異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~

第52話:誕生日おめでとう、我が家の天使様! 朝からクライネル家の溺愛が止まらない!?

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 ふかふかのお布団の中で、僕は心地よいまどろみからゆっくりと目を覚ました。
 カーテンの隙間から差し込む朝の光が、いつもよりキラキラして見えるのは気のせいだろうか。
 枕元で、僕の愛する『もふもふ』、モルが「きゅい、きゅい♪」と嬉しそうな声で僕の頬を優しく舐めて起こしてくれた。その温かくて柔らかい感触に、思わず笑みがこぼれる。

「んん……おはよう、モル。なんだか、モルも今日はいつもよりご機嫌だねぇ」

 僕がそう言ってモルの頭を撫でると、モルはさらに甘えるように僕の手にすり寄ってきた。
 部屋を見渡すと、そこには驚きの光景が広がっていた。
 壁には色とりどりのリボンや可愛らしい花の飾りが施され、窓辺には小さな風船まで浮かんでいる。まるで、おとぎ話に出てくる王子様の部屋みたいだ。

(わわっ、なんだかすごいことになってる!? ……あ、そっか。今日、僕の誕生日だっけ)

 そう、何を隠そう、今日は僕、ルーク・クライネルの八歳の誕生日なのである。
 前世のアラサー社畜時代には、誕生日なんてただの平日、残業が増えるだけの忌まわしい日だったけど、この世界に来てからは、家族みんなが盛大にお祝いしてくれる、ちょっとだけ特別な日になっていた。

 身支度を整え(もちろんマリーの手を借りて)、食堂へ向かうと、そこには既に家族全員が勢ぞろいしていた。
 父様、母様、アラン兄様、ベルトラン兄様、そしてセシル姉様。みんな、僕を見るなり満面の笑みを浮かべて「ルーク、お誕生日おめでとう!」と声を揃えてくれた。

「ありがとうだよぉ、みんな!」

 僕がはにかみながらお礼を言うと、そこからはもう、クライネル家の『溺愛フルコース』の始まりだった。

「ルーク、これは父からだ。お前が好きな物語の新しい絵本だよ。夜、読んであげよう」

 父様からは、美しい挿絵の入った豪華な絵本。

「天使ちゃん、これは母からですわ。貴方のために、新しいお昼寝用の『もふもふクッション』を編みましたの。これで、もっと気持ちよくお昼寝できるでしょう?」

 母様からは、僕の身体がすっぽり収まりそうな、雲のように柔らかい特大クッション。そのクッションからは、ラベンダーのようないい香りがふわりと漂ってきた。

「ルーク、俺からはこれだ! 新しい『モル観察日記用』の革表紙のノートと、書きやすい羽ペンセットだ。これでまた、モルの可愛いところをいっぱい記録してくれ!」

 アラン兄様からは、実用的かつ僕の趣味を的確に捉えたプレゼント。

「おう、ルーク! 俺からはこれだ! 特別に作った、お前専用の小さな木剣と盾だ! これで俺と一緒に、かっこいい騎士ごっこができるぞ!」

 ベルトラン兄様からは、相変わらずの脳筋……もとい、元気いっぱいなプレゼント。

「ルーク、おめでとう。私からは、この押し花で作った栞です。あなたが好きな青いお花をたくさん使ってみましたの。絵本を読む時に使ってくださいね」

 セシル姉様からは、繊細で美しい手作りの栞。栞からも、ほんのりとお花の甘い香りがした。

(うわぁ……みんな、本当にありがとう……でも、あんまり頑張らなくていいのに……僕、ただゆるふわ生きてるだけで十分幸せだから……)

 心の底から感謝しつつも、この過剰なまでの愛情表現に、僕は少しだけ恐縮してしまう。
 だが、僕のそんな遠慮は、この家族には全く通用しないのだ。

 そして、朝食のメインイベント。
 母様が「さあ、ルーク、今年のバースデーケーキの試作品第一号よ!」と、にこにこしながら運んできたのは、僕の顔よりも大きな、三段重ねの豪華なケーキだった。
 ふんわりと焼きあがったスポンジの甘い香りに、たっぷりの生クリーム、そして地元アスターテ産の瑞々しいベリーが宝石のように飾られている。その見た目だけで、もう美味しいことが確定しているような代物だ。

「わぁ……! おいしそ~……!」

 僕が素直な感嘆の声を上げ、満面の笑みを浮かべた、その瞬間。
 不思議なことが起こった。
 目の前のケーキが、ほんの一瞬、淡い光を放ったように見えたのだ。
 そして、先ほどまで漂っていた甘い香りが、まるで凝縮されたかのように、数段芳醇になり、食堂全体に満ち満ちていく。それは、ただ甘いだけでなく、どこか心を落ち着かせ、幸福感で満たしてくれるような、筆舌に尽くしがたい『聖なる香り』だった。

「まあ! ルークが喜んでくれたから、ケーキももっと美味しくなろうと頑張ってくれたのかしらねぇ!」

 母様は、いつものようにニコニコとそう言った。
 父様も兄様たちも姉様も、「さすがはルークだな!」「ルークが笑顔だと、周りも幸せになるんだな!」と、全く疑問に思っていない様子だ。
 これが、クライネル家の日常運転である。

(うん、まあ、僕が喜ぶとケーキも本気を出すよね! 普通普通!)

 僕は内心でそう自分に言い聞かせながら、朝から繰り広げられる家族の『溺愛劇場』と、無自覚に発動してしまった『生活魔法』の余波を、ただただ享受するのだった。

 一方、その頃。
 別室で朝食を取っていたアルフレッドとレオナルドは、隣の食堂から漏れ聞こえてくる、異常なまでの祝福ムードと、時折漂ってくる尋常ではない甘美な香りに、早くも胃のあたりを押さえていたという。
 彼らの長い一日は、まだ始まったばかりだ。
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