異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第1部:ゆるふわスローライフの幕開け ~元社畜、もふもふと家族に溺愛される最高の異世界生活、始めました~

第14話:姉様との秘密のお茶会。夢は薬草研究家!僕は……お昼寝です!

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 午前中、二人の兄様たちの『お仕事』ぶりを(安全な場所から)見届けた俺は、昼食までの間、姉のセシルと一緒に過ごすことになっていた。
 クライネル家の末っ子である俺にとって、姉のセシルは、母セレスティーナとはまた違った意味で、心を許せる優しい存在だ。
 彼女は確か、十代半ばくらいだったか。
 亜麻色の美しい髪を揺らし、いつも穏やかな笑みを浮かべている、まさにお姫様のような人だ。

「ルークちゃん、今日は中庭のガゼボでお茶にしましょうか。お天気も良いし、きっと気持ちが良いわよ」

 そう言って、セシル姉様は俺の手を優しく引いた。
 モルも、嬉しそうに俺たちの後をついてくる。

 中庭の一角にある白いガゼボには、すでにテーブルと椅子が用意され、メイドのマリーが可愛らしいティーセットの準備を整えてくれていた。
 テーブルの上には、色とりどりの花が飾られ、焼き菓子の甘い香りが漂っている。

(うーん、完璧なセッティング……これが貴族の日常か……前世では考えられなかったな……)

 俺は、セシル姉様に促されるまま椅子に座ると、早速目の前に置かれたクッキーに手を伸ばした。

「ルークちゃん、まずは手を綺麗にしないと」

 セシル姉様に優しく窘められ、慌ててマリーが差し出してくれた濡れタオルで手を拭く。
 危ない危ない、末っ子パワーに甘えすぎて、基本的な作法を忘れるところだった。

 お茶の準備が整うと、マリーは静かに下がっていった。
 ガゼボの中は、俺とセシル姉様、そして足元で丸くなるモルだけの、穏やかな空間となる。

「はい、ルークちゃん。これはね、昨日厨房でマーサ(メイド長)と一緒に焼いた、蜂蜜と木の実のクッキーよ。ルークちゃんが好きだって言っていたから」

 そう言って、セシル姉様はにっこりと微笑んでクッキーを勧めてくれた。
 その笑顔は、春の日差しのように温かい。

(姉様、天使か……? いや、天使だな、うん)

 俺はありがたくクッキーをいただき、サクサクとした食感と優しい甘さを堪能する。
 モルにも少しだけおすそ分けすると、嬉しそうに小さな歯で齧っている。

 しばらくの間、俺たちは他愛もない話をしながら、お茶とお菓子を楽しんだ。
 セシル姉様は、最近読んだ面白い本のあらすじを話してくれたり、庭で見つけた珍しい色の花のことを教えてくれたりする。
 俺は、その話に時折相槌を打ちながら(ほとんどは「へー」「すごーい」だが)、ひたすらお菓子を食べるのに集中していた。

 ふと、セシル姉様が、遠くを見つめるような、少しだけ夢見るような表情になった。

「ねえ、ルークちゃん」

「なぁに? 姉様?」

「わたくしね、将来の夢があるの」

 そう言って、彼女は少し照れたように頬を染めた。

「わたくし、お花と薬草の研究がしたいの。このアスターテ領には、まだ知られていない薬効のある植物がたくさんあると思うのよ。それを見つけて、病気で苦しんでいる人たちを助けられるようになりたいわ」

 セシル姉様の瞳は、キラキラと輝いていた。
 それは、自分のやりたいことを見つけた人間の、力強い輝きだ。

(すごいな、姉様は……ちゃんと自分の夢を持ってるんだ……)

 前世の俺には、そんなものはなかった。
 ただ、毎日を生きるので精一杯で、将来のことなど考える余裕もなかったからだ。

「ルークちゃんは、何になりたい?」

 不意に、セシル姉様が俺に問いかけてきた。
 俺は、口の中に残っていたクッキーをこくりと飲み込み、少しだけ考えるふりをする。
 そして、にっこりと満面の笑みを浮かべて答えた。

「ぼくはねぇ……モルと、毎日お昼寝して、美味しいおやつをいーっぱい食べて……ずーっと、のんびり暮らしたいなぁ……」

 それが、俺の偽らざる本心であり、揺るぎない目標だ。
 セシル姉様は、俺の答えを聞いて、一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにふふっと優しく笑った。

「ふふっ、ルークちゃんらしいわね。それも、とっても素敵な夢よ」

 そう言って、彼女は俺の頭を優しく撫でてくれた。
 その手つきは、俺のふざけた(いや、本気の)夢を、馬鹿にすることなく、温かく包み込んでくれるようだった。

(姉様……やっぱり天使だ……)

 俺は、セシル姉様の優しさに満たされながら、心の中で改めて誓う。
 姉様の夢も応援したいけど、まずは自分の『何もしない夢』を全力で叶えるのだ、と。
 そのためなら、この天使のような姉様の優しさだって、最大限に利用させてもらう所存である。
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