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Mission:大地に光を
第45話:異変 ~新婚なのにのろけない~
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三嶋の様子が朝からずっとおかしいことには、なんとなく気づいていた。
顔にも声にも表情というものがなく、それだけでまるで別人のように見える三嶋に声をかけようという猛者は諏訪くらいのものだ。
が、今日の彼は午前中を交通課のいち警察官として過ごすことになっている。
午前中に三嶋に近づいた唯一の男、多賀が遠回しに様子を探ろうとしたが、本人は自分の異変に自覚がないのか、無表情のまま首を振るだけであった。
昼休みに入っても、三嶋はただ書類を並べて整理するばかりで、いつもの手作り弁当を広げようとはしなかった。
同僚たちは、これもまた珍しいと思いつつ、遠巻きに眺めていた。
しかし、交通課での勤務を終えて情報課に戻ってきた諏訪は、三嶋の異変など知る由もなかったからか、なんのためらいもなく、そこに足を踏み入れる。
正直、周りのものは、ほっとした。
「三嶋さぁん、ご飯食べないんすか?」
「食べましたよ」
認知症かと裕は突っ込みかけたが、やめておいた。
「でも、お弁当あるじゃないっすか」
諏訪が指差す先を探った三嶋の手は、弁当にぶち当たる。
三嶋は心底驚いたように弁当を持ち上げた。
「あれ? 私、まだ食べてなかったんですね」
「奥さん悲しむっすよぉ」
「私のために悲しんでくれるかな」
普段の三嶋なら、照れた顔で、そうですねとでも言うはずだ。新婚独特の惚気ダダ漏れの雰囲気が、彼から消えている。
諏訪は三嶋の異変を感じ取ったのか、動作には表さなかったものの、眼鏡がずれるほど眉間にしわを寄せた。
答えずに踵を返した諏訪は、ぎこちない動作で、椅子に隠れるようにして三嶋を眺める春日の元へ寄った。
「どうしたんだ、三嶋さん」
「さあ、俺が朝来た時からずっとあんなんや」
「夫婦喧嘩か?」
「夫婦喧嘩の時は、もっと殺気立ってるはずやで」
「何かあったのか」
「ヤバい事件に関わる羽目になったんちゃうの?」
「よく知ってるね」
冗談を交えて春日が苦笑していると、驚いたように章が割り込んできた。
多賀と裕も章についてきて、弁当を真顔で食す三嶋をよそに、五人の輪ができる。
「今の、ほんまやったんや……」
「どんな事件すか」
「宗教だよ、カルト宗教」
「カルトぉ!?」
諏訪の声は思いの外大きくなって、慌てて彼は口元を押さえた。
「三嶋さんが宗教に引っかかったってことっすか?」
「そんなわけないだろ、あほ」
章が目を細めて威嚇する。諏訪は目をそらして肩をすくめた。
「ナントカっていう怪しい宗教の動向を調べるらしい」
「ナントカ教? すごい名前ですね。インド語ですか?」
章は一瞬、からかわれているのかと思ったが、多賀は真顔だ。裕が肩を震わせながら椅子の背を叩いて笑いを殺している。
「違う! 日本語! 宗教の名前を忘れたんだよ、ごめん!」
最後の方は逆ギレである。
「……とりあえず、なんか怪しい宗教があるんですね」
「お前はとりあえず、インドにインド語はないと知れ」
「僕、日本史・倫理政経だったんで……」
「ナントカ教じゃありません。『大地の光』ですよ、みなさん」
いつの間にか弁当を食べ終え、山ほど書類を抱えた三嶋が、鋭い眼光で輪の後ろに立っていた。
顔にも声にも表情というものがなく、それだけでまるで別人のように見える三嶋に声をかけようという猛者は諏訪くらいのものだ。
が、今日の彼は午前中を交通課のいち警察官として過ごすことになっている。
午前中に三嶋に近づいた唯一の男、多賀が遠回しに様子を探ろうとしたが、本人は自分の異変に自覚がないのか、無表情のまま首を振るだけであった。
昼休みに入っても、三嶋はただ書類を並べて整理するばかりで、いつもの手作り弁当を広げようとはしなかった。
同僚たちは、これもまた珍しいと思いつつ、遠巻きに眺めていた。
しかし、交通課での勤務を終えて情報課に戻ってきた諏訪は、三嶋の異変など知る由もなかったからか、なんのためらいもなく、そこに足を踏み入れる。
正直、周りのものは、ほっとした。
「三嶋さぁん、ご飯食べないんすか?」
「食べましたよ」
認知症かと裕は突っ込みかけたが、やめておいた。
「でも、お弁当あるじゃないっすか」
諏訪が指差す先を探った三嶋の手は、弁当にぶち当たる。
三嶋は心底驚いたように弁当を持ち上げた。
「あれ? 私、まだ食べてなかったんですね」
「奥さん悲しむっすよぉ」
「私のために悲しんでくれるかな」
普段の三嶋なら、照れた顔で、そうですねとでも言うはずだ。新婚独特の惚気ダダ漏れの雰囲気が、彼から消えている。
諏訪は三嶋の異変を感じ取ったのか、動作には表さなかったものの、眼鏡がずれるほど眉間にしわを寄せた。
答えずに踵を返した諏訪は、ぎこちない動作で、椅子に隠れるようにして三嶋を眺める春日の元へ寄った。
「どうしたんだ、三嶋さん」
「さあ、俺が朝来た時からずっとあんなんや」
「夫婦喧嘩か?」
「夫婦喧嘩の時は、もっと殺気立ってるはずやで」
「何かあったのか」
「ヤバい事件に関わる羽目になったんちゃうの?」
「よく知ってるね」
冗談を交えて春日が苦笑していると、驚いたように章が割り込んできた。
多賀と裕も章についてきて、弁当を真顔で食す三嶋をよそに、五人の輪ができる。
「今の、ほんまやったんや……」
「どんな事件すか」
「宗教だよ、カルト宗教」
「カルトぉ!?」
諏訪の声は思いの外大きくなって、慌てて彼は口元を押さえた。
「三嶋さんが宗教に引っかかったってことっすか?」
「そんなわけないだろ、あほ」
章が目を細めて威嚇する。諏訪は目をそらして肩をすくめた。
「ナントカっていう怪しい宗教の動向を調べるらしい」
「ナントカ教? すごい名前ですね。インド語ですか?」
章は一瞬、からかわれているのかと思ったが、多賀は真顔だ。裕が肩を震わせながら椅子の背を叩いて笑いを殺している。
「違う! 日本語! 宗教の名前を忘れたんだよ、ごめん!」
最後の方は逆ギレである。
「……とりあえず、なんか怪しい宗教があるんですね」
「お前はとりあえず、インドにインド語はないと知れ」
「僕、日本史・倫理政経だったんで……」
「ナントカ教じゃありません。『大地の光』ですよ、みなさん」
いつの間にか弁当を食べ終え、山ほど書類を抱えた三嶋が、鋭い眼光で輪の後ろに立っていた。
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