異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第2部:ゆるふわスローライフに新たな風? ~噂の真相と小さな来訪者たち~

第41話:エリオットの旅立ちと小さな約束。『幸せに過ごしてね』は僕への最高の応援歌!

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 学者先生ことエリオット・アシュフォードさんが、いよいよ王都へ帰る日がやってきた。
 彼は、数日かけて旅の準備を整え、今日、クライネル家の皆に別れの挨拶をするために、父ライオネルの執務室を訪れていた。
 俺も、なぜか「ルークも同席しなさい」と父に呼ばれ、モルと一緒に部屋の隅っこでその様子を見守っている。

(なんで僕まで……まあ、エリオットお兄さんとは結構遊んでもらったし、お別れの挨拶くらいはいいけど……)

 エリオットさんは、父と長兄アランに対し、今回の滞在中の感謝の言葉を丁寧に述べていた。

「この度は、長期間にわたり大変お世話になりました。クライネル子爵様、並びにアラン様のご厚意により、私の研究も大いに進展いたしましたこと、心より感謝申し上げます」

 その言葉に、父は鷹揚に頷く。

「いやいや、アシュフォード殿のような若い才能ある方が、我が領地に興味を持ってくださったことこそ、我々の誉れです。何か一つでも、お役に立てたのであれば幸いですな」

「ええ、もちろんですとも。特に……」

 そこで、エリオットさんは言葉を区切り、ちらりと俺の方を見た。
 その瞳には、どこか慈しむような、それでいて真剣な光が宿っている。

「特に、末のルーク様……そして、モル殿との出会いは、私にとって何物にも代えがたい、貴重な経験となりました」

 突然名前を呼ばれて、俺は少しだけ驚く。
 モルも、自分の名前が呼ばれたのが分かったのか、「きゅい?」と小さく鳴いた。

 エリオットさんは、ゆっくりと俺の方へ歩み寄ると、俺の目の前で片膝をついた。
 そして、俺の小さな手を両手で包み込むように握り、真摯な眼差しで言った。

「ルーク様。あなたは、ご自身では気づいておられないかもしれませんが、本当に素晴らしい、そして類稀な『力』をお持ちです。それは、人々を癒やし、周囲に幸福をもたらす、まさに『祝福』と呼ぶにふさわしい力です」

(え……? 祝福……? 僕の……力が……?)

 エリオットさんの言葉の意味が、すぐには理解できない。
 俺の力といえば、せいぜいお菓子を美味しくしたり、寝床をふかふかにしたりする程度の、地味でささやかなもののはずだ。
 それが、祝福……?

「どうか、その純粋で温かい心を、これからも大切に持ち続けてください。そして、このアスターテの地で、モル殿と共に、あなたらしく、健やかに、幸せに過ごしてください。それが、この土地にとって、そしておそらくは……世界にとっても、かけがえのない宝となるでしょう」

 彼の言葉は、どこまでも真剣で、そして熱がこもっていた。
 父も兄も、その言葉を静かに聞き入っている。

「……うん、わかったよ、エリオットお兄さん」

 俺は、まだよく分からないながらも、こくりと頷いた。
 なんだか、すごく褒められているような気がする。悪い気はしない。

 エリオットさんは、満足そうに微笑むと、今度はモルに向き直った。

「モル殿。あなたとの出会いもまた、私にとって大きな驚きと喜びでした。どうか、これからもルーク様の良き相棒として、彼をお守りください」

 そう言って、モルの頭を優しく撫でる。
 モルも、エリオットさんにはすっかり懐いているようで、気持ちよさそうに目を細めていた。

 やがて、別れの時が来た。
 エリオットさんは、屋敷の玄関で、改めてクライネル家全員に感謝の言葉を述べ、旅立ちの馬車に乗り込もうとした。
 その時、俺はふと、あることを思い出した。

「あ! エリオットお兄さん、これ!」

 俺は、懐から小さな布包みを取り出し、エリオットさんに差し出した。
 中には、昨日俺がマーサと一緒に作った(という名の、俺が『魔法』で風味を最大限に引き出した)ハーブクッキーが数枚入っている。

「旅の途中で、お腹が空いたら食べてね。これ、僕のとくせいなんだ!」

 エリオットさんは、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに破顔一笑した。

「……ありがとうございます、ルーク様。これは……何よりの餞別です。大切にいただきます」

 彼は、そのクッキーを宝物のように受け取ると、馬車の中へと消えていった。
 そして、馬車はゆっくりと動き出し、王都へと続く道を進んでいく。
 俺は、モルと一緒に、その小さな後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。

 エリオットお兄さん。
 なんだか不思議な人だったけど、悪い人じゃなかったな。
 またいつか、会える日が来るといいな。
 俺は、そんなことを思いながら、彼が残してくれた「幸せに過ごしてください」という言葉を、もう一度心の中で繰り返すのだった。
 それは、まるで小さな約束のように、俺の胸に温かく響いていた。
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