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秘密1 ※微
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部活を終えて帰宅すると、時刻はもう20時を回っていた。新田たちの所属する陸上部は特段強いわけではないが弱いわけでもなく、新田自身はこの前の大会で自己新記録を出したこともあり、最近は長めに練習時間を取るようにしていた。
自転車を庭にとめ、引き戸を開けると、夕飯の匂いが玄関先まで漂ってきていた。今夜はどうもカレーのようだと居間に続く扉をくぐると、母親がキッチンに立ちながらこちらを振り向いてにこりと笑う。
「あら、おかえり。純」
「おかえり、お兄ぃ」
妹の美里はすでに晩ご飯にありついているらしく、半分ほど減った皿の前でスプーンを振って出迎えてくれた。来年高校生になるはずだが、いつまでたっても子供っぽく、一向に成長が見られない。新田は苦笑して「ただいま」と答え、奥にある階段を使って2階の自室に荷物を置きに行った。
部屋着に着替えて居間に下りると、新田の分のカレーともう一つ皿が出ていた。
「あれ、母さん、今日は先に食べるんだ?」
「そうなの。父さんなんだか今日は帰って来れそうにないんだって」
いつもは父と出来るだけ食事を共にしている母だが、今日はどうやら父の仕事の都合がつかなかったようだ。母は少女のように肩を竦め、食卓の椅子を引く。新田は母に習って食卓につきながら、疑問に思って首を傾げた。新田たちの父は普段は警察官として署に勤めているが、こんな辺鄙な田舎町で夜まで帰れないような事件はなかなか起きることはない。
「珍しいな。何か揉め事でもあったのか」
「うーん、そうねえ…」
母が困ったように笑う顔を見て、あまり自分たちに聴かせたくない話なのだなと新田は察してそれ以上は聞かなかった。しかし夕飯をほぼ食べ終わった妹の方はそうではなかったらしく、片手でスマホを弄りながら口を挟む。
「あれでしょ、美住のおばさんのとこの光兄ぃが帰ってきたんでしょ」
「あらやだ、美里なんで知ってるの?」
「今メッセ回って来たから」
最近の子は情報通ねえ、と呆れたように呟く母に、美里はどうせ明日になったら村中噂になってるんだからとすました顔でのたまう。
美住のおばさん、というのは新田たちの隣の区画に住む蜜柑農家のおばさんで、一人息子の光は数年前から大学に進学するとかで上京していたはずだ。細身のいかにも文学青年といった風貌の光は新田や美里にも優しく、小さい頃はよく面倒を見てもらった思い出がある。そんな彼が帰ってきて何故揉め事が起きるのか、新田は話のつながりが見えずに顔を顰めた。
「光君が帰ってきて、なんで揉め事になるんだよ」
「それがさ、なんか光兄ぃ、女の人になって帰ってきたみたいだよ。それでおじさんが怒って喧嘩になって、流血沙汰になっちゃったみたい」
美里がけろりとした顔で言う言葉に息を呑み、新田は思わず母の方を振り向いた。母は頰に手を当て、ため息をついていたが、美里の台詞を否定することはなかった。新田は数年前に最後に会ったときの光を思い浮かべようとしたが、優しげな口元と銀縁の眼鏡以外印象に残っている部分はなく、女になって父親と喧嘩をしていると言われても、全く想像がつかなかった。母はスプーンを口に運びながら、気の毒そうに言葉を紡ぐ。
「最近多いんだってねえ。L……Lなんとかって言うんでしょ。テレビでやってる」
「LGBTだよ、母さん。あれでしょ、お兄ぃのとこの転校生も女の子みたいなんでしょ」
噂好きの女子らしく、美里は今日やってきた早乙女の情報まで入手済みらしい。お喋りな妹に情報を提供するのはなんとなく癪だったが、答えるまでしつこいのだろうと思って新田はカレーを飲み込みながら曖昧に頷く。
「まあ…女よりも美人だな。でもあいつは女扱いされたくないみたいだけど」
「じゃあそっちは違うのかあ」
面白がるように言う美里に、あんまり無責任なこと言うなよ、と注意すると、下唇を突き出して抗議の表情をする。唇ひねってやろうかと思いながらその憎たらしい顔を眺めていると、兄妹のじゃれあいを眺めていた母が、にこりと笑って「あんたたちはまともでよかったわあ」と言った。
「そのLG…LGTBってやつ、一回なったら治らないんでしょ? 美住さんのところもお気の毒よねえ。一人息子だっていうのに、あんな風になっちゃったらもう駄目だもんねえ」
「LGBTだけどね、母さん」
母は空になった皿を持ち上げながら、呆れたように言う美里に、あらそうだっけ、と返事をしながらコロコロと笑う。早く食べちゃいなさいね、と言う母の言葉に無理やり作った笑顔で返事をしながら、新田は自分の指先が冷たくなっているのを感じた。さっきまで美味しかったはずのカレーが、泥のように重く、味を感じなくなぅていた。
風呂から上がって明日の宿題と予習を済ませると、時刻は日付を回っていた。一階に部屋がある母も妹も今日は早々に眠ってしまったようで、居間に降りて行っても人の気配はなく真っ暗だった。飲み物をとって二階に上がり、勉強の続きをする気にもなれずに新田はベッドに腰掛けた。ばたりと後ろに倒れ込むと、蛍光灯の光が白く目に染みた。
「疲れたな……」
新田はポツリと呟いた。脳裏には夕飯の時に母親が言っていた言葉がぐるぐると渦巻いている。
新田は頭を振ってその言葉を追い出すと、起き上がって机の引き出しを開けた。その底の方から出てきたのは、その辺のドラッグストアで買えるような、ちゃちなパッケージの口紅だった。新田はその小さな塊を手の中で何度も転がし、白いプラスチックの容器が手の熱でぬるくなってきたころ、ようやくその蓋を開けて中身を繰り出した。中から出てきたのは目が覚めるような赤い色の口紅で、新田は慣れた手つきでそれを自分の唇に塗り広げた。姿見の中にうつる自分の唇だけが真っ赤に染まっていく。
これは、新田の中で一種の儀式のようなものだった。
決して、女になりたいというわけではなかった。ただ、この赤い口紅を塗って別人のようになった自分を見ると、心がすっと軽くなるような気がした。
新田は自分がおそらくゲイであるということを、随分前から自覚していた。
LGBTのGだ。男でありながら、男が好きな性。その中でも、新田は女のように組み敷かれたいと思う側の人間だった。
小さな頃から、強くて男らしい男性が好きだった。幼い頃は小さくて可愛らしい容姿だったこともあって、無邪気に格好いいと言うことが許されたし、喜ばれることすらあった。近所の遊び相手は女の子ばかりで、それがおかしいと言われることもなかった。たがそれは、小学生になるまでのことだった。
小学校に入ってしばらくすると、新田は同級生の男子たちからオカマだといって揶揄われるようになった。ちょうど今の早乙女のような状況だった。別に女の子のように可愛らしかったわけでも、女子のように振る舞っていたわけでもなかったが、男の先生に好かれようと可愛らしく振る舞う様子や、べったりと懐いていることが「男らしくない」と認定され、異分子として弾かれてしまったのだった。当然新田は両親に泣きついたが、小さい頃はそのうち男らしくなるだろうと楽観的だった両親も、小学生になって同学年の男子と触れ合うようになっても変わらない息子に不安を覚えたのだろう、その日から父による矯正が始まった。
「泣くな、男だろう!」
一度そうと決めた父は容赦がなかった。精神を鍛えるにはまず肉体から、と剣道の心得のある父はまだ幼い新田に竹刀を持たせ、毎日稽古をつけた。手の皮が剥け、竹刀で打ち据えられても、涙を流すことも許されなかった。『男は泣いてはいけない』『女々しい言動をとってはいけない』『男の先生に甘えてはいけない』幼い新田の頭にはそう刷り込まれ、いじめられるのは自分が男らしくないからだと、そう思うようになった。
幸いにも同級生からのいじめはすぐになくなり、新田は「男らしく」いることでクラスの中心人物になっていった。もしかしたら地主でもある父が何か言ったのかもしれなかったが、もともと聡明であったこと、父に鍛えられて成長し始めた身体も影響したのだろう。新田は心に小さな違和感を覚えながらも、表面的には何事もなく小学校生活を送った。
「純! 見ろよ、すっげえエロい!」
違和感が大きくなったのは、中学に入って二次性徴を迎えた頃だった。周囲の男子がエロいと口を揃えて言う雑誌や女優を見ても、言っていることはわかるし確かにエロいなとは思うのだが、どうにもそれが性的興奮には繋がらなかった。同調して頷いてはいたが、自分はどこかおかしいのではないかと思う気持ちは拭えなかった。
当時の「男らしい」男は一日に何度もオナニーをするような精力盛んな奴のことで、男らしくないということを極端に恐れるようになっていた新田は周囲に倣ってオナニーをするようになった。性器を擦れば確かに気持ちがよかったが、ただそれだけだった。周りの言うぶっかけたいとか、挿入したいとか言う気持ちは何度オナニーをしても一向に芽生えることなく、新田は次第に自慰をすることが苦痛になっていった。そんなある日のことだった。
「俺、バイなんですよね。冬は男の方が好き」
当時たまたまつけたテレビで男芸人が臆面もなくそう言っているのを聞いて、新田は酷く驚くとともに、そういう人もいるのか、と世界が広がったような気がした。自分の性に悩んでいた新たにとって、男が好きな男がいる、ということはなんだか心が楽になるような現実だった。しかし、その時はそれ以上自分に関わりがある話だとは思っていなかった。
その日の夜、新田は初めて夢精を経験した。今までも眠っている間に下着を汚すことはあったが、皆の言うエロい夢を見たことは一度もなかった。
夢の中で新田は誰かに組み敷かれていた。優しくキスをされ、女にするように愛撫を受ける。ぼやけていた相手の顔は次第にはっきりとしていき、そのうちその顔は小学生の時に好きだった男の先生にかわっていた。その先生が新田の性器を握って擦り上げた瞬間、新田は呆気なく射精し、目を覚ました。
パンツの中はベトベトで、気持ちが悪かった。新田は布団の上で呆然と、力をなくした自分の性器を握りしめた。どうしてあの先生だったのかはわからないが、ここを彼に擦られたと思うと、また性器が疼くような気がした。そして、新田はどうしようもなく自覚したのだった。自分が男を好きなーー男であるということを。
自転車を庭にとめ、引き戸を開けると、夕飯の匂いが玄関先まで漂ってきていた。今夜はどうもカレーのようだと居間に続く扉をくぐると、母親がキッチンに立ちながらこちらを振り向いてにこりと笑う。
「あら、おかえり。純」
「おかえり、お兄ぃ」
妹の美里はすでに晩ご飯にありついているらしく、半分ほど減った皿の前でスプーンを振って出迎えてくれた。来年高校生になるはずだが、いつまでたっても子供っぽく、一向に成長が見られない。新田は苦笑して「ただいま」と答え、奥にある階段を使って2階の自室に荷物を置きに行った。
部屋着に着替えて居間に下りると、新田の分のカレーともう一つ皿が出ていた。
「あれ、母さん、今日は先に食べるんだ?」
「そうなの。父さんなんだか今日は帰って来れそうにないんだって」
いつもは父と出来るだけ食事を共にしている母だが、今日はどうやら父の仕事の都合がつかなかったようだ。母は少女のように肩を竦め、食卓の椅子を引く。新田は母に習って食卓につきながら、疑問に思って首を傾げた。新田たちの父は普段は警察官として署に勤めているが、こんな辺鄙な田舎町で夜まで帰れないような事件はなかなか起きることはない。
「珍しいな。何か揉め事でもあったのか」
「うーん、そうねえ…」
母が困ったように笑う顔を見て、あまり自分たちに聴かせたくない話なのだなと新田は察してそれ以上は聞かなかった。しかし夕飯をほぼ食べ終わった妹の方はそうではなかったらしく、片手でスマホを弄りながら口を挟む。
「あれでしょ、美住のおばさんのとこの光兄ぃが帰ってきたんでしょ」
「あらやだ、美里なんで知ってるの?」
「今メッセ回って来たから」
最近の子は情報通ねえ、と呆れたように呟く母に、美里はどうせ明日になったら村中噂になってるんだからとすました顔でのたまう。
美住のおばさん、というのは新田たちの隣の区画に住む蜜柑農家のおばさんで、一人息子の光は数年前から大学に進学するとかで上京していたはずだ。細身のいかにも文学青年といった風貌の光は新田や美里にも優しく、小さい頃はよく面倒を見てもらった思い出がある。そんな彼が帰ってきて何故揉め事が起きるのか、新田は話のつながりが見えずに顔を顰めた。
「光君が帰ってきて、なんで揉め事になるんだよ」
「それがさ、なんか光兄ぃ、女の人になって帰ってきたみたいだよ。それでおじさんが怒って喧嘩になって、流血沙汰になっちゃったみたい」
美里がけろりとした顔で言う言葉に息を呑み、新田は思わず母の方を振り向いた。母は頰に手を当て、ため息をついていたが、美里の台詞を否定することはなかった。新田は数年前に最後に会ったときの光を思い浮かべようとしたが、優しげな口元と銀縁の眼鏡以外印象に残っている部分はなく、女になって父親と喧嘩をしていると言われても、全く想像がつかなかった。母はスプーンを口に運びながら、気の毒そうに言葉を紡ぐ。
「最近多いんだってねえ。L……Lなんとかって言うんでしょ。テレビでやってる」
「LGBTだよ、母さん。あれでしょ、お兄ぃのとこの転校生も女の子みたいなんでしょ」
噂好きの女子らしく、美里は今日やってきた早乙女の情報まで入手済みらしい。お喋りな妹に情報を提供するのはなんとなく癪だったが、答えるまでしつこいのだろうと思って新田はカレーを飲み込みながら曖昧に頷く。
「まあ…女よりも美人だな。でもあいつは女扱いされたくないみたいだけど」
「じゃあそっちは違うのかあ」
面白がるように言う美里に、あんまり無責任なこと言うなよ、と注意すると、下唇を突き出して抗議の表情をする。唇ひねってやろうかと思いながらその憎たらしい顔を眺めていると、兄妹のじゃれあいを眺めていた母が、にこりと笑って「あんたたちはまともでよかったわあ」と言った。
「そのLG…LGTBってやつ、一回なったら治らないんでしょ? 美住さんのところもお気の毒よねえ。一人息子だっていうのに、あんな風になっちゃったらもう駄目だもんねえ」
「LGBTだけどね、母さん」
母は空になった皿を持ち上げながら、呆れたように言う美里に、あらそうだっけ、と返事をしながらコロコロと笑う。早く食べちゃいなさいね、と言う母の言葉に無理やり作った笑顔で返事をしながら、新田は自分の指先が冷たくなっているのを感じた。さっきまで美味しかったはずのカレーが、泥のように重く、味を感じなくなぅていた。
風呂から上がって明日の宿題と予習を済ませると、時刻は日付を回っていた。一階に部屋がある母も妹も今日は早々に眠ってしまったようで、居間に降りて行っても人の気配はなく真っ暗だった。飲み物をとって二階に上がり、勉強の続きをする気にもなれずに新田はベッドに腰掛けた。ばたりと後ろに倒れ込むと、蛍光灯の光が白く目に染みた。
「疲れたな……」
新田はポツリと呟いた。脳裏には夕飯の時に母親が言っていた言葉がぐるぐると渦巻いている。
新田は頭を振ってその言葉を追い出すと、起き上がって机の引き出しを開けた。その底の方から出てきたのは、その辺のドラッグストアで買えるような、ちゃちなパッケージの口紅だった。新田はその小さな塊を手の中で何度も転がし、白いプラスチックの容器が手の熱でぬるくなってきたころ、ようやくその蓋を開けて中身を繰り出した。中から出てきたのは目が覚めるような赤い色の口紅で、新田は慣れた手つきでそれを自分の唇に塗り広げた。姿見の中にうつる自分の唇だけが真っ赤に染まっていく。
これは、新田の中で一種の儀式のようなものだった。
決して、女になりたいというわけではなかった。ただ、この赤い口紅を塗って別人のようになった自分を見ると、心がすっと軽くなるような気がした。
新田は自分がおそらくゲイであるということを、随分前から自覚していた。
LGBTのGだ。男でありながら、男が好きな性。その中でも、新田は女のように組み敷かれたいと思う側の人間だった。
小さな頃から、強くて男らしい男性が好きだった。幼い頃は小さくて可愛らしい容姿だったこともあって、無邪気に格好いいと言うことが許されたし、喜ばれることすらあった。近所の遊び相手は女の子ばかりで、それがおかしいと言われることもなかった。たがそれは、小学生になるまでのことだった。
小学校に入ってしばらくすると、新田は同級生の男子たちからオカマだといって揶揄われるようになった。ちょうど今の早乙女のような状況だった。別に女の子のように可愛らしかったわけでも、女子のように振る舞っていたわけでもなかったが、男の先生に好かれようと可愛らしく振る舞う様子や、べったりと懐いていることが「男らしくない」と認定され、異分子として弾かれてしまったのだった。当然新田は両親に泣きついたが、小さい頃はそのうち男らしくなるだろうと楽観的だった両親も、小学生になって同学年の男子と触れ合うようになっても変わらない息子に不安を覚えたのだろう、その日から父による矯正が始まった。
「泣くな、男だろう!」
一度そうと決めた父は容赦がなかった。精神を鍛えるにはまず肉体から、と剣道の心得のある父はまだ幼い新田に竹刀を持たせ、毎日稽古をつけた。手の皮が剥け、竹刀で打ち据えられても、涙を流すことも許されなかった。『男は泣いてはいけない』『女々しい言動をとってはいけない』『男の先生に甘えてはいけない』幼い新田の頭にはそう刷り込まれ、いじめられるのは自分が男らしくないからだと、そう思うようになった。
幸いにも同級生からのいじめはすぐになくなり、新田は「男らしく」いることでクラスの中心人物になっていった。もしかしたら地主でもある父が何か言ったのかもしれなかったが、もともと聡明であったこと、父に鍛えられて成長し始めた身体も影響したのだろう。新田は心に小さな違和感を覚えながらも、表面的には何事もなく小学校生活を送った。
「純! 見ろよ、すっげえエロい!」
違和感が大きくなったのは、中学に入って二次性徴を迎えた頃だった。周囲の男子がエロいと口を揃えて言う雑誌や女優を見ても、言っていることはわかるし確かにエロいなとは思うのだが、どうにもそれが性的興奮には繋がらなかった。同調して頷いてはいたが、自分はどこかおかしいのではないかと思う気持ちは拭えなかった。
当時の「男らしい」男は一日に何度もオナニーをするような精力盛んな奴のことで、男らしくないということを極端に恐れるようになっていた新田は周囲に倣ってオナニーをするようになった。性器を擦れば確かに気持ちがよかったが、ただそれだけだった。周りの言うぶっかけたいとか、挿入したいとか言う気持ちは何度オナニーをしても一向に芽生えることなく、新田は次第に自慰をすることが苦痛になっていった。そんなある日のことだった。
「俺、バイなんですよね。冬は男の方が好き」
当時たまたまつけたテレビで男芸人が臆面もなくそう言っているのを聞いて、新田は酷く驚くとともに、そういう人もいるのか、と世界が広がったような気がした。自分の性に悩んでいた新たにとって、男が好きな男がいる、ということはなんだか心が楽になるような現実だった。しかし、その時はそれ以上自分に関わりがある話だとは思っていなかった。
その日の夜、新田は初めて夢精を経験した。今までも眠っている間に下着を汚すことはあったが、皆の言うエロい夢を見たことは一度もなかった。
夢の中で新田は誰かに組み敷かれていた。優しくキスをされ、女にするように愛撫を受ける。ぼやけていた相手の顔は次第にはっきりとしていき、そのうちその顔は小学生の時に好きだった男の先生にかわっていた。その先生が新田の性器を握って擦り上げた瞬間、新田は呆気なく射精し、目を覚ました。
パンツの中はベトベトで、気持ちが悪かった。新田は布団の上で呆然と、力をなくした自分の性器を握りしめた。どうしてあの先生だったのかはわからないが、ここを彼に擦られたと思うと、また性器が疼くような気がした。そして、新田はどうしようもなく自覚したのだった。自分が男を好きなーー男であるということを。
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