異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

文字の大きさ
70 / 87
第4部:ゆるふわスローライフに最大の危機!? ~公爵夫人の『天使様』お持ち帰り計画と、王都からの刺客(美食家ぞろい)~

第70話:ルーク様は『最高機密』!? 公爵夫人対策で家中厳戒態勢! …でも本人は『秋の味覚』に夢中!

しおりを挟む
 エルムガルド公爵夫人イザベラ様を、『究極のおもてなし』で骨抜きにする――という、なんともクライネル家らしい(そして、ある意味無謀な)作戦が決定してから数日。
 クライネル邸では、秘密裏に、しかし着々とその準備が進められていた。
 屋敷の隅々まで徹底的に清掃され、普段は客間に飾られている調度品も、より趣味の良い(そして、イザベラ公爵夫人の目に留まりそうな、さりげなく価値のあるアンティーク品など)ものへと入れ替えられた。
 厨房では、マーサさんを中心に、領内で採れる最高の食材――もちろん、僕の『祝福オーラ』で品質が限界突破したもの――が集められ、公爵夫人を唸らせるための特別メニューが日夜研究されている。その熱気は、まるで王宮の晩餐会の準備のようだ。

 ただし、父様の方針は「あくまで『自然な範囲』で、過度な贅沢や見栄を張ったおもてなしは避ける」というものだった。
 イザベラ公爵夫人は、見せかけの豪華さよりも『本物』を好むという情報を、アラン兄様がどこからか仕入れてきたからだ。
 つまり、アスターテ領のありのままの豊かさと、そこに住む人々の温かさ、そして何よりもルークという存在がもたらす『奇跡的な日常』そのものを、公爵夫人に体験してもらう、というのが作戦の骨子らしい。

 そして、その作戦の最重要機密(?)である僕、ルーク・クライネルには、こんな風に伝えられていた。

「ルーク、もうすぐね、とっても綺麗で、とっても偉いお客さんが、うちにお泊りにいらっしゃるのよ。だから、ルークは、いつも通り、モルちゃんやクロちゃんと楽しく遊んで、美味しいものをいっぱい食べて、にこにこ過ごしてくだされば、それが一番のおもてなしになるのよ」

 母様の、それはもう甘くとろけるような声でそう言われた僕は、

「わーい! おきゃくさんだー! きれいな人なのかな? おいしいおかし、またみんなで作れるかなぁ?」

 と、無邪気に喜ぶだけだった。
 僕にとって、お客さんが来るということは、美味しいものがたくさん食べられるチャンスが増える、という程度の認識でしかない。
 まさか自分が、そのお客さんをおもてなしするための『最終兵器』扱いされているとは、夢にも思っていない。

 そんな僕ののんきさをよそに、アルフレッドさんとレオナルドさんは、自分たちなりにこの『女帝襲来』に備えようと、何やら画策していた。

「イザベラ公爵夫人は、古美術や希少な文献にも造詣が深いと聞く。クライネル家の書庫にある古文書の中に、あるいは公爵夫人の興味を引くものがあるやもしれん……。私が事前に目を通し、リストアップしておこう」

 アルフレッドさんは、すっかりクライネル家の書庫に入り浸り、何やら熱心に文献を調べている。その姿は、もはや客というより、住み込みの研究員のようだ。

「ふん、女帝の好みなど知ったことか。だが、もし俺の知る王都の最新の流行や、貴族の嗜好に関する知識が、あの女帝の機嫌を良くするのに役立つというなら、少しは教えてやらんでもないぞ。ただし、その見返りとして、今日のデザートは俺の分だけ特盛にしてもらうがな!」

 レオナルドさんは、相変わらずの調子だが、それでも彼なりに「クライネル家の美味しい食事を守るため」という大義名分(?)のもと、アラン兄様やマーサさんに、王都の貴族社会の裏話や、イザベラ公爵夫人の意外な(そしてどうでもいい)噂話などを吹き込んでいるようだった。まあ、その情報のほとんどは、彼の個人的な好みや願望が色濃く反映されたものだったが。

 こうして、クライネル邸全体が、静かな緊張感と、どこかお祭り前の準備期間のような、不思議な高揚感に包まれていく。
 使用人たちも、イザベラ公爵夫人というVIPの来訪に緊張しつつも、「ルーク様がいらっしゃるのだから、きっと大丈夫」「むしろ、公爵夫人もルーク様の可愛らしさの虜になるに違いない」と、謎の確信に満ち溢れていた。
 まさに、クライネル家一丸となっての『おもてなし大作戦』である。

 一方、そんな家中あげての厳戒態勢(?)など全く気付くはずもない僕はといえば。
 モルとクロと一緒に、庭でタム爺が掘ってくれたばかりの、ほかほかの焼き芋を頬張っていた。
 黄金色に輝くお芋は、蜜がたっぷり染み出ていて、口に入れるととろけるように甘い。もちろん、僕が近くにいたから、いつもより格段に美味しくなっているのだ。

「ん~! あきはおいしいものがおおくて、しあわせだねぇ、モル、クロ!」

 僕が満面の笑みでそう言うと、モルとクロも、僕の足元で嬉しそうに尻尾を振りながら、焼き芋のお裾分けを待っている。
 もうすぐやってくる『鉄の女帝』のことなど、この時の僕の頭の中には、欠片も存在していなかった。
 ただ、目の前の甘くて温かい秋の味覚と、愛するもふもふたちとの穏やかな時間が、そこにあるだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

処理中です...