は、光秀の心中を思い、出陣直前の忙しい最中に駆け付けたのだった。
「兄者、あの家康を兄者に接待させるとは、殿もあまりにひどい」
光秀の心中を知る秀吉は憤ったが、身分の差からすれば饗応役を務めるのはまったく不自然なことではない。名誉なことと受け止め、ありがたくこの役目を果たすのが筋だ。
そう秀吉に説明したが、秀吉は憤懣やる方ないといった面持ちで光秀の顔を見た。
「それより秀吉、お前は自分の中国討伐に注意を注いでくれ」
「そうだな。しかし・・・おれは鳥取城攻め以来、あの地獄絵図が頭から離れない。あの惨事をまた繰り返したくない、そう思ってばかりだ」
「戦を仕掛ける大将が戦意を失ってどうする?今は耐えて、悪魔が繰り広げる地獄絵図を目に焼き付けろ。おれがこの世から悪魔を退治したあと、お前が平らかな世を作れ」
「兄者、悪魔ってなんのことだよ?」
秀吉は光秀の下手な冗談だと思って笑おうとして、直後、つと動きを止めた。
───この目は・・・光秀の兄者はとんでもないことを考えている。
「悪魔が繰り広げる地獄絵図ってどういう意味だ。兄者がこの世から悪魔を退治するって、なんのことだよ。悪魔って誰だよ。この世に悪魔なんているもんか。しっかりしてくれ兄者・・・」
「二度とこんな惨事が起こらない世を、お前が作ってくれ。ただ、逆賊にだけはなるな」
光秀が微笑んだ。
秀吉はそのすべてを悟り切ったような顔を見て、激しい不安に駆られた。
───兄者は、なにかとんでもないことを考えている
一五八二年 五月一五日 安土城
三河から安土を訪ねて来た家康は、甲斐武田氏討伐という大仕事を達成した安堵と、悲願を成し遂げたことで湧き出てくる自信とで一回り大きく見えた。以前よりも威厳にみちたその姿を見た光秀は、家康が、信長が立つ高みに一歩近づいたのを感じた。
光秀の準備は入念だった。
まずは旅に疲れた体を癒す昼食に始まり、歌や踊りでの接待、京きっての茶人をあつめた茶会、そして夜は贅沢尽くしの饗宴を繰り広げ、体を休める寝所には心が安らぐ工夫を凝らし、閨を共にする女たちまで手配した。
饗応は二日間に及ぶ大々的なものだった。
家康は安土城で信長の接待を受ける間中、かいがいしく働く光秀のことをまるで下人のように無視した。
光秀は耐え、調理場に走って料理を確認し、饗宴の間では家康の盃が空けば酒を注ぎ、食べ終えた皿は素早く片づけの指示を出す。まるで黒子のように立ち働く光秀を信長は白い眼で眺めている。その目つきに気づいた家康も、さげすむような視線を光秀に投げた。
「殿、家康殿、その魚、召し上がらずにお待ちくださいませ。腐った匂いがいたします」
二人の間に進み出た蘭丸が、信長と家康に耳打ちした。
「ん?本当か」
蘭丸は素早く魚料理の皿を取って顔をそばめて匂いを確かめると、眉間にしわを作って首を横に振った。
「光秀、どういうことだ」
信長が光秀にたずねた。
「そんなはずはありません」
光秀は平伏して答えた。魚の鮮度には細心の注意を払った。苦心して取り寄せた氷で冷たい料理は徹底的に冷やしているし、煮物焼き物は火の通りに万全を期している。腐るはずがないのだ。
が、客人の前である。主君に歯向かう姿を見せるわけにはいかなかった。光秀は仕方なく、深く謝罪するしかなかった。
「蘭丸、ここで光秀を打て」
信長が言うと、蘭丸は一礼して立ち上がり、平伏していた光秀の肩に足を置いた。
京の司令官と言う並みならぬ立場にいる光秀は、このころはすでに朝廷からも位階のある官位を授かるほどの身分であった。その男がいま、十八になったばかりの小姓に肩を踏みつけられ、扇で頭を打たれている。
耐えがたい屈辱に、光秀は全身を震わせて耐えた。
この程度の罰では甘いくらいの大罪を、自分は犯してきたのだ。
信長はこれまで光秀が長きにわたって行ってきた裏切りを一生許すことはないだろう。どれだけの罰を与えても、怒りが収まるはずがない。
蘭丸に叩かれている間、饗宴の間は静まり返っていた。怯え、蔑み、様々な視線が自分に向けられているのを痛いほどに感じた。
この場から逃れたい、強く思ったその瞬間、光秀は気を失って床に頬を打ちつけて崩れた。
目を覚ますと、光秀を見下ろしている信長の顔があった。
光秀は慌てて起き上がって平伏した。饗宴の間を挨拶も無しに辞した失態は、もう取り返しようがない。
「光秀、お前は疲れている。饗応役はこれをもって解任だ。あとは堀に任せるからお前はここを去れ。お前がのびのびできる場所に行け」
微に入り細を穿ち細心の注意を払って準備した大仕事が、他の誰かにかっさらわれていく。光秀は体から力が抜け落ちていくのを感じた。
「私がのびのびできる場所とは?」
「戦場に決まってるだろう。中国だ。秀吉が、備中攻めの援軍を要求してきてうるさい。お前が行ってさっさと片をつけてこい」
そう言って信長は光秀をじっと見下ろしている。
天下統一のための大仕事を、信頼する家臣に託すまっすぐな目とは違う。
光秀を試すような、底意地のわるい昏い瞳をしていた。
家康の下でかいがいしく働けと言われた次は、秀吉を司令官としてあおげという。光秀の自尊心をことごとく踏み潰そうという信長の魂胆が見えた。
光秀は家康へのあいさつも無しに安土城をあとにした。
船で琵琶湖を渡り、坂本城に戻って戦支度をしなければならない。
───もう俺は、限界かもしれない
船に揺られて光秀は思った。
琵琶湖の水は夕暮れの空の淡い青を映し、鏡面のようにしんとしている。
このままこの水の中に身を投じてしまえたらどんなに楽だろうか。そんなことを考えて立ち上がった。
遠方に目をやると大船の影が見えた。船員たちが力強くこいでいるのだろう。みるみる近づいて来る。南蛮船に似た作りの船の舳先に立っている男の姿がくっきりと見えた時、光秀は思わず息を呑んだ。
「おーい、明智殿」
「助左衛門」
助左衛門が手を振っている。
体の線にぴったりとついた薄い白地の服を着ている。おそらく南蛮の着物だろう。初めて会った頃よりも体はがっしりと大きくなっていた。
帰蝶と二人で堺を歩いた思い出がよみがえり、生気が自然とわき上がるのを感じた。
助左衛門も思いがけない再会に満面の笑みを浮かべている。
単に、この男に会えてうれしい、そんな感情が、光秀の冷え切った心を温かくした。
そのころ秀吉は、中国攻めの最中にあった。
本陣の奥に控えていた秀吉は立ち上がって怒りをあらわにし、使者からの報告の書状を足元に投げつけたところだ。
秀吉は家臣を安土に置き、家康饗応の次第を報告するように指示していたのだった。
「魚が腐っていた?ありえないだろ、ばかもの」
───坂本城では俺を呼び、目の前で湖で魚を取ってごちそうしてくれたんだ。腐った魚など出すはずない。
誰かの言いがかりだということに疑いはない。
さらに光秀は、公の面前で懲罰を受け、その末に任務を解かれたという。光秀にとってどれほど屈辱的だったことか。想像するだけで胸が苦しくなった。
───俺がこの世から悪魔を退治したあと、お前が平らかな世を作れ
別れ際に言った光秀の言葉が、ずっと頭から離れなかった。あれはどういう意味なのか。戦地に居ながら夜床に就くたびにそのことを考えた。
───兄者は謀反を起こす気だ
何度考えてもその結論に達してしまうのが、嫌で嫌で仕方なかった。
秀吉は信長本人が援軍に来るよう、書状を一日に二度も三度も送った。
用意は周到だ。殿を呼び出しておきながらこういうのもおかしな話なのだが、実は備中討伐のめどはとっくに立っていた。
けれども、最後の討伐の仕上げは信長殿の手で行ってもらう。そう決めてあった。
この戦は本州西部制圧の総仕上げに当たる。その最後は、大将にこそ締めくくってもらいたい。
京から中国に向かう途中途中に信長が休息するための御座所も、ちゃんと建ててあった。
───俺に抜かりはない。だから早くこっちに来てくれ信長殿。・・・光秀のそばから、一刻も早く離れてくれ。光秀に殿を討たせないでくれ。兄者を、謀反人にしないでくれ
坂本城をあとにし、丹波亀山城で出陣の準備を終えた光秀は、懇意の仲間とのあいさつを兼ねて連歌会を催した。
その後、戦勝祈願に愛宕山を参拝し、また丹波亀山城に戻った。
そこで重臣たち数名と向かい合い、光秀は重い口を開いた。
「俺は今までずっと考えていたことを実現させる。できることなら一人で成し遂げたい。これからそれぞれが思う武将のもとに降ってくれ」
光秀の言葉で重臣たちは謀反を悟った。しかも光秀は一人で行うと言う。
天下を奪う意図がない。その意図があれば、入念な根回しを行って多くの支援者を取り込み、その下支えを強固にしたうえで謀反に踏み切るはずだ。
───これはただの暗殺計画だ。俺たちに天下は回ってこない。この計画に参加すれば、謀反人としての汚名を着せられて後世語り継がれることになる。
重臣たちはそれでも、光秀とともに立ち上がる決心をした。
それぞれが、君主信長のやり方に不満や憤り、不安を感じているのだ。かといって、武力で対抗しようにも、その戦力はあまりに強大で、勝つことなど不可能だ。
───大将が決めたのならば付き従うのみ
光秀は再三にわたって家臣団に離反を促したが、結局一万三千の兵が光秀のもとに残った。
一五八二年 六月一日
夜、出陣のための兵糧と玉薬を、備中に向けて発送した。
そののち、一万三千の軍を率いて亀山城を発った。途中休息を取り、偵察隊を放って信長が本能寺に滞在し、茶会中を確認した。
桂川を渡る手前で、光秀は軍勢に向けて言った。
「敵は備中にあらず。俺の敵は今、本能寺にある。信長殿の命に従って備中に赴く者たちは、川を渡らず備中に向かってくれ」
同日 本能寺
蛙の声が聞こえる。
起きろとばかりに鳴きたてるその声に、信長は枕から頭を上げ、外に向かって耳を澄ませた。
ふすまを開いてみるが、蛙の声は他の場所から聞こえている。隣の部屋につづく戸を開けると、そこに帰蝶が座っていた。蛙の声などではなかった。よく聞けば、帰蝶のすすり泣きだったのだ。
「帰蝶、そんなところにいたのか」
信長は帰蝶が生きていたと知り、これまで胸に居座っていた重苦しいものが一気に消え去る心地がした。
「こんなに近くにいたのなら、もっと早く顔を出せよ」
「今やっと、あなたの前に現れる決心がついたのよ」
信長を見上げた帰蝶の目に、もう涙はなかった。
どういうことだ、信長が尋ねると帰蝶は答えた。
「あなたを殺す決心がついたのよ」
帰蝶は立ち上がると、握っていた刀を掲げ、信長の胸に突き立てた。
「あっ」
声を上げて信長は起き上がった。全身に汗をかいている。
「どうされました?殿」
隣で眠っていた蘭丸も起き上がり、むき出しの白い肩に小袖を羽織った。
「蛙が・・・鳴いているんだ」
夢とうつつの狭間で、うわごとのように信長は言った。
部屋を見渡すと、床の間にちょこんと座る蛙の香炉に目が留まった。
「あの香炉はいつからここに」
信長が聞くと蘭丸は答えた。
「茶会用に運び込んだ道具を開いたら、紛れ込んでいたのです」
夢に現れた帰蝶は、本当にそこにいるかのように、ぬくもりのある肌を持ち、その場の空気を吸い込んで吐き、刃を突き立ててきた瞬間にはその体の重みすら感じた。
くっきりとした存在感のある夢だっただけに、目覚めると改めて帰蝶の不在を痛感した。その分、信長の抱く喪失感は以前よりも大きくなってしまったように思えた。
「どうして帰蝶は死んだのか?俺が嫌だったからか」
信長は誰にともなくつぶやいた。
「信長殿、帰蝶さまはもうもどらないのです。私がいつもおそばに付いていますから、もう悲しまないでください」
蘭丸は甘い声で信長に囁いた。
「お前と帰蝶は、別物だ」
信長は呟き、はっとして首を振った。
「すまない。今のは忘れてくれ」
蘭丸は言葉を失った。
蘭丸がどうあがいても、信長の心の大部分は今も帰蝶が占めている。
蘭丸はそのことに烈しい苛立ちを感じてきた。
そして今、自分が帰蝶にかわって寵愛を受けることはないと、はっきりと信長から宣告を受けた。その絶望感は、蘭丸を捨てばちな思いに駆り立てた。
「あの方は、陰で殿を裏切っていたのですよ」
「確かに裏切りだ。けど、あいつはいつも、俺だけをまっすぐに見てくれていた」
「・・・なぜまだそんなにも帰蝶さまを? あの方はもういないのですよ。私だけを見てください」
蘭丸は取り乱し、信長の両肩を掴んでその目を覗き込んだ。その瞳に、自分以外の何ものも映り込まないように顔を近付けた。接吻の衝動が、蘭丸の体の奥から突き上げてくる。
───殿、私はあなたをこんなにも愛しているのに
「蘭丸、まさかお前が・・・帰蝶を」
信長の顔が、みるみる蒼白になっていく。これまでの蘭丸の異常なまでの執着を思った。信長が蘭丸以外の者に目を向けようものなら、相手を排除しようと躍起になるところがある。そんなところも可愛いと思って見ていたが、帰蝶の話になったとたんに蘭丸の表情に鬼気迫るものを見た信長は、少年の異常な執着の裏に、恐ろしい殺意が隠れていることに気が付いたのだ。
そのとき、夜明け前のしんとした空気を揺さぶるように、大勢が騒ぐ音が近づいてきた。
「何の騒ぎだ」
「見てきます」
蘭丸は部屋から走り出て、すぐに戻ってきた。
「本能寺の周囲を囲まれています」
「どこの兵だ」
信長は咄嗟に枕もとの刀を取った。
「それが・・・桔梗の紋の旗のようなのです」
こうして、本能寺の変は起こった。
信長は刹那、動きを止めた。直後、唇の端をかすかに上げて微笑んだようにも見えた。
「光秀か・・・仕方ない、もはや受け入れるしかないようだ」
信長のこれまでの躍進の道のりを振り返れば、光秀の存在なしには語ることができないほどに、光秀は全身全霊で信長に尽くしてきた。
しかしその裏側で、信長の最愛の妻とむつみ合っていた。
最強の味方であり、最凶の敵、明智光秀。
信長は立ち上がった。ついに光秀との決戦の時が来たのだった。
防御のない本能寺の塀はたやすく破られ、矢の雨が降り注ぎ、刀をかざした軍勢が一気に流れ込んできた。
信長ははじめ弓矢で迎え撃った。唸り声を上げながら矢継ぎ早に射ち、弓が千切れると今度は槍を取った。蘭丸が槍を振って近づいて来る敵を迎撃している。敵方には逃げていくものも多くいた。それでも二百人そこらの信長の従者たちでは到底太刀打ちができない勢いだ。なにしろ本能寺に待機していたのは馬周り衆と小姓をのぞき、ほとんどが陣夫や侍女などの戦力にならない者たちなのだ。
「女たちは裏から出ろ」
信長は大声で奥に向かって叫んだ。わずかに後ろを向いた瞬間に、敵兵の槍が腕を刺した。
「うっ」
敵兵が槍を引き抜きながら、仰向けに倒れていく。蘭丸が脇からひと刺し急所に槍を入れていた。
押し寄せてくる軍勢を槍で突き、抜いてもう一人を貫いた。槍を胸に突き立てたまま敵兵が仰向けに倒れると、いよいよ信長は刀を抜いた。その瞬間、両脇から振りかざされた刀を避け切れず袖が切れて血が噴き出した。
真っ白な白綸子の寝衣が、鮮血に染まる。
信長は腿に刺さった矢を引き抜きながら奥の部屋へと進んだ。
蘭丸が追いかけてくる。
「蘭丸、俺はもうこれまでだ。この部屋に誰も入れるな」
戸口に立った信長は蘭丸に言った。
「はい」
蘭丸の瞳から涙があふれ出る。
信長はその細い顎を血にまみれた手でつかんで引き寄せ唇を合わせ、今生の別れを告げた。離れるなり戸を引いて、信長の姿は蘭丸の前から消えた。
蘭丸は周辺の戸を外して集めて幾重にも立てかけ、信長のこもる寝所を塞いだ。
「殿は誰にも渡さない」
廊下を敵兵が駆けてくる。蘭丸は叫びながら槍で相手を押しのけた。切られても、刺されても、槍を横に抱いて何人もの兵をまとめて押し返し続けた。
戸を閉めて振り返ると、すでにそこに待ち構える影があった。
信長は絶望の中で微笑んだ。
「もうここにもいたか」
体中から血が流れ出て、手足の力が入らない。体温が失われ、体はわなわなと震えている。
「信長殿」
「光秀か」
信長はうつろな目でぼんやりと揺らめく人影を睨んだ。構えた切先が、ふらふらと揺れる。
光秀は、信長の前に刀も抜かずに立った。
「あなたはここまで、天下布武を掲げ邁進してきた。しかし、あまりにも多くの敵に阻まれ、信じがたい悪逆な殺戮に手を染めることになってしまった。・・・信長殿、あなた自身もこんなはずではなかったと苦しんできた。そしてあなたは、苦しみから解き放たれるために心に悪魔を宿したのだ。自分が悪魔なのだと思えば、どれだけ自分の采配で人が死のうが、どのような死を遂げようが、どれだけ人々が傷つこうが、それもすべて悪魔の心が導いたことと思えるからな。
けど信長殿。あなたは悪魔ではない。純粋に天下布武を夢見た穢れない瞳の持ち主だ」
「今更説教か」
「俺は、あなたに巣食った悪魔の心をもらいに来た」
光秀が寝所についていた蝋燭を使って部屋に火を放った。
瞬く間に火は燃え広がり、灼熱の紅い波が天井を這う。
「織田信長はこれをもって、死ぬのだ」
部屋に煙が立ち込める。
信長は意識が遠のくのを感じた。
そのとき、光秀が部屋の奥に向かって言った。
「姫、信長殿はこちらだ!」
煙に遮られた向こうには、出入りできるほどの大きさの花頭窓があるはずだった。
そこからまた、誰かが入ってくる気配がした。
その次の瞬間、煙の幕を割って、帰蝶が部屋の奥から現れた。
長良川の戦いで、退却する兵たちに逆行してきた帰蝶の姿を思い出した。
「信長、助けに来たわ」
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