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52.冤罪
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部屋へ帰ると、ケイトの勧めもあってドレスを着替えた。
かなり汚れてしまっているので、これは洗っても落ちないかもしれない。
遠回しに湯浴みも促され、一通り身支度を終えると、かなりの時間が経っていた。
「エリクさんの具合はどうなったのかしら」
「まだ、なんとも」
ケイトは首を振る。まだエリクさんが無事という報告はないようだ。
エリクさんはまだ幼く、誰かの恨みを買うような人間ではない。
あのケーキは、大人向けと言っていた位だ。エリクさんではなく、私を狙っていたのかもしれない。
(そういえば、必死すぎて咄嗟に気がつかなかったけれど、エリクさんの毒殺疑惑は、一度目にもあったわね)
結局、あの時も真犯人は見つからず、私はえん罪を着せられたまま斬首されたのだった。
(もし、また私が捕まったら、今度はマティアス殿下は私を信じてくれるだろうか)
卓上の花籠に、視線が止まる。
婚約者を疑うことはよくないことだと思うけれど。
悪い予感がする。
考えに沈んでいると、窓の外から急ぐような馬車の音が聞こえてきた。
両親が帰宅したのだろう。
遠くで人が行き来する物音は届くものの、私がいる部屋のいる付近は静かなものだった。
結局その日は何の知らせもなく、私はエリクさんの具合を気にしながらも眠りについた。
翌日だった。
エリクさんの元を訪れるのは禁止されているが、あまりにも誰も何も教えてくれないので、こっそりと様子を見に行こうと考えていたところで廊下の方から騒がしい声が近づいてくる。
バタンと荒々しく開け放たれた扉の向こうには継母の姿があった。
「この疫病神!」
「お母様?」
怒鳴りつけられつつも、私は尋ねる。
「エリクさんの具合は……?」
「あんたなんかに教えるわけがないでしょう!」
腹立たしいと言わんばかりに継母は私を糾弾する。
「あなたがエリクに毒を盛った癖に、ふてぶてしいわよ!」
「っ、そんなことしておりません!」
首を振るが、継母は私に扇を突きつける。
「侍女から聞いているわよ! ただの体調不良かもしれないのに、毒かもしれないと言ってあなたが処置を始めたこと。自分で盛ったから毒だと確信していたのでしょう!」
「それは……」
むしろ、昨日のエリクさんのあの様子を見てただの体調不良と思う人はいるのだろか。そう思うけれど、言葉にならない。
「観念して、罪を償いなさい!」
継母の影から、お父様が現れた。
「ジュリア、どうしてこんなことをしたんだ」
「お父様……」
「エリクと仲が良いと聞いていたのに、何が気に入らなかったんだ……?」
「違います! どうして信じてくださらないのですか?」
「だが、私達も不在の中、あの子に毒を盛れるのはお前しかいないだろう」
「そんな! 私だって、昨日はエリクさんに誘われて」
「まぁ! あの子のせいにするの!」
継母の声に、私の声は遮られた。
父が続ける。
「お前とお茶会をしている最中にエリクは倒れたと聞いている。状況的にも、お前以外に犯人はいないだろう。それに、侍女がお前に命じられたと証言しているんだぞ」
「そんな……」
一体誰がそんなことを。
「お前がそれほどにあの子を邪魔だと思っていたなんて、思わなかったよ」
絶句する私に、父は残念そうに首を振ると続ける。
「昨日、私達の夜会の中座に、医師の呼び出しと騒ぎが大きくなり過ぎたようだ。騎士団から何か問題が起きているのではないかと問い合わせを受けた。もうすぐ彼らがやってくる」
「……えっ」
「ラバール侯爵家として、お前の罪を隠し庇うことはできない。せめて、正直に己の罪を彼らに話しなさい」
「ですから、私はっ」
言いかけると、継母がほっとしたように振り返る。
執事に連れられて、騎士服を着た男達がやってくるところだった。
「お話を聞かせて頂けますね?」
抵抗しても、拘束されて連れて行かれるだけだ。
そのことをよく知っている私は、彼らの方に向かう。
「…………私は犯人ではありません。ですが、調査に必要だということでしたらご協力致します」
「お嬢様っ」
ケイトが庇うように前に出ようとするが、手で制す。
「ケイト、大丈夫だから」
ケイトまで巻き込むわけにはいかなかった。
私は無抵抗のまま、騎士に連れて行かれた。
かなり汚れてしまっているので、これは洗っても落ちないかもしれない。
遠回しに湯浴みも促され、一通り身支度を終えると、かなりの時間が経っていた。
「エリクさんの具合はどうなったのかしら」
「まだ、なんとも」
ケイトは首を振る。まだエリクさんが無事という報告はないようだ。
エリクさんはまだ幼く、誰かの恨みを買うような人間ではない。
あのケーキは、大人向けと言っていた位だ。エリクさんではなく、私を狙っていたのかもしれない。
(そういえば、必死すぎて咄嗟に気がつかなかったけれど、エリクさんの毒殺疑惑は、一度目にもあったわね)
結局、あの時も真犯人は見つからず、私はえん罪を着せられたまま斬首されたのだった。
(もし、また私が捕まったら、今度はマティアス殿下は私を信じてくれるだろうか)
卓上の花籠に、視線が止まる。
婚約者を疑うことはよくないことだと思うけれど。
悪い予感がする。
考えに沈んでいると、窓の外から急ぐような馬車の音が聞こえてきた。
両親が帰宅したのだろう。
遠くで人が行き来する物音は届くものの、私がいる部屋のいる付近は静かなものだった。
結局その日は何の知らせもなく、私はエリクさんの具合を気にしながらも眠りについた。
翌日だった。
エリクさんの元を訪れるのは禁止されているが、あまりにも誰も何も教えてくれないので、こっそりと様子を見に行こうと考えていたところで廊下の方から騒がしい声が近づいてくる。
バタンと荒々しく開け放たれた扉の向こうには継母の姿があった。
「この疫病神!」
「お母様?」
怒鳴りつけられつつも、私は尋ねる。
「エリクさんの具合は……?」
「あんたなんかに教えるわけがないでしょう!」
腹立たしいと言わんばかりに継母は私を糾弾する。
「あなたがエリクに毒を盛った癖に、ふてぶてしいわよ!」
「っ、そんなことしておりません!」
首を振るが、継母は私に扇を突きつける。
「侍女から聞いているわよ! ただの体調不良かもしれないのに、毒かもしれないと言ってあなたが処置を始めたこと。自分で盛ったから毒だと確信していたのでしょう!」
「それは……」
むしろ、昨日のエリクさんのあの様子を見てただの体調不良と思う人はいるのだろか。そう思うけれど、言葉にならない。
「観念して、罪を償いなさい!」
継母の影から、お父様が現れた。
「ジュリア、どうしてこんなことをしたんだ」
「お父様……」
「エリクと仲が良いと聞いていたのに、何が気に入らなかったんだ……?」
「違います! どうして信じてくださらないのですか?」
「だが、私達も不在の中、あの子に毒を盛れるのはお前しかいないだろう」
「そんな! 私だって、昨日はエリクさんに誘われて」
「まぁ! あの子のせいにするの!」
継母の声に、私の声は遮られた。
父が続ける。
「お前とお茶会をしている最中にエリクは倒れたと聞いている。状況的にも、お前以外に犯人はいないだろう。それに、侍女がお前に命じられたと証言しているんだぞ」
「そんな……」
一体誰がそんなことを。
「お前がそれほどにあの子を邪魔だと思っていたなんて、思わなかったよ」
絶句する私に、父は残念そうに首を振ると続ける。
「昨日、私達の夜会の中座に、医師の呼び出しと騒ぎが大きくなり過ぎたようだ。騎士団から何か問題が起きているのではないかと問い合わせを受けた。もうすぐ彼らがやってくる」
「……えっ」
「ラバール侯爵家として、お前の罪を隠し庇うことはできない。せめて、正直に己の罪を彼らに話しなさい」
「ですから、私はっ」
言いかけると、継母がほっとしたように振り返る。
執事に連れられて、騎士服を着た男達がやってくるところだった。
「お話を聞かせて頂けますね?」
抵抗しても、拘束されて連れて行かれるだけだ。
そのことをよく知っている私は、彼らの方に向かう。
「…………私は犯人ではありません。ですが、調査に必要だということでしたらご協力致します」
「お嬢様っ」
ケイトが庇うように前に出ようとするが、手で制す。
「ケイト、大丈夫だから」
ケイトまで巻き込むわけにはいかなかった。
私は無抵抗のまま、騎士に連れて行かれた。
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