6 / 185
Plologue:多賀、参る。
第6話:部署 ~そんな確率ありえない~
しおりを挟む
春日英一といえば、実力派とうたいながらも、美形と名高い俳優である。
「え、ほんとですか……?」
言われてみれば、似ていなくもない。
「ほんまや。英一の方は知ってるんやな。よかったわ」
知っているも何も、多賀の姉が大ファンだ。
姉がこの事実を聞いたら発狂するに違いない。
「そんな有名人が、僕の身近にいるなんて……」
「こっちの男も、有名やと思うで」
多賀の感動にかぶせるように、春日は隣の眼鏡の男を指さして、さらりと言ってのけた。
「あー、でもこの子、顔覚えられへんのか。じゃあ、諏訪の顔も知らんやろーな」
「名前は知ってたりしてな」
眼鏡の男は、自分の手帳を多賀に渡した。
開いた手帳には、仏頂面の男の顔と、諏訪慎太郎というフルネームがあった。
その名は確かに聞き覚えがあるような気もする。
「さあ、俺は誰でしょう?」
多賀は記憶をひっくり返す。諏訪……耳に残っているのは、アナウンサーの絶叫である。それがテレビの実況だと気付いた時、ハッとした。
「オリンピックの高校生メダリスト、諏訪慎太郎さんですね」
「ビンゴ!」
諏訪は、座ってもわかる高身長に不釣り合いなほど、顔を輝かせた。
諏訪慎太郎。
十年前の冬季オリンピックの某競技で銅メダルを獲った男だ。
高校生選手として大会前から注目され、メダルに輝いた時に日本が湧いたのは確かだが、最も国民の目を引いたのは競技ではなかった。
表彰式の二日後に、彼は事故に遭った。
彼の乗ったバスがスリップした自動車と衝突、諏訪は現地の病院に搬送され、閉会式に顔を出すことはなかった。
日本のテレビでは、原型をとどめていないバスから引きずり出されるようにして救出される血まみれの諏訪が、競うようにニュースで流れた。同時に、オリンピック競技の中継も何度も流れた。
多賀が聞いたのはこれだった。
諏訪はオリンピックを機に引退し、短い選手生命を終えた。
その後の消息を多賀は知らない。まさか、警察官だなんて思いもよらなかった。
「事故った諏訪さん、じゃないのが嬉しいなぁ」
「確かに、そっちの方がインパクトあるよな普通」
「そうそう。死にかけの俺の方が有名なんだよ基本」
「テレビでめっちゃ流れてたからなぁ」
「あれひどいよな。血なんて、普通人に見せないものじゃん。そういうのを、事故でだらだら流している人間に向かって、カメラで撮る? 裸を撮ってんのと同じレベルだと思うんだ」
「……それはちょっとわからんわ」
「え、どこが?」
「全部や」
多賀は目の前で繰り広げられる光景についていけなかった。思わず迷い込んだ会議室に、こんな有名人が集っているとは思いもよらず、まだ夢の中ではないかとさえ思った。
ここに多賀を連れてきた男の素性と、その目的はまだ明らかではないが、そんなことは多賀の頭から飛んでいる。
「どうして、こんなに有名人が……」
「そういう部署だからだよ」
多賀の独り言に答えたのは、例の上品そうな男だった。
男はいつのまにか、多賀の斜め向かいに座っている。
「ここは、各界の有名人を集めた部署なんだ」
「え、ほんとですか……?」
言われてみれば、似ていなくもない。
「ほんまや。英一の方は知ってるんやな。よかったわ」
知っているも何も、多賀の姉が大ファンだ。
姉がこの事実を聞いたら発狂するに違いない。
「そんな有名人が、僕の身近にいるなんて……」
「こっちの男も、有名やと思うで」
多賀の感動にかぶせるように、春日は隣の眼鏡の男を指さして、さらりと言ってのけた。
「あー、でもこの子、顔覚えられへんのか。じゃあ、諏訪の顔も知らんやろーな」
「名前は知ってたりしてな」
眼鏡の男は、自分の手帳を多賀に渡した。
開いた手帳には、仏頂面の男の顔と、諏訪慎太郎というフルネームがあった。
その名は確かに聞き覚えがあるような気もする。
「さあ、俺は誰でしょう?」
多賀は記憶をひっくり返す。諏訪……耳に残っているのは、アナウンサーの絶叫である。それがテレビの実況だと気付いた時、ハッとした。
「オリンピックの高校生メダリスト、諏訪慎太郎さんですね」
「ビンゴ!」
諏訪は、座ってもわかる高身長に不釣り合いなほど、顔を輝かせた。
諏訪慎太郎。
十年前の冬季オリンピックの某競技で銅メダルを獲った男だ。
高校生選手として大会前から注目され、メダルに輝いた時に日本が湧いたのは確かだが、最も国民の目を引いたのは競技ではなかった。
表彰式の二日後に、彼は事故に遭った。
彼の乗ったバスがスリップした自動車と衝突、諏訪は現地の病院に搬送され、閉会式に顔を出すことはなかった。
日本のテレビでは、原型をとどめていないバスから引きずり出されるようにして救出される血まみれの諏訪が、競うようにニュースで流れた。同時に、オリンピック競技の中継も何度も流れた。
多賀が聞いたのはこれだった。
諏訪はオリンピックを機に引退し、短い選手生命を終えた。
その後の消息を多賀は知らない。まさか、警察官だなんて思いもよらなかった。
「事故った諏訪さん、じゃないのが嬉しいなぁ」
「確かに、そっちの方がインパクトあるよな普通」
「そうそう。死にかけの俺の方が有名なんだよ基本」
「テレビでめっちゃ流れてたからなぁ」
「あれひどいよな。血なんて、普通人に見せないものじゃん。そういうのを、事故でだらだら流している人間に向かって、カメラで撮る? 裸を撮ってんのと同じレベルだと思うんだ」
「……それはちょっとわからんわ」
「え、どこが?」
「全部や」
多賀は目の前で繰り広げられる光景についていけなかった。思わず迷い込んだ会議室に、こんな有名人が集っているとは思いもよらず、まだ夢の中ではないかとさえ思った。
ここに多賀を連れてきた男の素性と、その目的はまだ明らかではないが、そんなことは多賀の頭から飛んでいる。
「どうして、こんなに有名人が……」
「そういう部署だからだよ」
多賀の独り言に答えたのは、例の上品そうな男だった。
男はいつのまにか、多賀の斜め向かいに座っている。
「ここは、各界の有名人を集めた部署なんだ」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる