異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第4部:ゆるふわスローライフに最大の危機!? ~公爵夫人の『天使様』お持ち帰り計画と、王都からの刺客(美食家ぞろい)~

第73話:調度品選びも『ルーク様判定』!? 天使が触れるとガラクタも国宝級オーラを放つ!?

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 クライネル邸の『聖域化』が、僕の無自覚な力によって着々と進行する中、次なる課題は、イザベラ公爵夫人がお使いになる客室の調度品選びだった。
 母セレスティーナと長兄アランは、屋敷の倉庫から様々な品物を運び出し、客間に並べては「うーん……」と頭を悩ませていた。

「あまり華美すぎても、公爵夫人のご趣味に合わないかもしれませんし……かといって、地味すぎても、エルムガルド公爵家に対して失礼にあたるやもしれませんわ……。本当に、あの方のお好みは難しいと聞きますもの」

 母様が、美しいレースの扇子で口元を隠しながら、ため息まじりに言う。
 アラン兄様も、普段の冷静沈着な態度はどこへやら、ずらりと並べられた花瓶や絵画、絨毯などを見比べながら、難しい顔で腕を組んでいる。

「確かに……。イザベラ公爵夫人は、その審美眼の高さでも知られていますからな。下手なものを選べば、かえってクライネル家の品格を疑われかねない……」

 そんな真剣な雰囲気の二人の元へ、僕がモルとクロを連れて、ひょっこりと顔を出した。
 何やらキラキラしたものがたくさん並んでいて、面白そうだと思ったのだ。

「母様、アラン兄様、なにしてるのぉ? きれいなもの、いっぱいだねぇ」

 僕が無邪気にそう言うと、母様は「あら、ルーク。ちょうどいいところに来てくれましたわ」と、ぱっと顔を輝かせた。
 どうやら、僕の『何か』に期待しているらしい。

「ねえ、ルーク。この中で、どれが一番素敵だと思う? ルークが『これだ!』と思うものを、教えてくれないかしら?」

 母様に促されるまま、僕は並べられた調度品を一つ一つ見て回る。
 古いけど綺麗な模様の入った花瓶、どこかの森の風景が描かれた絵画、ふかふかして気持ちよさそうな絨毯……。
 どれも素敵だけど、僕にはよく分からない。

 とりあえず、一番最初に目についた、少し古びた銀色の花瓶に、僕はそっと手を触れてみた。
 ひんやりとした金属の感触が心地よい。

「これ、なんだかキラキラしてて、きれいだねぇ。お花を飾ったら、もっと素敵になりそう!」

 僕がそう言ってにっこり笑うと、その瞬間、銀色の花瓶が、まるで内側から淡い光を放ったかのように、一瞬だけ輝きを増した。
 そして、先ほどまで少し曇っていた表面には、まるで熟練の職人が磨き上げたかのような、深みのある艶が蘇り、微かに清涼な花の香りが漂い始めたのだ。
 それはもう、ただの古い花瓶ではなく、どこかの王家に代々伝わる『伝説の秘宝』かのような、荘厳なオーラを放っている。

「ま、まあ……! ルークが触れただけで、この花瓶が、まるで生き返ったように……!」

 母様は、驚きと感動で言葉を失っている。
 アラン兄様も、目を丸くしてその変化を見つめていた。

 僕は、そんなことには全く気づかず、次に隣にあった風景画の前に立つ。
 深い森と、その奥に静かに佇む湖が描かれた、少し薄暗い印象の絵だった。

「この絵、なんだかあったかい感じがするねぇ。森の中でお昼寝したら、気持ちよさそうだなぁ」

 僕がそんな感想を漏らすと、絵の中の森の木々が、ほんの少しだけ色鮮やかさを増し、描かれた太陽の光が、まるで本物の陽光のように温かく、そして力強く輝き始めたように見えた。
 絵全体から、生命力に満ちた森の香りがふわりと漂ってくるかのようだ。

 もちろん、これも僕の『生活魔法』の無自覚な発動によるもの。
 僕が良いと思ったもの、心地よいと感じたものは、勝手にその『理想の状態』へと変化してしまうのだ。
 ガラクタですら、僕が「これ、なんだか素敵!」と思えば、国宝級のオーラを放つ美術品へと変貌するかもしれない。

「……素晴らしい……! ルークが選んでくれたものが、やはり一番ですわね! これなら、きっとイザベラ公爵夫人にもお喜びいただけるはず!」

 母様は、すっかりご満悦の様子で、僕が触れたり褒めたりした調度品を次々と選び出していく。
 その様子を柱の影から見ていたアルフレッドさんは、またしても新たな『ルーク様伝説』を目の当たりにし、わなわなと震えていた。

(物質の性質そのものを変化させるだと……!? しかも、本人の美意識や好感度に呼応して、対象をより『高次の存在』へと昇華させているというのか……!? これではまるで、点石成金……いや、それ以上の奇跡だ……! この子供の力は、本当に底が知れない……!)

 一方、レオナルドさんは、アルフレッドさんの隣で、真剣な顔で何かを考えていた。

「……おい、アルフよ。あの子供に、俺のこの安物の懐剣をちょっと触らせてみたらどうだろうか? もしかしたら、あっという間に『伝説の聖剣エクスカリバー』くらいにはなるかもしれんぞ?(小声)」

 そのあまりにも欲望に忠実な提案に、アルフレッドさんは深いため息をつきながらも、「……試してみる価値は、あるのかもしれませんな……」と、半分本気で頷いてしまうのだった。
 クライネル邸の『国宝級パワースポット化』は、ますます加速していく。
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