47 / 65
四十七.生贄娘、相談する
しおりを挟む
その夜のことだった。
今日も昨日と同じく布団が並べて敷いてある。
昨晩も何事もなく過ぎたし、白麗が照れる様子もなく布団に入り込むと、香世ばかりが白麗を気にするのがおかしな気がして、同じく自分の布団に潜り込み、疲れもあってすぐに寝入った。
異変は、その夜更けに起きた。
白麗のうなり声で、香世は目が覚めた。
「……白麗様?」
声をかけるが、返事はない。最初はうなり声かと思ったが、聞いていると苦しんでいるようにも聞こえる。
「白麗様、起きていらっしゃるのですか?」
思わず体を起こして声をかけても返事はない。
「夢を見ておられるのかしら」
起こしても夢から覚める様子はなく、苦しむ白麗を見かねて背中をさすると、ふと白麗の呼吸が和らいだ。
(……よかった)
少しでも白麗が楽になるのならばと、香世は白麗がうなされることのない深い眠りに入るまで、背を撫で続けた。
翌朝、起きると、香世は白麗に正面から抱き込まれていた。
昨晩は途中で起きたせいか、体は寝不足を訴えているが、二日連続で寝坊するわけにはいかない。気合いを入れて、白麗に声をかける。
「白麗様、起きていらっしゃいますか?」
何度か声を掛けると、ようやく白麗も目が覚めたようだ。
「おはよう。香世。やはり、朝から、香世が腕の中にいるのは格別だな」
そんなことを言う白麗に、普段ならば照れてしまうのだろうが、香世は昨晩のことが気になって声をかける。
「昨日は良く眠られましたか?」
「あぁ。もちろんだ。香世は?」
尋ねてみるが、白麗に自覚がないのか、うなされていたことを教えてくれるつもりがないのかはわからない。
「私も良く眠れました。白麗様は枕が変わって眠れないなどないのですね」
「どちらかというと、戻ったら香世を探して目が覚めてしまいそうだ」
白麗の軽口に、探りを入れようにもそれどころではない。
そんな話をしているうちに紫水の眷属が起こしにやってきて、結局詳しく話を聞けないままに朝餉へと向かうのだった。
白麗のうなされようは気になるものの、一晩だけなら様子を見て良いかもしれない。
そう思っていた香世だったが、翌日も、その翌日の夜も白麗はうなされていた。
起こそうとしても目覚めない白麗に、ふと、もしかしてこれはここ三日だけのことではないのかもしれないと気が付く。
紫水のところに来るまでは寝室も別だったし、初日は疲れていて白麗を気にするどころではなかった。
考えている間にも白麗は苦しげにしていて、香世にできることはうなされる白麗の背を撫でることだけだった。
「寝不足のようだな」
翌朝。いつものように朝餉の後、紫水の講義に向かうと、向かい合って座った紫水にそんなことを言われてしまう。
「……はい、少し」
「眠れていないのか? 体調が悪いのなら、今日は休みにしようか」
心配げな表情を浮かべる紫水に、香世は迷った末に口を開く。
「……あの。ご相談なのですが」
「なんだい?」
「夢見をよくする薬などございますか?」
少なくとも、そのような薬は香世が知る範囲にはない。砥青に教わった知識にもないので、紫水が知っている可能性は低いが、それでも聞かずにおれなかった。
「夢見を……? それは、つまり夢見が悪くて良く眠れないということか」
紫水は香世に言いつのる。
「他に症状は? 寝付きが悪いとか、体が冷えるとか」
心配げな紫水に、大事なことを伝えていなかったと首を振る。
「その、私ではないのです。白麗様が、毎晩うなされておられて」
「なるほど。白麗だったか。うなされているというのは、こちらに来てからか?」
「……わかりません」
首を振ると「おや?」という顔をしながらも紫水は頷いた。
寝室を別にしていたと伝わってしまったようだ。
「まぁ、それぞれ事情はあるだろう。本人から詳しく話を聞いてみる必要があるな。香世殿から聞いたと伝えるかもしれないが、いいだろうか」
「どう伝えられるかは、お任せします」
「ありがたい。後で白麗にも話を聞いておこう。香世殿は、今日はもう休みなさい」
「ですが」
「ここ数日、あまり眠れていないのだろう。顔色が悪い。その状態では頭も働かない。無理して詰め込む必要は無いのだから、また明日改めて授業を行おう」
「時間を取っていただいているのに申し訳ありません」
「いや。こちらこそ、言いにくいことを相談してくれて感謝する」
そうして、香世は離れに引き返した。
白麗は今日も眷属に話を聞かれているのか不在で、眷属が準備してくれた布団に横たわり、香世は眠りに就いた。
今日も昨日と同じく布団が並べて敷いてある。
昨晩も何事もなく過ぎたし、白麗が照れる様子もなく布団に入り込むと、香世ばかりが白麗を気にするのがおかしな気がして、同じく自分の布団に潜り込み、疲れもあってすぐに寝入った。
異変は、その夜更けに起きた。
白麗のうなり声で、香世は目が覚めた。
「……白麗様?」
声をかけるが、返事はない。最初はうなり声かと思ったが、聞いていると苦しんでいるようにも聞こえる。
「白麗様、起きていらっしゃるのですか?」
思わず体を起こして声をかけても返事はない。
「夢を見ておられるのかしら」
起こしても夢から覚める様子はなく、苦しむ白麗を見かねて背中をさすると、ふと白麗の呼吸が和らいだ。
(……よかった)
少しでも白麗が楽になるのならばと、香世は白麗がうなされることのない深い眠りに入るまで、背を撫で続けた。
翌朝、起きると、香世は白麗に正面から抱き込まれていた。
昨晩は途中で起きたせいか、体は寝不足を訴えているが、二日連続で寝坊するわけにはいかない。気合いを入れて、白麗に声をかける。
「白麗様、起きていらっしゃいますか?」
何度か声を掛けると、ようやく白麗も目が覚めたようだ。
「おはよう。香世。やはり、朝から、香世が腕の中にいるのは格別だな」
そんなことを言う白麗に、普段ならば照れてしまうのだろうが、香世は昨晩のことが気になって声をかける。
「昨日は良く眠られましたか?」
「あぁ。もちろんだ。香世は?」
尋ねてみるが、白麗に自覚がないのか、うなされていたことを教えてくれるつもりがないのかはわからない。
「私も良く眠れました。白麗様は枕が変わって眠れないなどないのですね」
「どちらかというと、戻ったら香世を探して目が覚めてしまいそうだ」
白麗の軽口に、探りを入れようにもそれどころではない。
そんな話をしているうちに紫水の眷属が起こしにやってきて、結局詳しく話を聞けないままに朝餉へと向かうのだった。
白麗のうなされようは気になるものの、一晩だけなら様子を見て良いかもしれない。
そう思っていた香世だったが、翌日も、その翌日の夜も白麗はうなされていた。
起こそうとしても目覚めない白麗に、ふと、もしかしてこれはここ三日だけのことではないのかもしれないと気が付く。
紫水のところに来るまでは寝室も別だったし、初日は疲れていて白麗を気にするどころではなかった。
考えている間にも白麗は苦しげにしていて、香世にできることはうなされる白麗の背を撫でることだけだった。
「寝不足のようだな」
翌朝。いつものように朝餉の後、紫水の講義に向かうと、向かい合って座った紫水にそんなことを言われてしまう。
「……はい、少し」
「眠れていないのか? 体調が悪いのなら、今日は休みにしようか」
心配げな表情を浮かべる紫水に、香世は迷った末に口を開く。
「……あの。ご相談なのですが」
「なんだい?」
「夢見をよくする薬などございますか?」
少なくとも、そのような薬は香世が知る範囲にはない。砥青に教わった知識にもないので、紫水が知っている可能性は低いが、それでも聞かずにおれなかった。
「夢見を……? それは、つまり夢見が悪くて良く眠れないということか」
紫水は香世に言いつのる。
「他に症状は? 寝付きが悪いとか、体が冷えるとか」
心配げな紫水に、大事なことを伝えていなかったと首を振る。
「その、私ではないのです。白麗様が、毎晩うなされておられて」
「なるほど。白麗だったか。うなされているというのは、こちらに来てからか?」
「……わかりません」
首を振ると「おや?」という顔をしながらも紫水は頷いた。
寝室を別にしていたと伝わってしまったようだ。
「まぁ、それぞれ事情はあるだろう。本人から詳しく話を聞いてみる必要があるな。香世殿から聞いたと伝えるかもしれないが、いいだろうか」
「どう伝えられるかは、お任せします」
「ありがたい。後で白麗にも話を聞いておこう。香世殿は、今日はもう休みなさい」
「ですが」
「ここ数日、あまり眠れていないのだろう。顔色が悪い。その状態では頭も働かない。無理して詰め込む必要は無いのだから、また明日改めて授業を行おう」
「時間を取っていただいているのに申し訳ありません」
「いや。こちらこそ、言いにくいことを相談してくれて感謝する」
そうして、香世は離れに引き返した。
白麗は今日も眷属に話を聞かれているのか不在で、眷属が準備してくれた布団に横たわり、香世は眠りに就いた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる