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第2章~黎明~

断念と決意

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佐伯と倉敷は角田と連絡先を交換し、一度地元へと帰った。佐伯と倉敷は現在21歳で大学生だ。
一方の角田はというと33歳で会社員をしている男だ。住んでいるところも違えば年齢も違う。当たり前のことだがそれぞれの人生がある。とくに会社員なんて休みがあまりにも長く続けば、周りにも迷惑がかかる。
つまりは短期決戦で決着をつけるほかないのだ。そういうこともあり、とりあえずは佐伯と倉敷の2人で他の能力者を探すことに。謎の生物と戦う前にそれぞれの能力を把握しておく必要もあるので、会社員の角田には普段通りの生活をしてもらい、その合間を使用し能力の使い方や制限をしっかり理解しておく準備期間として過ごしてもらうことになった。角田が自身の能力に集中している間、2人は倉敷が見つけたもう一人の能力者候補を見つけ出すことに・・・。倉敷が見つけた情報によると、20代前半の女性で北海道に住んでいるらしい。「これは広島より厳しそうだな。北海道ってめちゃくちゃ広いぞ。」佐伯は探す前から後ろ向きになっていた。「落ち着けよ。むやみに探すのはもうやらないから。情報収集に力入れてしっかり特定していこう。」倉敷は佐伯を安心させる。
「そうだよな。わりぃ。」「もう慣れてるから大丈夫だよ。」さすが幼馴染というか、もはや倉敷は佐伯の親かというほど面倒を見ている感じだ。2人はSNSを駆使してひたすら情報収集をする。本人や周りの友人など、多方面から
1日中調べ上げなんとかそれらしいところまで特定することができた。
翌日、2人はさっそくその女性のもとへ向かった。角田の時と同じように能力の有無を確認、そして事情を話し、
協力してくれるよう依頼した。しかし、「お断りします。」たった一言、彼女はそう言って2人に背を向け去って行った。2人はぽかーんと去っていく彼女の背中を見ているだけだった。その後、何度訪れても断られるばかり。
しかし、佐伯も倉敷もうすうす勘付いていた。これが普通の答えだということに。自分達は謎の生物から日本を取り返そうと思い、自ら立ち上がった。角田は性格的にもそういうことが好きそうな変わった奴だった。今までの出来事がたまたまの連続だったのだ。それでも諦められることではない。貴重な能力者であることは確認できたわけだ。
なんとか説得して仲間にしたいところだ。「何度来てもあたしの考えは変わりません。あなた方に協力するということがどれだけリスクが高いことか。あたしは今の生活に何の苦渋もないですし、今のままが平和なんです。」
見せしめがあった以上、人々には圧倒的な恐怖が植え付けられている。倉敷が言葉巧みに誘っても彼女の気持ちは
一切振り向くことはなかった。「屋島美鈴・・・。ちょっと厳しいな。」倉敷がポロッと弱音を吐く。
それも当然、ここ1週間誘いっぱなしだが、少しも屋島美鈴の感情は動かず、即拒否されてきたのだ。

【屋島美鈴・19歳・札幌で美容師を目指しており、現在専門学校に通っている。】
ざっと把握できた彼女の経歴だ。実は彼女には謎の生物と大きな接点があった。

「当然、怖い気持ちもあると思います。でもこのままの暮らしに納得をしている人間はほぼいないと思っています。」「そう、でも謎の生物は一般人ではとても太刀打ちできない。だから特殊な能力を授かった俺たちで取り戻したんだ。」倉敷の必死な交渉に佐伯も参戦する。「そんなことはわかっています。でも1つの能力を手に入れたところで、安全に取り返せる根拠もないですよね?具体的にどう戦うつもりですか?」屋島は何度も断っているのに交渉をしてくる2人に問いかけた。「それは・・・」佐伯は言葉に詰まる。「それはまだこれから考えます。メンバーを集めてそれぞれの能力に関するメリットとデメリットを把握したうえで作戦を練る必要があると思います。」
倉敷が事実をもとに一番の形である交渉をする。「あなたたちの話だと、能力を持った人は私を含めて5人だけですよね。そして謎の生物は1000体もいる。それでどう立ち回るつもり?どんなに立派な作戦を考えても圧倒的に戦力不足だと思いますが。」「それは否定できません。」倉敷が押される。この計画を立ててから初めての場面だ。
そんな状況に佐伯も焦る。「あなたたちに何を言われても私は協力するつもりはありません。
それでは失礼します。」これで2人が屋島に断られた回数は8回にもなる。正直、心が折れてきている。
しかし、倉敷は屋島にたいして思うところが何点かあった。まずは話している時の表情だ。倉敷の言うことには嘘は1つもなかった。それは屋島も分かってくれていたようで、どこか心苦しそうに断り続けている表情を浮かべてい
るようにも見えた。それは、怖いから、自分が率先してそんな危ない目に合わなくていいのではないかと、訴えかけているかのようにも見えた。「彼女、何か隠してる雰囲気だな。」佐伯との帰り道に倉敷はぼそりと呟く。
一方、屋島は「ママ―ただいまー。」「あら、美鈴おかえり。今日は早かったわね。」「うん、そろそろ諦めてくるころじゃないかしら。」屋島美鈴は母親に能力のこと、そして佐伯と倉敷が謎の生物と戦うためにその力を貸してくれと勧誘してきていること全てを話している。「美鈴、お母さんに気を遣わなくていいのよ。あなたはあなたのしたいようにしなさい。」「あたしは別にママに気なんか遣ってないわよ。そんな危ない目に遭いたくないし、今の生活だって苦しいわけじゃない・・・」段々と俯いて黙り込む。「お母さんね、お父さんのことは誇りに思ってるの。」「ママ・・・」「それにあなたには不思議な力があるし、味方してくれる人もいるんでしょ?大丈夫よ。」「でも、たった5人で相手は1000よ。無理だわ。」「人数が多い方が勝つとは限らないわ。少ないから成立する戦法もあるはずよ。」「ママ、どうしてそんな・・・」言いかけて止まる美鈴。美鈴の母親は涙を流していた。
「お母さん最低よ。美鈴にはもちろん危険な目に遭ってほしくない。でも、心のどこかで仇を取ってほしいと思ってる自分がいる・・・」そういうと美鈴の母親は崩れ落ちその場で泣き喚いた。美鈴はかける言葉も見つからず泣いている母親を見つめるだけだった。美鈴自身とても悩んでいることは確かだった。父親の死、それも謎の生物による見せしめの1人が美鈴の父親である屋島典之だったのだ。母親の仇を取ってほしいと思っているというのはそういうことだった。そしてもう1つ、美鈴の親友だった望月愛が行方不明になった時期と謎の生物が出現した時期が同じくらいだったので美鈴は何か繋がりがあると考えていた。しかし、今までそれを確認する方法を一切思いつかなかった、いや、家族がいるうちは無茶な生活はしないと決めたのだった。それにより親友である望月の捜索を辞めていた。
この2つの出来事が美鈴の思考を悩ませていた。調べたい気持ちを抱きながら、怖い・家族と一緒にいたいという気持ちもあったのだ。美鈴は未だに一歩踏み出せずにいた・・・。

「倉敷のその予想が事実だったとして、それを探るのは相当大変だろうな。そもそも確証があるわけではないからな。」佐伯は骨折り損になることを懸念した。倉敷の考えでは屋島美鈴は何か隠している秘密があり、協力しないと言いつつ自身が納得のいかないような表情を浮かべていたこと解明すれば仲間にできる糸口があるのではないかということだった。しかし、それを知るのは相当時間を要しそうだということで佐伯が否定側に回っている状況だ。
「今回はとんでもない高い壁にぶちあたったな。」倉敷は愛想笑いもできないほど悩んでいた。それには佐伯も同感だった。屋敷美鈴は全く協力してくれる雰囲気はないし、何より、最後の1人がどこの誰だか全く分かっていないのだ。仲間探しに関してはお手上げ状態だ。その中でも進展があったのはそれぞれの能力に関してほぼ完全に把握できるようになったことだ。倉敷は空をいくらでも飛べるが、距離が長ければ長いほど着地してからの動きが鈍くなる。佐伯は透明人間になれ、15秒以内は何度も透明になれるが、それ以上は最大5分までしか透明になれない。
そして使用後は10分間使えない。角田は右手で触れると破壊、左手で触れると再生する。両方合わせて1日30回まで能力を発揮できる。3人それぞれ能力の発動のしかたは完全にマスターしたようだ。
佐伯の提案で2人は一旦北海道を離れることに・・・。そして、広島で角田と合流し、これまでの経緯と現状を話した。「そうか、じゃあもう3人で乗り込むか!」角田は声を大にして言う。「しっー!」佐伯が周りをキョロキョロしながら角田を黙らせる。「あ、わりぃ。」角田は笑いながら適当な謝罪をする。一連のやりとりが終わったのを
見計らい倉敷が言う。「でもまあ、実際その路線で考えるしかないよな。」佐伯と角田は急に黙りだす。
「一般人に声かけたところでたかが知れてるし、数を集めたら統率を取るのが難しくて逆に弱体化する可能性があるからな。」倉敷は続けて話す。「それにもっと最悪なケースを考えると、自分のポイント稼ぐために、このことを謎
の生物に密告されるのが一番怖いんだよ。」倉敷は最悪の場合まで想定して話を進める。「なるほどな。リスクはそこ等中に散らばってるってことか。」角田も珍しく真剣な顔付になる。ここでようやく佐伯が口を開く。「結局、もう3人で行くってことだろ?それで作戦考えようぜ!」佐伯は残りの2人を仲間にできなかった焦りとストレスもあり、長々と会話が続いているうちにイライラしはじめ、少し荒い口調になっていた。
「まあ、そういうことだ。」倉敷は佐伯のそれを察知し、今日は解散する方向で話を進めた。
「じゃあ、また明日会って、その時は作戦会議だな。」角田が確認をして解散した。

翌日、3人はわかっている情報のみで立てられるざっくりとした計画を立てた。あえてざっくりにすることで新事実の発覚やハプニングが起きたときにすぐ変更・対応できるようにした。そうした最大の理由は把握している情報が少なすぎるということ。これが一番の要因となった。簡単に言うと全国の謎の生物を全て退治するのは厳しいから、
一番数が多いが日本の都市である街を支配しているメンバーで構成されている奴等を退治することが日本を取り戻すのに一番手っ取り早いのではないかという考えだ。そうと決まれば角田に有休を取ってもらいその日程で東京にて作戦決行となった。実際、角田が有休を使えたのは1週間後だった。その期間それぞれは個人的に修業をしたり、謎の生物に関してリサーチしたりして時を待った。そして決戦前夜、仕事を早上がりして東京に来た角田を佐伯と倉敷で出迎える。「なにそんなこわばった顔してるんだよ。」角田の顔に緊張が走っていた。「そうだよ。今日は3人で楽しく飲もうぜ。」佐伯が珍しく落ち着いていた。倉敷と2人でいる時は緊張するタイプだったのに、妙に落ち着いている。そして、3人で居酒屋に出向き夜遅くまで飲み明かした。
誰もこの3人を見て、次の日に謎の生物に反乱を起こすとは思わないだろう・・・。
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