異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第4部:ゆるふわスローライフに最大の危機!? ~公爵夫人の『天使様』お持ち帰り計画と、王都からの刺客(美食家ぞろい)~

第72話:お掃除開始! ルーク様が通るとホコリ一つない『聖域』爆誕!? メイドたちもビックリ仰天!

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 エルムガルド公爵夫人イザベラ様の来訪まで、あと数日。
 クライネル邸は、にわかに活気づき、そしてどこかピリッとした緊張感に包まれていた。
 メイド長のマーサさんの号令一下、屋敷中のメイドさんたちが、普段にも増して気合の入った大掃除を開始したのだ。
 床は磨き上げられ、窓ガラスは一点の曇りもなく、カーテンは新調されたかのようにふわりと良い香りを漂わせている。まさに、チリ一つ許さない、という意気込みだ。

「さあ、皆さん! 公爵夫人をお迎えするのですから、いつも以上に心を込めてお掃除いたしますよ! このクライネル邸の隅々まで、清浄な空気で満たすのです!」

 マーサさんの檄が飛ぶ中、メイドさんたちはきびきびと動き回る。
 そんな中、僕、ルーク・クライネルは、愛するモルと、すっかり大きくなった(といってもまだ子犬サイズだけど)クロを連れて、屋敷の中をお散歩していた。
 もちろん、お掃除の邪魔にならないように、というのが建前だ。本音は、みんなが忙しそうにしている間、僕だけ何もしないのはちょっとだけ気が引けるけど、かといって何か手伝えるわけでもないし……という、いつもの『ゆるふわ思考』である。

 僕が、とてとてと廊下を歩き、時折日当たりの良い窓辺で立ち止まってうとうとしたり、お気に入りの読書室で絵本をぱらぱらとめくったりしていると、不思議なことが起こり始めた。
 僕が通り過ぎた場所や、ほんの少しでも腰を下ろしたり、昼寝をしたりした部屋が、まるで魔法にかかったかのように、自然と綺麗になっていくのだ。

 例えば、少し埃っぽかった廊下の隅が、僕がモルを追いかけて走り抜けた後には、なぜかチリ一つなくなっている。
 日差しが鈍かった窓ガラスも、僕が窓辺でクロの頭を撫でながらぼーっとしていた後には、まるで専門の職人が磨き上げたかのようにピカピカになり、部屋の中に柔らかな光をいっぱいに招き入れている。
 そして、僕がお昼寝をした部屋の空気は、まるで高原の朝のように清々しく澄み渡り、そこにいるだけで心が洗われるような、清浄な気に満ちていた。
 時折、僕がくしゃみをしたり、あくびをしたりすると、ふわっと小さな金色の光の粒のようなものが舞い、それが壁や床に触れると、そこだけが新品のように輝きを取り戻す、なんていう現象まで起こっていた。

 もちろん、僕はそんなことには全く気づいていない。
 だが、メイドさんたちは、その『奇跡』を目の当たりにしていた。

「まあ! ご覧になって、アンナ! さっきまで少し薄汚れていたこの壁が、ルーク様がお部屋に入られただけで、まるで塗り替えたように白く輝いているわ!」

「本当ですわ、ベティ! それに、この窓ガラス! 私たちがいくら磨いても取れなかった頑固な汚れが、ルーク様が窓辺でお昼寝された場所に、ふわっと小さな光が集まって消えていったと思ったら、この通りピカピカに!」

「まるで、ルーク様ご自身が『歩くお清め装置』のようですわね!」「いえ、これはもう『聖域創造』ですわ!」

 メイドさんたちは、最初は驚き、やがて感動し、そして最後にはルークへの深い崇敬の念で胸がいっぱいになっていた。
 お陰で、大掃除の手間は大幅に削減され、彼女たちはむしろ「ルーク様、どうか次はこちらのお部屋でお昼寝を!」と、僕の『お清めルート』を密かに誘導しようとすらしている始末だ。

 そんな一部始終を、アルフレッドさんは書斎の隅から(もちろん研究の一環として)観察し、またしても頭を抱えていた。

「空間浄化能力……いや、これはもはや『環境聖別』とでも呼ぶべき現象だ……! 彼の存在そのものが、周囲のエントロピーを強制的に減少し、調和と秩序に満ちた空間へと再構築しているというのか……!? しかも、その効果範囲は屋敷全体に及びつつある……! なんという恐ろしい……いや、素晴らしい力だ……!」

 一方、レオナルドさんは、メイドさんたちが淹れてくれたお茶(もちろん、僕が近くにいたので極上の風味になっている)を優雅に飲みながら、のんびりと呟いた。

「ほう、それは素晴らしいな。俺の寝室も、昨夜飲みすぎた安酒の残り香ごと浄化してくれんものか? いや、むしろあの安酒自体を『神の雫』と呼ばれるレベルの聖酒に変化させてくれれば、俺はもう何も言うことはないのだがな……」

 そのあまりにも全力でズレているコメントに、アルフレッドさんはこめかみをピクピクさせながらも、もはや何も言う気力も湧かないのだった。
 クライネル邸の『パワースポット化』は、イザベラ公爵夫人来訪を前に、着々と(そしてルークのあずかり知らぬところで)進行しているのであった。
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