Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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落花ノ章

17 極道の平和な願望は永遠の誓い

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翌日になって。それなりに(?)兄貴を心配していた幹哉たちだったのだが…

「失礼します!」

舎弟である3人は兄貴宅の鍵を持ち、入る事を許されている。いつものように玄関から声を張り上げ、リビングへ入ると彼らの表情が一瞬で能面の如く“無表情”で固まった。

「おう、来たかお前ら。」

「おはようございます、司さん将也さん幹哉さん。ちょっと待ってて下さいねー……はい、終わりですよ圭介さん。」

「サンキュー、美優。」

あれだけ散々嘆きヘソを曲げていたのも何処へやら…翌朝の圭介は機嫌良くソファーで『踏ん反り返って』いた。

どうやら寝起きにシャワーを浴びたらしく、その後のアフターケアを美優にやってもらったらしい。ガラステーブルの上には薬のチューブやフィルムが置かれている。

「…兄貴…結局姉貴に話したんすね。何だか内緒にしときたいって感じだったんで、昨日…司達と気にしてたんすよ。」

「クックッ…そりゃ悪かったな。どうやらオレは美優には隠し事は出来ねぇみてぇだ。…コイツもコイツですぐに見破っちまうしな。」

「仲が良い証拠っす。でも…姉貴自らの手でコレ塗るとか…おっかなくないんすか?」

「そっすよ。仮にも目に見えづらくたって『傷』すよ?女はこういうの嫌がるっすからね。」

「全然大丈夫です。血もある程度なら平気ですし。それにこういう『傷』って、他人(ひと)の手の方が治りが早いんですよ?」

「…っ、まるで病院の看護師みたいっす。」

「優しいっすねぇ…さすが我らが姉貴っす!」

「……。そういや…オレがリンチ食らって怪我して帰って来た時も…驚いてはいたが、ちょっと具合を見て氷用意したりとかしてたな。」

「大体の予備知識は持ち合わせてますよ、これでも。…でも本当ならすぐに消毒した方が良かったんですけど、圭介さん『外に1人で行くな!』って怒るから…」

「当たり前だろが!ココはススキノがすぐ側なんだっ!お前なんかキャバクラのキャッチャーどもの格好の餌食だ!何回も言わせんなっ。」

「……がう。」

「…ほぉ、『餌食』だから『がう』ってか。あっはっはー……おいコラ美優、お前おちょくってんのかっ。」

「……。そうは言っても兄貴…もうその時点で完全に落ちてたんすよね?姉貴に。」

「…ッ…」

『がう』と言って逃げていった美優の背に向かって圭介がツッコみ、幹哉はその彼にポソッと呟く。途端に言葉に詰まった圭介を見て、幹哉はやっぱりなと笑った。…彼の言葉の全てには『愛情』が込もっているのを感じ取ったのだ。

「……はぁ、やれやれだな…お前はなかなか察しが良いな、幹哉。」

「好きこそ物の上手なれ、って奴なんすかね。尊敬する人だからこそ、どんな事でも知りたいし力になりたいと。」

「…ありがとな。」

その後まもなく戻ってきた美優に推し進められるままに着替え、マンションを出た圭介らは霧山が築いた『札幌スカイツリー』を切り崩すべく仕事をこなしていく。

その怒涛の勢いは凄まじく、社長であり会長の笛木は「…清水?別に霧山と張り合わなくても良いんですよ?少しは考えなさい。」とドン引きする始末だ。

そんな日々などあっという間に過ぎていく…気が付けば数週間が有に経ち、圭介が新たに入れたタトゥーも綺麗に仕上がった。

「いやぁ~、1か月も経たずにこんだけ綺麗に完成するとか超ビックリなんだけどぉ。」

「右腕のコイツの時より早い気がするぞ。」

「だよねー♪やっぱ『愛の力』ってヤツ?なははっ♪」

郁哉は圭介の左胸に完成した自身の新たな作品の仕上がり具合に大満足しつつ、アフターケアの全てを美優がやってきた事を知って茶々を入れる。

「でも彼女サン健気すねぇ~。男の自己満足で入れたモンなのにさ、ちゃーんと理解してアフターケアまでしてくれんだからさぁ。」

「アイツに言わせると『私のモノでもありますから。』だとよ。」

「…ふぅーん♪…清水さん?もし彼女サンが『タトゥー入れたいっ。』ってなったらぁ、是非ウチに…」

「アイツは駄目だ、肌が弱えからなぁ。それ以前にアイツの身体にタトゥーとか…オレが許すと思ってんのか?郁哉。1ミリの傷だってぜってぇ許さねぇ。」

「……あっははぁ…怖え~清水さぁーん…」

あっさり新規の顧客獲得に失敗した郁哉は苦笑いながらも、自分の作品の出来栄えが余りに良くて『写真撮らせて!』と強請りデジカメにそれを収める。

こうして自らの作品を画像で残して収集するのが郁哉のちょっとした趣味だった。当然ながら圭介の右腕にある『昇り龍』の画像もちゃんとある。

タトゥーも完成し、生活も全てが元に戻った頃には…師走は終わりかけ、クリスマスが近づいていた。

そんな頃、圭介は1人で“あるショップ”を訪ねる。

「…いらっしゃいませ…あ。」

「おう、久し振りだな。」

「清水さん?!…どうしたんすか?」

「……ちょっとな。」

ここは札幌市内にあるジュエリーショップで、海外からも買い付けを行う宝石商でもある。

ショップの店員である男は圭介の知り合いで元『暴走族』の後輩だ。今ではとてもそうは見えない好青年である。

「あ、そういや清水さん…ススキノ界隈ですんごい噂になってません?…『北斗聖龍会若頭の女は超絶美女』って。」

「クッ…まだ消えてねぇのかよ、その噂…」

「…もしかして。その女と今日ウチの店に来た理由って…関係してます?」

「……。まぁ…な。何か良いモンねぇか?田島。」

「うぅ~んっ…それって、時期ですからただ単に女への『プレゼント』ですか?それとも……、…それによって勧めるモノが決まります。」

「……。ただの『プレゼント』…じゃあねぇ、な。」

「だったら断然!『ダイヤモンド』でしょ!『指輪』でしょ!台になるリングはもちろん『プラチナ』!…良いのがあるんですっ、ちょうど!」

某テレビショッピング通販番組の名物会長と、今やタレントと化した有名塾の先生を足して2で割ったような…妙な口調になった田島と呼ばれた彼は、途端に意気揚々と奥へと引っ込んだかと思ったらすぐさま出て来た。

「これ…先週買い付けられたばかりのダイヤモンドです。1カラットで立て爪カット加工、リングは純プラチナ!持ってて絶対損しない品物ですっ。」

「……。ふん…確かにモノは良さそうだな。」

「ですよねーっ!ごくありがちなシンプルなデザインですけど、清水さんならこのモノの価値をわかってくれると思ってました!」

田島が嬉々とした営業スマイルで勧めるそのリングを、圭介は訝しむようにマジマジと見つめる。幹哉の時もそうであったが、彼は行く先を左右する重要な時を決める時ほど慎重になる傾向がある。…美優の時や血が滾る時は『例外』だが。

「……。よし…お前のその言葉を信じて、コイツをくれ。」

「っ!ありがとうございます!」

圭介の言葉にキラキラとした笑みで答え、田島はいそいそとプレゼント用の包装をする為に振り返ったのだが…

「…清水さん。指輪のサイズってわかります?」

「……。わからねぇ。…が、大体ならわかるぞ。」

「え。」

サイズがわからなければどうにもならないではないか…と思った田島だが、『大体ならわかる』というその意味がわからず固まった。

だが当の圭介は全く意にも介さない様子で店内を見渡すと、女性店員の1人に声を掛けた。

「…ちょっとアンタ。悪りぃがその左手を貸してくれ。」

「えっ…、…えっ?!」

言いながらも既に圭介は女性店員の左手を掴み、僅か見つめたかと思うと次には指を絡ませ握り締める。お客様とはいえ、見た目外面の良い男に突然そんな事をされようものなら、女性なら誰だって赤面する。例外なくこの店員もその1人だ。

そして対する圭介はというと、納得したかのように小さく頷くと手を離して礼を口にするものの、当然そこには何の感情もない。

「サンキューな。…おい田島、この女店員の左手の薬指のサイズで用意してくれ。あるか?」

「……。相変わらずやる事が奇抜ですね清水さん…ねぇ、サイズ何号?」

「えっ…7号、ですけど…」

「そのサイズならありますので、すぐに用意出来ます。…けど…よくあれだけでわかりますね?ま、もし合わなかったとしても…」

「…おい。しょっちゅうアイツの手ぇ握ってるオレが、その感触を覚えてねぇ訳ねぇだろが。」

「……。ある意味、特技みたいなもんですね…」

田島は一瞬言葉を失うが何とか取り繕い、品物の包装を同僚に頼むと共に支払いの手続きを進めていく。

「…清水さん。今更なんですけど…『結婚』するんすか?」

「……。ホントに今更だな…お前。てっきりわかってるモンだと思ってたぞ。」

「っ、え?!マジすか!ちょ、え?!」

「オレはお飾りなんかはいらねぇ。常に欲しいモンは本気の『ホンモノ』だ。…そのホンモノを見つけた…だから『結婚』する、それだけの事だ。」

「………。」

「まぁ、オレにもこんな平和な願望があったのかって…自分でも驚いちゃいるけどな。」

そう言って圭介は笑うが田島は今度こそ本気で言葉を失った。昔の彼は『女嫌い』なのではとすら疑っていた事があるくらい一貫して無愛想だったのだ。

「……あ?なんだそのアホ面は。」

「い、いやっ…前はススキノとかで見かける度に、連れてる女が…いつも『違ってた』んで。…その…何つうか…」

「……。あぁ…何年も昔の話じゃねぇかよ。あの頃オレに寄って来てた女どもは『腐れ女』だったからな。」

辛辣な言葉でフン!と鼻白む圭介に、田島はもはや嫌な汗しか出てこない。けれど同時に『今の女』がどういう人なのかと気になったが…彼はそれ以上を聞くのを止めた。

「…上手くいくと良いですね、プロポーズ。」

「一緒に住んでるってのに、嫌だって断る方がおかしくねぇか?」

「そうですけど…『まだ結婚は早い。』って思ってる可能性だってあるじゃないすか。」

「……。断られる可能性…か。…それはねぇわ。」

田島が差し出す、綺麗に包装されたリングケースが入れられた小さな紙袋を手を取り、圭介はスーツの上着の胸ポケットに入れていたサングラスをスッと卒のない動きで掛ける。

「田島、サンキューな。おかげで良いモンが手に入った。…次は『結婚指輪』を頼みに、ウチのも連れて来るぜ。」

「…はい是非。お待ちしてます。」

薄い笑みを浮かべ片手を上げて店を去っていく圭介を、田島は店の前でその車を見送った。
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