【完結】だって、今度こそ愛されたい ~巻き戻った世界で、 侯爵令嬢は自分だけを見てくれる人を探します~

乙原ゆん

文字の大きさ
51 / 70

51.秘密のお茶会

 継母の様子は気になったものの、ずっとこの場にいるわけにもいかない。
 私は自室へ戻ると、学園の規則が書かれている冊子を取ってくるように侍女に頼んだ。
 そちらを見ると、お茶会用に食堂の隣にある小規模の催し物が開催できる場所がある。借りるための申請方法についても載っていて、読み進めていたところでケイトから声がかかった。

「お嬢様、お客様が」
「どなたかしら」
「それが」

 ケイトとそんなやり取りをしているところで、可愛らしい声が割り込んでくる。

「姉上、ご無沙汰しております。今はお忙しかったですか?」
「エリクさん。ご無沙汰しております」

 顔を出したのは異母弟のエリクさんだった。
 久々に会うせいか、背が少し伸びているように見える。
 成長を眩しく感じるものの、今日はどうしたのだろう。
 私の疑問に答えるように、エリクさんは恥ずかしげに微笑む。

「お母様もお父様もお出かけされたので、今日なら姉上にお会いできると思って」
「ですが、お父様のお言いつけが」

 言いかけると、エリクさんは首を振る。

「僕がみんなに黙っているようにお願いしたから大丈夫です」

 エリクさんの言葉に、侍女達を伺うと、侍女達は頷くまではしないが、微笑みを浮かべている。

「それでね、姉上と久しぶりに会えると思ってお菓子を準備しているんです。事前にお伺いはできませんでしたが、僕のお茶会にお誘いしてもよろしいですか?」

 エリクさんが言葉と共に手を差し伸べてくる。
 事前にお伺いできなかったというのは、以前、訪問する際には先触れを出すようにと注意したことがあったからだろう。
 屋敷の中とはいえ、お父様からのお言いつけを破っても良いのだろうか。
 けれど、不安そうに私を見上げるエリクさんの表情に、無碍に断ることも躊躇われた。

「えぇ、喜んで……」

 精一杯の紳士的な振る舞いに、私は微笑んでエリクさんの差し出す手に己の手を乗せた。


 案内されたのは、食堂に隣接する談話室だった。
 久々に入った気がする。
 エリクさんは、私の椅子を引き、私が座り終えてから自分の席に着く。

「成長なさいましたね」

 以前よりもスムーズなエスコートに感動すると、エリクさんは嬉しそうに微笑んだ。

「姉上に褒めていただけて嬉しいです」

 そうしたやり取りをしていると、テーブルにお菓子や飲み物が運ばれてくる。
 クッキーなどの焼き菓子やフルーツが美しく並べられたのを見届けてエリクさんは言った。

「どうぞ召し上がってください」
「ええ。いただくわ」

 私を緊張した様子で伺うエリクさんに微笑みかけ、紅茶に口を付ける。

「美味しい」
「よかった。いつも姉上が飲まれている紅茶を侍女に聞いて、近いものを取り寄せたんです」
「そこまでしてくれたの?」

 というか、エリクさんは両親のお出かけを知っていたのだろうか。
 そうでなければこのお茶会は開催されなかったわけだが、どうしてもそのことが気になって私は尋ねた。

「エリクさんは、お父様達のお出かけをご存知だったのですね」
「はい。お母様は随分前から今日のお出かけを楽しみにされていたみたいで、教えてくれていたのです」

 頷く私に、エリクさんは自分の前に置かれたグラスを取った。
 リンゴジュースだろうか。淡い色合いの飲み物を一口飲む。

「そうだ。これ、料理長のおすすめみたいです」

 そう言ってエリクさんが取り分けてくれたのは、果物を沢山つかったパウンドケーキだった。

「エリクさんはよろしいのですか?」
「ちょっと大人向けのお味だから、今の僕には早いって聞きました。こんなに美味しそうなのに……」

 エリクさんは隠そうとしながらも、羨ましそうにパウンドケーキを見つめている。
 その姿がいじらしく、つい思っていることを口に出していた。

「一口だったら、構わないのではないかしら」
「いいのかな」
「誰にも話しませんわ」

 私はエリクさんにケーキを取り分ける。エリクさんはにこっと微笑んだ。

「はい! 内緒でお願いします! 姉上ありがとうございます」

 エリクさんは、取り分けられたケーキを一口、フォークで口に運ぶ。

「わ、おいし……」

 目を丸くしたエリクさんが、突然驚いたように固まった。

「エリクさん? どうされたのですか?」
「なに、これ、にがっ」

 そのまま、喉を押さえて椅子から倒れる。

「エリクさんっ」

 私は急いでエリクさんの側に寄った。
 エリクさんは倒れながらも私に手を伸ばしてくる。
 私はその手をしっかりつかみ、握り返す。

「どうしたのっ、何がっ」

 一瞬、アルコールが強いのかとも思ったけれど、エリクさんの様子は尋常ではない。

「もしかして毒……?」

 はっと気がついて、テーブルの水差しを掴んで、エリクさんの口に注ぎ口を充てる。
 けれど、エリクさんは喉を押さえて首を振る。
 喉も痛いのかもしれない。
 その間にも顔色は真っ青を通り越して白くなっており、このままではよくないと私にもわかるくらいだ。

「エリクさん、苦しいでしょうけれど、水を飲んで。飲み込んでしまったものを、吐いた方が良いわ」
「うぅっ……」

 なんとか水を飲ませると、背中をさすって吐き出させる。

「誰か、医師を! 早く医師を呼んで!」

 私の言葉に呆然としていた侍女がはっとして駆けていく。
 その後も水を飲ませてと何度か繰り返し、ぐったりとしたエリクさんを支えているとようやく医師が到着した。

「これは……」

 医師はエリクさんを見て絶句した。

「これは、どういう状況ですか?」
「そちらのケーキを一口食べてから、苦いと言って。喉に痛みもあったようです。私はとにかく水を飲ませて、食べてしまった物を吐きださせました」
「なるほど。毒だと思われたのですな。適切な処置だと思います。ここから先は私が見ましょう。お嬢様はお部屋にお戻りください」

 医師の助手がエリクさんを抱きかかえ、安静に出来るところに連れて行く。
 私はそれ以上出来ることもなく、自室へと戻った。
感想 24

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

あなた方には後悔してもらいます!

風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。 私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。 国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。 それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。 婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか! お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。 事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に! 彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います! ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。