異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第1部:ゆるふわスローライフの幕開け ~元社畜、もふもふと家族に溺愛される最高の異世界生活、始めました~

第8話:銀色の訪問者あらわる!ついに来たか、俺の癒やしもふもふ枠!?

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 クライネル子爵家の末っ子、ルーク・クライネルとしての新たな(そして不本意な)人生が始まってから、数日が過ぎた。
 俺は相変わらず、『病み上がりの無気力な子供』を演じ続け、家族や使用人からの過剰なまでの世話を享受する毎日を送っている。

(この生活……悪くない……いや、むしろ最高かもしれない……)

 前世では考えられなかったほどの贅沢な無為徒食。
 何もしなくても、美味しいご飯が出てくる。
 何もしなくても、ふかふかのベッドで眠れる。
 何もしなくても、皆が優しくしてくれる。

(これが……これが俺の求めていた『ゆるふわライフ』の第一歩なのか……!?)

 もちろん、油断は禁物だ。
 いつ『クライネル家末っ子としての義務』が牙を剥くか分からない。
 だが、今のところ、その兆候は微塵も見られなかった。
 むしろ、俺が何もしなければしないほど、周囲の甘やかし度は増していくようにすら感じられる。

 そんなある日の午後。
 俺はいつものように、自室の窓辺に置かれた肘掛け椅子に深くもたれ、春の陽気に微睡んでいた。
 うとうとと船を漕いでいると、ふと、庭の方から微かな物音が聞こえたような気がした。

(ん……? 何か……いたのか……?)

 数日前にも、庭の隅で何か小さな影を見たような記憶がある。
 あの時は気のせいかと思ったが……。
 少しだけ気になり、重い瞼をこすりながら、窓の外に目を凝らした。
 手入れの行き届いた庭園には、色とりどりの花が咲き乱れ、蝶がひらひらと舞っている。
 穏やかで、平和な光景だ。

(やっぱり、気のせいか……疲れてるのかな、俺……何もしないのに……)

 そう思い、再び眠りの世界へ意識を沈めようとした、その瞬間。
 カサリ、と植え込みの葉が揺れる音がした。
 そして、そこからひょっこりと、小さな銀色の何かが顔を出した。

(なっ……!?)

 思わず息を呑む。
 それは、手のひらに乗るくらいの大きさの、ふわふわとした銀色の毛玉だった。
 ピンと立った小さな耳。大きな、濡れたような黒い瞳。
 猫のようでもあり、リスのようでもあり、あるいはもっと別の、見たこともない生き物。
 ただ一つ確かなのは、それがとんでもなく『もふもふ』で、そして、とんでもなく愛らしいということだった。

 銀色の小動物は、きょろきょろと辺りを見回した後、俺の部屋の窓が開いていることに気づいたようだった。
 そして、次の瞬間。
 とんっ、と軽い音を立てて、窓枠に飛び乗った。

(うわっ!? こっちに来るのか!?)

 俺は驚きのあまり、椅子の上で固まってしまった。
 野生動物だろうか? 狂犬病とか持ってないだろうな?
 そんな物騒な考えが頭をよぎる。

 だが、銀色の小動物――後に俺が『モル』と名付けることになるその生き物は、俺の心配などどこ吹く風とばかりに、躊躇うことなく部屋の中へと侵入してきた。
 そして、短い足でちょこちょこと床を歩き、まっすぐに俺の座る椅子の元へとやってきたのだ。

 俺は身動きもできず、ただその小さな訪問者を見つめることしかできなかった。
 その距離、わずか数十センチ。
 大きな黒い瞳が、じっと俺の顔を見上げている。
 そこには、警戒心も敵意も感じられない。
 むしろ、どこか好奇心に満ちたような、純粋な光が宿っているように見えた。

(な、なんだ……この生き物は……)

 前世でも、こんなに愛らしい生き物を間近で見たことはなかった。
 心臓が、トクン、トクン、と少しだけ速く脈打つのを感じる。
 それは、恐怖からではなかった。
 もっと別の、初めて感じる種類の、温かい何かだった。
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