異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

第3部：ゆるふわスローライフは守られるべき！ ～ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙～

第53話：『祝福』が庭に溢れる！？ 天使の笑顔で花々が一斉開花！ 訪問者は見た…これがアスターテの日常チート！

第53話：『祝福』が庭に溢れる！？ 天使の笑顔で花々が一斉開花！ 訪問者は見た…これがアスターテの日常チート！ (修正版)

　豪華すぎる朝食とプレゼントの嵐で始まった僕の誕生日は、午前中もクライネル家の『溺愛』と『ゆるふわ』に満ちていた。
　僕は、お気に入りの庭でモルと一緒に日向ぼっこをしたり、新しいクッションの寝心地を試したりして過ごした。
　もちろん、『モル観察日記』も欠かさない。今日のモルは、いつも以上に僕に甘えてきて、その可愛らしさは筆舌に尽くしがたいものがあった。

　そこへ、キラキラとした羽音と共に、秘密の友達ティンクがやってきた。

「ぴゅるるる～ん♪ ぱちぱちぱち！（ルーク、お誕生日おめでとう！みたいな感じの喜びの音）」

　ティンクは元気いっぱいにそんな音を立てながら、どこからか持ってきた、朝露に濡れた美しいスミレの花束を僕に差し出してくれた。小さな花束からは、甘くて優しい香りがふわりと漂う。その小さな体で一生懸命運んできたのだろう、羽が少しだけ疲れているように見えた。

「わぁ、ティンク、ありがとう！ きれいなお花だねぇ」

　僕が心からの笑顔でそう言うと、ティンクは嬉しそうに僕の肩の上でくるくると舞い、「ぷっぷー！（どういたしまして！）」とでも言いたげに誇らしげな音を出した。
　モルもティンクに「きゅい！（おめでとう、ティンクも来たんだね！）」と挨拶し、なんだか和やかな雰囲気に包まれる。クロも、少し離れた場所から興味深そうにティンクを見つめている。

（誕生日って、やっぱりいいものだなぁ。みんなが優しくて、僕もなんだか幸せな気分になるよ）

　そんな穏やかな時間が流れる中、父様や母様たちが「ルークのために、お庭でささやかなお茶会を開きましょう」と言い出した。
　もちろん、その「ささやか」がクライネル家基準であることは言うまでもない。
　庭にはあっという間に白いテーブルクロスが敷かれたテーブルと椅子が用意され、メイドさんたちが美味しそうなお菓子やサンドイッチ、そしてもちろん特製のハーブティーを運んでくる。その手際の良さは、もはや芸術の域だ。

　そして、そのお茶会には、なぜかアルフレッドさんとレオナルドさんも（半ば強制的に）招待されていた。
　二人は、どこかやつれたような、それでいて目の奥には諦観と好奇がないまぜになった複雑な光を宿しながら、おずおずと席に着いた。
　彼らは、僕の誕生日という名目のもと、このクライネル家の『異常な日常』を、朝からぶっ通しで浴びせられているのだ。心中お察し申し上げる。

　アルフレッドさんは、僕やモル、クロ、そしてティンク（彼には妖精の姿は見えていないはずだが、ルークが誰かと楽しそうに話している気配は感じているのかもしれない）の行動一つ一つを、まるで世紀の大発見でもするかのように固唾を飲んで観察している。
　レオナルドさんは、最初はふてくされたような顔をしていたが、マリーが淹れた（もちろん僕の魔法がほんのり効いている）ハーブティーの香りを嗅いだ瞬間、ぴくりと眉を動かし、そっとカップに口をつけていた。その表情は、やはり驚愕と至福に彩られている。

（うんうん、僕の魔法は今日も絶好調だね！）

　家族や友人（モル、クロ、そして見えないけどティンク）に囲まれ、美味しいお菓子とハーブティーを前に、僕は自然と満面の笑みを浮かべていた。
　青い空、優しい日差し、頬を撫でる心地よい春風、鳥たちの歌声、そして何より、大好きなみんなの笑顔。
　その全てが、僕にとって最高のプレゼントだった。

「みんな、本当にありがとうだよぉ！ 僕、今日、とっても幸せ！」

　僕が心からの感謝と喜びを込めて、そう言った、まさにその瞬間だった。
　庭の空気が、ふっと変わった。
　まるで時が止まったかのような、不思議な静寂。
　そして、次の瞬間――。

　屋敷の庭、特に母様が丹精込めて育てているバラ園のバラたちが、一斉に、音もなく、その蕾を開き始めたのだ。
　赤、白、ピンク、黄色、オレンジ……色とりどりのバラが、まるで僕の言葉に応えるかのように、次々と美しい花を咲かせていく。
　それは、まるで早送りで見ているかのような、幻想的で、そして圧倒的な光景だった。
　むせ返るような甘く芳醇なバラの香りが、庭全体に満ち満ちて、陽光に照らされた花びらは、まるで宝石のようにキラキラと輝いている。
　さらに、どこからともなく集まってきたたくさんの小鳥たちが、木々にとまり、まるで僕の誕生日を祝福するかのように、美しい歌声を響かせ始めた。

「まあ……！ ルークの誕生日だから、お庭のお花たちも、鳥さんたちも、みんなでお祝いしてくれているのねぇ！」

　母様は、うっとりとその光景に見惚れながら言った。
　父様も兄様たちも姉様も、「さすがは我が家の天使だ！」「ルークが幸せだと、世界も幸せになるんだな！」と、感動に打ち震えている。
　ティンクは、そのあまりの美しさに目を丸くし、嬉しそうに「ぴゅるるる～！」と高い音を響かせながら僕の周りを飛び回った。モルとクロも、誇らしげに僕のそばに寄り添っている。

　だが、その現象を目の当たりにしたアルフレッドさんとレオナルドさんは、完全に言葉を失っていた。
　アルフレッドさんは、手に持っていたティーカップを落としそうになりながら、わなわなと震えている。

「ば、馬鹿な……ありえない……！ 子供の感情の高ぶりに呼応して、植物が一斉開花し、動物が集うだと……！？ これは、もはや『祝福』などという生易しいものではない……！ 『自然法則の書き換え』……『限定的な世界創造』に近い現象だぞ……！」

　レオナルドさんもまた、普段の皮肉っぽい表情は消え失せ、ただただ目の前の光景を呆然と見つめている。

「……これが……このアスターテという土地の……日常だというのか……？ 我々が王都で学んできた魔法学とは、一体何だったのだ……？」

　彼らの脳裏には、これまでの常識や知識がガラガラと崩れ落ちていく音と、そして目の前に広がる、あまりにも美しく、あまりにも『規格外』な光景が、強烈に焼き付いたことだろう。
　これが、クライネル家の天使、ルーク・クライネルの誕生日。
　彼にとってはごく普通の、ちょっとだけ特別な一日。
　だが、訪問者たちにとっては、生涯忘れられない『衝撃の日』となったのだった。