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第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~
第59話:静かな夜の『小さな来訪者』…それは次なる波乱(ゆるふわな)の序章か!?
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アスターテ領での穏やかな日々が、静かに、しかし確実に過ぎていく。
王都からの訪問者、アルフレッドさんとレオナルドさんが、すっかりクライネル邸の居心地の良さ(と食事の美味しさ)に骨抜きにされ、なし崩し的に滞在を延長し始めてから、さらに数週間が経った頃だろうか。
その夜は、特に月が美しい、静かな晩だった。
僕はいつものように、モルを腕に抱いて、ふかふかのお布団の中でぐっすりと眠りについていた。
夢の中では、モルと一緒に雲の上をお散歩したり、ティンクに教えてもらった秘密のお花畑でピクニックをしたりしていた。まさに『ゆるふわドリーム』である。
クライネル邸の主たちが皆、深い眠りについている、そんな丑三つ時。
屋敷の見回りをしていたのは、長兄のアランだった。
彼は、昼間の領主補佐としての仕事に加え、夜はこうして自主的に屋敷の警備をすることもある、真面目で責任感の強い男だ。特に、王都からの客人が滞在している間は、なおさら気を引き締めている。
(……特に異常はなさそうだな。アルフレッド殿もレオナルド殿も、すっかりこの土地に馴染んでしまったようだが……彼らの目的が何であれ、ルークの平穏を乱すような真似は決して許さん)
アランは、月明かりに照らされた庭を静かに巡回しながら、そんなことを考えていた。
ふと、彼の視線が、庭の隅、ちょうど古い書庫の裏手にあたる茂みに注がれた。
何かが、カサリと音を立てたような気がしたのだ。
「……気のせいか?」
アランは目を凝らす。
茂みの奥に、一瞬だけ、何か小さな動物の影のようなものが見えたような……見えなかったような……。
あるいは、ただの風のいたずらかもしれない。
アスターテの夜は、時折、森の動物たちが屋敷の近くまでやってくることもある。
(まあ、この屋敷には、ルークという『最強の結界』があるからな。並大抵の魔物や悪意は、近づくことすらできまい)
アランは、そう自分に言い聞かせ、特に気にも留めずにその場を離れた。
彼には知る由もなかったが、その小さな影は、確かに存在していた。
そして、それは、ただの森の動物ではなかったかもしれない。
その影は、アランが立ち去るのを見計らったかのように、再び茂みから姿を現した。
月明かりの下、その輪郭はぼんやりとしていて判然としないが、どうやら四足で、猫よりも少し大きいくらいの、しなやかな体つきをしているようだ。
そして、その影は、驚くほど静かに、そして巧みに、屋敷の壁際を移動し始めた。
その目的地は……奇しくも、数日前にモルが異常な反応を示した、あの古い書庫の、床下へと繋がるかもしれない『秘密の場所』の方向だった。
影は、まるでその場所に何かがあると知っているかのように、迷いなく進んでいく。
そして、書庫の壁の、ちょうどモルが気にしていたあたりの古い通気口のような隙間に、すっとその身を滑り込ませて消えていった。
その一部始終を、屋敷の屋根裏部屋の小さな窓から、一匹の銀色の『もふもふ』――モルだけが、じっと見つめていた。
モルの黒曜石のような瞳は、暗闇の中で鋭く輝き、その小さな身体からは、普段の甘えん坊な様子とはかけ離れた、どこか張り詰めたような気配が漂っていた。
しかし、モルは鳴き声を上げるでもなく、ただ静かに、その影が消えた方向を見つめ続けるだけだった。
クライネル邸に忍び寄る、新たな『小さな来訪者』。
それは、果たして何者なのか。
そして、その目的は何なのか。
ルークのゆるふわな日常に、新たな波乱(ただし、きっとゆるふわな結末を迎えるであろう)の予感が、静かに、しかし確実に芽生え始めていた。
誰も気づかぬ、月の美しい夜のことである。
王都からの訪問者、アルフレッドさんとレオナルドさんが、すっかりクライネル邸の居心地の良さ(と食事の美味しさ)に骨抜きにされ、なし崩し的に滞在を延長し始めてから、さらに数週間が経った頃だろうか。
その夜は、特に月が美しい、静かな晩だった。
僕はいつものように、モルを腕に抱いて、ふかふかのお布団の中でぐっすりと眠りについていた。
夢の中では、モルと一緒に雲の上をお散歩したり、ティンクに教えてもらった秘密のお花畑でピクニックをしたりしていた。まさに『ゆるふわドリーム』である。
クライネル邸の主たちが皆、深い眠りについている、そんな丑三つ時。
屋敷の見回りをしていたのは、長兄のアランだった。
彼は、昼間の領主補佐としての仕事に加え、夜はこうして自主的に屋敷の警備をすることもある、真面目で責任感の強い男だ。特に、王都からの客人が滞在している間は、なおさら気を引き締めている。
(……特に異常はなさそうだな。アルフレッド殿もレオナルド殿も、すっかりこの土地に馴染んでしまったようだが……彼らの目的が何であれ、ルークの平穏を乱すような真似は決して許さん)
アランは、月明かりに照らされた庭を静かに巡回しながら、そんなことを考えていた。
ふと、彼の視線が、庭の隅、ちょうど古い書庫の裏手にあたる茂みに注がれた。
何かが、カサリと音を立てたような気がしたのだ。
「……気のせいか?」
アランは目を凝らす。
茂みの奥に、一瞬だけ、何か小さな動物の影のようなものが見えたような……見えなかったような……。
あるいは、ただの風のいたずらかもしれない。
アスターテの夜は、時折、森の動物たちが屋敷の近くまでやってくることもある。
(まあ、この屋敷には、ルークという『最強の結界』があるからな。並大抵の魔物や悪意は、近づくことすらできまい)
アランは、そう自分に言い聞かせ、特に気にも留めずにその場を離れた。
彼には知る由もなかったが、その小さな影は、確かに存在していた。
そして、それは、ただの森の動物ではなかったかもしれない。
その影は、アランが立ち去るのを見計らったかのように、再び茂みから姿を現した。
月明かりの下、その輪郭はぼんやりとしていて判然としないが、どうやら四足で、猫よりも少し大きいくらいの、しなやかな体つきをしているようだ。
そして、その影は、驚くほど静かに、そして巧みに、屋敷の壁際を移動し始めた。
その目的地は……奇しくも、数日前にモルが異常な反応を示した、あの古い書庫の、床下へと繋がるかもしれない『秘密の場所』の方向だった。
影は、まるでその場所に何かがあると知っているかのように、迷いなく進んでいく。
そして、書庫の壁の、ちょうどモルが気にしていたあたりの古い通気口のような隙間に、すっとその身を滑り込ませて消えていった。
その一部始終を、屋敷の屋根裏部屋の小さな窓から、一匹の銀色の『もふもふ』――モルだけが、じっと見つめていた。
モルの黒曜石のような瞳は、暗闇の中で鋭く輝き、その小さな身体からは、普段の甘えん坊な様子とはかけ離れた、どこか張り詰めたような気配が漂っていた。
しかし、モルは鳴き声を上げるでもなく、ただ静かに、その影が消えた方向を見つめ続けるだけだった。
クライネル邸に忍び寄る、新たな『小さな来訪者』。
それは、果たして何者なのか。
そして、その目的は何なのか。
ルークのゆるふわな日常に、新たな波乱(ただし、きっとゆるふわな結末を迎えるであろう)の予感が、静かに、しかし確実に芽生え始めていた。
誰も気づかぬ、月の美しい夜のことである。
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