異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

文字の大きさ
32 / 87
第2部:ゆるふわスローライフに新たな風? ~噂の真相と小さな来訪者たち~

第32話:エリオットの観察記録!少年ルーク、規格外すぎてもはや理解不能です!心の叫び

しおりを挟む
 あの日、ルーク少年の淹れてくれた衝撃的なハーブティーを味わって以来、エリオット・アシュフォードの研究者魂は、かつてないほどに燃え上がっていた。
 彼はクライネル子爵家の許可を得て、数日間屋敷に滞在し、アスターテ領の『謎』、特にルーク少年とその傍らに常にいる銀色の小動物モルの観察に没頭することにしたのだ。
 もちろん、ルーク本人や家族に怪しまれないよう、あくまで「領内の自然や文化に興味がある、王都からの学者」という体裁を保ちながら。

 エリオットは、毎日詳細な観察記録を羊皮紙のノートに綴りつけていた。

 **【アスターテ滞在記録:三日目】**
 午前、ルーク少年とモルは中庭にて日向ぼっこ。少年が何気なく触れた薔薇の蕾が、翌日には周囲のどの花よりも大きく、そして色鮮やかに開花していたのを確認。偶然の一致か、それとも……。
 モルは、少年の膝の上で常に満足げに喉を鳴らしている。その鳴き声には、微弱ながら周囲の魔力を安定させる効果があるように感じられる。要継続観察。

 **【アスターテ滞在記録:四日目】**
 午後、ルーク少年が厨房でメイドと共に焼き菓子を作っているのを目撃(メイド長マーサ氏に依頼し、遠巻きに観察許可を得る)。少年が生地に触れ、「美味しくなーれ」と呟いた瞬間、生地全体が淡い光を放ったように見えた。焼きあがったクッキーを一片試食させてもらったが、その風味、食感、そして食べた後の多幸感は、やはり尋常ではない。これは間違いなく、何らかの『祝福』あるいは『付与魔法』の一種だ。しかし、少年自身にその自覚は一切ない模様。

(ありえない……!これほどの高度な魔法を、何の詠唱も魔法陣も、ましてや触媒すら用いずに、ただ『念じる』だけで発動させるなど……!アカデミーのどの文献にも、そんな事例は載っていなかったぞ……!)

 エリオットは、ノートにそう書き殴りながら、頭を抱えたくなった。
 彼の魔法学の常識は、このアスターテの地に来てから、ことごとく覆されつつあった。

 **【アスターテ滞在記録:五日目】**
 ルーク少年が、庭で小鳥たちにパン屑を与えている場面に遭遇。驚くべきことに、普段は警戒心の強い野鳥たちが、少年の手から直接パン屑をついばみ、さらには彼の肩や頭の上にまで止まっている。まるで、彼が森の王か何かであるかのような光景だ。
 モルは、その様子を少しだけやきもちを妬いたような顔で見上げているのが微笑ましい。
 この少年は、動物を魅了する特殊な『オーラ』でも放っているのだろうか……?『妖精王の血筋』か、あるいは『ドルイドの転生者』か……?

(私の推測は、ますます荒唐無稽な方向へと進んでいる……だが、目の前の現実が、それを肯定しているようにしか思えないのだ……!このルークという少年は、一体何者なんだ!?そして、あの銀色のモルという生き物は、彼の『使い魔』か、それとも『守護獣』の類なのか……!?)

 エリオットは、知的好奇心と混乱とが入り混じった複雑な感情を抱えながら、観察を続けた。
 だが、いくら観察しても、ルーク少年自身は、どこからどう見てもただの無邪気で甘えん坊な末っ子の貴族の子息にしか見えない。
 彼が何か特別な修行を積んでいる様子もないし、難しい魔導書を読んでいるわけでもない。
 ただ、毎日モルと遊び、美味しいものを食べ、昼寝をし、家族に甘えているだけだ。

(この『何もしない』生活の中に、何か秘密が隠されているというのか……? いや、まさか……)

 だが、ルークが関わることで、彼の周囲の環境が確実に良い方向へと変化しているのは事実だった。
 屋敷の空気は常に清浄で、植物は生き生きと育ち、食べ物は驚くほど美味しくなる。
 それはまるで、彼自身が『歩くパワースポット』か『幸運の招き猫』であるかのようだ。

 クライネル家の人々も、そんなルークの『特異性』には、ほとんど気づいていないようだった。
 彼らにとっては、ルークはただただ可愛い末っ子であり、彼がもたらす小さな奇跡は、「ルークは昔から不思議と運の良い子だったから」「ルークがそばにいると何だか良いことがある気がする」といった程度の、微笑ましい日常の一部として受け入れられている。
 その鉄壁の『日常』と『愛情』の前に、エリオットの鋭い観察眼も、なかなか核心に迫ることができないでいた。

(この家族の『ルーク坊ちゃま可愛いフィルター』は、ある意味最強の結界かもしれない……)

 エリオットは、ため息をつきながら、そうノートに書き加えた。
 アスターテ領の謎は、思っていた以上に深く、そして温かいヴェールに包まれているらしかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

処理中です...