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第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~
第56話:誕生日後の『謎の現象』頻発!? 屋敷の植物が異常成長! 花は枯れず、果実は一年中たわわに実る!?
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僕の八歳の誕生日という、クライネル家にとっては一大イベント(そして王都からの訪問者にとっては衝撃体験ウィーク)から数日が過ぎた。
屋敷はいつもの穏やかな日常を取り戻し、僕は今日も今日とて、愛するモルと共に庭で『ゆるふわスローライフ』を満喫していた。
新しい絵本を読んだり、モルを膝の上に乗せてうたた寝したり、時折やってくるティンクにお菓子をあげたり。まさに至福の時間だ。
一方、いまだアスターテ領に滞在中のアルフレッドさんとレオナルドさんは、あの誕生日の衝撃からいまだ完全には立ち直れていない様子だった。
それでも、アルフレッドさんは研究者としての本能からか、屋敷のあちこちを(ルークの行動範囲を避けるように、しかし確実に)観察し、何かとメモを取っている。
レオナルドさんはといえば、当初の尊大な態度はどこへやら、すっかりクライネル家の美味しい食事と快適な気候の虜になり、日中は庭の木陰で読書(という名の昼寝)をしていることが多くなった。もはや、王都に帰りたくないオーラが全身からだだ漏れである。
そんなある日のこと。
長年クライネル家に仕える庭師のタム爺が、庭の手入れをしながら、不思議そうに首を傾げていた。
「ううむ……。今年の春は、一段と花の色が鮮やかじゃわい。それに、果樹の蕾のつきも、例年とは比べ物にならんほどじゃ……。まるで、ルーク坊ちゃまがお生まれになった年のような……いや、それ以上かもしれんのう」
タム爺は、特に僕がよく昼寝をしているカシワの木の周りや、母様のバラ園の一角(僕が誕生日に笑顔を振りまいた場所)を入念に見回している。
そこだけ、まるで時間が加速したかのように植物たちが生き生きと成長し、本来ならまだ先の季節のはずの花が咲き乱れ、小さな果実がたわわに実り始めているのだ。
その光景は、美しくもあり、どこか畏怖の念すら抱かせるものだった。
「ルーク坊ちゃまがおられると、どうにも庭の草木が元気になるのは昔からじゃが……今年は格別じゃ。まるで、春がずっと、この庭から離れたくないと駄々をこねておるみたいじゃわい」
タム爺の独り言を、偶然通りかかったアルフレッドさんが聞き逃すはずもなかった。
(植物の異常成長……花期を無視した開花……果実の早期結実……! やはり、あの子供の存在そのものが、周囲の環境に強烈な『生命エネルギー』を供給し、生態系そのものを書き換えているというのか……!? しかも、本人は全くの無自覚で……!)
アルフレッドさんは、脳内で高速で仮説を組み立て、そしてその常識外れな結論に戦慄する。
彼の知るどんな魔法理論も、この現象を説明するには力不足だった。
そしてその『謎の現象』は、庭だけにとどまらなかった。
メイド長のマーサさんもまた、屋敷の中で起こる小さな奇跡の数々に、日々驚きと確信を深めていた。
「まあ、奥様。ご覧になってくださいまし。この食堂に飾っておりました切り花、もう一週間も経つのに、まるで今朝摘んできたかのように瑞々しいではございませんか」
「本当ね、マーサ。それに、食材庫の野菜や果物も、心なしかいつもよりずっと長持ちしているような気がするわ。特にルークが「おいしいねぇ」と言ってくれたリンゴは、いつまでも蜜がたっぷりで、少しも萎びないのよ」
セレスティーナ母様とマーサさんの会話。
彼女たちにとっては、それは「ルーク様の素晴らしい祝福」であり、感謝と喜びの対象でしかない。
だが、その会話を壁際で盗み聞き(もちろん研究のためである)していたアルフレッドさんにとっては、さらなる衝撃のデータが追加されただけだった。
(切り花が決して枯れない……食材の鮮度が異常なほど保たれる……! これは、もはや『停滞』に近いレベルでの生命維持……! 極めて高濃度の、そして安定した生命エネルギーが、この屋敷全体を覆っている証拠だ! まさか、あの子供は、無意識のうちに周囲の環境を、自身にとって最も快適で、生命力に満ち溢れた状態に『最適化』しているというのか……!?)
その恐るべき仮説に、アルフレッドさんは眩暈すら覚えた。
そんな彼に、のんびりとした声がかかる。
「アルフレッド殿、何をそんな難しい顔をしているのです? ここのリンゴ、異常に美味いですよ。一ついかがですかな?」
声の主は、いつの間にか隣にいたレオナルドさんだった。
彼の手には、見事なまでに赤く艶やかなリンゴが握られている。それは、マーサさんが「ルーク坊ちゃまのお気に入りですので」と、特別に取り分けてくれたものらしい。
「ああ、ヴァイス殿……。いや、このリンゴがなぜこれほどまでに美味なのか、その一端が垣間見えたような気がして……」
「ふむ? よく分からんが、美味いものは美味い。それでいいではないか。ああ、この領地に来てから、王都のリンゴなど、もはや砂を噛むようなものにしか感じられなくなってしまった……困ったものだ」
レオナルドさんは、心底困ったような、それでいてどこか幸せそうな顔で、シャクリとリンゴにかじりついた。
その瞬間、彼の全身に、えもいわれぬ幸福感と活力がみなぎるのを、アルフレッドさんは(魔力的な意味で)はっきりと感じ取った。
(……この男、完全に『アスターテの祝福』に順応し始めている……! いや、むしろ『堕落』していると言った方が正しいか……!)
アルフレッドさんは、親友(のつもり)のあまりの変わりように、一抹の哀れみと、そしてほんの少しの羨望を覚えるのだった。
この『祝福された土地』の謎は、まだまだ尽きそうにない。
屋敷はいつもの穏やかな日常を取り戻し、僕は今日も今日とて、愛するモルと共に庭で『ゆるふわスローライフ』を満喫していた。
新しい絵本を読んだり、モルを膝の上に乗せてうたた寝したり、時折やってくるティンクにお菓子をあげたり。まさに至福の時間だ。
一方、いまだアスターテ領に滞在中のアルフレッドさんとレオナルドさんは、あの誕生日の衝撃からいまだ完全には立ち直れていない様子だった。
それでも、アルフレッドさんは研究者としての本能からか、屋敷のあちこちを(ルークの行動範囲を避けるように、しかし確実に)観察し、何かとメモを取っている。
レオナルドさんはといえば、当初の尊大な態度はどこへやら、すっかりクライネル家の美味しい食事と快適な気候の虜になり、日中は庭の木陰で読書(という名の昼寝)をしていることが多くなった。もはや、王都に帰りたくないオーラが全身からだだ漏れである。
そんなある日のこと。
長年クライネル家に仕える庭師のタム爺が、庭の手入れをしながら、不思議そうに首を傾げていた。
「ううむ……。今年の春は、一段と花の色が鮮やかじゃわい。それに、果樹の蕾のつきも、例年とは比べ物にならんほどじゃ……。まるで、ルーク坊ちゃまがお生まれになった年のような……いや、それ以上かもしれんのう」
タム爺は、特に僕がよく昼寝をしているカシワの木の周りや、母様のバラ園の一角(僕が誕生日に笑顔を振りまいた場所)を入念に見回している。
そこだけ、まるで時間が加速したかのように植物たちが生き生きと成長し、本来ならまだ先の季節のはずの花が咲き乱れ、小さな果実がたわわに実り始めているのだ。
その光景は、美しくもあり、どこか畏怖の念すら抱かせるものだった。
「ルーク坊ちゃまがおられると、どうにも庭の草木が元気になるのは昔からじゃが……今年は格別じゃ。まるで、春がずっと、この庭から離れたくないと駄々をこねておるみたいじゃわい」
タム爺の独り言を、偶然通りかかったアルフレッドさんが聞き逃すはずもなかった。
(植物の異常成長……花期を無視した開花……果実の早期結実……! やはり、あの子供の存在そのものが、周囲の環境に強烈な『生命エネルギー』を供給し、生態系そのものを書き換えているというのか……!? しかも、本人は全くの無自覚で……!)
アルフレッドさんは、脳内で高速で仮説を組み立て、そしてその常識外れな結論に戦慄する。
彼の知るどんな魔法理論も、この現象を説明するには力不足だった。
そしてその『謎の現象』は、庭だけにとどまらなかった。
メイド長のマーサさんもまた、屋敷の中で起こる小さな奇跡の数々に、日々驚きと確信を深めていた。
「まあ、奥様。ご覧になってくださいまし。この食堂に飾っておりました切り花、もう一週間も経つのに、まるで今朝摘んできたかのように瑞々しいではございませんか」
「本当ね、マーサ。それに、食材庫の野菜や果物も、心なしかいつもよりずっと長持ちしているような気がするわ。特にルークが「おいしいねぇ」と言ってくれたリンゴは、いつまでも蜜がたっぷりで、少しも萎びないのよ」
セレスティーナ母様とマーサさんの会話。
彼女たちにとっては、それは「ルーク様の素晴らしい祝福」であり、感謝と喜びの対象でしかない。
だが、その会話を壁際で盗み聞き(もちろん研究のためである)していたアルフレッドさんにとっては、さらなる衝撃のデータが追加されただけだった。
(切り花が決して枯れない……食材の鮮度が異常なほど保たれる……! これは、もはや『停滞』に近いレベルでの生命維持……! 極めて高濃度の、そして安定した生命エネルギーが、この屋敷全体を覆っている証拠だ! まさか、あの子供は、無意識のうちに周囲の環境を、自身にとって最も快適で、生命力に満ち溢れた状態に『最適化』しているというのか……!?)
その恐るべき仮説に、アルフレッドさんは眩暈すら覚えた。
そんな彼に、のんびりとした声がかかる。
「アルフレッド殿、何をそんな難しい顔をしているのです? ここのリンゴ、異常に美味いですよ。一ついかがですかな?」
声の主は、いつの間にか隣にいたレオナルドさんだった。
彼の手には、見事なまでに赤く艶やかなリンゴが握られている。それは、マーサさんが「ルーク坊ちゃまのお気に入りですので」と、特別に取り分けてくれたものらしい。
「ああ、ヴァイス殿……。いや、このリンゴがなぜこれほどまでに美味なのか、その一端が垣間見えたような気がして……」
「ふむ? よく分からんが、美味いものは美味い。それでいいではないか。ああ、この領地に来てから、王都のリンゴなど、もはや砂を噛むようなものにしか感じられなくなってしまった……困ったものだ」
レオナルドさんは、心底困ったような、それでいてどこか幸せそうな顔で、シャクリとリンゴにかじりついた。
その瞬間、彼の全身に、えもいわれぬ幸福感と活力がみなぎるのを、アルフレッドさんは(魔力的な意味で)はっきりと感じ取った。
(……この男、完全に『アスターテの祝福』に順応し始めている……! いや、むしろ『堕落』していると言った方が正しいか……!)
アルフレッドさんは、親友(のつもり)のあまりの変わりように、一抹の哀れみと、そしてほんの少しの羨望を覚えるのだった。
この『祝福された土地』の謎は、まだまだ尽きそうにない。
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