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終息へむけて
4 青龍王:敖廣
しおりを挟むフロアに入った時の、幻想的な海底景色が嘘のように荒れ狂っている。
海の上から差し込んでいた眩しい太陽の光なんてものは、どこにも全く届かない。代わりの明かりは海中の至る場所で走る雷や炎と、それらを水が反射しているものだ。
美しかったサンゴ群は破壊され、優雅に泳いでいた魚たちはどこにもいない。
その代わりに、恐竜時代を思わせる狂暴な巨大魚たちが、鋼のような鱗を装備して襲ってくる。
泳いでいた魚たちが汚染されての変貌だろう。
咆哮を上げるたびに起こる真空波を、前方にバリアを張って相殺させ、竜王の灼熱のブレスを【エド・ドルグフ】で切り裂く。
横や背後から突撃してくる雑魚たちは、ヴィルフリートが【カリス・ウォイド】で蹴散らした。
多少、武器に振り回されているようだが。
「大丈夫?」
雑魚の攻撃を食らってHPは大丈夫か訊ねているわけではない。
しかし雑魚を蹴散らす際、体のバランスが僅かに崩れている。
「全然問題ねぇよ」
むっとした声。不機嫌になってしまったのは、自身の攻撃威力に戸惑いバランスを取れないのを、自分に気づかれてしまった恥ずかしさ。
それが強がりであることは分かっていても、言わずにはいられないのだろう。
本人がそう言うのであれば、それ以上言及はしないでおく。
ダメージや魔法攻撃を受けてのバランスのズレではないからだ。
武器ランクが急にS5からS10に跳ねあがって、まだ使い慣れないのだろう。
武器自体の性能がグングニル・アドとは別物だ。攻撃力が強くなるだけでなく、装備者自身のステータス強化がヴィルフリートの戦闘感覚に誤差を生み、付属加護も違う。
(アレは武器と装備のランク差や相性も誤差を生みやすくしてるんだろうな~。今度時間があるときヴィルの装備を手入れするなり、別のものを新調するなりしておこう)
前にグングニルアドを預かって修理したとき、久しぶりでつい生産職の血が騒いで、あれこれ加護を追加してしまい、返ってきた槍を見てヴィルフリートは言葉を失ってしまった。
あれ以来、ヴィルフリートは槍に指一本触らせてくれなかった。
装備する防具それぞれにも、相性がある。
『スキル攻撃の威力が高くなるけれど、攻撃スピードが若干落ちる小手』と『攻撃スピードが早くなるけれど、スキル攻撃の威力が小さくなる鎧』を装備しても、互いに性能が反発しては意味がない。
装備か、武器か。
どれか1つをメインに相性の良い装備を揃えていく。
現状であれば【カリス・ヴォイド】一択だろう。
こればかりはヴィルフリートも防具新調に賛成してくれるはずだ。
(雑魚ですら、汚染されいるとしてもLVが200近い。これじゃあソロでダンジョン攻略は無理か)
正常なゲームだったとき、この裏ダンジョンは公式には未実装でも水面下では開発は進んでいたはずだ。
元がどういう設計で作られたダンジョンか知らないが、PT限定のダンジョンに相応しい攻撃である。
しかしソロではないにしても、こうして戦っているのは2人きり。
援軍もなく、余裕を失うことなく戦うことがどれだけ異常なのか、見る者が見れば、LV400の竜王よりも2人の異常性を疑うだろう。
竜王の長い体が空を舞いながら捩り、体にこびついている岩と化した鱗が弾丸となって降り注いでくる。
(自分だけ空飛んで攻撃は卑怯じゃない?やっぱり黒呪士で来るべきだったかな~)
ツヴァングと『もしも』があった時のために細剣士で来たのが、今更ながらに悔やまれる。ダンジョン内なので今から【インペリアル・エクス】を構えても、<職縛り>の所為で起動しない。
これが初見のダンジョン攻略の難点なのだ。ダンジョンギミックはもちろん、ボスの情報が何もないから、職業がミスマッチしてしまう。
落ちてくる岩を避けつつ、デカい岩は【突殺】で粉砕する。
今のところ竜王と自分たち、互いの攻撃は有効ではない。が、状況を打破する決め手もない。
自分たちならずっと戦い続けることは出来るが、汚染モンスターを送り込まれている街の方はそうじゃない。
こちらは2人とも近距離DPS。空を飛ばれると中々攻撃が届かない。敵の攻撃をひたすら凌ぐのみ。
持っていたエアーボードも貸したばかりだ。
(こんなことなら、ツヴァングに貸さなきゃよかった、もー!)
こういうときこそ遠隔DPSである黒呪士か、銃装士の出番なのだが、どちらもいない。
とにかく一発届けばいいのだ。【エド・ドルグフ】の攻撃間合いにさえ竜王が入れば、デカいやつを打ち込んでやる。
「何か思いつかない?あのトンボ落とすやつ」
「俺をあそこまで飛ばせられるか?」
「却下。ヴィルに技を当てて空に飛ばすことは出来るけど、まだ武器に振り回されてるでしょ?そんなんで空中で的をハズさずにスキル打てるの?」
打ち上げられてバランスを崩し、スキルを放てるかも怪しい。反対にヴィルフリートに自分を打ち上げてもらうのは、スキルの威力コントロールが出来ないので、どこに飛ばされるか不安がある。
よってこの案はどちらも却下。
「裏ダンジョンボス、ダンジョン……、あ。アレ試してみよう」
武器をチェンジすることなく、遠くの敵に攻撃する手段。
そういえば1つあったかもしれないと思い出す。あいにくそれがどれくらい強いのか、全くの未知数で外では試せなかった。
その点、ここはダンジョンボスフロア。被害範囲は限定的だ。
【エド・ドルグフ】を正面に構え、開いた左手を添える。
「召喚:明星のルシフェル!!」
召喚は【召喚】スキルさえ持っていれば、どの職業でも出来る。
そもそもモンスターであれデーモンであれ、戦って倒して力を示さなくてはならないのだから、職に関係なく調教できる。
レベルの低いモンスターはテイムしやすく、可愛いもふもふ系のモンスターは、ペットとして可愛がっている者も多かった。専用の洋服を着せて、スクショをSNSにUPしたりと、専用ギルドもあったほどだ。
けれど、当然強いモンスターほど調教は難しくなる。
何度倒しても特定のモンスターをテイムできないと嘆くプレイヤーは数知れなかった。
しかし、ログインしてから<シエル・レヴィンソン>が調教しているのはその一体のみ。
すぐ目の前に現れたのは16枚の羽を広げるルシフェル。光を帯びて、朝焼けを思わせる赤く長い髪が広がる。その手には身の丈ほどの大剣が握られている。
「あのトンボを地面に叩き落として」
『かしこまりました。主』
命じるとルシフェルが翼をはためかせ、空へと飛翔する。
召喚は文字通り調教したモンスターを、自分の代わりに戦わせることができる。代償として自分も共に戦うことはできない。
けれどもその召喚に自ら の強さを上乗せすることができた。
(竜王のLVが400でも、自分が召喚したルシフェルなら互角くらいに戦えるはず)
普通の召喚獣ではない。ルシフェルは召喚神。ダンジョンボスだ。
別々のダンジョンボス同士が戦う光景は、そうそう見れるものではない。
『我と同じダンジョンボスを!?』
案の定、竜王は召喚されたルシフェルに驚いた。
召喚されたモノが自らと同じダンジョンボスであると気づけたのは、モンスター同士、共通する何かがあるのかもしれない。
『憐れな、竜王よ。お前も私と同じ汚染されたか。しかし、神に刃を向けしは断罪に値する。平伏せ、竜王。そして己の罪を悔いるといい』
『何っ!?神だと!?』
無抑揚で冷たさしかない声。紫雲の瞳は薄く細められ、憂いに満ちている。
ルシフェルの大剣が激しく光り輝く。
【無慈悲なる信仰】
天使の技だが、【無慈悲なる信仰】は光属性ではない。無属性である。
相性がない反面、属性を持つスキルや魔法では、相殺や弾き返すことができない。火竜である竜王には下手な水属性攻撃よりタチが悪い。
振り降ろされる大剣から放たれた一撃が、長い竜王の胴をしたたかに打ち付けた。
竜王と戦いはじめて、まともに入った一撃に竜王は身をくねらせて飛翔高度が落ちる。
――グガガガァァァ!!
地面に叩きつけられなかったのは流石は竜王だろう。地面すれすれの空中で体勢を立て直した。
しかしそこはもう、自分の攻撃範囲内だ。ここから、射程範囲外まで再び離れようとするなら、それはこちらに背を見せるということになる。
黙ってまた攻撃範囲外に逃げるのを自分が許すと思っているのか。
そんなことは、ユルサナイ。
「やぁ、やっと降りてきてくれて嬉しいな。ずっと空飛んでるもんだから寂しかったよ」
わざとらしいくらいにっこり微笑んだ。
はじめから致命傷のダメージを与えるようには命じていない。ルシフェルに命じたのは、攻撃が届かない上空にいる竜王を落とすことだけだ。
自分の命令を見事に遂行したルシフェルは、胸に手をあて優雅に礼を取ると、淡い光とともに消えていく。
『最上位天使であるルシフェルを従えるなど、只の侵入者ではないな!?』
「只の侵入者だよ」
『天使は神のみにしか従わぬ!それがこのような小僧に!…神っ、貴様!神の代行者か!おのれ!』
「気づくの遅いね。ずっとここでお前の攻撃を受けている間に、しっかり闘魔力も溜まっちゃったよ?」
こちらの正体に気づいた竜王が、口を大きく開いた。
至近距離から力の限り吐いた灼熱のブレスと真空波が混ざりあい襲ってくる。
それに正面から【エド・ドルグフ】を構えた。
究極スキル【クライスメント】
ゲージMAXまで溜まっていた魔力が放出され、ブレスごと竜王を飲み込んだ。
コアがどこかなど探す必要はない。
【クライスメント】の砲撃が、上空に渦を巻く海水ごと大渦の穴を開ける。
「よっし!今日も絶好調!」
(変な制限つけて戦うのとはやっぱり違うわ!)
やはり大技を使った時の爽快感はたまらない。それがトドメの一撃なら言うことなしだ。
タランチュラの時も【クライスメント】を放ったが、それはステータス減退装備を身に着けての一撃だったため、威力は比較にならない。
空からゆっくりと小さく光るものが落ちてくる。
次第に何か判明してくるそれを、手の平の上でそっと受け止める。
黒いガラス玉。竜王を汚染していた【黒玉】だ。
「竜王を倒せたのか。最後のすごい技だったな」
「S10武器にはどれも究極スキルが武器に備わってるからね」
正確にはS8以上の武器だが、S5のグングニル・アドを使っていたヴィルフリートは使ったことがないのだろう。
【カリス・ウォイド】に振り回されている間は、究極スキルを使いこなせるようになるのはもう少し先かもしれない。
竜王を倒したことで、街へ繋がっていた魔法陣も閉じるだろう。
ふと、嵐に渦を巻いていた上空の海が徐々に静まり、また海底に太陽の光が差し始め、破壊されつくした竜宮跡の真ん中で、光が弾けた。
『レヴィ・スーンよ。数々の非礼、詫びようもない』
先ほどまでのしゃがれた声ではなく、低く落ち着いた声。
岩の鱗ではなく、青銀の鱗に覆われた5本爪の東洋竜。金の龍玉をその左手に握り、知性と力に溢れている。
竜王の名に相応しいいで立ちだ。
「汚染されてたんなら仕方ないよ。元に戻れてよかったね」
『我は青龍王、敖廣 。この海を統べる者なり。我が力、これより神に帰依しよう』
ルシフェルの時と同じく、竜王が自分の中に入ってきた。
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