異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第1部:ゆるふわスローライフの幕開け ~元社畜、もふもふと家族に溺愛される最高の異世界生活、始めました~

第13話:お兄様たちの『お仕事』、遠巻きに応援するだけの楽なニート業務です

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 美味しい朝食を終え、マリーに手伝ってもらって食後の歯磨き(もちろん自分ではやらない)まで済ませると、俺の午前中の『お仕事』は、ほぼ終了と言っても過言ではない。
 あとは、いかにしてこの後の時間を『何もしない』でやり過ごすか、だ。

 幸い、このクライネル家には、俺の代わりに(というか、本来なら俺も関わるべきなのだろうが)色々と『やってくれる』人たちがいる。
 その筆頭が、俺の優秀な兄たちだ。

 長兄のアランは、確か今年で二十歳をいくつか越えたくらいだったか。
 すでに父ライオネルの補佐として、領地の政務に深く関わっている。
 その姿は、まさに次期当主としての風格を漂わせており、真面目で、勤勉で、そして何より優秀だ。
 前世の俺が勤めていた会社の、無能な上司たちとは月とすっぽんである。

 食後、アラン兄様はいつも書斎にこもって、山のような書類と格闘している。
 俺はモルを抱っこして、そーっと書斎のドアを開けて中を覗いてみた。

「あらん兄様、おしごと、がんばってましゅかー?」

 もちろん、わざと舌足らずな感じで。
 アラン兄様は、難しい顔で羊皮紙の束に目を通していたが、俺の声に気づくと、ぱっと顔を上げた。
 そして、その表情が、みるみるうちにデレデレと崩れていく。

「おお、ルークか!よく来たな。兄様は今、ちょっと難しいお仕事をしていてね。頭が痛いんだ」

 そう言って、わざとらしくこめかみを押さえるアラン兄様。
 その姿は、どこからどう見ても「ルークに構ってほしい」オーラ全開である。

(はいはい、癒やしタイムですね、分かります)

 俺は心得たように、モルを抱いたままアラン兄様のそばへ行き、大きな執務机の前にちょこんと立つ。

「兄様、たいへん? モル、なでなで、どうぞ?」

 そう言ってモルを差し出すと、アラン兄様は「おお、そうかそうか」と嬉しそうにモルの頭を優しく撫で始めた。
 モルも気持ちよさそうに目を細めている。

「ははは、モルは本当に可愛いな。ルークも、ここに座るといい」

 そう言って、アラン兄様は俺を自分の膝の上に乗せた。
 そして、モルを撫でるついでに俺の頭もわしゃわしゃと撫でてくる。

(……お、重い……けど、まあ、これも『愛されニート』の仕事のうちか……)

 しばらくの間、俺はアラン兄様の膝の上で、彼が書類仕事をするのをぼんやりと眺めていた。
 羊皮紙に書かれた文字は、この世界の独特なもので、俺には全く読めない。
 だが、その内容が非常に複雑で面倒なものであることだけは、アラン兄様の時折漏らすため息から察することができた。

(やっぱり、働くって大変なんだなぁ……俺には絶対無理だ……)

 改めてそう思う。
 結局、一時間ほどアラン兄様の『癒やし役』を務めた後(もちろん、その間にちゃっかりお菓子もゲットした)、俺は書斎を後にした。

 次に向かったのは、中庭だ。
 そこでは、次兄のベルトランが、いつものように汗だくで剣の訓練に励んでいた。
 ベルトラン兄様は、確か十七、八歳くらいだったか。
 クライネル家の騎士団(というより、領内の警備隊に近いが)に所属しており、その剣の腕はなかなかのものらしい。
 引き締まった筋肉、鋭い眼光。まさに『戦う男』という感じだ。

 俺は、モルと一緒に木陰のベンチに腰掛け、その様子を遠巻きに眺める。

「ベルトラン兄様ー!がんばえー!」

 一応、応援の声をかけてみる。
 すると、木剣を振るっていたベルトラン兄様は、俺の姿に気づくと、途端にハッスルし始めた。

「おお、ルーク!見てろよ!この俺の必殺剣を!」

 そう叫ぶと、今まで以上に力強い踏み込みで木剣を振るい、模擬戦の相手をしていた兵士をあっという間に打ち倒してしまった。
 そして、得意満面でこちらに駆け寄ってくる。

「どうだ、ルーク!今の兄様の剣、すごかっただろう!」

 キラキラした目で同意を求めてくるベルトラン兄様。
 その額には玉のような汗が光っている。

(うーん……正直、よく分からなかったけど……とりあえず褒めておくか……)

「しゅごかったです!兄様、とってもかっこよかった!」

 俺がそう言うと、ベルトラン兄様は「だろー!」とさらに嬉しそうに笑い、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「よし、ルークも大きくなったら、兄様がみっちり鍛えてやるからな!一緒に最強の騎士を目指そうぜ!」

(……全力でお断りします)

 もちろん、そんな本音はおくびにも出さず、俺は「はいっ!」と元気よく返事をしておいた。
 その後、ベルトラン兄様から訓練のご褒美だと言って、甘い果物をもらい、モルと一緒に美味しくいただいた。

 こうして、俺の午前中は、兄たちの『癒やし役』兼『応援団長(自称)』として、平和に(そして楽に)過ぎていくのだった。
 働くのは兄たちに任せておけばいい。
 俺は、この安全な場所から、彼らの活躍を(ぼんやりと)見守っているだけでいいのだ。
 ああ、なんて素晴らしい分業体制だろうか。
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