異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第2部:ゆるふわスローライフに新たな風? ~噂の真相と小さな来訪者たち~

第42話:寂しがり屋のモルと僕の癒やし魔法。大丈夫、僕がずっとそばにいるよ

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 エリオットさんがアスターテ領を旅立ってから、数日が過ぎた。
 屋敷は、またいつもの穏やかで平和な日常を取り戻していた。
 俺も、相変わらずモルとのんびり過ごし、『お昼寝道』と『モル観察日記』に勤しむ毎日だ。

(ふぅ……やっぱり、お客さんがいない方が気楽でいいな……エリオットお兄さんは優しかったけど、なんだかずっと観察されてるみたいで、ちょっとだけ落ち着かなかったし……)

 そんなことを考えながら、俺は庭のカシワの木の下で、モルと一緒に日向ぼっこをしていた。
 春の陽射しは暖かく、そよ風が心地よい。
 絶好のお昼寝日和だ。

 だが、ふと隣を見ると、モルの様子がいつもと少し違うことに気づいた。
 普段なら、こんな日は真っ先に俺の膝の上で丸くなって寝息を立てているはずなのに、今日はどこか元気がないように見えるのだ。
 時折、ため息のような小さな息を吐き、遠くの空をぼんやりと眺めている。
 その姿は、なんだかとても寂しそうだ。

「どうしたの、モル? 元気ないね。お腹でも空いた?」

 俺がそう声をかけて頭を撫でると、モルは力なく「きゅぅ……」と鳴いただけで、俺の手に頭をすり寄せてくる。
 その仕草は甘えているようでもあり、何かを慰めてほしいと訴えているようでもあった。

(もしかして……エリオットお兄さんがいなくなって、寂しいのかな……?)

 そういえば、エリオットさんが滞在していた間、モルは結構彼に懐いていた。
 エリオットさんが持っていた珍しい道具に興味を示したり、彼がくれるお菓子(もちろん俺が鑑定済みだ)を喜んで食べたりしていたし、時には彼の足元で丸くなって一緒に日向ぼっこをしていることもあった。
 俺にとっては「ちょっと変わったお客さん」程度の認識だったが、モルにとっては、短い間だったけれど、大切な遊び相手の一人だったのかもしれない。

(そっか……モルも、寂しいんだな……)

 そう思うと、なんだか胸がチクリと痛んだ。
 俺は、モルをそっと抱き上げ、膝の上に乗せる。
 小さな体は、いつもより少しだけ元気がないように感じられる。

「大丈夫だよ、モル。僕がずっと一緒にいるからね。寂しくないよ」

 俺は、そう言ってモルの背中を優しく撫でてやった。
 そして、心の中で、いつもの『アレ』を試してみることにした。

(モルが、元気になりますように……寂しい気持ちが、どこかへ飛んでいって、心がぽかぽか温かくなりますように……そして、とびっきり美味しいおやつの夢が見られますように……なーれっ!)

 指先が、じんわりと温かくなる。
 俺の『生活魔法:至福の日常』。
 それは、食べ物を美味しくしたり、寝床を快適にしたりするだけでなく、もしかしたら、こういう『心の癒やし』にも効果があるのかもしれない。
 エリオットさんも言っていた。「人々を癒やし、周囲に幸福をもたらす力」だと。

 俺は、その温かい力を、そっとモルに注ぎ込むようなイメージで、優しく撫で続けた。
 すると、どうだろう。
 膝の上のモルが、ふぅーっと大きなため息をついたかと思うと、先程までのしょんぼりとした表情が嘘のように和らぎ、すやすやと気持ちよさそうな寝息を立て始めたのだ。
 その寝顔は、いつものように満足げで、幸せそうで、見ているこちらまで嬉しくなってくる。

(よかった……元気になったみたいだ……)

 俺は、ほっと胸を撫で下ろす。
 どうやら、俺の『癒やしの魔法』は、ちゃんとモルにも届いたらしい。
 もちろん、これが本当に魔法の力なのか、それともただ俺が撫でてあげたから安心しただけなのかは分からない。
 でも、そんなことはどうでもいい。
 モルが元気になってくれれば、それで十分だ。

 俺は、幸せそうに眠るモルの寝顔を見ながら、そっとその小さな頭にキスをした。
 この温かくて、もふもふで、そしてちょっぴり寂しがり屋な相棒がいる限り、俺の『ゆるふわニートライフ』は、きっとこれからも楽しく続いていくのだろう。

 エリオットさんが残してくれた言葉を思い出す。

「あなたらしく、モル殿と共に、幸せにお過ごしください」

 うん、そうしよう。
 それが、俺にできる一番のことなのかもしれない。
 そして、それが、この世界の誰かを、ほんの少しだけ幸せにできるのなら、こんなに素晴らしいことはないだろう。
 たとえ、俺自身はそのことに全く気づいていなくても。
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