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010 修羅場ばばばばーん
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今日の天気は快晴で、ショッピングやお散歩してぶらぶら歩くのにとても良い気候。
子供たちが駆け回って遊び、ショッピングを楽しむマダムたちと荷物持ちの従者が行き交う広場。食べ物屋台は全部美味しそうだし、デート中の仲睦まじいカップルもそこかしこにいて、そんなみんなに幸あれ☆とリギアは思う。
友達に勧められた最近流行りの恋愛小説「悪役令嬢暴れ旅~婚約破棄は世直しの始まり~」が買えてホクホクだし、家に帰ったらラドゥに貰ったお菓子を開けて食べながら読むのもいいかもしれないなあなんて思いを馳せたリギア。
「リギア? 聞いてる? おーい」
「……はっ!」
今一瞬現実逃避をしてしまったリギアがカレブの声で現実に引き戻された。
――今何つったこの人? セキ? 籍? 籍入れるってどういうことなの?
小説でよくヒーローがヒロインにプロポーズするシーンでそんな言葉出た気がする。リギアはカレブが物語の中の話をしていると都合よく解釈し、一体どの小説のどのヒーローとヒロインの話なのかと首を傾げた。これも一種の現実逃避である。
「え、誰が誰と?」
「俺と、お前が」
――パパがヒーローで私がヒロイン? ママとじゃなくて? でもママはウィルパパとラブラブしてるからダメだし……え? もしかして、『お前がママになるんだよっ!』てやつですか?
「ダメです、人として!」
さすがに血縁でその感情をぶつけてくるのは頂けない。世の中にはそういうプレイもあるのだろうが、ここは血縁者として間違った道に進もうとしている者を正してやらなければならぬ。
大概リギアの勘違いも甚だしいのだが、言葉が足りないのはお互い様であった。
「人としてって、そんなダメか? 俺ってそんなろくでなしか?」
「ろくでなしかどうかより、近親相姦エロ同人の見過ぎかなって」
「待って、待って。俺ら見事なクロストークになってねえ?」
言葉足らずはお互い様だがそこで気づいてちゃんと待ったが掛けられるカレブは大人の冷静さをちゃんと持っていた。
一旦話を最後まで聞いて、とリギアに言い置いてから、カレブは言葉足らずだった籍入れる云々の説明を始めた。
カレブが籍を入れたいというのはプロポーズの言葉では全くなく、親子としての籍を入れようということ。つまりリギアの家族構成欄の父親の空欄部分にカレブの名前が載るようにしたいということだ。
片親の名前だけより両親揃って記してあるほうが、リギアの将来にもきっと役に立つから、ということをカレブは順序だてて説明する。
最後まで横やりを入れずにきっちり聞いて、リギアはようやく納得した。
「なんだ、てっきり特殊性癖のエロ同人の見過ぎかと」
「俺はいたってノーマルだ! そういうのは絶対趣味じゃないし見ないから!」
そこは絶対に否定しておきたいとカレブは力説した。
「でも間に合ってます」
「何でだよ。もしかしてやっぱり怒ってるのか? 俺がお前たち親子を放置してのほほんと暮らしてたって」
「いや、怒ってはないですけど」
「怒ってないなら呆れてるのか。自分の思い描いていた父親像が、ふたを開けてみればこんなろくでなしだったって」
自分の父親がどんな人だろうかと考えたことはあったけれど、それを寂しいと全く感じずに育ったので、怒るほど関心がなかった。好きの反対は嫌いではなく無関心というが、そんなことを言ったらカレブは絶対傷つくだろうから言えない。だからと言って「寂しかった! ばかー!」などと思ってもいないことは言えない。
一体どうしたらいいのだ。
それに籍を入れる入れないなんて重要なこと、母親のミルファに相談してみないとわからない。
「いや、そんなことないですけど。てか、本当に間に合ってますし」
「そんなこと言わないでくれ。お前の将来が心配なんだよ」
将来は身分差をあまりとやかく言わない土地柄の辺境地バルファークでラドゥの妻として暮らしていくのが決定しているので、将来に役立つと言われてもピンとこない。
「将来は結局お嫁さんなので。都会と違って旦那さんの肩書がしっかりしてれば辺境では割とどうにでもなります。ってママとおばあちゃんが言ってた」
リギアの実家アイゼン家は貴族ではないが、バルファークで名のある薬師の家系で、昔からその薬学と技術でバルファーク地方の人々の健康を守ってきた。その歴史と伝統がある一族なら、貴族に輿入れしたところで身分差という周りからのやっかみはほぼないので、リギアは実家のおかげで割と恵まれているほうだ。
王都ではそうはいかないかもしれないが。
「お嫁さん? もうそんな話が出てるのか? ……いや、十五歳だもんな、それくらいならそんな話も出てるか……てか、だ、誰だ、誰がお前を嫁に貰うって」
「おにいが」
「おにいって誰ー!」
「あ、ラドゥ卿です。ラドゥ・バルファーク」
「は? お、幼馴染だって」
「辺境地ではよくある話です。幼馴染ならまあいいかって」
「結婚話をまあいいかで済ますなよ!」
とにかく頼むから籍入れよう、と泣きそうな顔で懇願してくるカレブに、どう答えていいものやらと焦っていたリギアだったが、そこに、戻ってきて足元でパンくずを食べていた鳩たちがまた一斉に飛んで行った。
「カレブ! 貴方一体なにしてるのよ!」
突如として響いた金切り声に、足元の鳩のみならず、リギアとカレブもびくりとしてそちらを見る。
薄茶色の髪をゆったりと巻いて、貴婦人の外出用ドレスとハットを身に着けた女性が日傘を持った手をわなわなと震わせてそこにいた。
カレブより一回り年下くらいの若い女性だ。若いとはいえ、リギアよりは大人の女性だが。
気の強そうな目を吊り上げ、信じられないといった表情をしてこちらを睨みつけていた。
カレブが一瞬硬直して黙ったが、とりあえずベンチから立ち上がって彼女の前に立つ。知り合いのようだ。
「……ビオラ。何故、ここに」
「何故ここに、ですって? その言葉、そっくり貴方にお返しするわ。ここ最近、女学生を追い回してるって噂、本当だったのね。信じられない!」
「いや、違うって」
「何が違うのよ! 私というものがありながら、貴方っていつまでたっても気が多いのね!」
どうやらカレブと付き合いのある女性らしい。それも親密な。そういえば学校の女子たちが「アルシャイン副騎士団長って素敵! お付き合いしている人がいらっしゃらなければ立候補するのに~」なんて言っていたのを思い出す。
――この人がそうか。今のパパの恋人ってやつか。なぁんだ、そういう人がいるっていうならママの結婚のことを話しても大丈夫そう。パパもママもそれぞれに幸せになれてオールオッケーじゃない? ウィンウィンってやつじゃない?
リギアがそんなことを考えながらそちらを見ると、半泣きをしながら強い口調でカレブに問いただす激高する彼女と、それを宥めながら必死で言い訳を並べているカレブが目に入る。
リギアはそろりそろりと立ち上がってその場を後にしたが、二人はリギアの動きに全く気付かなかった。そのおかげで、数メートル離れた場所まできてから一瞬で物陰に隠れられた。
これが修羅場というやつかと、面白いので物陰からまだ言い合いをしているカレブとその彼女らしき女性をこっそり観察した。
と、リギアはふとした既視感に襲われた。カレブと向き合う彼女のほうに何らかの既視感があった。どこかで見たような……。
――あれ……? あの人、前に面接で行った騎士団駐屯地で……?
じわじわと思い出されるひと月と少し前に王都騎士団早期入団試験で行った騎士団駐屯地。面接後に少し休憩をと中庭でリラックスしていたら、茂みを挟んで向こう側にいたカップルを思い出す。お忍びで恋人に会いにきていたらしき貴族っぽい女性が、若い騎士に寄り添っていた姿。
そうだ、彼女の顔。今よりももっと目立たない質素な服装と化粧だったけれど、あの時のカップルの女性そのものだ。
リギアは広大な北辺境地バルファークで遠くを見て育ったおかげか、視力は良いのだ。そして覚えなくても良いことばかり覚える変な記憶力もあった。
――彼女、あの中庭で若い騎士とキスしてなかった? あれ? でも彼女はパパの彼女で……でも若い騎士さんにお忍びで会いにきてたっぽくて、ほいで、キ、キスしてて……。
「ああもう! わかったよ。だったら別れよう! 君の悋気にはもう疲れたんだ!」
そこで、カレブの声が響き渡る。通行人もぎょっとして彼らを見ている。あれだけ彼女の金切り声がキャンキャン響いていれば、広場じゅうの注目を浴びるのも仕方ないが。
もちろんリギアも通りの物陰からそれを見て驚いていた。
――え、パパ? 彼女と別れちゃうの? パパもママもお互い幸せになってウィンウィンじゃなかったの?
「なっ……カ、カレブ、どうしてそんなこと!」
「俺が知らないとでも思ってたのか? 君がうちの騎士団の若い奴とデキてるのは知ってるよ。大方、そっちが本命だが肩書や財政的な問題で俺をキープしておきたかったんだろ? いい機会だ、俺もよく考えたら君を本気で見てなかった気がするから、これを機に別れて本命を大切にしようぜ」
――あ、パパも知ってたんだ。
ほっとしたような気もするが、よく考えたら自分の存在が発端で勃発した彼女の怒りがカレブと彼女の修羅場、そして別れになってしまうのを一部始終見る羽目になるとは思いもよらなかったリギアであった。
しかし……。
――パパの本命って? ママのこと? それはそれで困るんだけど……。
リギアの複雑な気持ちとは裏腹に、広場のほうでは皆の注目を浴びながら、カレブによる彼女の不貞の追及と、彼女のそんなことない、愛してるわと泣きながらする言い訳が続いている。
「……帰ろ」
子供たちが駆け回って遊び、ショッピングを楽しむマダムたちと荷物持ちの従者が行き交う広場。食べ物屋台は全部美味しそうだし、デート中の仲睦まじいカップルもそこかしこにいて、そんなみんなに幸あれ☆とリギアは思う。
友達に勧められた最近流行りの恋愛小説「悪役令嬢暴れ旅~婚約破棄は世直しの始まり~」が買えてホクホクだし、家に帰ったらラドゥに貰ったお菓子を開けて食べながら読むのもいいかもしれないなあなんて思いを馳せたリギア。
「リギア? 聞いてる? おーい」
「……はっ!」
今一瞬現実逃避をしてしまったリギアがカレブの声で現実に引き戻された。
――今何つったこの人? セキ? 籍? 籍入れるってどういうことなの?
小説でよくヒーローがヒロインにプロポーズするシーンでそんな言葉出た気がする。リギアはカレブが物語の中の話をしていると都合よく解釈し、一体どの小説のどのヒーローとヒロインの話なのかと首を傾げた。これも一種の現実逃避である。
「え、誰が誰と?」
「俺と、お前が」
――パパがヒーローで私がヒロイン? ママとじゃなくて? でもママはウィルパパとラブラブしてるからダメだし……え? もしかして、『お前がママになるんだよっ!』てやつですか?
「ダメです、人として!」
さすがに血縁でその感情をぶつけてくるのは頂けない。世の中にはそういうプレイもあるのだろうが、ここは血縁者として間違った道に進もうとしている者を正してやらなければならぬ。
大概リギアの勘違いも甚だしいのだが、言葉が足りないのはお互い様であった。
「人としてって、そんなダメか? 俺ってそんなろくでなしか?」
「ろくでなしかどうかより、近親相姦エロ同人の見過ぎかなって」
「待って、待って。俺ら見事なクロストークになってねえ?」
言葉足らずはお互い様だがそこで気づいてちゃんと待ったが掛けられるカレブは大人の冷静さをちゃんと持っていた。
一旦話を最後まで聞いて、とリギアに言い置いてから、カレブは言葉足らずだった籍入れる云々の説明を始めた。
カレブが籍を入れたいというのはプロポーズの言葉では全くなく、親子としての籍を入れようということ。つまりリギアの家族構成欄の父親の空欄部分にカレブの名前が載るようにしたいということだ。
片親の名前だけより両親揃って記してあるほうが、リギアの将来にもきっと役に立つから、ということをカレブは順序だてて説明する。
最後まで横やりを入れずにきっちり聞いて、リギアはようやく納得した。
「なんだ、てっきり特殊性癖のエロ同人の見過ぎかと」
「俺はいたってノーマルだ! そういうのは絶対趣味じゃないし見ないから!」
そこは絶対に否定しておきたいとカレブは力説した。
「でも間に合ってます」
「何でだよ。もしかしてやっぱり怒ってるのか? 俺がお前たち親子を放置してのほほんと暮らしてたって」
「いや、怒ってはないですけど」
「怒ってないなら呆れてるのか。自分の思い描いていた父親像が、ふたを開けてみればこんなろくでなしだったって」
自分の父親がどんな人だろうかと考えたことはあったけれど、それを寂しいと全く感じずに育ったので、怒るほど関心がなかった。好きの反対は嫌いではなく無関心というが、そんなことを言ったらカレブは絶対傷つくだろうから言えない。だからと言って「寂しかった! ばかー!」などと思ってもいないことは言えない。
一体どうしたらいいのだ。
それに籍を入れる入れないなんて重要なこと、母親のミルファに相談してみないとわからない。
「いや、そんなことないですけど。てか、本当に間に合ってますし」
「そんなこと言わないでくれ。お前の将来が心配なんだよ」
将来は身分差をあまりとやかく言わない土地柄の辺境地バルファークでラドゥの妻として暮らしていくのが決定しているので、将来に役立つと言われてもピンとこない。
「将来は結局お嫁さんなので。都会と違って旦那さんの肩書がしっかりしてれば辺境では割とどうにでもなります。ってママとおばあちゃんが言ってた」
リギアの実家アイゼン家は貴族ではないが、バルファークで名のある薬師の家系で、昔からその薬学と技術でバルファーク地方の人々の健康を守ってきた。その歴史と伝統がある一族なら、貴族に輿入れしたところで身分差という周りからのやっかみはほぼないので、リギアは実家のおかげで割と恵まれているほうだ。
王都ではそうはいかないかもしれないが。
「お嫁さん? もうそんな話が出てるのか? ……いや、十五歳だもんな、それくらいならそんな話も出てるか……てか、だ、誰だ、誰がお前を嫁に貰うって」
「おにいが」
「おにいって誰ー!」
「あ、ラドゥ卿です。ラドゥ・バルファーク」
「は? お、幼馴染だって」
「辺境地ではよくある話です。幼馴染ならまあいいかって」
「結婚話をまあいいかで済ますなよ!」
とにかく頼むから籍入れよう、と泣きそうな顔で懇願してくるカレブに、どう答えていいものやらと焦っていたリギアだったが、そこに、戻ってきて足元でパンくずを食べていた鳩たちがまた一斉に飛んで行った。
「カレブ! 貴方一体なにしてるのよ!」
突如として響いた金切り声に、足元の鳩のみならず、リギアとカレブもびくりとしてそちらを見る。
薄茶色の髪をゆったりと巻いて、貴婦人の外出用ドレスとハットを身に着けた女性が日傘を持った手をわなわなと震わせてそこにいた。
カレブより一回り年下くらいの若い女性だ。若いとはいえ、リギアよりは大人の女性だが。
気の強そうな目を吊り上げ、信じられないといった表情をしてこちらを睨みつけていた。
カレブが一瞬硬直して黙ったが、とりあえずベンチから立ち上がって彼女の前に立つ。知り合いのようだ。
「……ビオラ。何故、ここに」
「何故ここに、ですって? その言葉、そっくり貴方にお返しするわ。ここ最近、女学生を追い回してるって噂、本当だったのね。信じられない!」
「いや、違うって」
「何が違うのよ! 私というものがありながら、貴方っていつまでたっても気が多いのね!」
どうやらカレブと付き合いのある女性らしい。それも親密な。そういえば学校の女子たちが「アルシャイン副騎士団長って素敵! お付き合いしている人がいらっしゃらなければ立候補するのに~」なんて言っていたのを思い出す。
――この人がそうか。今のパパの恋人ってやつか。なぁんだ、そういう人がいるっていうならママの結婚のことを話しても大丈夫そう。パパもママもそれぞれに幸せになれてオールオッケーじゃない? ウィンウィンってやつじゃない?
リギアがそんなことを考えながらそちらを見ると、半泣きをしながら強い口調でカレブに問いただす激高する彼女と、それを宥めながら必死で言い訳を並べているカレブが目に入る。
リギアはそろりそろりと立ち上がってその場を後にしたが、二人はリギアの動きに全く気付かなかった。そのおかげで、数メートル離れた場所まできてから一瞬で物陰に隠れられた。
これが修羅場というやつかと、面白いので物陰からまだ言い合いをしているカレブとその彼女らしき女性をこっそり観察した。
と、リギアはふとした既視感に襲われた。カレブと向き合う彼女のほうに何らかの既視感があった。どこかで見たような……。
――あれ……? あの人、前に面接で行った騎士団駐屯地で……?
じわじわと思い出されるひと月と少し前に王都騎士団早期入団試験で行った騎士団駐屯地。面接後に少し休憩をと中庭でリラックスしていたら、茂みを挟んで向こう側にいたカップルを思い出す。お忍びで恋人に会いにきていたらしき貴族っぽい女性が、若い騎士に寄り添っていた姿。
そうだ、彼女の顔。今よりももっと目立たない質素な服装と化粧だったけれど、あの時のカップルの女性そのものだ。
リギアは広大な北辺境地バルファークで遠くを見て育ったおかげか、視力は良いのだ。そして覚えなくても良いことばかり覚える変な記憶力もあった。
――彼女、あの中庭で若い騎士とキスしてなかった? あれ? でも彼女はパパの彼女で……でも若い騎士さんにお忍びで会いにきてたっぽくて、ほいで、キ、キスしてて……。
「ああもう! わかったよ。だったら別れよう! 君の悋気にはもう疲れたんだ!」
そこで、カレブの声が響き渡る。通行人もぎょっとして彼らを見ている。あれだけ彼女の金切り声がキャンキャン響いていれば、広場じゅうの注目を浴びるのも仕方ないが。
もちろんリギアも通りの物陰からそれを見て驚いていた。
――え、パパ? 彼女と別れちゃうの? パパもママもお互い幸せになってウィンウィンじゃなかったの?
「なっ……カ、カレブ、どうしてそんなこと!」
「俺が知らないとでも思ってたのか? 君がうちの騎士団の若い奴とデキてるのは知ってるよ。大方、そっちが本命だが肩書や財政的な問題で俺をキープしておきたかったんだろ? いい機会だ、俺もよく考えたら君を本気で見てなかった気がするから、これを機に別れて本命を大切にしようぜ」
――あ、パパも知ってたんだ。
ほっとしたような気もするが、よく考えたら自分の存在が発端で勃発した彼女の怒りがカレブと彼女の修羅場、そして別れになってしまうのを一部始終見る羽目になるとは思いもよらなかったリギアであった。
しかし……。
――パパの本命って? ママのこと? それはそれで困るんだけど……。
リギアの複雑な気持ちとは裏腹に、広場のほうでは皆の注目を浴びながら、カレブによる彼女の不貞の追及と、彼女のそんなことない、愛してるわと泣きながらする言い訳が続いている。
「……帰ろ」
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