異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

文字の大きさ
54 / 87
第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~

第54話:メインディッシュは『奇跡の味』!? 誕生パーティーで無自覚チートが大盤振る舞い! 料理も酒も超絶進化で一同昇天!

しおりを挟む
 庭での『祝福大フィーバー』から数時間後。
 陽も傾き始めた頃、クライネル邸の食堂では、僕の八歳の誕生日を祝う盛大なパーティーが始まろうとしていた。
 大きなテーブルには、メイド長マーサさん率いる厨房スタッフが腕によりをかけて作った、目にも鮮やかな料理の数々が並べられている。
 ローストされた若鶏は黄金色に輝き、皮がパリパリと音を立てそうなほど香ばしい匂いを漂わせている。色とりどりの野菜を使ったサラダは、まるで宝石箱のようにキラキラと輝き、新鮮なハーブの爽やかな香りが食欲をそそる。焼きたてのパンからは、小麦の甘い香りが湯気と共に立ち上っていた。

(うわぁ……どれもこれも美味しそう……! マーサさんたち、僕のために頑張ってくれたんだなぁ)

 もちろん、これらの料理には、僕の存在そのものと、屋敷全体に漂う『生活魔法』のオーラが、無意識のうちに絶大な『プラス効果』を与えている。素材の持つポテンシャルが限界以上に引き出され、ただでさえ美味しいクライネル家の料理が、今日はさらに『奇跡の領域』へと足を踏み入れているのだ。

 パーティーには、アルフレッドさんとレオナルドさんも、やややつれた表情ながらも(主に精神的な疲労で)、きちんと正装して参加していた。
 彼らにとって、この誕生パーティーは、もはや『未知との遭遇』、あるいは『異文化体験』の域を超え、自身の存在意義すら問われかねない『試練の場』と化しているのかもしれない。

 父様の音頭で乾杯が行われ、食事が始まった。
 僕は、兄様たちや姉様に囲まれ、あれこれと世話を焼かれながら、美味しい料理に舌鼓を打つ。

「ルーク、この鶏肉、お前が好きなようにハーブをたくさん使って焼いてもらったぞ。美味しいか?」

 ベルトラン兄様が、豪快に鶏肉を取り分けてくれる。

「うん! とってもおいしいよぉ、ベルトラン兄様!」

 僕が満面の笑みでそう言うと、なぜか周囲の大人たちがゴクリと喉を鳴らしたような気がした。
 そして、僕が無邪気に「みんなで一緒に食べると、もっともっと美味しいねぇ!」なんて言った日には、テーブルの上の料理全体の風味が、ふわりと一段階、いや二段階は深みを増し、複雑で芳醇な味わいへと変化するのを感じる。
 もちろん、僕自身はそんなことには全く気づいていない。

 アルフレッドさんとレオナルドさんは、出された料理を一口食べるたびに、言葉を失い、天を仰ぎ、そしてまた一口食べ、また天を仰ぐ、という謎のループに陥っていた。
 彼らが普段王都で口にしているであろう高級料理とは、次元が違うのだ。
 それは、技術や素材の良し悪しを超えた、もっと根源的な『生命力』と『幸福感』に満ちた味。

(この子供が「美味しい」と言うたびに、料理のレベルが上がっていく……だと……? そんな馬鹿な……だが、現に私の舌が、魂が、そう叫んでいる……!)

 アルフレッドさんは、フォークを握りしめたまま、わなわなと震えていた。
 もはや、学術的な分析など不可能。ただ、この『奇跡の味』に身を委ねるしかない。

 レオナルドさんもまた、普段の皮肉屋ぶりは完全に鳴りを潜め、まるで初めて本物の美食に出会った子供のように、目を輝かせながら料理を堪能していた。
 彼が手にしていた高級ワインですら、グラスに注がれた瞬間から、まるで『神々のネクタル』のような、芳醇で複雑な香りを放ち始め、一口飲めば脳天を突き抜けるような多幸感に包まれるのだ。

(馬鹿馬鹿しい……王都のどんな贅沢よりも、この辺境の、子供の誕生パーティーで出される料理の方が、よほど私の心を豊かにするとは……。こんな経験、誰に話しても信じてもらえまい……)

 そして、ついにメインディッシュである『特製ローストビーフ』が、大きな銀盆に乗せられて運ばれてきた。
 見事な焼き加減の塊肉からは、食欲を刺激する香ばしい匂いと、凝縮された肉の旨味を予感させる香りが、部屋中に満ち満ちていく。

「さあ、ルーク! 今日の主役のために、父さんが切り分けよう!」

 父様が、にこやかにナイフを手に取る。
 そして、僕が期待に胸を膨らませて「わーい! おにくー! おっきいねぇ!」と手を叩いて喜んだ、その瞬間。
 奇跡は再び起こった。

 切り分けられようとしていたローストビーフの表面から、まるで内側から発光しているかのように、黄金色の肉汁がじゅわぁっと溢れ出し、それがキラキラと輝きながら滴り落ちる。
 そして、部屋中に立ち込めていた香りが、先ほどとは比べ物にならないほど濃厚で、官能的ですらある『至高の香り』へと昇華したのだ。
 それは、嗅いだだけで全身の細胞が歓喜し、魂が震えるような、まさに『禁断の香り』。

 その場にいた全員が、息をのんだ。
 父様が一切れ目を切り分け、それがお皿に乗せられた瞬間、アルフレッドさんとレオナルドさんは、もはや何の抵抗もできず、ただただその『奇跡の肉』を口に運び、そして――。

 しばしの静寂。
 食堂の喧騒がふっと遠のき、まるで時が止まったかのような、濃密な時間が流れる。
 そして、二人同時に、ゆっくりと天を仰ぎ、至福の表情のまま、完全に『昇天』してしまった。

 パーティーは、クライネル家一同にとってはいつもの(ちょっと豪華な)誕生祝い。
 しかし、王都からの訪問者にとっては、美食と多幸感、そして理解不能な奇跡の連続によって、完全に魂のステージが一つ上がってしまった(かもしれない)、忘れられない一夜となったのだった。
 彼らがこのアスターテ領で、もはや以前の自分たちではいられなくなることを、この時の彼らはまだ知らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

追放されたけど実は世界最強でした ~元下僕の俺、気ままに旅していたら神々に愛されてた件~

fuwamofu
ファンタジー
「お前なんか要らない」と勇者パーティから追放された青年リオ。 しかし彼は知らなかった。自分が古代最強の血筋であり、封印級スキル「創世の権能」を無意識に使いこなしていたことを。 気ままな旅の途中で救ったのは、王女、竜族、聖女、そして神。彼女たちは次々とリオに惹かれていく。 裏切った勇者たちは没落し、リオの存在はやがて全大陸を巻き込む伝説となる――。 無自覚にチートでハーレムな最強冒険譚、ここに開幕!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...