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番外編 本部長霧山悠斗の恋
待ちに待った慶事
しおりを挟む今では夫婦となった若頭清水と美優の2人が撃たれたあの騒動から、早いもので1年が過ぎた。
そして同時にそれは霧山とほのか2人にとって記念日でもあり、この2組の夫婦は切っても切り離せない何かと因果な繋がりがある。
そんな夫婦がやって来たのは、市内の郊外にある高級料亭『景雲郷』。…結婚記念日くらいは外食して祝うかと、霧山が先んじて予約していたのだ。
また飲まされる事になるだろう当たりを付け送迎を頼み、以前にも来た時と同じ個室へと案内される。
「うわぁ…やっぱ素敵~。すっごく綺麗な景色って言うかお庭だよねっ。」
「…まぁな。景色良くなきゃこんな山奥、誰も好き好んでこの時代に来やしねぇよ。まぁせいぜい…アホなチンピラや頭の回らねぇド素人が殺っちまった死体を埋めに来るくらいだろ。」
「や、殺っちまったって…もう!どうしてそういうコト言うの!食欲なくなっちゃうじゃんっ。」
「ンだよ…丁度良いじゃねぇか。お手軽にダイエット出来て。」
「そんなダイエットなんかしたくないっ。もっと健康的にっ…って、悠斗さん?もしかして…遠回しに『太った』って言ってる?」
「…。ンな事ねぇって。お前が1人で『太った!デブった!』ってギャーギャー騒いでるだけだ。」
「…むぅ。」
こんな話をしている最中でも料理はドンドンと運ばれ、あっという間にテーブルの上を埋め尽くす。そしてやはりというべきか、料亭の板長から地酒の差し入れがされた。
「おし。じゃあ食うぞ。」
「はいっ、頂きますっ。」
料理を口にしながらも他愛のない会話をし、嫁が酌してくれる冷酒を飲む。何より共にあるほのかの笑顔を見ていると、ホッとした安心感と同時に万感胸に迫る思いが湧き上がる。
「…。お前と籍を入れて1年、か。知り合ったのが更に半年くらい前だ…あっという間だな。」
当時のほのかは現役高校生で18歳になって間もない頃だった。今ではお互いに1つ歳を重ねて霧山は26歳、ほのかは時期に19歳になる。
「最初は…すぐに別れるんだろうなって思っていた。さすがに7つも違えばギャップがあり過ぎだからな。今時の若ぇヤツらは何考えてんのかよくわかんねぇっつうか、捉え所がねぇ。」
「……。」
「けどちょっと…どころじゃねぇか…『かなり』予想外だったんだよなぁ…結果的にこうして嫁にしちまったしよ。まぁ、お前がどう思っていたかは別にしてな。」
「…。それ、って…私の事、好きじゃなかった…って事?」
「いや。お前が俺の事を想っている以上に、俺はお前を『愛してる』って事さ。」
それまで真正面切っていた霧山だったがフイと視線を逸らす。その先に広がる料亭の庭を見つめながら、尚も言葉は続く。
「けど…ほのかにとって『初めての男』、『初めての恋愛』だってのに、その相手がこんな極道だったばっかりに…お前に嫌な思いさせちまった。巻き込まれて怪我だってさせたしな。」
「…っ…『こんな』なんて…言わないでっ。悠斗さんは『良い人』だもんっ…悪いトコなんて1コもないんだからっ…」
「…。お前だけだぜ…俺の事をそう言う女はよ。あんま言いたくねぇけど…数少ねぇ昔の女達は皆『俺が悪い。』って言ってたからな。」
「……知らないっ。その人達、みんな見る目がないんだねっ…今頃後悔してるかも。」
プン!と怒りを露わにそっぽを向くほのかを見て、霧山がクッと楽しげに笑う。どうやら彼女の嫉妬心を目の当たりにしてご満悦のようだ。
実際、ほのかは霧山の『浮気』も不安で仕方ない。いつも帰る時間より遅くなると、誰かと会っていたのでは?と猜疑心を持ち、こっそりとスーツのポケットを漁ったり匂いを嗅いでみたりしている。
だが一緒に暮らすようになって1年と少しの間に、霧山のスーツから『違う匂い』がした事など1度もない。
「……。浮気…でも、してみれば?1年もいればやっぱ飽きてきちゃうよ、ね…ウン、相手の女(ひと)に本気にさえならないんなら…」
「つまんねぇ冗談はやめろ、何で俺が他所の女に走らなきゃなんねぇんだよ。…俺が惚れてる女はお前だけ。俺が毎晩だって抱きたい女はほのか…お前だけだ。さっきから言ってんだろが。」
「…。ゴメンナサイ…」
「……ガキの事は…あんまり考え込むな。俺も今じゃ『いづれ還ってきてくれれば』って思うようにしている。…じゃねぇといられねぇんだよ…自分がよ。」
「き、気付いて…?」
「そりゃ気も付くだろ。毎月襲来食らう度にどんよりしてりゃあよ。」
「いや、あれは…単にお腹痛くてヘコんでた…」
「でもそれだけじゃねぇだろ。美優さんのオメデタ、知らせた時だって空元気だったし。まぁ若頭んトコにこんな早くガキ出来たって事にびっくりなんだけどな…あの夫婦も色々あったから。」
「……。」
「けど他人は他人、ウチはウチ。俺らはのんびり待つ事にするっ。…出来ればまだお前と2人でいてぇしな。」
意外な事に急に振られた子供の話題。ようやく1番わからず不安だった霧山の思いと考えを知ったほのかは、やっと解放された思いが涙と変わって静かに伝う。
「…。とはいえな、俺はいつだって良いんだ。お前が俺の子を産むっつう事に意義があるんだから。だから…デキたらすぐに教えてくれよ。…な。」
「……っ…」
「ンだよ…泣く事ねぇだろ。そんな気負う事なんかねぇって…」
そっと抱き寄せるその優しさは、誰よりもわかってくれているという心強さがあり…他人(ひと)の言葉よりも1番安心出来たのだった。
こうして更に絆が深まった夫婦は、日々の生活を再び楽しみながら面白おかしく過ごしていく。そうした中で若頭夫婦には無事に第一子となる長男が産まれ、ほのかはまるでその幸せにあやかるかのようにちょくちょく清水家に遊びに行くようになっていた。
霧山は『斜めに抜けている』嫁が何かやらかすのではと気になって仕方ないが、当の本人は楽しそうなのでヨシとした。
「はぁ…可愛い♪正に天使っ。ずっと見ていても飽きないっ。」
「ふふ、そうですか?…あ、ほのかさん…抱っこしてみます?」
「え、いいんですかっ?…でも…」
「大丈夫ですよ。あのぶっきらぼうな圭介さんですら、今ではひょいひょいと抱っこしてるんです。…首さえ気を付けて頂ければ。」
「じゃ…ちょっとだけ…」
恐々とビビりつつ抱っこをするほのかだが…
「……。いや~ん♪可愛いー♪」
すっぽりと腕に収まり、吊り目ながらもクリクリとした目を向けられ彼女はゲヘヘとデレる。今やすっかり小さな天使『流』の虜になっていた。
母となった美優と共に流の成長を見守り、時には玩具を使って遊んだりとしていると、月日が経つのも忘れてしまう程だ。だからその間に清水家に新たな家族という天使が増えようと『ウチはウチ。』とゴーイングマイウェイを貫く。
穏やかな日常もあれば波が立つ日々もある。会の会長笛木の退任話が持ち上がった事で、俄かにざわつくも…清水が2代目会長、霧山が次代の若頭となる事で事態は収束。
…ふと気が付けば、夫婦となってから3年が経とうとしていた…そんなある日。
「……うぇっ…」
「ンだよおい、いきなり…、…また俺に隠れて甘いモンでもヤケ食いしたか。」
「してないもんそんな事…うぅ、ぎもち゛悪いぃ…」
「……、…?」
「……?」
たまに何を思うのか、狂ったようにヤケ食いをするほのか。だがそうではなく具合が悪いとなると?と夫婦はハタと顔を見合わせて首を傾げ合う。
こうして口を開けば『気持ち悪い』しか言わない嫁を荷物のように脇に抱え、翌日向かったのが南雲総合病院だ。常より診療時間が早いが為に裏から入り、院長の南雲に診てもらおうとなったのたが…
「…んー。あのさ霧山くん…今回の診察は健の方がいいんじゃない?」
「は?」
「あのねー、『嫁さん』が気持ち悪いって言ってんだよ?病気疑う前に違う事疑いなよ。…そういうトコ、抜けてるよねー♪」
「……。」
「てな訳で健、頼むね。」
「はいはーい。じゃあほのかさんっ、ひと通りの検査、しましょうかっ。」
「……はぁ?」
あれよあれよと『まずはアレ、次はコレ。』といった感じで検査が進み…終わる頃には体力を異常に消耗してグッタリとしていた。その間の霧山は、まるでコンビニの入口で飼い主を待つ小型犬のようにひたすらに待つ。
「はいっ、お待たせしました!…んーと…」
「…はぁ、マジで待ちくたびれた。ンな検査なんかさっさと…」
「ダメですよ霧山さん!妊婦さんは繊細なんですっ、お腹のお子さんに何かあってからじゃ遅いんですよっ。」
「…。おい、今サラッと何言いやがった…?」
「あ!フライングしちゃいましたねっ。おめでとうございます♪妊娠6週の2ヶ月ですよっ。」
「おせぇだろ!それ言ってから注意するモンだろが普通は!!」
どこまでもノンキでのほほんとして見える健に腹立ち、霧山がくわ!とその胸倉を勢いで掴み上げる。それに慌てたのが一緒にいた院長の南雲だ。
「わわわっ、霧山くん!これでも俺の可愛い弟なんだっ、殴るのは勘弁してやってくれぇっ。…こんなひょろっこいのがヤクザに殴られたら、簡単に死んじゃうってっ。」
「…。守ってんのか貶してんのか…わかんねぇすよ南雲先生。」
「やっははは!ウチの産婦人科は健のおかげで成り立ってるからさぁー。実際、産婦人科があると『コレ』も違うしね。」
「急にカネの話をするのはやめて下さいよ。」
「いやしかし!めでたいなぁ~。おめでとうっ、霧山くんほのかさん!」
「あ…ありがと、ござます…」
「…おい、大丈夫か。顔色が青いを通り越して“白い”ぞ。」
「う゛ぅ…ぎもち゛わるっ…」
「おんや可哀想に。けどつわりはなぁ…」
「むぅーん、どうにかしてあげたいですけど、正直何も出来ないのが現状です。時期に楽にはなるものですが…場合によっては『妊娠悪阻』に進行してしまう事もあります。気負わずのんびりと、楽に過ごして下さい。」
「……。」
降って湧いたような慶事に嬉しい事には違いない霧山だが、どうにも実感が湧かず戸惑いの方が強い。そんな気持ちのまま病院を出てほのかを送り届け事務所へと向かう。
「うす、ご苦労様です若頭。」
「…ご苦労さん。てか俺の事は今まで通りで良いって。」
「駄目すよ。そういうのはきっちりしろと『会長』に言われてますんで。」
「…。その会長は?」
「会長室す。引き継いだ書類引っ張り出して読み込んでます。…内と外じゃ勝手が全く違うからなって。」
新たな本部長となった春原はトホホと力なく笑う。その男の肩をポン!と叩き、会長室へと向かった。
「…失礼します、霧山です。」
「おう。」
足を踏み入れるとデスクの上に長い足を乗せて踏ん反り返る清水と目が合う。その脇には会長付きとなった幹哉もいた。
「今戻りました。勝手しまして…」
「こっちは問題ねぇ。事務所番は本来なら本部長の仕事だ、今は春原に任せてんだから気にすんな。…ンな事より、ほのかはどうだった?」
「…。デキてました…2ヶ月だそうです。」
「おー、そりゃめでてぇな。キリも『親父』か…おめでとさん。」
「おめでとうございます、若頭。」
「…ありがとうございます。」
「ンだよ…相変わらずの仏頂面だな。何かあったか?」
「…。なんかイマイチ実感がなくて…」
「野郎なんかンなモンだっ。産まれるまで何1つしてやれねぇ…けどなキリ、側にはいてやれ。美優がそうだったが、小さな事でも不安がるからよ。」
「はい…」
「でも若頭のお宅に産まれたら、若とお嬢は嬉しいんじゃないですか?ほのかの姐さんとも仲良いですし。」
「だな。」
楽しみだと笑い合う新たな会長と側付き。果たして鉄仮面霧山に『父性』という感情が芽生えるのはいつになるやら。
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