異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第1部:ゆるふわスローライフの幕開け ~元社畜、もふもふと家族に溺愛される最高の異世界生活、始めました~

第7話:庭の隅の小さな銀影、まさか運命のもふもふとの出会いの予感……?

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『愛されニート』。
 それが、この異世界で俺が目指すべき新たな目標となった。
 そのためには、家族や使用人からの『可愛い末っ子ルーク(何もしなくても許される)』という認識を、より強固なものにする必要がある。

(まずは、徹底的に甘えることだな……幸い、この体はまだ七歳。子供らしさを前面に押し出せば、多少のわがままも許されるはず……)

 そうと決まれば、早速実践だ。
 朝、マリーが起こしに来てくれれば、

「まりぃ……まだ眠いよぉ……もう少しだけ……」

 と、寝ぼけた声で布団に潜り込む。
 食事の時には、母セレスティーナに、

「おかあさま、あれ、取ってくだしゃい……手が届かないの……」

 と、わざと舌足らずに強請ってみる。
 父ライオネルには、公務で疲れているところを見計らって、

「おとうさま、だっこ……」

 と、小さな両手を広げてみる。
 その結果は、驚くほど効果的だった。
 マリーは困ったように笑いながらも、俺が起きるまで辛抱強く待ってくれるし、母は満面の笑みで「はい、あーん」と食べさせてくれそうになる勢いだ(さすがにそれは全力で回避したが)。父に至っては、書類仕事もそっちのけで俺を膝に乗せ、それはもう嬉しそうに頭を撫でてくれる。

(……チョロい、いや、これは俺の演技力が高いということにしておこう)

 兄たちや姉に対しても同様だ。
 長兄アランには「難しいお勉強、お疲れ様です」と健気な弟を演じつつお菓子を強請り、次兄ベルトランには「兄様の剣、かっこいいですね!」と目を輝かせながら(内心では欠伸を噛み殺しつつ)訓練の見学を免除してもらい、姉セシルには「この本、読んでください」と甘えれば、彼女は喜んで何時間でも付き合ってくれる。

 まさに、至れり尽くせりの『甘やかされライフ』。
 この生活が永遠に続けばいいのに、と本気で思う。
 だが、心のどこかでは、これがいつまでも続くわけではないことも理解していた。
 いつかは「ルークももう七歳だから」と、何かしらの教育が始まるだろう。
 その『Xデー』を、いかにして遅らせるか、あるいは回避するかが、当面の課題だった。

 そんなある晴れた日の午後。
 俺はいつものように、自室の窓辺に置かれた肘掛け椅子に深くもたれかかり、ぼんやりと外を眺めていた。
 特に何をするでもなく、ただ時間が過ぎていくのを待つ。
 前世では考えられないほど、贅沢で、そして退屈な時間。

(今日も平和だなぁ……この平和が、一日でも長く続きますように……)

 そんなことを考えていた時だった。
 ふと、庭の隅、薔薇のアーチの向こう側で、何かがキラリと光ったような気がした。
 そして、ほんの小さな、銀色の影が、素早く植え込みの陰に隠れたのが見えた。

(……ん? 今の……何だ……?)

 気のせいだろうか。
 最近、少し視力が落ちたのかもしれない。前世では、モニターの見過ぎでドライアイと近視が酷かったからな。

 だが、もう一度そちらに目を凝らすと、やはり何かがいるような気がする。
 小さな、毛玉のような……。

(猫……? いや、にしては動きが俊敏すぎるような……リスか……?)

 このクライネル家の庭には、時折、森から小動物が迷い込んでくることがあるとマリーが言っていた。
 きっと、その類だろう。

 特に気にも留めず、再び窓の外の青空に視線を戻そうとした、その時。
 また、銀色の影が動いた。
 今度は、さっきよりも少しだけはっきりと見えた。
 それは、手のひらに乗るくらいの大きさで、ふわふわとした銀色の毛に覆われている。
 そして、大きな黒い瞳が、じっとこちらを見ているような……。

(…………)

 なぜだろう。
 その小さな存在から、目が離せない。
 別に、動物が特別好きというわけではない。前世では、ペットを飼う余裕なんて全くなかったし。
 だが、あの銀色の毛玉には、何か不思議と心を惹かれるものがあった。

 ほんの少しだけ。
 ほんの少しだけだが、俺の心が、退屈という名の沼から、ほんの僅かに浮上したような気がした。
 それは、やがて訪れる運命の出会いの、ほんの小さな、小さな予兆だったのかもしれない。
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