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「お、あった」
着いた。昨日見つけた祠だ。結局何を祀ってる所なのか分からなかったので知りたかったのだ。祠の側面とかも見てみるが、神様の名前とかは書かれていない。幽霊も神も超常現象という面では同じだと思っていたので、何かの手がかりになるかと思うのだが...。
そう思った時だった。
「あの、」
振り返ると、中年くらいの男の人が立っていた。私はどきりとした。まさかまじまじと見ていたから不審がられたのだろうか。
「はい」
なるべく自然に聞こえるよう、言った。しかし、私の心配は杞憂だったらしい。
「もしかして、興味がおありなんですか?」
「あ、はい。昨日ここに来た者なんですけど、何の神様を祀ってるのかなと思いまして...」
「ああ、この祠ですか。これは御雪様を祀っている祠なんです」
「御雪様?」
「はい。この辺りの土着神なんですよ。ほら、この辺りは雪が結構降りますから」
「ということは...御雪様は雪の神様なんですか?」
「ああいや、そうではないんですけど...。そうだ、そこに資料館があるんです。そこに行けば詳しく説明していると思いますよ」
その人は少し遠くの、小さな建物を指指して言った。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
...
「あの、すいません」
入ってみると、そこには受付の女性(多分結構な年齢)がいて、快く展示を見せてくれた。しかも写真撮っていいらしい。
早速進んでみると、御雪様と、もう一つの別の神様の伝承や歴史についての展示が窮屈そうに置かれている。民俗学とかは全然知らないが、結構面白そうだ。早速、入口近くにあった解説パネルを見てみる。
...
御雪様(おゆきさま)は、室町時代頃から信仰されてきたとされる「変化」を司る神格です。柔らかな雪が溶け、やがて硬い氷へと姿を変えるように、「変化」そのものが成功や繁栄をもたらす兆しであると考えられてきました。
また、人は成長の過程で身体的・精神的にさまざまな変化を遂げることから、御雪様は人を生み出した存在、あるいは人の成長を導く存在であるとも解釈されています。こうした信仰は、主に岐阜県を中心に広がり、現在に至るまで多くの人々に受け継がれてきました。
御雪様信仰を示す儀礼の一つに「断髪式」があります。これは、変化の象徴とされる髪の毛を一寸(3センチメートルほど)に切り、これを焼納する儀式で、年に一度執り行われます。
髪を一寸に切る理由については、「一」という数字が、「これから訪れる新たな変化への期待」を象徴しているためであると伝えられています。
この儀式では、切り取られた髪の毛のほか、同じく変化の象徴とされる爪や、御雪様の好物であると伝承される白い饅頭がお供え物として供えられます。
...
あれ、爪?関係あるかもしれない
私はパネルの写真を撮り、奥に進む。次は伝承があった。古い紙に読めない文字で、何か書いてある。パネルに解説が載っていた。
...
御苫様は不変を愛し、御雪様は変化を愛し給ふ。
民を変化より隔て給ひし御苫様、その御心のありさまゆゑに、
信仰は次第に人々の心より失せたり。
かかるがために、民は御雪様をのみ信仰し奉るやうになりて、
御苫様は、つひに民の記憶より忘れ去られ給ひけり。
されば、並び立ちし二つの社は一つとなり、
その社、末永く世に立ち続けるものなり。
御苫様(おとまさま)は「変わらないこと」を尊び、御雪様は「変わること」を尊んでいた。
民を変化から遠ざけようとした御苫様のその在り方のために、
人々の心から御苫様への信仰は次第に失われていった。
その結果、民は御雪様のみを信仰するようになり、
御苫様はついに、人々の記憶から忘れ去られてしまった。
そこで、並んで建てられていた二つの祠は一つになり、
その祠は、末永くこの世に立ち続けることとなった。
...
御苫様?そんな神様もいるのか。
私はこれの写真も撮り、さらに奥へ進む。今度は御苫様についての資料もあった。
...
本作品は、御苫様に仕えた人物として伝えられる「太与」が、御苫様と初めて邂逅した場面を描いたものです。作者については明らかではありませんが、現在ではほとんど信仰の姿をとどめていない御苫様信仰を伝える、貴重な資料の一つとされています。
...
見てみると、森の中で髪の長い女性が黒色の服を着た人?に膝をついている姿を描いた絵があった。下には「画面に用いられている黒色は、他の色と交わらない性質を持つことから、御苫様を象徴する色として選ばれたものと考えられています。」という解説がついていた。多分、女性が太与さんで黒服の方が御苫様だろう。
どうやら、室町時代までは御苫様、それ以降は御雪様の信仰が行われていたらしい。
...
こうして色々見てみたが、やはり御雪様・御苫様とあの女は何かしらの関係がありそうだ。気づけば眠気を忘れて見入ってしまったが、資料館の外に出ると、どっと眠気に襲われた。
早く帰って乙瀬にも教えよう。あと、寝よう。
着いた。昨日見つけた祠だ。結局何を祀ってる所なのか分からなかったので知りたかったのだ。祠の側面とかも見てみるが、神様の名前とかは書かれていない。幽霊も神も超常現象という面では同じだと思っていたので、何かの手がかりになるかと思うのだが...。
そう思った時だった。
「あの、」
振り返ると、中年くらいの男の人が立っていた。私はどきりとした。まさかまじまじと見ていたから不審がられたのだろうか。
「はい」
なるべく自然に聞こえるよう、言った。しかし、私の心配は杞憂だったらしい。
「もしかして、興味がおありなんですか?」
「あ、はい。昨日ここに来た者なんですけど、何の神様を祀ってるのかなと思いまして...」
「ああ、この祠ですか。これは御雪様を祀っている祠なんです」
「御雪様?」
「はい。この辺りの土着神なんですよ。ほら、この辺りは雪が結構降りますから」
「ということは...御雪様は雪の神様なんですか?」
「ああいや、そうではないんですけど...。そうだ、そこに資料館があるんです。そこに行けば詳しく説明していると思いますよ」
その人は少し遠くの、小さな建物を指指して言った。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
...
「あの、すいません」
入ってみると、そこには受付の女性(多分結構な年齢)がいて、快く展示を見せてくれた。しかも写真撮っていいらしい。
早速進んでみると、御雪様と、もう一つの別の神様の伝承や歴史についての展示が窮屈そうに置かれている。民俗学とかは全然知らないが、結構面白そうだ。早速、入口近くにあった解説パネルを見てみる。
...
御雪様(おゆきさま)は、室町時代頃から信仰されてきたとされる「変化」を司る神格です。柔らかな雪が溶け、やがて硬い氷へと姿を変えるように、「変化」そのものが成功や繁栄をもたらす兆しであると考えられてきました。
また、人は成長の過程で身体的・精神的にさまざまな変化を遂げることから、御雪様は人を生み出した存在、あるいは人の成長を導く存在であるとも解釈されています。こうした信仰は、主に岐阜県を中心に広がり、現在に至るまで多くの人々に受け継がれてきました。
御雪様信仰を示す儀礼の一つに「断髪式」があります。これは、変化の象徴とされる髪の毛を一寸(3センチメートルほど)に切り、これを焼納する儀式で、年に一度執り行われます。
髪を一寸に切る理由については、「一」という数字が、「これから訪れる新たな変化への期待」を象徴しているためであると伝えられています。
この儀式では、切り取られた髪の毛のほか、同じく変化の象徴とされる爪や、御雪様の好物であると伝承される白い饅頭がお供え物として供えられます。
...
あれ、爪?関係あるかもしれない
私はパネルの写真を撮り、奥に進む。次は伝承があった。古い紙に読めない文字で、何か書いてある。パネルに解説が載っていた。
...
御苫様は不変を愛し、御雪様は変化を愛し給ふ。
民を変化より隔て給ひし御苫様、その御心のありさまゆゑに、
信仰は次第に人々の心より失せたり。
かかるがために、民は御雪様をのみ信仰し奉るやうになりて、
御苫様は、つひに民の記憶より忘れ去られ給ひけり。
されば、並び立ちし二つの社は一つとなり、
その社、末永く世に立ち続けるものなり。
御苫様(おとまさま)は「変わらないこと」を尊び、御雪様は「変わること」を尊んでいた。
民を変化から遠ざけようとした御苫様のその在り方のために、
人々の心から御苫様への信仰は次第に失われていった。
その結果、民は御雪様のみを信仰するようになり、
御苫様はついに、人々の記憶から忘れ去られてしまった。
そこで、並んで建てられていた二つの祠は一つになり、
その祠は、末永くこの世に立ち続けることとなった。
...
御苫様?そんな神様もいるのか。
私はこれの写真も撮り、さらに奥へ進む。今度は御苫様についての資料もあった。
...
本作品は、御苫様に仕えた人物として伝えられる「太与」が、御苫様と初めて邂逅した場面を描いたものです。作者については明らかではありませんが、現在ではほとんど信仰の姿をとどめていない御苫様信仰を伝える、貴重な資料の一つとされています。
...
見てみると、森の中で髪の長い女性が黒色の服を着た人?に膝をついている姿を描いた絵があった。下には「画面に用いられている黒色は、他の色と交わらない性質を持つことから、御苫様を象徴する色として選ばれたものと考えられています。」という解説がついていた。多分、女性が太与さんで黒服の方が御苫様だろう。
どうやら、室町時代までは御苫様、それ以降は御雪様の信仰が行われていたらしい。
...
こうして色々見てみたが、やはり御雪様・御苫様とあの女は何かしらの関係がありそうだ。気づけば眠気を忘れて見入ってしまったが、資料館の外に出ると、どっと眠気に襲われた。
早く帰って乙瀬にも教えよう。あと、寝よう。
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