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第3章
第127話
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ダンジョンから3Kmが鍵だと言うなら……あそこは無風地帯の筈だ。
オレは車を心当たりの場所へと走らせる。
『ピンポンパンポピポー♪』
いつ来ても、おかしな音を奏でるチャイムを押す。
……待つ。
…………まだ待つ。
──カチャカチャ──ガチャン!
「……誰かと思ったらヒデか。久しぶり」
「……おぅ。相変わらずみたいだな」
「まぁな」
高校時代から部活に明け暮れていたオレにとって、付き合いの途切れなかった珍しい地元の友人。
筒井 篤弘
それがこのモノグサな友人の名前だった。
「まぁ、上がれよ。寒いし……」
「あぁ」
筒井は小学校の時は地味で目立たないヤツだったが、中学では同じサッカー部。
天才的なパスセンスと、ポジショニングが抜群のミッドフィールダーだったが、残念なことにスタミナや運動能力が酷いレベルで、結局はずっとベンチ要員だった。
何でオレと仲が良かったかと言えば、お互い病的なまでの海外サッカーマニアだったためだ。
筒井はやるより観るのが好きなタイプ、オレはやるのも観るのも好きなタイプだったため、選手としてはオレが上回ったが、センスやサッカー観は筒井の方が数段上だと今でも思っている。
そんな筒井の家を何故訪ねたかと言えば、ここがウチの最寄りのダンジョンから4Km……ド田舎ダンジョンと温泉街のダンジョンからは約3Kmずつ離れている地点に有るからだった。
そして大学や会社には進まず、株式投資などで利益を出し続けて生活していた筒井が、ある物件を所有しているのも訪問した理由だ。
筒井の自宅から見下ろす位置に広がる温泉付き別荘地……筒井はこれを丸ごと所有していた。
買った動機は……本人いわく『目障りだから』だそうだ。
億単位の金をポンと投じて買い占めたのだ……ただ目障りだからというだけで。
開発したのがオレの居た会社だったからというのも、もしかしたら有るのかもしれないが、いずれにしても豪気な話では有る。
閑話休題……
「筒井、お前の持ってる別荘地だけどな、悪いが状況が落ち着くまで貸してくれないか?」
「……あぁ、やっぱりそういうことか。別に良いぞ?」
「良いのか?」
「あぁ、使う予定も無いしな。理由も分かる。このあたりにはモンスターが出ないからだろ? 管理は業者に世の中がこうなるまでキッチリさせといたし、いつでも使える筈だ」
「……悪い」
「じゃあ頼むなよ」
「だな」
お互いの見たことも無いほどの真剣な顔に耐えきれなくなったのか、まず筒井が吹き出すと、オレも堪えきれず爆笑してしまう。
「相変わらずだな、ヒデ。相変わらず水臭い」
「お前もな。相変わらず、ワケわかんねー」
「近所の爺さん、婆さんを匿うってこったろ?」
「あぁ、そういうことだ。お前に払う家賃の代わりに、空いた土地で農業でもして貰うさ」
「そりゃ良いな。これから食料は幾ら有っても足りないぐらいだろう」
「少しでも若い人は……他に食料を稼ぐアテがあるからな。ホントに微々たるもんだと思うぞ……家賃」
「構わねぇよ。もともと期待して無かったから。夏にキュウリの1本でも貰えたら上々ってとこさ」
「恩に着るよ」
「……じゃあ若い娘、紹介して」
「お前、そればっかな」
「うるせぇ、リア充!」
「はいはい、紹介だけはするから、頑張ってな?」
「……マジで紹介してくれんの?」
苦笑しながら頷いて、席を立つ。
「じゃあな、また連絡する」
「おぅ……死ぬなよ、ヒデ」
死ぬなよ……か。
今は何よりの言葉だ。
筒井の家を出て車に乗り込み、来た道を戻る。
やはり3Kmだった。
ダンジョンから3Km離れれば、そもそもモンスターが出現しないし、スタンピードで溢れたモンスターも立ち入らないようだ。
近隣に住む人の一時避難先として、そして今後の食料確保のための農地として最適の場所を悪友の筒井が持っていたのは、まさしく天の配剤といったところだろう。
……あ!
妻の実家付近が安全地帯みたいになっているのもそういうことか!
オレの知る限りあの近くにダンジョンは無いし、偶然の産物か何らかの意図が有るのかは分からないが、ちょうど空白地帯のようになってしまっているのだろう。
解ける時は芋づる式に謎が解けていく。
後はド田舎ダンジョン付近の問題を解決出来れば、とりあえずの救済策は完了といったところだろう。
最寄りのダンジョンも閉ざされていた出入口が開いたということなら、ヒントを探しに再訪してみる必要が有るだろうし……やること多いよなぁ、これから。
◆
ド田舎ダンジョンから約3Km地点……車道に停めた車を降りて、先ほど兄が言っていた境界線を確かめる。
ゾンビどもがオレに気付き唸り声を上げるが、確かに近寄って来ない。
地面に落ちていた砂粒より多少は大きいかなぁ……というようなサイズの小石を、ゾンビの頭部や胸部などは避けるように意識して、軽く放り投げる。
調節が上手くいったようで何より。
ゾンビに当たった石ころは肩のあたりに当たって砕け散り、いくらか腐肉を弾き飛ばしたがゾンビを倒すまでには至らなかった。
これで、いわゆるヘイトをオレに向けるのに成功しただろう。
しかし、あと1歩ゾンビが踏み出せばオレを掴めるだろう位置にまで接近しても、ゾンビがその1歩を踏み出すことは無かった。
目には見えないが、やはり境界線が有るのは間違い無いようだ。
よし……これで今後の目処が立った。
オレは車を心当たりの場所へと走らせる。
『ピンポンパンポピポー♪』
いつ来ても、おかしな音を奏でるチャイムを押す。
……待つ。
…………まだ待つ。
──カチャカチャ──ガチャン!
「……誰かと思ったらヒデか。久しぶり」
「……おぅ。相変わらずみたいだな」
「まぁな」
高校時代から部活に明け暮れていたオレにとって、付き合いの途切れなかった珍しい地元の友人。
筒井 篤弘
それがこのモノグサな友人の名前だった。
「まぁ、上がれよ。寒いし……」
「あぁ」
筒井は小学校の時は地味で目立たないヤツだったが、中学では同じサッカー部。
天才的なパスセンスと、ポジショニングが抜群のミッドフィールダーだったが、残念なことにスタミナや運動能力が酷いレベルで、結局はずっとベンチ要員だった。
何でオレと仲が良かったかと言えば、お互い病的なまでの海外サッカーマニアだったためだ。
筒井はやるより観るのが好きなタイプ、オレはやるのも観るのも好きなタイプだったため、選手としてはオレが上回ったが、センスやサッカー観は筒井の方が数段上だと今でも思っている。
そんな筒井の家を何故訪ねたかと言えば、ここがウチの最寄りのダンジョンから4Km……ド田舎ダンジョンと温泉街のダンジョンからは約3Kmずつ離れている地点に有るからだった。
そして大学や会社には進まず、株式投資などで利益を出し続けて生活していた筒井が、ある物件を所有しているのも訪問した理由だ。
筒井の自宅から見下ろす位置に広がる温泉付き別荘地……筒井はこれを丸ごと所有していた。
買った動機は……本人いわく『目障りだから』だそうだ。
億単位の金をポンと投じて買い占めたのだ……ただ目障りだからというだけで。
開発したのがオレの居た会社だったからというのも、もしかしたら有るのかもしれないが、いずれにしても豪気な話では有る。
閑話休題……
「筒井、お前の持ってる別荘地だけどな、悪いが状況が落ち着くまで貸してくれないか?」
「……あぁ、やっぱりそういうことか。別に良いぞ?」
「良いのか?」
「あぁ、使う予定も無いしな。理由も分かる。このあたりにはモンスターが出ないからだろ? 管理は業者に世の中がこうなるまでキッチリさせといたし、いつでも使える筈だ」
「……悪い」
「じゃあ頼むなよ」
「だな」
お互いの見たことも無いほどの真剣な顔に耐えきれなくなったのか、まず筒井が吹き出すと、オレも堪えきれず爆笑してしまう。
「相変わらずだな、ヒデ。相変わらず水臭い」
「お前もな。相変わらず、ワケわかんねー」
「近所の爺さん、婆さんを匿うってこったろ?」
「あぁ、そういうことだ。お前に払う家賃の代わりに、空いた土地で農業でもして貰うさ」
「そりゃ良いな。これから食料は幾ら有っても足りないぐらいだろう」
「少しでも若い人は……他に食料を稼ぐアテがあるからな。ホントに微々たるもんだと思うぞ……家賃」
「構わねぇよ。もともと期待して無かったから。夏にキュウリの1本でも貰えたら上々ってとこさ」
「恩に着るよ」
「……じゃあ若い娘、紹介して」
「お前、そればっかな」
「うるせぇ、リア充!」
「はいはい、紹介だけはするから、頑張ってな?」
「……マジで紹介してくれんの?」
苦笑しながら頷いて、席を立つ。
「じゃあな、また連絡する」
「おぅ……死ぬなよ、ヒデ」
死ぬなよ……か。
今は何よりの言葉だ。
筒井の家を出て車に乗り込み、来た道を戻る。
やはり3Kmだった。
ダンジョンから3Km離れれば、そもそもモンスターが出現しないし、スタンピードで溢れたモンスターも立ち入らないようだ。
近隣に住む人の一時避難先として、そして今後の食料確保のための農地として最適の場所を悪友の筒井が持っていたのは、まさしく天の配剤といったところだろう。
……あ!
妻の実家付近が安全地帯みたいになっているのもそういうことか!
オレの知る限りあの近くにダンジョンは無いし、偶然の産物か何らかの意図が有るのかは分からないが、ちょうど空白地帯のようになってしまっているのだろう。
解ける時は芋づる式に謎が解けていく。
後はド田舎ダンジョン付近の問題を解決出来れば、とりあえずの救済策は完了といったところだろう。
最寄りのダンジョンも閉ざされていた出入口が開いたということなら、ヒントを探しに再訪してみる必要が有るだろうし……やること多いよなぁ、これから。
◆
ド田舎ダンジョンから約3Km地点……車道に停めた車を降りて、先ほど兄が言っていた境界線を確かめる。
ゾンビどもがオレに気付き唸り声を上げるが、確かに近寄って来ない。
地面に落ちていた砂粒より多少は大きいかなぁ……というようなサイズの小石を、ゾンビの頭部や胸部などは避けるように意識して、軽く放り投げる。
調節が上手くいったようで何より。
ゾンビに当たった石ころは肩のあたりに当たって砕け散り、いくらか腐肉を弾き飛ばしたがゾンビを倒すまでには至らなかった。
これで、いわゆるヘイトをオレに向けるのに成功しただろう。
しかし、あと1歩ゾンビが踏み出せばオレを掴めるだろう位置にまで接近しても、ゾンビがその1歩を踏み出すことは無かった。
目には見えないが、やはり境界線が有るのは間違い無いようだ。
よし……これで今後の目処が立った。
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