ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる

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第5章

第249話

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『スキル【解析者】のレベルが上がりました』
『【解析者】既得派生スキル群がステージ3に昇格しました』
『【解析者】のスキルレベル上昇に伴い、全既得スキルのレベルが現行解析度に応じ上昇しました』

 ……は?

 いや、まぁ【解析者】のスキルレベルが上がったのは良い。
 派生スキルのステージとやらが上がるのも分かる。
 これで2回目だし、まぁ良いだろう。
 解せないのは他のスキルのレベル上昇だ。
 オレが混乱し、こうして呆けている間にも、ひっきりなしに頭の中で【解析者】の声が響き続けている。

 残敵は、シッポが本に増えたトムが張り切って倒しているから、後は任せても良いだろう。
 カタリナは何かに驚いた様子で、まじまじと自分の手を見て目を丸くしているし、トリアもビクッと身体を震わせたきり動かなくなってしまった。
 目を閉じ自らを抱き締めるような恰好だ。

 まだスキルレベルの上昇を告げる【解析者】の声は鳴り止まない。
 気のせいかもしれないが、どこか誇らしげにも聞こえる。
 スキルの現行解析度とやらが、何を指しているか正確には分からないが……長く使っているスキルほど、レベルの上昇回数が多いようだ。
 中でも【槍術】などは3回もレベルが上がっていた。
 取得してから日の浅いスキルの大半は1回しか上がっていないが、使用頻度の非常に高かった【遠隔視】などは2回スキルレベルが上がったりしていることから、スキルに対してのオレの理解度がこの差の正体のようにも思える。

『主様、掃討完了しましたニャ!』

「あ、あぁ。ありがとう、トム」

『ウニャ! ニャんだか……途中から妙に敵が弱くなりませんでしたかニャ~?』

「……違うわよ、トム。貴方が強くなったの。ううん、貴方だけじゃないわね。私達全員。ヒデ、ねぇ何が起きたの?」

「えーと……【解析者】っていう例のスキルのレベルが上がったんだけどさ。その影響で他のスキルのレベルも上がってるんだ」

「……は?」
「え……何で?」
『ニャんですと?』

「いや、オレにも理由は分からないよ。でも、皆が強くなったのは多分【ロード】のレベルが上がったからじゃないかな? 一気に2回もレベルが上がったし……」

「ちょっと待って! スキルのレベルって、そんな簡単に上がるもんなの?」
「……上がってる、って言ったわよね? まだ上がり続けてるの?」
『ニャ! また我輩のシッポが増えているのですニャ~!』

「あ、やっと止まった。さすがに初めての経験だからなぁ。オレにも何が何やら……」

「ほんと貴方って人は……私の長年の研鑽を小馬鹿にしたような成長ぶりよね」

「全く望んでいなかったと言えば嘘になるけど、まさかこんなことになるなんてね。私の位階が何百年ぶりかに上がったわよ」

『つくづく主様に拾ってもらえて良かったのですニャ。ファイブテールなんて、伝説の中の存在だった筈ニャのに……』

 ◆

 結局、この日の狩りは大成功としか言い様が無い結果に終わった。

 さすがに何の準備も無しにフラっと入って、その日のうちに攻略出来るほど、青葉城址のダンジョンは浅くも生ぬるくも無いが、周辺のモンスターの掃討自体は終了した。
 幸い危惧していた破格のイレギュラーモンスターの出現も無かったし、想定外のアクシデントに見舞われるようなことにもならなかったので、時間的にもかなり余裕をもって帰路につく。

 唯一想定外だったのはオレ達が帰宅したのが、3パーティ中で最も遅かったことだ。
 そして、オレの帰宅を待ち構えていたらしい兄が開口一番……

「ヒデ、お前また何やらかした?」

 そんなことを問い掛けてきた。

「いやいやいや、別に何もやらかしてないって! 例の【解析者】のレベルが上がった結果だよ」

「……お前の【解析者】のレベルが上がったからって、何でオレのスキルまで変化するんだ?」

「スキルが変化?」

「あぁ、オレの【短転移】が【瞬転移】って名前に変わった。名前だけじゃない。やたら高性能化する始末だ。連続でようになったし距離も伸びた」

「使い勝手良くなったんなら、良いじゃないか。兄ちゃんのスキルが変化したのは心当たり無いんだけどさ……」

「無いんだけど……? なんだ?」

「いや、もしかしたら関係あるのかな? 【解析者】のスキルレベルが上がったことで、オレの持ってる他のスキルも上がったんだよね。だから【ロード】のスキルレベルが上がったからさ、皆が急に強くなったって話なら、それが理由になると思う」

「あぁ、それでか。カズだけじゃないんだ。オレや右京君も急に、な」

 父が納得したような表情で頷く。
 兄のスキルが変化した件については、オレにもハッキリとした理由は分からないが、恐らくは【ロード】スキルのレベルが上がったことが原因なのだろうとは思う。
 スキルが上位互換のものに変容するなどという話は今まで聞いたことが無いから、あくまでも推測の域は出ないが……。

「ヒデちゃん、私達はね……そのおかげで命拾いしたの。ヒデちゃんがムチャしたんじゃないかって心配だったんだけど、そういうわけじゃ無さそうだね。帰ってきたら、お礼を言わなきゃって思ってたんだ。ありがとう」

「命拾い? あのあたりでそんな……って、イレギュラーか!」

「そうそう! 目の前で現れたんだよ。黒い渦がね。ウネウネ動いて合体していくの。渦が3つ合体して中からね……グランドドラゴンが出て来たんだよ。しかも変異種とかってヤツ」

「変異種? いや、その前に……イレギュラーの発生を目撃したのか?」

「うん、見たよ。マチルダが見つけてくれたの」
「まぁ、あんな化け物が出て来るなんて思わなかったけどね」
「……私も何回か死にかけましたからね」
「最初は地竜の弱点の筈の風の魔法が、全く通用しなかったわ。さすがに慌てたわよね」

 マチルダも、沙奈良ちゃんも、エネアも頻りに頷きながら話し始めた。
 相当に手強かったようだ。

「ヒデさんは私の命の恩人です。オーガに襲われた時もそうでしたけど、スタンピードのラストでマチルダさんに狙われた時も今回も。言葉だけじゃ足りないのは分かっていますが、それでも……ありがとうございます」

 あぁ、そう言われてみれば……マチルダが自我をハッキリと取り戻す前にそんなことも有ったっけな。

「サナラ、あの時はゴメンね。私も吸血鬼に拐われた時に助けてもらったし、今回も危なかったけど……本当に救われたのは生き返ってすぐの頃かな。殺さないでくれて、皆に出会わせてくれて……ありがと」

 マチルダ……そっか。
 そういう風に思っててくれたんだな。

「いや、必死だっただけだから……恩に着せようとか、そんなんじゃ無いんだ。2人とも、そんな改まって礼なんか言わなくって良いよ」

「ま、受け取っときなさいよ。お礼の言葉ぐらいはさ。私も……ありがとう。おかげでね。生き返れちゃったみたいなんだ」

「…………は?」

 カタリナ、今なんて言った?

「だから! 生き返っちゃったのよ、私。身体が人形のソレじゃなくなってるの! いつの間にか人形は『空間庫』に入ってるし、じゃあ何なのよこの身体って思ってさ……つねってみたら痛いのよ。…………ちゃんと痛いの」

 あの気丈なカタリナが堪えきれずに泣いていた。
 妻が、沙奈良ちゃんが、マチルダが、エネアが、トリアまでもが、カタリナに抱きついて祝福している。
 感極まった女性陣のうち何人かは、そのまま一緒に泣き始めてしまう。

『主様は女泣かせなのですニャ~』

 トム、それ本来の使い方じゃないからな!
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