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53.牢
一度目と違うのは、そこが貴族向けの牢だということだった。
窓に鉄格子が嵌まっているが、室内の調度品は一流とは言えないまでもそれなりのもので、一度目に入れられた平民向けの牢に比べれば遙かに快適な場所だった。
「お話を聞かせて頂けますか」
私を連行した騎士とは別の騎士がやってくると、牢の中にあるテーブルセットの席に着いた。尋問は彼らの上役がするようだ。彼が私の正面に座ると、昨日の話を聞かれた。
「私はやっていません。昨日、お話しした通りです」
「そうでしたな。弟さんにお茶の席に誘われ、そこで弟さんが毒に倒れたと」
「はい。あの、エリクさんは助かったのですか?」
結局、エリクさんが無事かどうか誰からも聞くことが出来ていない。
「残念ながら、加害者に被害者の事は教えられません」
「だから、私は毒など盛っておりません!」
「ですがねぇ。どこの世界に、自分で準備した毒を飲む犯人がいるというんです」
「それは……」
「それよりは、前々から、母親違いの弟を邪魔に思っていた姉が、隠し持っていた毒をこの機会にと使ったと言われる方が遙かに納得できるんですよ」
「…………」
「そうそう、この小瓶に見覚えは?」
尋問官が取り出したのはガラスの小瓶だった。
見覚えのないそれに首を傾けると、騎士は意地悪く笑う。
「おかしいですねぇ。これは、あなたの部屋から見つかったのですが」
「えっ」
「この小瓶からも毒が検出されています。いやぁ、誤魔化し方がお上手だ」
騎士は真顔に戻ると私を睨み付けた。
「それで、これでも違うと言われますか?」
「違います」
かろうじて答えたものの、騎士の刺すような視線を受け止めきれず、私は顔をうつむけた。
「早い段階で罪を告白した方が結果的にはあなたのためにもなるのですが」
本当にやっていないのだ。
「私ではありません」
繰り返すと、彼は残念そうに首を振る。
「そうですか。気が変わられましたら教えてください」
それだけ言うと、騎士は諦めたように牢から立ち去った。
誰の気配もなくなったところで、握りしめた手の上に、雫が一つこぼれ落ちた。こらえようと思ってこらえきれなかった涙が次々に落ちていく。
「……結局、何も変えられなかったのね」
やり直しても、結果は一緒だった。
私が死ぬのは変えられない事なのかもしれない。
一度目の最後を思い出して、体が震える。
できるなら、もう二度とあんな思いはしたくなかったのに。
(私は誰にも愛されないのだわ。愛を求めることが間違っていた。だから、きっと今回も――)
誰もいないのをいいことに、私は枯れ果てるまで涙を流した。
その日の夕方、思いがけない人が面会に現れた。
面会室に騎士に連れられて向かうと、柵の向こうにはクロード様の姿があった。
「……クロード先生?」
「ラバール侯爵令嬢……」
クロード様は私の顔を見て呆然としている。
「どうしてこちらに?」
「貴女の侍女に、無実の罪で捕まったから助けて欲しいと頼まれました」
ケイトが知らせてくれたのか。
「……折角クロード先生にチャンスを頂いたのに、結局こんなことになってしまいました」
涙の跡は拭ったが、目が赤くなっているのかもしれない。
努めて明るく言うが、クロード様からは痛ましげな表情が消えない。
「なんとしても、犯人を捜し出し貴女をここから助け出しますから」
それだけ言って身を翻そうとするクロード様を引き留める。
「待って。まだ行かないでください」
振り返るクロード様に、立ち会いの騎士に聞こえないよう、声を抑えて告げる。
「……を、返したいのです」
「今、なんと?」
聞き返すクロード様に、もう一度、言葉を紡ぐ。
「クロード先生に、記憶を返したいのです」
「記憶を? 一度目の記憶ということですか? 何故、今そんなことを?」
牢の中で、ずっと考えていたことだった。
「一度目の記憶があっても、私は未来を変えられませんでした。クロード先生の魔力を奪ってまでやり直す価値は私にはなかった……。だから、せめて、私に出来ることをしたいのです」
「そんなことっ、お願いです。最後まで、諦めないでください」
「でも……もしこのまま私が死ぬことになれば、クロード様の魔力はどうなるのですか?」
「そんなことはさせません。だから、貴女は私を信じてください」
クロード様は言い切ると、今度こそ立ち去った。
窓に鉄格子が嵌まっているが、室内の調度品は一流とは言えないまでもそれなりのもので、一度目に入れられた平民向けの牢に比べれば遙かに快適な場所だった。
「お話を聞かせて頂けますか」
私を連行した騎士とは別の騎士がやってくると、牢の中にあるテーブルセットの席に着いた。尋問は彼らの上役がするようだ。彼が私の正面に座ると、昨日の話を聞かれた。
「私はやっていません。昨日、お話しした通りです」
「そうでしたな。弟さんにお茶の席に誘われ、そこで弟さんが毒に倒れたと」
「はい。あの、エリクさんは助かったのですか?」
結局、エリクさんが無事かどうか誰からも聞くことが出来ていない。
「残念ながら、加害者に被害者の事は教えられません」
「だから、私は毒など盛っておりません!」
「ですがねぇ。どこの世界に、自分で準備した毒を飲む犯人がいるというんです」
「それは……」
「それよりは、前々から、母親違いの弟を邪魔に思っていた姉が、隠し持っていた毒をこの機会にと使ったと言われる方が遙かに納得できるんですよ」
「…………」
「そうそう、この小瓶に見覚えは?」
尋問官が取り出したのはガラスの小瓶だった。
見覚えのないそれに首を傾けると、騎士は意地悪く笑う。
「おかしいですねぇ。これは、あなたの部屋から見つかったのですが」
「えっ」
「この小瓶からも毒が検出されています。いやぁ、誤魔化し方がお上手だ」
騎士は真顔に戻ると私を睨み付けた。
「それで、これでも違うと言われますか?」
「違います」
かろうじて答えたものの、騎士の刺すような視線を受け止めきれず、私は顔をうつむけた。
「早い段階で罪を告白した方が結果的にはあなたのためにもなるのですが」
本当にやっていないのだ。
「私ではありません」
繰り返すと、彼は残念そうに首を振る。
「そうですか。気が変わられましたら教えてください」
それだけ言うと、騎士は諦めたように牢から立ち去った。
誰の気配もなくなったところで、握りしめた手の上に、雫が一つこぼれ落ちた。こらえようと思ってこらえきれなかった涙が次々に落ちていく。
「……結局、何も変えられなかったのね」
やり直しても、結果は一緒だった。
私が死ぬのは変えられない事なのかもしれない。
一度目の最後を思い出して、体が震える。
できるなら、もう二度とあんな思いはしたくなかったのに。
(私は誰にも愛されないのだわ。愛を求めることが間違っていた。だから、きっと今回も――)
誰もいないのをいいことに、私は枯れ果てるまで涙を流した。
その日の夕方、思いがけない人が面会に現れた。
面会室に騎士に連れられて向かうと、柵の向こうにはクロード様の姿があった。
「……クロード先生?」
「ラバール侯爵令嬢……」
クロード様は私の顔を見て呆然としている。
「どうしてこちらに?」
「貴女の侍女に、無実の罪で捕まったから助けて欲しいと頼まれました」
ケイトが知らせてくれたのか。
「……折角クロード先生にチャンスを頂いたのに、結局こんなことになってしまいました」
涙の跡は拭ったが、目が赤くなっているのかもしれない。
努めて明るく言うが、クロード様からは痛ましげな表情が消えない。
「なんとしても、犯人を捜し出し貴女をここから助け出しますから」
それだけ言って身を翻そうとするクロード様を引き留める。
「待って。まだ行かないでください」
振り返るクロード様に、立ち会いの騎士に聞こえないよう、声を抑えて告げる。
「……を、返したいのです」
「今、なんと?」
聞き返すクロード様に、もう一度、言葉を紡ぐ。
「クロード先生に、記憶を返したいのです」
「記憶を? 一度目の記憶ということですか? 何故、今そんなことを?」
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「そんなことっ、お願いです。最後まで、諦めないでください」
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クロード様は言い切ると、今度こそ立ち去った。
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