異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

文字の大きさ
55 / 87
第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~

第55話:おやすみ前の『秘密の贈り物』…モルがくれたのは『伝説のかけら』!? 天使の誕生日は奇跡で終わる!

しおりを挟む
 夢のような(主に味覚的に)誕生パーティーも、そろそろお開きの時間。
 美味しい料理とお菓子をたんまりと食べ、家族みんなからたくさんのお祝いの言葉をもらって、僕は心も身体もぽかぽかと温かい幸福感に満たされていた。
 もちろん、途中で何度か強烈な眠気に襲われたけど、そこは『ゆるふわスローライフ』のプロ(自称)として、うまく乗り切ったつもりだ。

 食堂から自室へ戻る際には、父様と母様から「おやすみ、私の愛しい天使ちゃん」と、それはもう熱烈なキスとハグの嵐。アラン兄様とベルトラン兄様からは頭をわしゃわしゃと撫でられ、セシル姉様からは優しい子守唄を少しだけ歌ってもらった。
 クライネル家の愛情表現は、いつだって全力投球なのである。

(ふぅ、今日も一日、愛されまくったなぁ。誕生日って、ちょっと疲れるけど、やっぱり嬉しいものだね)

 マリーに手伝ってもらって寝間着に着替え、ふかふかのベッドにもぐりこむ。
 部屋には、僕とモルだけ。
 今日のパーティーでも、モルは僕の足元でおとなしく(そしてちゃっかり美味しいものをたくさんお裾分けしてもらって)過ごしていた。本当に賢くて可愛い僕の相棒だ。

「モル、今日はありがとうね。一緒にいてくれて、とっても楽しかったよぉ」

 僕がそう言ってモルの柔らかい毛並みを撫でると、モルは「きゅるる~ん」と甘えた声を出し、僕の手に頬をすり寄せてきた。その仕草一つ一つが、たまらなく愛おしい。

 しばらく二人でまったりと過ごしていると、モルが突然そわそわとした様子を見せ始めた。
 そして、ベッドからぴょんと飛び降りると、部屋の隅にある自分の寝床(僕が魔法でふかふかにした特製ベッド)の方へ行き、何かをくんくんと嗅ぎ始めた。

「どうしたの、モル? 何かあったの?」

 僕が不思議そうに見つめていると、モルは小さな前足で器用に何かを掘り出すような仕草をし、そして、何か小さなものを口にくわえて、僕の元へと戻ってきた。
 そして、まるで宝物でも見せるかのように、そっと僕の枕元にそれを置いた。

「これ……なあに?」

 それは、手のひらに収まるくらいの、古びた石片のようなものだった。
 色はくすんだ灰色で、表面には何かの模様が薄っすらと刻まれているように見える。
 どこかで見たことがあるような、でも、はっきりとは思い出せない、不思議な形。
 まるで、何か大きな石版か、あるいは古い建物の紋章の一部が欠けたような……そんな印象を受ける。
 ひんやりとした石の感触が、指先に伝わってきた。

 僕がそれをそっと手に取った、その瞬間。
 石片が、ほんの一瞬だけ、淡い、優しい光を放ったような気がした。
 そして、モルが僕の顔を見上げ、まるで「これ、ルークにあげる!」とでも言うように、誇らしげに「きゅいっ!」と一声鳴いた。

(わぁ……! モルからの、誕生日プレゼントだ……!)

 それが何なのか、今の僕には全く分からない。
 でも、モルが僕のために一生懸命見つけてきてくれた、大切な宝物だということはすぐに理解できた。
 胸の奥が、じわっと温かくなるのを感じる。

「モル……! ありがとう……! とっても嬉しいよぉ! 大切にするね!」

 僕はモルをぎゅっと抱きしめた。モルも嬉しそうに僕の胸に顔をうずめてくる。
 この石片が、いつか僕やモルの運命に関わる『伝説のかけら』かもしれないなんて、今の僕は知る由もない。
 ただ、大好きな相棒からもらった初めてのプレゼントを、僕は宝箱にそっと仕舞った。

 その頃、クライネル邸の客室では。
 アルフレッドとレオナルドが、それぞれのベッドの上で、今日一日の出来事を反芻していた。

「……もう、何が何だか……。あの子供の笑顔一つで花が咲き乱れ、料理の味が神の領域に達する……。そして、あの銀色の生物……あれは、やはりただの動物ではない……」

 アルフレッドは、天井を見つめながら呟く。
 彼の頭の中は、今日得られた(しかし全く整理できていない)膨大な情報と、尽きない疑問でいっぱいだった。

「……帰りたくないな、王都に。いや、正確には、ここの飯が食えなくなるのが惜しい……。あの子供、毎日あんなものを食べているのか? 羨ましすぎるだろう……」

 レオナルドは、珍しく本音を漏らしていた。
 彼の価値観は、このアスターテ領で大きく揺さぶられている。もはや、以前のような退屈な日常には戻れないかもしれない。

(明日、もう一度、あのクライネル子爵に話を伺わねばなるまい。そして、あわよくば、あの『奇跡の料理』をもう一度……いや、研究のためだ、あくまで研究のために!)

 アルフレッドは、そう心に誓う。

(あの子供……ルークと言ったか。彼が、この世界の『理』そのものを、無自覚に書き換えているのかもしれないな。面白い……実に面白い……)

 レオナルドは、いつの間にか口元に笑みを浮かべていた。
 彼らの中で、何かが確実に変わり始めていた。

 そして、全ての喧騒が過ぎ去った主役の部屋では。
 僕、ルーク・クライネルは、腕の中にモルを抱きしめ、今日一日のたくさんの『ありがとう』と『大好き』を胸に、幸せな誕生日の眠りへと深く沈んでいった。
 天使の誕生日は、たくさんの笑顔と、ほんの少しの不思議な奇跡と共に、穏やかに幕を閉じたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

処理中です...