異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~

第48話:『辺境の奇跡』を追って…王都からの密命調査団、アスターテへ潜入!?

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 王都の一角、歴史と権威を誇る『王立魔法アカデミー』の、とある一室。
 若き魔法研究者、アルフレッド・シュトラウスは、数日前に上層部から回覧された一枚の報告書を前に、興奮を隠しきれずにいた。

「アスターテ領……辺境の子爵領に、既存の魔法体系では説明不可能な『祝福』とも呼べる現象が頻発? しかも、その中心には『特異な力を持つ子供』と『幻の聖獣の可能性を秘めた生物』が存在するだと……?」

(これは……私の研究者人生を賭けるに値する、世紀の大発見かもしれない!)

 報告書を提出したのは、少し先輩にあたるエリオット・アシュフォード。
 温厚だが優秀な研究者として知られる彼が、これほど熱っぽく、そしてどこか秘匿するようなニュアンスで語るからには、ただの噂話ではあるまい。

 アルフレッドの隣では、彼の幼馴染であり、有力侯爵家の三男でもあるレオナルド・フォン・ヴァイスが、優雅に足を組みながら退屈そうに報告書に目を通していた。

「ふん、辺境の田舎話か。どうせ大げさに言っているだけだろう。それよりアルフ、今度新しく開くカジノの方がよほど興味深いぞ?」

「レオ、君はいつもそうだ! これは学術的に極めて重要な発見になるかもしれないんだぞ! もし、この報告が真実なら……我々が最初にその『奇跡』を解明すれば、アカデミーでの評価はうなぎ登り、ヴァイス侯爵家も君のことを見直すかもしれないじゃないか!」

 アルフレッドの言葉に、レオナルドはピクリと眉を動かした。
 家の評価、という言葉は、自由奔放に生きる彼にとっても、多少なりとも無視できないものだった。

「……まあ、暇つぶしにはなるかもしれんな。で、その『アスターテ領』とやらに、お前は行くつもりなのか? 上層部はあまり事を荒立てるなと言っていたようだが」

「無論だ! これは『非公式』の視察だ。純粋な学術的探求心に基づく調査だよ。君も来るだろう? 珍しいものが見られるかもしれないぞ?」

 アルフレッドの熱意に押され、そしてほんの少しの功名心と好奇心に駆られ、レオナルドはため息まじりながらも頷いた。
 こうして、若き研究者アルフレッドと、お坊ちゃま貴族レオナルド(おまけにお供の騎士一人)からなる、自称『アスターテ領特異現象調査団』は、密かに王都を発つのだった。

 数日後。
 彼らは、なるべく目立たないようにと、質素な旅装(のつもりだが、どこか育ちの良さが滲み出ている)に身を包み、ついにアスターテ領の境界へと足を踏み入れた。

「……ここが、アスターテ領か。確かに、空気が王都とは比べ物にならないほど清浄だな」

 レオナルドが、馬上で周囲を見渡しながら呟く。

「ああ、それに、見てみろレオ! 道端の草花の色が、異常なまでに鮮やかだ。まるで、常に良質なマナに満たされているかのようだ……!」

 アルフレッドは、早速携帯用の魔力測定器を取り出し、数値を記録し始める。
 その数値は、彼がこれまでに測定したどの土地よりも高い親和性を示していた。

 領都アスターテに到着すると、その驚きはさらに大きくなった。
 市場は辺境の小領とは思えないほどの活気に満ち、並べられた野菜や果物はどれも瑞々しく、信じられないほどの大きさと色艶を誇っていた。

「な……なんだこれは……!? どの作物も、まるで王宮献上品レベルじゃないか……! これが辺境の、しかも特に産業もないと聞いていた子爵領の産物だというのか!?」

 アルフレッドは、目を丸くして露店に並ぶ巨大なリンゴや、宝石のように輝くブドウを見つめる。

「ふむ、確かに噂通りの豊かさではあるな。だが、これが『子供の力』によるものだとは、にわかには信じがたいが」

 レオナルドも、表面上は冷静を装いつつ、内心ではこの異常なまでの豊穣ぶりに舌を巻いていた。
 彼らはひとまず、クライネル子爵家への面会の取り付けを試みることにした。
 表向きの理由は「王都アカデミーからの学術調査の一環として、辺境地域の植生と生活環境についてお話を伺いたい」という、当たり障りのないものだ。

 一方、クライネル子爵邸では。
 当主ライオネルと、その長男アランが、届けられた面会申し入れの書状に目を通していた。

「……王都アカデミーの研究者、アルフレッド・シュトラウス殿と、ヴァイス侯爵家のご子息、レオナルド・フォン・ヴァイス様、か。またしても、エリオット様の報告の影響ですかな、父上」

 アランが、やや警戒の色を滲ませながら言う。

「うむ、そうであろうな。エリオット殿は誠実な方だが、彼の報告は良くも悪くも影響力が大きすぎたようだ。しかし、無下に断るわけにもいくまい」

 ライオネルは穏やかな表情を崩さなかったが、その瞳の奥には確固たる意志が宿っていた。

(どこの誰かは知らぬが、我が家の『天使』ルークの穏やかな日常を脅かすような真似は、決してさせんぞ……!)

 クライネル家の鉄壁ガードが、静かに、しかし確実に発動し始めようとしていた。
 王都からの『密命調査団』の、波乱に満ちた(主に彼らにとって)アスターテ領視察の幕が、今、静かに上がろうとしていた。
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