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第4部:ゆるふわスローライフに最大の危機!? ~公爵夫人の『天使様』お持ち帰り計画と、王都からの刺客(美食家ぞろい)~
第70話:ルーク様は『最高機密』!? 公爵夫人対策で家中厳戒態勢! …でも本人は『秋の味覚』に夢中!
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エルムガルド公爵夫人イザベラ様を、『究極のおもてなし』で骨抜きにする――という、なんともクライネル家らしい(そして、ある意味無謀な)作戦が決定してから数日。
クライネル邸では、秘密裏に、しかし着々とその準備が進められていた。
屋敷の隅々まで徹底的に清掃され、普段は客間に飾られている調度品も、より趣味の良い(そして、イザベラ公爵夫人の目に留まりそうな、さりげなく価値のあるアンティーク品など)ものへと入れ替えられた。
厨房では、マーサさんを中心に、領内で採れる最高の食材――もちろん、僕の『祝福オーラ』で品質が限界突破したもの――が集められ、公爵夫人を唸らせるための特別メニューが日夜研究されている。その熱気は、まるで王宮の晩餐会の準備のようだ。
ただし、父様の方針は「あくまで『自然な範囲』で、過度な贅沢や見栄を張ったおもてなしは避ける」というものだった。
イザベラ公爵夫人は、見せかけの豪華さよりも『本物』を好むという情報を、アラン兄様がどこからか仕入れてきたからだ。
つまり、アスターテ領のありのままの豊かさと、そこに住む人々の温かさ、そして何よりもルークという存在がもたらす『奇跡的な日常』そのものを、公爵夫人に体験してもらう、というのが作戦の骨子らしい。
そして、その作戦の最重要機密(?)である僕、ルーク・クライネルには、こんな風に伝えられていた。
「ルーク、もうすぐね、とっても綺麗で、とっても偉いお客さんが、うちにお泊りにいらっしゃるのよ。だから、ルークは、いつも通り、モルちゃんやクロちゃんと楽しく遊んで、美味しいものをいっぱい食べて、にこにこ過ごしてくだされば、それが一番のおもてなしになるのよ」
母様の、それはもう甘くとろけるような声でそう言われた僕は、
「わーい! おきゃくさんだー! きれいな人なのかな? おいしいおかし、またみんなで作れるかなぁ?」
と、無邪気に喜ぶだけだった。
僕にとって、お客さんが来るということは、美味しいものがたくさん食べられるチャンスが増える、という程度の認識でしかない。
まさか自分が、そのお客さんをおもてなしするための『最終兵器』扱いされているとは、夢にも思っていない。
そんな僕ののんきさをよそに、アルフレッドさんとレオナルドさんは、自分たちなりにこの『女帝襲来』に備えようと、何やら画策していた。
「イザベラ公爵夫人は、古美術や希少な文献にも造詣が深いと聞く。クライネル家の書庫にある古文書の中に、あるいは公爵夫人の興味を引くものがあるやもしれん……。私が事前に目を通し、リストアップしておこう」
アルフレッドさんは、すっかりクライネル家の書庫に入り浸り、何やら熱心に文献を調べている。その姿は、もはや客というより、住み込みの研究員のようだ。
「ふん、女帝の好みなど知ったことか。だが、もし俺の知る王都の最新の流行や、貴族の嗜好に関する知識が、あの女帝の機嫌を良くするのに役立つというなら、少しは教えてやらんでもないぞ。ただし、その見返りとして、今日のデザートは俺の分だけ特盛にしてもらうがな!」
レオナルドさんは、相変わらずの調子だが、それでも彼なりに「クライネル家の美味しい食事を守るため」という大義名分(?)のもと、アラン兄様やマーサさんに、王都の貴族社会の裏話や、イザベラ公爵夫人の意外な(そしてどうでもいい)噂話などを吹き込んでいるようだった。まあ、その情報のほとんどは、彼の個人的な好みや願望が色濃く反映されたものだったが。
こうして、クライネル邸全体が、静かな緊張感と、どこかお祭り前の準備期間のような、不思議な高揚感に包まれていく。
使用人たちも、イザベラ公爵夫人というVIPの来訪に緊張しつつも、「ルーク様がいらっしゃるのだから、きっと大丈夫」「むしろ、公爵夫人もルーク様の可愛らしさの虜になるに違いない」と、謎の確信に満ち溢れていた。
まさに、クライネル家一丸となっての『おもてなし大作戦』である。
一方、そんな家中あげての厳戒態勢(?)など全く気付くはずもない僕はといえば。
モルとクロと一緒に、庭でタム爺が掘ってくれたばかりの、ほかほかの焼き芋を頬張っていた。
黄金色に輝くお芋は、蜜がたっぷり染み出ていて、口に入れるととろけるように甘い。もちろん、僕が近くにいたから、いつもより格段に美味しくなっているのだ。
「ん~! あきはおいしいものがおおくて、しあわせだねぇ、モル、クロ!」
僕が満面の笑みでそう言うと、モルとクロも、僕の足元で嬉しそうに尻尾を振りながら、焼き芋のお裾分けを待っている。
もうすぐやってくる『鉄の女帝』のことなど、この時の僕の頭の中には、欠片も存在していなかった。
ただ、目の前の甘くて温かい秋の味覚と、愛するもふもふたちとの穏やかな時間が、そこにあるだけだった。
クライネル邸では、秘密裏に、しかし着々とその準備が進められていた。
屋敷の隅々まで徹底的に清掃され、普段は客間に飾られている調度品も、より趣味の良い(そして、イザベラ公爵夫人の目に留まりそうな、さりげなく価値のあるアンティーク品など)ものへと入れ替えられた。
厨房では、マーサさんを中心に、領内で採れる最高の食材――もちろん、僕の『祝福オーラ』で品質が限界突破したもの――が集められ、公爵夫人を唸らせるための特別メニューが日夜研究されている。その熱気は、まるで王宮の晩餐会の準備のようだ。
ただし、父様の方針は「あくまで『自然な範囲』で、過度な贅沢や見栄を張ったおもてなしは避ける」というものだった。
イザベラ公爵夫人は、見せかけの豪華さよりも『本物』を好むという情報を、アラン兄様がどこからか仕入れてきたからだ。
つまり、アスターテ領のありのままの豊かさと、そこに住む人々の温かさ、そして何よりもルークという存在がもたらす『奇跡的な日常』そのものを、公爵夫人に体験してもらう、というのが作戦の骨子らしい。
そして、その作戦の最重要機密(?)である僕、ルーク・クライネルには、こんな風に伝えられていた。
「ルーク、もうすぐね、とっても綺麗で、とっても偉いお客さんが、うちにお泊りにいらっしゃるのよ。だから、ルークは、いつも通り、モルちゃんやクロちゃんと楽しく遊んで、美味しいものをいっぱい食べて、にこにこ過ごしてくだされば、それが一番のおもてなしになるのよ」
母様の、それはもう甘くとろけるような声でそう言われた僕は、
「わーい! おきゃくさんだー! きれいな人なのかな? おいしいおかし、またみんなで作れるかなぁ?」
と、無邪気に喜ぶだけだった。
僕にとって、お客さんが来るということは、美味しいものがたくさん食べられるチャンスが増える、という程度の認識でしかない。
まさか自分が、そのお客さんをおもてなしするための『最終兵器』扱いされているとは、夢にも思っていない。
そんな僕ののんきさをよそに、アルフレッドさんとレオナルドさんは、自分たちなりにこの『女帝襲来』に備えようと、何やら画策していた。
「イザベラ公爵夫人は、古美術や希少な文献にも造詣が深いと聞く。クライネル家の書庫にある古文書の中に、あるいは公爵夫人の興味を引くものがあるやもしれん……。私が事前に目を通し、リストアップしておこう」
アルフレッドさんは、すっかりクライネル家の書庫に入り浸り、何やら熱心に文献を調べている。その姿は、もはや客というより、住み込みの研究員のようだ。
「ふん、女帝の好みなど知ったことか。だが、もし俺の知る王都の最新の流行や、貴族の嗜好に関する知識が、あの女帝の機嫌を良くするのに役立つというなら、少しは教えてやらんでもないぞ。ただし、その見返りとして、今日のデザートは俺の分だけ特盛にしてもらうがな!」
レオナルドさんは、相変わらずの調子だが、それでも彼なりに「クライネル家の美味しい食事を守るため」という大義名分(?)のもと、アラン兄様やマーサさんに、王都の貴族社会の裏話や、イザベラ公爵夫人の意外な(そしてどうでもいい)噂話などを吹き込んでいるようだった。まあ、その情報のほとんどは、彼の個人的な好みや願望が色濃く反映されたものだったが。
こうして、クライネル邸全体が、静かな緊張感と、どこかお祭り前の準備期間のような、不思議な高揚感に包まれていく。
使用人たちも、イザベラ公爵夫人というVIPの来訪に緊張しつつも、「ルーク様がいらっしゃるのだから、きっと大丈夫」「むしろ、公爵夫人もルーク様の可愛らしさの虜になるに違いない」と、謎の確信に満ち溢れていた。
まさに、クライネル家一丸となっての『おもてなし大作戦』である。
一方、そんな家中あげての厳戒態勢(?)など全く気付くはずもない僕はといえば。
モルとクロと一緒に、庭でタム爺が掘ってくれたばかりの、ほかほかの焼き芋を頬張っていた。
黄金色に輝くお芋は、蜜がたっぷり染み出ていて、口に入れるととろけるように甘い。もちろん、僕が近くにいたから、いつもより格段に美味しくなっているのだ。
「ん~! あきはおいしいものがおおくて、しあわせだねぇ、モル、クロ!」
僕が満面の笑みでそう言うと、モルとクロも、僕の足元で嬉しそうに尻尾を振りながら、焼き芋のお裾分けを待っている。
もうすぐやってくる『鉄の女帝』のことなど、この時の僕の頭の中には、欠片も存在していなかった。
ただ、目の前の甘くて温かい秋の味覚と、愛するもふもふたちとの穏やかな時間が、そこにあるだけだった。
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