異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

文字の大きさ
84 / 87
第4部:ゆるふわスローライフに最大の危機!? ~公爵夫人の『天使様』お持ち帰り計画と、王都からの刺客(美食家ぞろい)~

第84話:『女帝』の微笑みの下心!? 「ルーク様を王都へ…我が庇護のもと、その才能を開花させましょう」宣言!

しおりを挟む
 エルムガルド公爵夫人イザベラの、アスターテ領での「静養」という名の『ルーク様観察ウィーク』も、いよいよ終盤を迎えようとしていた。
 この数週間で、彼女はクライネル邸の『祝福オーラ』に身を浸し、ルークの無邪気な言動と、彼が生み出す『日常的な奇跡』の数々を目の当たりにしてきた。
 その結果、彼女の心には、当初の冷徹な分析や評価とは異なる、温かく、そしてどこか切ない感情が芽生え始めていたのは確かだ。

 しかし、それでも彼女は『鉄の女帝』。
 個人的な感情と、国家の利益、そして自らの責務を秤にかけることを忘れるほど、感傷的ではなかった。

 ある日の午後、イザベラはライオネル父様とセレスティーナ母様を、彼女の私室へと招いた。
 部屋には、アスターテ領の清浄な空気と、窓から差し込む柔らかな秋の日差しが満ちていたが、どこか張り詰めたような緊張感が漂っている。

「クライネル子爵、そして奥方。この数週間、貴家には大変なお世話になりましたこと、心より感謝申し上げますわ」

 イザベラは、穏やかな、しかしどこか有無を言わせぬ微笑みを浮かべて切り出した。

「アスターテは、噂に違わぬ素晴らしい土地……そして、ルーク様は、まさに『奇跡の子』と呼ぶにふさわしい、比類なき才能をお持ちですわね」

 その言葉に、父様と母様は、ただ黙って頭を下げる。
 イザベラは、ゆっくりと言葉を続けた。その声は、あくまで優雅だが、その奥には確固たる意志が感じられた。

「ルーク様のあの『祝福』の力は、このまま辺境の一領地に留めておくには、あまりにも惜しい。彼のその類稀なる才能は、王都でこそ磨かれ、正しく評価され、そして国家全体の利益となるよう活用されるべきです。王都のアカデミーには、彼の力を『科学的』に解析し、体系化し、そして彼の能力を最大限に引き出すことのできる、最高の人材と設備が揃っておりますのよ。彼自身にとっても、それは大きな成長の機会となり、より広い世界を知るきっかけとなるでしょう」

 一見すると、それはルークの将来を慮った、親切心からの提案のようにも聞こえる。
 だが、その言葉の裏には、「ルークを王都へ差し出せ」という、抗いがたい『女帝の意思』が込められていた。

「つきましては、ルーク様を、わたくしの庇護のもと、王都へ『ご招待』させて頂きたいのです。もちろん、クライネル家の名誉にかけて、彼が不自由のない、最高の環境で過ごせるよう、わたくしが責任を持ってお約束いたしますわ」

 イザベラの言葉は、丁寧ながらも、有無を言わせぬ響きを持っていた。
 それは、優雅なシルクの手袋に包まれた、鉄の拳のようなものだ。

 父様と母様は、顔色一つ変えずにその言葉を聞いていたが、その内心は察するに余りある。
 父様が、ゆっくりと口を開いた。

「公爵夫人のお申し出、まことに身に余る光栄でございます。ルークの持つ力が、もし王国のお役に立てるのでしたら、それはクライネル家にとっても望外の喜び……。しかしながら……」

 父様は、言葉を選びながら続ける。

「ルークは、まだ八歳になったばかりの幼子でございます。このアスターテの地を離れ、親元を離れて王都で暮らすというのは、あの子にとって、あまりにも大きな負担となるのではないかと……。それに、あの子のあの力は、この穏やかな土地と、我々家族との日々の暮らしの中で、知らず知らずのうちに育まれてきたもの……。環境が変われば、あるいはその輝きも……」

 セレスティーナ母様も、目に涙を浮かべながら、しかし毅然とした声で付け加えた。

「公爵夫人のおっしゃることは、重々承知しております。けれど、あの子の幸せは、何よりもまず、このアスターテで、私たち家族と共に、穏やかに、そして自由に過ごすことにあると、わたくしどもは信じておりますの」

 二人の言葉は、ルークを思う親心からの、切実な訴えだった。
 しかし、イザベラは、その美しい顔から微笑みを消すことなく、静かに告げた。

「お二方のお気持ち、痛いほどお察しいたしますわ。ですが、これはルーク様ご自身の未来のため、そして何よりも、王国全体の未来のため。……よく、お考えくださいませ。お返事は、明日、わたくしがこの地を発つ前にお伺いいたしますわ」

 それは、もはや最終通告にも等しい言葉だった。
 客室を出た父様と母様の顔には、深い苦悩の色が浮かんでいた。
 『鉄の女帝』の、微笑みの下に隠された強大な圧力が、クライネル家に重くのしかかろうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。 しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。 全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。 クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

処理中です...