異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~

第57話:モルだけが気づく『隠された気配』!? 屋敷の秘密の場所にモフモフ探知機が異常反応!

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 クライネル子爵邸での『静かな異変』は、植物や食物だけに留まらなかった。
 僕の愛する相棒、モルの行動にも、時折不思議な変化が見られるようになったのだ。

 ある日の午後、僕は屋敷の中で新しいお昼寝スポットを探検していた。
 いつもの庭の木陰も最高だけど、たまには気分を変えて、屋敷の中でぬくぬくと眠るのも乙なものだ。
 モルも、僕の後を「きゅい、きゅい」と楽しそうについてくる。
 そして、そんな僕たちの後を、まるで獲物を狙う鷹のように(本人はあくまで純粋な学術的探求心と主張しているが)アルフレッドさんと、そしてなぜか美味しいおやつが出てくるかもしれないと期待している(ようにしか見えない)レオナルドさんが、こっそりとつけてきていた。

(うーん、父様の書斎はちょっと堅苦しいし、客間は落ち着かないしなぁ……どこか、日当たりが良くて、静かで、もふもふできる場所はないかなぁ……)

 僕がそんなことを考えながら屋敷の廊下をうろうろしていると、ふと、普段はあまり使われていない、古い書庫の扉が目に入った。
 少しだけ開いていたその扉の隙間からは、古紙とインクの、どこか懐かしいような匂いが漂ってくる。

「あ、ここ、入ったことなかったかも。ちょっとだけ見てみようかな、モル?」

 僕が軽い気持ちでその書庫に足を踏み入れると、そこは薄暗く、高い天井までぎっしりと古い書物が詰まった本棚が並んでいた。
 空気は少しひんやりとしていて、静寂に包まれている。
 これはこれで、秘密基地みたいで面白いかもしれない。

 僕が本棚を眺めていると、突然、足元にいたモルが「くんくん」と鼻を鳴らし始めた。
 そして、まるで何かに導かれるように、書庫の奥へと進んでいく。

「モル? どうしたの、何か見つけたの?」

 僕が後を追うと、モルは一番奥まった場所にある、特に古びた本棚の前で立ち止まり、その足元の床の一点を、熱心にくんくんと嗅ぎ始めた。
 それだけではない。前足でカリカリと床を引っ掻いたり、「きゅんきゅん、ふみゅ!」と何かを僕に必死に訴えかけるように鳴き始めたのだ。
 その様子は、いつものおやつをおねだりする時とは明らかに違う、どこか真剣で、そして少しだけ興奮しているようにも見える。

「モル? ここに何かあるの? もしかして、誰かが美味しいおやつでも隠してるのかなぁ?」

 僕がのんきにそう言うと、モルは「きゅいーっ!(違う!)」とでも言いたげに、僕のズボンの裾を軽く引っ張った。
 そのただならぬ様子に、こっそり後をつけてきていたアルフレッドさんが、息を殺して近づいてきた。レオナルドさんも、面白そうな気配を察知して、珍しく真剣な表情で見守っている。

「クライネル三男殿……失礼、ルーク様。その……モル殿のご様子が、いつもと違うようにお見受けしますが……」

 アルフレッドさんが、慎重に言葉を選びながら尋ねてくる。

「うん、なんだかモルが、ここの床をすごく気にしてるみたいなんだよぉ。何か埋まってるのかなぁ?」

 僕がそう言って、モルが気にしている床のあたりをしゃがんで見てみる。
 古い石畳の床だ。特に変わったところはなさそうだけど……。
 試しに、コンコンと軽く叩いてみると、確かにその一部分だけ、他とは少し違う、微かに軽い音がするような……気がしないでもない。

(気のせいかな? でも、モルはこんなに真剣だし……)

 アルフレッドさんは、その様子を見て、ハッとしたように自分の鞄から小型の魔力探知機を取り出した。
 そして、モルが示している箇所にそれをかざすと、探知機の針が微弱ながらも、確かに振れたのだ。

「こ、これは……! 微弱ですが、間違いなく何らかの魔力反応があります! それも、この屋敷の他の場所とは異なる、どこか『封じられた』ような……あるいは『隠された』ような異質な魔力です! もしかすると、この床下には、何か空洞が……あるいは、古の魔法的な仕掛けが施されているのかもしれませんぞ!」

 アルフレッドさんの声が、興奮に震えている。
 レオナルドさんも、その言葉に目を輝かせた。

「ほう、隠された仕掛けだと? まさか、このクライネル家には、まだ我々の知らない秘密が眠っているというのか? 例えば、そうだな……先祖代々の『莫大な財宝』とか!」

(お宝!? それはちょっと興味あるかも……でも、掘り返すのは面倒くさいなぁ……)

 僕がそんなことを考えていると、モルはさらに「きゅんきゅん!」と鳴き、僕の顔を見上げて何かを訴えかけてくる。
 まるで、「ここ、大事なものがあるの! ルーク、気づいて!」とでも言っているようだ。

 しかし、結局その場では、それ以上のことは分からなかった。
 床を掘り返す道具もないし、そもそも僕はそんな面倒なことはしたくない。

「うーん、よくわかんないけど、モルが言うなら何かあるのかもねぇ。でも、お腹すいちゃったから、また今度にしようかな」

 僕がそう言うと、モルは少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐに「きゅい!」と気を取り直して僕の足にすり寄ってきた。
 アルフレッドさんは「ああ、ルーク様! もう少しだけ、そこを……!」と何か言いたそうだったが、僕のお腹の虫がぐぅと鳴ったのを聞いて、諦めたようにため息をついた。

 結局、その日は何も見つからずに書庫を出たが、アルフレッドさんの胸には、クライネル邸に隠された『新たな謎』という、強烈なフックが打ち込まれたのだった。
 レオナルドさんも、「もし本当に宝物があるなら、発見者の一人として分け前を要求せねばなるまい」などと、不謹慎極まりないことを真剣に考え始めている。
 そして僕はといえば、モルが教えてくれた『秘密の場所』のことよりも、次のおやつのことで頭がいっぱいなのだった。
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