上 下
65 / 185
Mission:大地に光を

第65話:協力 ~兄が適任かもしれない~

しおりを挟む
「つじまちゃんが、博実に話があるって」
 最近、三嶋になじんできたのか、亮成はそこそこ喋るようになった。二段ベッドの下から急に声をかけてくるので三嶋はいつも驚かされる。
「何かあったのかなぁ」
 三嶋は不安に気が重くなった。信者勧誘の件で呼び出されて叱られた弊害だ。

「教育部関係やろ。新規信者のことちゃう?」
 亮成がぼそりと言う。
「博実が入れた信者と最近入った信者の教育やろな」

「だといいんだけどな」
 二段ベッドの上で三嶋は目を閉じる。
「つじまちゃん、いつ行ったらいいって言ってた?」
「いつでも大丈夫やろ」
 案外雑なところのある亮成だ。早めに行っておいて損はない。三嶋は目をこすって起き上がり、梯子を下りた。

 急ぎの用事ではなかったようだが、時間のあったらしい辻は、がらんとした食堂の一角に三嶋を連れ出した。
「これは富士さんに頂いたお言葉やねんけど」
 つまり、絶対に従わなくてはならない言葉ということだ。

「単刀直入に言うと、滋賀県の県議会選挙まであと二年になってるわけ」
 本当に単刀直入だな。三嶋は呆れた。それは辻も理解しているところなのか、こちらと目が合わない。
 二年後の選挙戦に今から目を向けるとは、いささか早すぎるようにも見えるが、全くの新人団体が政治への参入を目指すとなると妥当だろう。本気で政治に興味を持っていることが伺える。

「博実に協力してほしいねん」
「県議会選挙に、ってこと?」
 辻は軽くうつむいたまま頷く。
「博実には教育部部長として、教団にしっかり寄与してもらいたいねんな」
「地方議会か……」

 三嶋は眉根を寄せる。父をネタにこの教団に入ったわけだが、実際に父が教団に協力してくれる確率は万に一つもない。ただでさえ縁切り状態なのに、怪しい宗教団体に手を貸すわけがない。どう切り抜けたものか。

「……兄だ」
「あに?」
「地方議会なら、僕の兄がいい人を紹介してくれると思う」
「博実にはお兄さんがいるん?」
「兄は父の秘書なんだ。いろんな人と実際に交流しているのは兄だから、どちらかというと、父本人よりも適任かもしれない」

 半分本当だが、三嶋に都合のいいように誘導しているのも事実だった。話す余地のない父よりも、普段は没交渉とはいえ、いくらかまともな兄の方が余程利用しやすい。

「じゃあ、さっそく富士さんに伝えてええ?」
 辻は嬉しそうだった。三嶋が案外あっさりと兄の紹介を受け入れたからだろう。
しおりを挟む

処理中です...