28 / 60
ピピ・コリン
2 世界管理
しおりを挟む
ノリはゲームで衝動的にキャラの性別を変えたくなった時に似ている。
どんなに気に入っている外見(キャラメイク)であっても、ほんの一時だけ変えたくなる瞬間が誰でもあるだろう。
どこまでも広がる青い海、青い空、白い砂浜。地平線の向こうには真っ白な入道雲に輝く太陽。
現実世界では、いつかは旅行で行って見みたいと思っていたけれど、ついぞ行けていない南国リゾートをこうして捕囚ゲームとなったアデルクライシスで体験できる日が来るとは思わなかった。
日本のあのジメッとしたキモチワルイ暑さとは違う、カラッとした気持ちのよい暑さと、心地の良い風。
「天国はここにあった」
浜辺そばの傘ヤシ下で椅子に座り、ココナッツジュースを飲みながらつい呟いてしまう。
(ヴィルの言うとおり男になったって言っても、しばらく信じてくれなかったなー。性別変更システムはもう一般的じゃないのかもね)
たしかに昨日までオーガの筋肉マッチョ♂が、一晩で爆乳美女になっていたら、劇的ビフォアアフター過ぎる。ゲームだからこそ外見をいつでも好きに変更できたシステムだった。
座っている椅子も組み木の上に直接座るのではなく、カウチタイプのクッションソファなのでずっと座っていても尻が痛くなることもない。
浜の上の出店で買った数種のフルーツ盛り合わせも美味過ぎるので、今日は1日休みにしてバカンスを満喫しよう。
そう思っていたところに、数人の男を後ろに従えた金髪の男がやってくる。一個前を追い払ってから五分も経っていないんじゃないだろうか。
「失礼、自分はアルス国ダクラス公爵子息アルベールと申します。少し前からこちらに滞在しているのですが、もしよかったらおすすめの場所をご案内いたしましょうか、美しいレディ」
(また?せっかくのバカンス台無し)
「ごめん自分男だから、そういうの間に合ってる」
「え?」
もう何度目かも分からない。
1つをあしらっても、しばらくしてまた違う男たちがやってきて、またあしらって、をひたすら繰り返している。要はナンパだ。
自分の外見に騙された男たちが、女がぼっちでビーチ傍で寛いでいると思って声をかけてくる。リゾート地にやってきて多少開放的になる気持ちは分かるが、さすがに何度もナンパされる側としては、鬱陶しいことこの上ない。
カーディガンの前ボタンは留めていない。体を起こせば、まっ平なバストが男たちにも見えることだろう。その胸に男たちの視線が集まり信じられないという表情になるのも、見慣れた光景になっている。
「失礼、あまりにもお美しいので女性と間違えてしまいました。どうぞお許しください」
(お、しつこく食い下がってきた)
優雅な一礼でその場を取り繕い、これまでナンパしてきた男たちと、格の違いを見せてきたのは、さすがは自ら公爵子息とスペックアピールしてきただけのことはあるだろう。
だからと、こんなところで女漁りしているお坊ちゃんに、此方は全く興味はない。
「では改めて、ここから少し先におススメの店があります。ピピ・コリンでも最高レベルの料理人が作る料理は、味はもちろん美術品のような料理の数々。是非その料理を食べながら、お話ししませんか?」
「もう一回言うけど、間に合ってるから結構」
そっぽを向いてココナッツジュースを一口飲む。
国の情報を知っている公爵本人ならいざしらず、こんなピピ・コリンの浜辺でとりまきを引き連れて女をナンパしているような道楽息子が、たいした情報を持っているようにはとても思えない。
(どうせ自分が男と分かってがっかりしたけど、自分の引き立て役、それか女を引っ掛けるエサになるって算段に切り替えただけでしょ。あほらしい)
相手をするだけ疲れるというのに、あちらは素っ気無い態度で相手にもされなかったことが、公爵子息のプライドに障ったらしい。
ちょっと断られただけで耳を真っ赤にして頬がひくっと引き攣るあたり、散々甘やかされて育ったおぼっちゃまであると証明している。
「失礼だが、僕を公爵子息と知ってその態度はいかがなものか?」
ナンパを断られて逆ギレらしい。
さて、どうやって追い払おうかと思案していると、そこへ、
「こんなところにいたのか。コイツらは?」
「知らない」
浜辺に似合わない、背中に槍を背負い、いつもの黒のコートを着込んだヴィルフリートが割り込んできて、忌々しそうに睨んでから男たちはどこかへ去っていく。
取り巻きたちはこれからご主人の機嫌取りで大変だろう。
「ナンパ。どっかの国の公爵子息だって。しつこかったからちょうど良かった」
他国の貴族たちがこの保養地に遊びに来るのは構わないが、他国内で自国の地位が通じると思っている時点でお察しだ。
むしろ他国だからこそ言動には細心の注意を払うべきだと思うのは、現実世界の皇族王族の皆々様の印象が強い所為かもしれない。
中世の色が強いファンタジー世界のアデルクライシスで、貴族が平民に横柄な態度に出るのは当たり前なのかもしれないが、地位を盾にあんな態度に出られては、気分が悪いのは変わりない。
「それで冒険者ギルドどうだった?ダンジョンの許可申請は下りた?」
パッと顔を上げて、さっそくとばかりに結果を聞く。
(イヤなことはさっさと忘れて、他のこと考えなきゃね!)
ピピ・コリンのダンジョンは既に冒険者ギルドの調査が済んでおり、解放されているという。ならばとシエルを同行者としてダンジョン攻略許可を、ヴィルフリートは冒険者ギルドに出しに行った。
ダンジョン攻略には冒険者のランク制限がある。強い魔物が出るダンジョンへは、低ランク冒険者の攻略許可は下りない。
だが、こちらにはSランク冒険者のヴィルフリートがいるので問題なく許可が下りると思っていたのに、当のヴィルフリートの顔色は晴れない。
それどころか渋い顔で首を横に振ったのである。
(まさか……Sランクでも許可が降りないダンジョンができちゃったとか?それはとっても困るんですけどぉ~)
ゲーム時代なら冒険者ギルドでランクをSまで上げておけば、攻略許可が降りないダンジョンはなかったのに。
「ダメだったの?」
「ダメってわけじゃない。が、中に入るのに時間が少しかかりそうだ」
「どういう意味?」
「希望者が多すぎるんだ。新規のダンジョンで、かつ中級ランクの冒険者でも許可が下りている。順番待ちだ」
「なるほど………そういうことね………」
ゲームであればダンジョンはPTごとに設定され、他のPTと鉢合わせになることもなく攻略人数制限も無かった。
しかしリアルなダンジョンとなれば、PTごとにダンジョンが用意できるわけもなく、一度に人が殺到しないようにある程度人数制限がかけられるのだろう。リアル化するとこういう阻害が出てくるのか。
「どれくらい待ちそう?」
「3週間だ」
「長いけど仕方ないか」
3週間。ちょっと長い気もするけれど、待てば入れるのだから、無理をする必要はない。
それにハムストレムの王都はかなり大きいけれどすぐにダンジョン調査へ向かったので、大した下調べをすることができなかった。
(ピピ・コリンはリゾート地だから、王都とは都市構造がちょっと違うけど、今のうちに調べものとか色々しておこうっと)
ただし、攻略申請を出したコリンのダンジョンで、意外に思っている点はあった。
「でも意外~。半年以内に出現したダンジョンなのに、ルシフェルの時みたいにダンジョンが汚染されてないなんて」
てっきり半年以内に出現したダンジョンは、全てイレギュラーダンジョンとして、汚染されているものとばかり思っていたのだ。
なのに、コリンのダンジョンは中ランク冒険者でも攻略許可が降りるくらいの難易度で、汚染モンスターが出現するという噂も聞かない。
もっとも、汚染されたモンスターが出現するダンジョンなど、ランクを問わず攻略許可は降りないだろう。
「俺にダンジョン情報を聞き出すよう頼んだ時といい、随分半年前にこだわるんだな。半年前に何かあったのか?」
不意に、真剣な眼差しのヴィルフリートに問われる。
(そういえば、ヴィルに『半年前』にこだわる理由を、兄さんがいなくなったとだけ話して、まだ詳しく教えていなかったっけ?)
一瞬、それを話していいものか迷ったけれど、他のダンジョンも攻略するのであれば、半年前を境にしたダンジョンの違いは教えておいたほうがいいだろう。
「兄さんが消えたのが、ちょうど半年前ってのは話したよね。兄さん は、いわばこの世界を作って、ずっとバランスをとってた。ダンジョンの出現もその管理の内。でもその兄さんが消えたのに、管理外で現れたのが、半年前以降のダンジョンってこと」
啓一郎の失踪と影響だけを伝え、リアルのプレイヤーがこの世界に意識を捕らわれたということは伏せておく。
「ダンジョンの出現を管理?」
「そう。天候とか、モンスターの出現とか、各国の勢力争いについてもね。この世界全般の管理者だった。びっくりした?」
「んなこと、シエル以外が言ったんなら信じねぇよ。確かに前に、兄貴はこの世界の神様だって言ってたが、ダンジョンの出現まで神様の手の中だったてことか………」
深いため息をつき頭を垂れたヴィルフリートに、アイテムボックスの中からフルーツジュースを出して、そっと寄せる。
そして話を続けた。
「半年を境に、この世界は神様の管理を外れてしまった。魔石はより一層取れなくなり、ダンジョン外のモンスターも汚染されて狂暴化始めるかもしれない。今は穏やかなこの海も明日には荒れ狂うかもしれない。今、この世界は誰も管理していなくて、どっちに転がるか誰も分からない状態なんだよ」
「シエルは代わりに管理できないのか?代行者だろ?兄貴の代わりにこの世界を」
「出来ない。多分出来るとすれば、兄さんだけ」
リアルにいれば、意識不明者を救う方法を探すことができたかもしれないけれど、<シエル・レヴィンソン>としてログインしてしまえば、もう世界に取り込まれてしまったと考えたほうがいい。
(でもきっとこのゲーム内にこそ、意識不明者を解放するコアみたいなものがある気がする。何の根拠もないけれど。リアルでどんなにすごいエンジニアがサーバーにハッキングしようとしても、出来なかったんだもの)
リアルからのアプローチで不可能ならば、ゲーム内に問題があると考える方が、解放の糸口を掴める気がする。
「でも、今ここで何を話しても、情報が少なすぎる。だから当面はヴィルが教えてくれた、半年以内に出現したダンジョン攻略を優先させるつもり」
もちろん常に情報収集を怠るつもりはないけれど、下手にあやふやな情報に振り回されるのではなく、ルシフェルのときのように汚染された可能性があるダンジョンを一つ一つ潰していく方が確実だ。
それはヴィルフィートも賛成のようで、
「わかった。それでなんだが、俺は別口で討伐依頼を頼まれて、順番待ちの間にそっちを片付けに行こうと思う」
「個別ご指名依頼?」
「そうじゃない。Sランク制限がかけられてるから、低ランク冒険者には公表されてない依頼だ」
「Sランク冒険者指定の依頼ねぇ?」
ランク制限というのは、LV制限に似たシステムだったろうかと思案する。メインストーリーとは別の、さほど時間をかけず直ぐに達成できるサブクエストは、LV制限がかけられていた。
「一緒くるか?」
「来てほしい?」
「ざけんな。目を話したらすぐ騒ぎ起こすヤツが何言ってやがる」
「騒ぎなんておこさないもん。じゃあ自分は調べものしてようかな」
「調べもの?」
そこで周囲に声を遮断する結界魔法を張り、初めてヴィルフリートの前に重要アイテムボックスから【黒の断片】を取り出す。
手のひらの上に現れた割れた石版の欠片に、ヴィルフリートは目を見開く。
「【黒の断片】多分これがルシフェルがいたダンジョンを汚染させた原因だと思う」
それに、と思う。シエルの外見的設定書である【黒の書】と同じ【黒】の字。
恐らくこれも、啓一郎が関与したアイテムと見ていいだろう。
どんなに気に入っている外見(キャラメイク)であっても、ほんの一時だけ変えたくなる瞬間が誰でもあるだろう。
どこまでも広がる青い海、青い空、白い砂浜。地平線の向こうには真っ白な入道雲に輝く太陽。
現実世界では、いつかは旅行で行って見みたいと思っていたけれど、ついぞ行けていない南国リゾートをこうして捕囚ゲームとなったアデルクライシスで体験できる日が来るとは思わなかった。
日本のあのジメッとしたキモチワルイ暑さとは違う、カラッとした気持ちのよい暑さと、心地の良い風。
「天国はここにあった」
浜辺そばの傘ヤシ下で椅子に座り、ココナッツジュースを飲みながらつい呟いてしまう。
(ヴィルの言うとおり男になったって言っても、しばらく信じてくれなかったなー。性別変更システムはもう一般的じゃないのかもね)
たしかに昨日までオーガの筋肉マッチョ♂が、一晩で爆乳美女になっていたら、劇的ビフォアアフター過ぎる。ゲームだからこそ外見をいつでも好きに変更できたシステムだった。
座っている椅子も組み木の上に直接座るのではなく、カウチタイプのクッションソファなのでずっと座っていても尻が痛くなることもない。
浜の上の出店で買った数種のフルーツ盛り合わせも美味過ぎるので、今日は1日休みにしてバカンスを満喫しよう。
そう思っていたところに、数人の男を後ろに従えた金髪の男がやってくる。一個前を追い払ってから五分も経っていないんじゃないだろうか。
「失礼、自分はアルス国ダクラス公爵子息アルベールと申します。少し前からこちらに滞在しているのですが、もしよかったらおすすめの場所をご案内いたしましょうか、美しいレディ」
(また?せっかくのバカンス台無し)
「ごめん自分男だから、そういうの間に合ってる」
「え?」
もう何度目かも分からない。
1つをあしらっても、しばらくしてまた違う男たちがやってきて、またあしらって、をひたすら繰り返している。要はナンパだ。
自分の外見に騙された男たちが、女がぼっちでビーチ傍で寛いでいると思って声をかけてくる。リゾート地にやってきて多少開放的になる気持ちは分かるが、さすがに何度もナンパされる側としては、鬱陶しいことこの上ない。
カーディガンの前ボタンは留めていない。体を起こせば、まっ平なバストが男たちにも見えることだろう。その胸に男たちの視線が集まり信じられないという表情になるのも、見慣れた光景になっている。
「失礼、あまりにもお美しいので女性と間違えてしまいました。どうぞお許しください」
(お、しつこく食い下がってきた)
優雅な一礼でその場を取り繕い、これまでナンパしてきた男たちと、格の違いを見せてきたのは、さすがは自ら公爵子息とスペックアピールしてきただけのことはあるだろう。
だからと、こんなところで女漁りしているお坊ちゃんに、此方は全く興味はない。
「では改めて、ここから少し先におススメの店があります。ピピ・コリンでも最高レベルの料理人が作る料理は、味はもちろん美術品のような料理の数々。是非その料理を食べながら、お話ししませんか?」
「もう一回言うけど、間に合ってるから結構」
そっぽを向いてココナッツジュースを一口飲む。
国の情報を知っている公爵本人ならいざしらず、こんなピピ・コリンの浜辺でとりまきを引き連れて女をナンパしているような道楽息子が、たいした情報を持っているようにはとても思えない。
(どうせ自分が男と分かってがっかりしたけど、自分の引き立て役、それか女を引っ掛けるエサになるって算段に切り替えただけでしょ。あほらしい)
相手をするだけ疲れるというのに、あちらは素っ気無い態度で相手にもされなかったことが、公爵子息のプライドに障ったらしい。
ちょっと断られただけで耳を真っ赤にして頬がひくっと引き攣るあたり、散々甘やかされて育ったおぼっちゃまであると証明している。
「失礼だが、僕を公爵子息と知ってその態度はいかがなものか?」
ナンパを断られて逆ギレらしい。
さて、どうやって追い払おうかと思案していると、そこへ、
「こんなところにいたのか。コイツらは?」
「知らない」
浜辺に似合わない、背中に槍を背負い、いつもの黒のコートを着込んだヴィルフリートが割り込んできて、忌々しそうに睨んでから男たちはどこかへ去っていく。
取り巻きたちはこれからご主人の機嫌取りで大変だろう。
「ナンパ。どっかの国の公爵子息だって。しつこかったからちょうど良かった」
他国の貴族たちがこの保養地に遊びに来るのは構わないが、他国内で自国の地位が通じると思っている時点でお察しだ。
むしろ他国だからこそ言動には細心の注意を払うべきだと思うのは、現実世界の皇族王族の皆々様の印象が強い所為かもしれない。
中世の色が強いファンタジー世界のアデルクライシスで、貴族が平民に横柄な態度に出るのは当たり前なのかもしれないが、地位を盾にあんな態度に出られては、気分が悪いのは変わりない。
「それで冒険者ギルドどうだった?ダンジョンの許可申請は下りた?」
パッと顔を上げて、さっそくとばかりに結果を聞く。
(イヤなことはさっさと忘れて、他のこと考えなきゃね!)
ピピ・コリンのダンジョンは既に冒険者ギルドの調査が済んでおり、解放されているという。ならばとシエルを同行者としてダンジョン攻略許可を、ヴィルフリートは冒険者ギルドに出しに行った。
ダンジョン攻略には冒険者のランク制限がある。強い魔物が出るダンジョンへは、低ランク冒険者の攻略許可は下りない。
だが、こちらにはSランク冒険者のヴィルフリートがいるので問題なく許可が下りると思っていたのに、当のヴィルフリートの顔色は晴れない。
それどころか渋い顔で首を横に振ったのである。
(まさか……Sランクでも許可が降りないダンジョンができちゃったとか?それはとっても困るんですけどぉ~)
ゲーム時代なら冒険者ギルドでランクをSまで上げておけば、攻略許可が降りないダンジョンはなかったのに。
「ダメだったの?」
「ダメってわけじゃない。が、中に入るのに時間が少しかかりそうだ」
「どういう意味?」
「希望者が多すぎるんだ。新規のダンジョンで、かつ中級ランクの冒険者でも許可が下りている。順番待ちだ」
「なるほど………そういうことね………」
ゲームであればダンジョンはPTごとに設定され、他のPTと鉢合わせになることもなく攻略人数制限も無かった。
しかしリアルなダンジョンとなれば、PTごとにダンジョンが用意できるわけもなく、一度に人が殺到しないようにある程度人数制限がかけられるのだろう。リアル化するとこういう阻害が出てくるのか。
「どれくらい待ちそう?」
「3週間だ」
「長いけど仕方ないか」
3週間。ちょっと長い気もするけれど、待てば入れるのだから、無理をする必要はない。
それにハムストレムの王都はかなり大きいけれどすぐにダンジョン調査へ向かったので、大した下調べをすることができなかった。
(ピピ・コリンはリゾート地だから、王都とは都市構造がちょっと違うけど、今のうちに調べものとか色々しておこうっと)
ただし、攻略申請を出したコリンのダンジョンで、意外に思っている点はあった。
「でも意外~。半年以内に出現したダンジョンなのに、ルシフェルの時みたいにダンジョンが汚染されてないなんて」
てっきり半年以内に出現したダンジョンは、全てイレギュラーダンジョンとして、汚染されているものとばかり思っていたのだ。
なのに、コリンのダンジョンは中ランク冒険者でも攻略許可が降りるくらいの難易度で、汚染モンスターが出現するという噂も聞かない。
もっとも、汚染されたモンスターが出現するダンジョンなど、ランクを問わず攻略許可は降りないだろう。
「俺にダンジョン情報を聞き出すよう頼んだ時といい、随分半年前にこだわるんだな。半年前に何かあったのか?」
不意に、真剣な眼差しのヴィルフリートに問われる。
(そういえば、ヴィルに『半年前』にこだわる理由を、兄さんがいなくなったとだけ話して、まだ詳しく教えていなかったっけ?)
一瞬、それを話していいものか迷ったけれど、他のダンジョンも攻略するのであれば、半年前を境にしたダンジョンの違いは教えておいたほうがいいだろう。
「兄さんが消えたのが、ちょうど半年前ってのは話したよね。兄さん は、いわばこの世界を作って、ずっとバランスをとってた。ダンジョンの出現もその管理の内。でもその兄さんが消えたのに、管理外で現れたのが、半年前以降のダンジョンってこと」
啓一郎の失踪と影響だけを伝え、リアルのプレイヤーがこの世界に意識を捕らわれたということは伏せておく。
「ダンジョンの出現を管理?」
「そう。天候とか、モンスターの出現とか、各国の勢力争いについてもね。この世界全般の管理者だった。びっくりした?」
「んなこと、シエル以外が言ったんなら信じねぇよ。確かに前に、兄貴はこの世界の神様だって言ってたが、ダンジョンの出現まで神様の手の中だったてことか………」
深いため息をつき頭を垂れたヴィルフリートに、アイテムボックスの中からフルーツジュースを出して、そっと寄せる。
そして話を続けた。
「半年を境に、この世界は神様の管理を外れてしまった。魔石はより一層取れなくなり、ダンジョン外のモンスターも汚染されて狂暴化始めるかもしれない。今は穏やかなこの海も明日には荒れ狂うかもしれない。今、この世界は誰も管理していなくて、どっちに転がるか誰も分からない状態なんだよ」
「シエルは代わりに管理できないのか?代行者だろ?兄貴の代わりにこの世界を」
「出来ない。多分出来るとすれば、兄さんだけ」
リアルにいれば、意識不明者を救う方法を探すことができたかもしれないけれど、<シエル・レヴィンソン>としてログインしてしまえば、もう世界に取り込まれてしまったと考えたほうがいい。
(でもきっとこのゲーム内にこそ、意識不明者を解放するコアみたいなものがある気がする。何の根拠もないけれど。リアルでどんなにすごいエンジニアがサーバーにハッキングしようとしても、出来なかったんだもの)
リアルからのアプローチで不可能ならば、ゲーム内に問題があると考える方が、解放の糸口を掴める気がする。
「でも、今ここで何を話しても、情報が少なすぎる。だから当面はヴィルが教えてくれた、半年以内に出現したダンジョン攻略を優先させるつもり」
もちろん常に情報収集を怠るつもりはないけれど、下手にあやふやな情報に振り回されるのではなく、ルシフェルのときのように汚染された可能性があるダンジョンを一つ一つ潰していく方が確実だ。
それはヴィルフィートも賛成のようで、
「わかった。それでなんだが、俺は別口で討伐依頼を頼まれて、順番待ちの間にそっちを片付けに行こうと思う」
「個別ご指名依頼?」
「そうじゃない。Sランク制限がかけられてるから、低ランク冒険者には公表されてない依頼だ」
「Sランク冒険者指定の依頼ねぇ?」
ランク制限というのは、LV制限に似たシステムだったろうかと思案する。メインストーリーとは別の、さほど時間をかけず直ぐに達成できるサブクエストは、LV制限がかけられていた。
「一緒くるか?」
「来てほしい?」
「ざけんな。目を話したらすぐ騒ぎ起こすヤツが何言ってやがる」
「騒ぎなんておこさないもん。じゃあ自分は調べものしてようかな」
「調べもの?」
そこで周囲に声を遮断する結界魔法を張り、初めてヴィルフリートの前に重要アイテムボックスから【黒の断片】を取り出す。
手のひらの上に現れた割れた石版の欠片に、ヴィルフリートは目を見開く。
「【黒の断片】多分これがルシフェルがいたダンジョンを汚染させた原因だと思う」
それに、と思う。シエルの外見的設定書である【黒の書】と同じ【黒】の字。
恐らくこれも、啓一郎が関与したアイテムと見ていいだろう。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー
びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。
理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。
ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』
計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る!
この物語はフィクションです。
※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~
TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ!
東京五輪応援します!
色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる