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第4章
第181話
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……何故だ?
妻とマチルダはともかく、なぜか沙奈良ちゃんにまで痛くもない腹を探られる破目になってしまった。
ここの守護者が美しい妖精の姿をしているのを、皆が知っていたせいでもあるのは間違いないが……それで、どうして隠し子を疑われることになるのか?
エネア(アルセイデスの分体)は楽しげに笑うばかりで助け船を出してもくれないし、右京君はフリーズしていて言葉を発しない。
妻や沙奈良ちゃんは冗談まじりだが、マチルダは半ば本気でオレに疚しいことが無いか、ぐいぐいと詰め寄って来ている。
まぁ……確かにニンフのような超常の存在が相手なのだから、一切の常識が通用しないのも確かだが、アルセイデスの本体と【交渉】していた時間など10分にも満たない。
それで5歳児ぐらいの隠し子が出来よう筈も無いのだ。
そもそもオレは浮気自体したこと無いし、しようとしたことすら無い。
『スキル【ロード】のレベルが上がりました』
何故か、こんなタイミングで【解析者】の声が聞こえて来たが、今は濡れ衣を晴らすのが先だ。
収拾が着かなくなる前にと……当の本人に皆を会わせることにした。
「あなたも大変ね。あぁ、奥さん達。ご心配なく。私と彼の間に色っぽいことは何も起きていないわ」
アルセイデスにそう言われて、マチルダは先ほどまでの勢いはどこかに消え失せ、首まで真っ赤になって固まってしまった。
沙奈良ちゃんも少しだけ頬が赤い……いや、まさかな。
妻だけは変わらずニコニコしているが、あれは怒っている時の表情だ。
……アルセイデスの言葉のうち、何が気に食わなかったのかは分からない。
オレと右京君。それからエネアを置き去りにして、アルセイデスと女性陣は部屋の奥で何やらボソボソと話している。
聴くことに魔力を集中すれば聞こえてきそうなものだが、そんな無粋な真似はしないでおこう。
その方がオレの精神衛生上も良さそうだ。
しばらくすると、妻達が帰って来た。
皆、にこやかなのが逆に怖い。
その中で、何やらアルセイデスが申し訳なさそうにしているのが、とても不吉なことのように思える。
……いったい何を話していたんだろう?
エネアがオレの腿あたりを、小さな手でポンポンと叩いて来た。
ドンマイってことか?
…………何がだ?
◆
ここでの用は済んだので、帰り道は来た時とは違い採集などもせずに、最短のルートを選ぶ。
本来なら【転移魔法】で一気に出たいところだが、このダンジョンには自警団の面々も採集目的で来ているため、念のため使用を控える。
今の段階で彼らの親族や、友人、知人の救出を迫られても、さすがに全てには応えられない。
【鑑定】や【調剤】とは違い、もう少し隠しておく必要があるだろう。
オレやマチルダは言うに及ばず、妻や柏木兄妹にしても、常人とはかけ離れた身体能力を持つに至っているため、帰路はかなりのハイペースだ。
普通なら小さなエネアが気にかかるところだが、オレの心配など何のその、先導するつもりなのか、むしろ誰よりも速くダンジョンを飛ぶように走り抜けていた。
エネアが一緒にいるせいか、時折オレの視界に入ってきたモンスター達が襲い掛かって来るでもなく、あべこべに遠ざかって行くのが見える。
このペースなら予定していたより早くに出口にたどり着くだろう。
◆
そのまま、今度は最寄りのダンジョンに向かい、妻達とは入り口で行動を別にした。
何故か妙に張り切ってダンジョン探索に向かう妻達を見送った後、オレはエネアだけを連れて、守護者の部屋まで【転移魔法】で飛ぶ。
ド田舎ダンジョンを支配下に加えたことで、魔素の産出量が上がっている筈だ。
再度、調整し直しておく必要が有った。
特に今後、妻達がメインの狩り場にする予定の第5層と、兄の武器強化に最適な第6層への魔素配分量を他より増やし、兄が立ち入る可能性の高い第7層は反対に少しだけ配分量を落としておく。
第7層を放っておくと、兄でも相性的にキツいモンスター達が溢れてしまう。
第1層から第4層までは、ほどほど。
第8層は当面の間は完全にカットしておく。
「ふ~ん、かなり考えて配分してるのね。感心しちゃった」
エネアが感嘆したような声を上げる。
見た目には幼い女の子だが、中身は違うだろう。
ニンフの寿命は数千年から数万年と諸説あるわけだが、さすがに本人に聞くのは憚はばかられる。
しかし……エネアのノリは本体のアルセイデスのそれより、いくらか軽いような気がする。
見た目に精神年齢が引き寄せられているのかもしれない。
「まぁね。せっかくだから、最大限活用しないと」
ド田舎ダンジョンの魔素配分については、ある程度は適当だ。
スタンピードを可能な限り小規模化し、ダンジョンの外にモンスターが出現しなければそれで良い。
そのため、各階層の魔素配分については均一化しておいた。
「それはそうよね~。それで……次は、どこの迷宮を手に入れるの?」
「手近にちょうど良いところが有るんだ。必須では無い所だけど、今後のことを考えると、可能ならどうにかしておきたい」
そう……どうにかしておきたい。
いまだに青葉城址のダンジョンや、仙台駅東口のダンジョンには実力的に手が出せない。
かといって、このまま手をこまねいていては将来に待ち受けているのは避けようの無い絶望だろう。
これ以上、ここで強くなるのが難しいなら徐々に段階を上げていく他は無かった。
「じゃあ行こ。あくまで私は分体だから、死んでも死なないよ。どこにでも付いていくからね?」
最初こそ、息子や甥っ子達の遊び相手に良いかと思って連れて来たのだが、やはりこの幼女はただ者ではないようだ。
アルセイデスがオレに敵対しなかったのは、どうやら思っていた以上の幸運だったのかもしれない。
では……遠慮なく連れ回させて貰うとしようか。
強敵ひしめく、次なる目的地へ。
妻とマチルダはともかく、なぜか沙奈良ちゃんにまで痛くもない腹を探られる破目になってしまった。
ここの守護者が美しい妖精の姿をしているのを、皆が知っていたせいでもあるのは間違いないが……それで、どうして隠し子を疑われることになるのか?
エネア(アルセイデスの分体)は楽しげに笑うばかりで助け船を出してもくれないし、右京君はフリーズしていて言葉を発しない。
妻や沙奈良ちゃんは冗談まじりだが、マチルダは半ば本気でオレに疚しいことが無いか、ぐいぐいと詰め寄って来ている。
まぁ……確かにニンフのような超常の存在が相手なのだから、一切の常識が通用しないのも確かだが、アルセイデスの本体と【交渉】していた時間など10分にも満たない。
それで5歳児ぐらいの隠し子が出来よう筈も無いのだ。
そもそもオレは浮気自体したこと無いし、しようとしたことすら無い。
『スキル【ロード】のレベルが上がりました』
何故か、こんなタイミングで【解析者】の声が聞こえて来たが、今は濡れ衣を晴らすのが先だ。
収拾が着かなくなる前にと……当の本人に皆を会わせることにした。
「あなたも大変ね。あぁ、奥さん達。ご心配なく。私と彼の間に色っぽいことは何も起きていないわ」
アルセイデスにそう言われて、マチルダは先ほどまでの勢いはどこかに消え失せ、首まで真っ赤になって固まってしまった。
沙奈良ちゃんも少しだけ頬が赤い……いや、まさかな。
妻だけは変わらずニコニコしているが、あれは怒っている時の表情だ。
……アルセイデスの言葉のうち、何が気に食わなかったのかは分からない。
オレと右京君。それからエネアを置き去りにして、アルセイデスと女性陣は部屋の奥で何やらボソボソと話している。
聴くことに魔力を集中すれば聞こえてきそうなものだが、そんな無粋な真似はしないでおこう。
その方がオレの精神衛生上も良さそうだ。
しばらくすると、妻達が帰って来た。
皆、にこやかなのが逆に怖い。
その中で、何やらアルセイデスが申し訳なさそうにしているのが、とても不吉なことのように思える。
……いったい何を話していたんだろう?
エネアがオレの腿あたりを、小さな手でポンポンと叩いて来た。
ドンマイってことか?
…………何がだ?
◆
ここでの用は済んだので、帰り道は来た時とは違い採集などもせずに、最短のルートを選ぶ。
本来なら【転移魔法】で一気に出たいところだが、このダンジョンには自警団の面々も採集目的で来ているため、念のため使用を控える。
今の段階で彼らの親族や、友人、知人の救出を迫られても、さすがに全てには応えられない。
【鑑定】や【調剤】とは違い、もう少し隠しておく必要があるだろう。
オレやマチルダは言うに及ばず、妻や柏木兄妹にしても、常人とはかけ離れた身体能力を持つに至っているため、帰路はかなりのハイペースだ。
普通なら小さなエネアが気にかかるところだが、オレの心配など何のその、先導するつもりなのか、むしろ誰よりも速くダンジョンを飛ぶように走り抜けていた。
エネアが一緒にいるせいか、時折オレの視界に入ってきたモンスター達が襲い掛かって来るでもなく、あべこべに遠ざかって行くのが見える。
このペースなら予定していたより早くに出口にたどり着くだろう。
◆
そのまま、今度は最寄りのダンジョンに向かい、妻達とは入り口で行動を別にした。
何故か妙に張り切ってダンジョン探索に向かう妻達を見送った後、オレはエネアだけを連れて、守護者の部屋まで【転移魔法】で飛ぶ。
ド田舎ダンジョンを支配下に加えたことで、魔素の産出量が上がっている筈だ。
再度、調整し直しておく必要が有った。
特に今後、妻達がメインの狩り場にする予定の第5層と、兄の武器強化に最適な第6層への魔素配分量を他より増やし、兄が立ち入る可能性の高い第7層は反対に少しだけ配分量を落としておく。
第7層を放っておくと、兄でも相性的にキツいモンスター達が溢れてしまう。
第1層から第4層までは、ほどほど。
第8層は当面の間は完全にカットしておく。
「ふ~ん、かなり考えて配分してるのね。感心しちゃった」
エネアが感嘆したような声を上げる。
見た目には幼い女の子だが、中身は違うだろう。
ニンフの寿命は数千年から数万年と諸説あるわけだが、さすがに本人に聞くのは憚はばかられる。
しかし……エネアのノリは本体のアルセイデスのそれより、いくらか軽いような気がする。
見た目に精神年齢が引き寄せられているのかもしれない。
「まぁね。せっかくだから、最大限活用しないと」
ド田舎ダンジョンの魔素配分については、ある程度は適当だ。
スタンピードを可能な限り小規模化し、ダンジョンの外にモンスターが出現しなければそれで良い。
そのため、各階層の魔素配分については均一化しておいた。
「それはそうよね~。それで……次は、どこの迷宮を手に入れるの?」
「手近にちょうど良いところが有るんだ。必須では無い所だけど、今後のことを考えると、可能ならどうにかしておきたい」
そう……どうにかしておきたい。
いまだに青葉城址のダンジョンや、仙台駅東口のダンジョンには実力的に手が出せない。
かといって、このまま手をこまねいていては将来に待ち受けているのは避けようの無い絶望だろう。
これ以上、ここで強くなるのが難しいなら徐々に段階を上げていく他は無かった。
「じゃあ行こ。あくまで私は分体だから、死んでも死なないよ。どこにでも付いていくからね?」
最初こそ、息子や甥っ子達の遊び相手に良いかと思って連れて来たのだが、やはりこの幼女はただ者ではないようだ。
アルセイデスがオレに敵対しなかったのは、どうやら思っていた以上の幸運だったのかもしれない。
では……遠慮なく連れ回させて貰うとしようか。
強敵ひしめく、次なる目的地へ。
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