異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

文字の大きさ
74 / 87
第4部:ゆるふわスローライフに最大の危機!? ~公爵夫人の『天使様』お持ち帰り計画と、王都からの刺客(美食家ぞろい)~

第74話:厨房は『祝福』の嵐! ルーク様の『究極味見』で食材が黄金比の美味さに超進化! 料理長も感涙!?

しおりを挟む
 クライネル邸の『聖域化』と『国宝級パワースポット化』が、僕のあずかり知らぬところで着々と進行する中、イザベラ公爵夫人をお迎えするための準備は、いよいよ最終段階へと入っていた。
 そして、その最重要拠点とも言えるのが、屋敷の厨房である。
 メイド長のマーサさんと、クライネル家専属の料理長である恰幅の良い初老の男性――名をギョームという――は、ここ数日、寝る間も惜しんで公爵夫人のための特別メニューの試作に明け暮れていた。

「ううむ……最高の食材を揃え、長年培ってきた私の技術の全てを注ぎ込んでいるはずなのだが……何かが、何かが足りないのだ……! イザベラ公爵夫人の、あの『神の舌』を唸らせるには、もう一押し、いや、もう三押しほどの『何か』が……!」

 料理長のギョームさんは、腕を組み、試作のコンソメスープが煮える鍋の前で呻いていた。
 彼の作る料理は、普段からアスターテ領では最高と評判だが、相手があの『鉄の女帝』となると、プレッシャーも並大抵ではないのだろう。

 そんな厨房に、僕はいつものように「いいにおい~」と、モルとクロを連れてひょっこり顔を出した。
 厨房の中は、様々な食材の美味しそうな香りと、料理人たちの熱気で満ちている。
 僕にとっては、まさに天国のような場所だ。

「あら、ルーク様。ちょうど良いところに。こちらの新作のベリーソース、少しだけお味見していただけませんこと?」

 マーサさんが、小さな銀の匙に色鮮やかなベリーソースを乗せて、僕の前に差し出してくれた。
 もちろん、断る理由などない。

「わーい! マーサさん、ありがとうだよぉ!」

 僕は、ぱくりとベリーソースを口に含む。
 甘酸っぱくて、濃厚で、たくさんのベリーの風味が口いっぱいに広がる。うん、とっても美味しい。でも……。

「ん~、おいしいけどねぇ……もうちょっとだけ、ベリーさんたちが『キラキラ』ってして、お日様の光をいっぱい浴びたみたいになると、もっともっと美味しくなると思うなぁ?」

 僕が、いつものように感じたままを素直に口にすると、マーサさんは「かしこまりました、ルーク様! さすがでございます!」と、何かを深く理解したように頷き、ソースの鍋に何かハーブのようなものをほんの少しだけ加えた。
 そして、その瞬間だった。

 鍋の中のベリーソースが、まるで内側から発光しているかのように、一瞬だけ淡い黄金色の輝きを放ったのだ。
 そして、先ほどまでとは比べ物にならないほど、芳醇で、華やかで、そしてどこか神々しいまでの甘酸っぱい香りが、厨房全体にふわりと広がった。
 それは、ただのベリーソースではなく、まるで妖精が秘密の花園で摘んだ『奇跡の果実』から作られたかのような、特別なオーラをまとっていた。

 その様子を固唾を飲んで見守っていた料理長のギョームさんが、震える手でそのソースを味見する。
 そして、次の瞬間、彼は「おお……おおおぉぉぉっっ!!」と天を仰ぎ、その大きな瞳からはらはらと涙を流し始めたではないか。

「こ、これが……! これが、私が長年追い求めてきた『究極の味』……! 食材の声が聞こえる……太陽の恵みが、大地の息吹が、この一匙に凝縮されている……! ルーク様……! あなた様は、まさに『味の救世主』……いや、『食の神子』でございますぞぉぉぉっ!!」

 ギョームさんは、感動のあまりその場にひざまずき、僕の手を取ってむせび泣き始めた。
 僕は、突然のことにびっくりして、ただただ目をぱちくりさせるしかない。

(ええと……僕、何かしたっけ……? ただ、思ったことを言っただけなんだけど……)

 しかし、厨房の他の料理人たちも、その『奇跡のソース』の香りを嗅いだだけで、まるで天啓でも受けたかのように恍惚とした表情を浮かべ、「おお、料理神よ……!」「我々は、今、伝説の瞬間に立ち会っているのだ……!」と、口々にルーク様賛美の言葉を捧げ始めた。
 もはや、厨房は『祝福』の嵐が吹き荒れる、一種の宗教的空間と化していた。

 マーサさんは、その光景を満足そうに見守りながら、内心でこう呟いていた。

(ああ、ルーク様……貴方様がいらっしゃるだけで、この厨房は、いえ、このお屋敷全体が、まるで“天国”のように幸福な香りと笑顔で満たされますわ……。この素晴らしい『祝福』を、どうか公爵夫人にもお分けし、あの方のお心もお救いくださいませ……)

 その一部始終を、厨房の入り口からこっそり(しかし、目は爛々と輝かせて)覗いていたレオナルドさんは、ごくりと喉を鳴らし、こう呟いた。

「……よし、料理長! その『キラキラしたベリーソース』とやらを、まずは俺に味見させろ! 俺の舌は王都一正確だぞ!(ただし、美味いもの限定で、ルーク様が最終調整した後のものに限るがな!)」

 アルフレッドさんは、その隣で「味覚情報による物質構成の最適化と、それに伴う高次エネルギーの顕現……!? もはや錬金術どころか、神の御業の領域だ……! この子供の存在は、世界の法則そのものを揺るがしかねない……!」と、またしても新たな研究テーマ(と尽きない悩みの種)を抱え込むのだった。
 イザベラ公爵夫人を迎えるための『究極のおもてなし料理』は、こうして、僕のあずかり知らぬところで、次々と『神の食べ物』へと進化を遂げていくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

処理中です...