異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第2部:ゆるふわスローライフに新たな風? ~噂の真相と小さな来訪者たち~

第33話:風邪っぴきの季節と森の恵み。魔法薬草茶で領内の病が即治癒!?僕、また何かやっちゃいました?

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 学者先生ことエリオットさんが、我がクライネル邸に滞在するようになってから、数週間が過ぎた。
 彼は毎日、熱心に領内の植物を観察したり、古い文献を読み漁ったりしているようだが、俺にとっては「ちょっと物知りで、モルのことをやけにキラキラした目で見てくるお兄さん」くらいの認識だ。
 時々、難しい顔でぶつぶつと独り言を言っているのを見かけるが、まあ、学者さんとはそういうものなのだろう、と勝手に納得している。

 そんなある日。アスターテ領にも、季節の変わり目特有の、ちょっと厄介なお客さんがやってきた。
 それは、『風邪』だ。
 最初に症状が出たのは、領都の子供たちだった。
 咳や鼻水、微熱といった、よくある風邪の症状だが、子供から子供へとあっという間に広がり、数日のうちには屋敷で働く若い使用人たちの中にも、体調を崩す者が出始めていた。

「困ったわね……この時期の風邪は長引くことが多いのよ」

 母セレスティーナが、心配そうに眉をひそめる。
 幸い、重症化する者はいないようだが、屋敷全体の活気が少しだけ失われているのは確かだった。
 もちろん、俺はと言えば、モルと一緒に部屋でぬくぬくと過ごし、マリーやマーサから「坊ちゃまは絶対に風邪などひいてはいけませんからね!」と、いつも以上に手厚い(過剰な)保護を受けていたので、ピンピンしていたのだが。

「ルークちゃん、少しだけ、お姉ちゃんのお手伝いをしてくれないかしら?」

 そんなある日の午後、姉のセシルが俺の部屋を訪ねてきた。
 彼女の手には、小さな籠が提げられている。

「お手伝い? 僕にできることなら、いいよ」

 俺は、内心(面倒くさいのは嫌だな……)と思いつつも、天使のような姉の頼みを無下にはできない。

「ありがとう、ルークちゃん。実はね、森に薬草を摘みに行きたいの。この時期の風邪に効くと言われている『月見草(つきみそう)』というハーブがあるのだけど、一人で行くのは少し心細くて……」

 セシル姉様は、少し不安そうな顔で俺を見る。
 確かに、いくら平和なアスターテ領とはいえ、若い女性が一人で森に入るのは不用心かもしれない。
 それに、『薬草摘み』と聞けば、なんだかちょっとした冒険みたいで、ほんの少しだけ楽しそうだ(もちろん、実際に大変なのは姉様で、俺はついて行くだけだが)。

「うん、いいよ! 僕も行く! モルも一緒でいい?」

「ええ、もちろんよ。モルちゃんも一緒なら心強いわ」

 こうして、俺とモル、そしてセシル姉様の三人(と一匹)は、小さな薬草探しの冒険へと出発することになった。
 もちろん、護衛として次兄ベルトラン(今日は非番らしい)も、なぜか「俺も行く!」と張り切ってついてきたのだが、それはまた別の話だ。

 春の森は、生命力に満ち溢れていた。
 木々の間からは柔らかな日差しが差し込み、足元には色とりどりの小さな花が咲いている。
 小鳥のさえずりや、小川のせせらぎが、心地よいBGMのように聞こえてくる。

「『月見草』はね、少し湿った日陰に咲いていることが多いのよ。黄色くて、丸い花びらが特徴なの」

 セシル姉様は、薬草図鑑(もちろん彼女の手作りだ)を片手に、俺に説明してくれる。
 俺は「へえー」と適当な相槌を打ちながら、もっぱらモルと一緒に蝶々を追いかけたり、面白い形の木の根っこを見つけて遊んだりしていた。
 薬草探しは、完全に姉様と兄様(なぜか薬草にも詳しい)に任せっきりである。

 しばらく森の中を歩き回った後、セシル姉様が嬉しそうな声を上げた。

「あったわ!見て、ルークちゃん!これが『月見草』よ!」

 彼女が指さす先には、確かに、図鑑で見たのと同じ、可愛らしい黄色の花が群生していた。
 セシル姉様は、慣れた手つきで丁寧に薬草を摘み、籠に入れていく。
 俺も、その隣で何となく手伝うふりをして、数本だけ摘んでみた。

(うーん……普通の草と、あんまり変わらないような……でも、これが風邪に効くのか……)

 俺は、手に持った『月見草』をじっと見つめる。
 そして、ふと、いつもの『アレ』を試してみたくなった。

(この薬草が、もっともっと風邪に効くようになって……飲んだ人が、すぐに元気になれるように……なーれっ!)

 心の中で強く念じると、指先がジン、と微かに熱を帯びた。
 手の中の『月見草』が、ほんの一瞬だけ、淡い黄金色の光を放ったような気がしたが……きっと気のせいだろう。

 俺は、その『魔法』のかかった(かもしれない)薬草を、何食わぬ顔でセシル姉様の籠に入れた。
 姉様は、俺が集めた(というより、俺が持っていた)薬草を見て、

「まあ、ルークちゃんもたくさん見つけてくれたのね。ありがとう。これで、きっと皆元気になれるわ」

 と、優しく微笑んでくれた。
 その笑顔が、なんだかとても眩しかった。
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