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結実ノ章
41 変化の時
しおりを挟む「ホント、可愛いわねぇ~♪ずっと見ていても飽きやしないわ。」
「でも…何となく目が『吊り目』っぽいのが、やっぱあの男の子供よねー。」
「でもかーわーいーいっ♪可愛いは正義って感じ?」
それぞれの時間を割いて清水家を襲撃…元い、訪れた女達は今や『小さな天使』に夢中である。その天使は大人の会話など知らんとばかりにスヤスヤと母の腕で眠っていた。
出産を経て無事に退院してしばらくが経ち、落ち着いたであろう頃合いを見計らってやってきた女性4人は、当然ながら天使への貢ぎ物も忘れない。
「美優さんコレ、良かったら使ってみて?ちょっと早いかもしれないけど。」
「私は洋服…ロンパースとカバーオールよ。可愛いのを見繕って来たわ。」
「あかりちゃんはこの『ガラガラ』~♪気に入ってくれるかな~?」
「私は…オムツとミルクをセットで進呈。」
「わ、すごく現実的。」
「だって、オムツはいくらあっても困らないじゃない?ミルクだって、美優さんは母乳だけどある程度は上手く併用しないと辛いと思うの。」
「皆さん、ありがとうございます。有り難く使わせて頂きますね。…良かったね?ありがとうしなきゃね♪『流くん』っ。」
この家の天使の名は『流(りゅう)』。経緯には父圭介の並ならぬ思いがあった。
「ところで、何で『流』なの?あの男の事だから、もっとこう…同じ“りゅう”でも違う字を使ったりそうなモンじゃない。」
「それって…ドラゴンの龍の事?流れるって字は風流なイメージで極道とは遠いわよねぇ。」
「…。亡くなった流平さんから頂いたみたいです。彼のように優しい、何事にも一途な人間にって…それに苗字が『清水』で水に関係しているので。」
「なるほど、苗字と流平くんを掛け合わせたって事なのね。…しーくんらしいじゃない。」
「あ、起きた~♪目がクリクリしてるぅー。知らない人がいるってビックリしてるのかな?」
「多分…あ。」
「あらあら、泣いちゃうわ。」
大人達の射抜かんばかりの凝視が怖かったのか、流がふえぇ…と声を上げ泣き出す。美優がお尻をポンポンと小さく叩きあやすが、どうした事かいつものようには泣き止んでくれない。
「あれ?流くんどうしたの?良い子良い子…怖くないですよー。」
「ゔえぇー…」
おかしいな?と首を傾げたその時…「戻ったぞー。」とドアが開く。そして途端に眉間にシワが寄った。
「おい…寄って集ってウチの倅をビビらせんなや。」
「ちょっと!それ言いがかりよっ。たまたま泣いちゃっただけ…」
「お帰りなさい、圭介さん…」
「おう。…貸せ美優。」
帰宅早々、美優の隣に座った圭介は早くも手馴れた様子で息子を抱き受けるとゆっくりユラユラと揺らす。すると…
「あ、あらあら…泣き止んだわ。何かの冗談みたい。」
力ないながらにもふえふえと泣いていた流はピタリと泣き止み、次にはキャハ♪と笑いながら小さな手を伸ばす。圭介が自分の人差し指を出すとそれを握る様を見て、女性陣からは感慨の声が上がった。
「さすが『お父さん』ね。男同士だからわかるのかしら?」
「さぁな。…おう流、父ちゃんが帰ったぜ。母ちゃん困らせてなかったか?」
「いや見てたでしょう?さっき困ってたわよ?」
「…ったく、いちいちうるせぇ奴だな翠。出禁にすんぞ。」
「やってみなさいよ、美優さんに入れてもらうからっ。」
「…。美優、翠は2度とウチに入れんな。流にも会わせんな。抱くのも禁止だ。…いいな?」
「え、待って、ごめんなさいっ、許して下さい!清水様っ。」
そんな2人のやり取りを、皆は声を上げて楽しげに笑い合うのだった。
この時こそ出なかったものの、圭介は流が泣く度に決まって言う言葉がある。
その日は仕事を休み、朝からマンションにいた彼は息子の世話を積極的にこなす。
「…ふえ…ふえぇー…」
洗濯物を畳んでいた美優を抑え、隣の寝室に設置したベビーベッドを覗くと…そこには顔を真っ赤にして泣く、寝ていたはずの我が倅。
両手と両足をモジモジと動かす姿は本人としては暴れているのだろうが、長らくと色んな意味で暴れてきた父圭介からするとまだまだ!と言いたい。
「どうした流。何が気に食わねぇんだ?」
聞いたところで赤ちゃんが答えられる訳がない。けれど『話しかける事で言葉を早く覚える。』という南雲の助言に従ってそうしている。
やがて父はロンパースの股下にあるボタンを外してオムツを凝視した。そこにはオシッコをした証である『縦線』がはっきりと浮き出て僅か膨らんでいる。
「…なるほどな。こりゃ気持ち悪りぃわな…」
今や圭介にとって息子のオムツ替えも授乳もお手の物、少々の機嫌すら直してしまう。こうしている今でさえチャッチャと新たなオムツへと交換して、身支度を整えてやるとひょいと掲げ上げる。
「…。男ならびーびー泣くんじゃねぇ。父ちゃんの子だろ?流。」
真顔で放ったその言葉に、我慢出来ないとばかり「ぷっ!」と吹き出したのが、背後からそっと様子を見ていた美優だ。…圭介のお決まりの台詞はコレである。
「圭介さんっ、流くんにそんな事言っても無理ですよ。赤ちゃんは泣くのが仕事、話せない代わりに泣いて私達に知らせてくれるんですから。」
「ンな事言ってもよ…、…ダメだ泣き止まねぇ…」
「ふふ♪多分こっちもです。…流くん、ミルク飲もうね?」
「ふえぇーん…」
美優が代わってソファーで流を抱き、その口元へ哺乳瓶を近づけるとぱくり!と咥えゴクゴクと飲み出す。それを幸せそうな笑みで彼女が見つめ…更に母子を圭介がその隣で見守った。
『女なんか!』と見下げていた自分が、仕事を介して出逢った女をひょんな話の流れから抱き…その女に『落ちた』瞬間から始まった恋は、やがて愛に変わり互いに必要な『存在』となった。
事が起こる度にその想いは強くなり…今では嫁となり自分の子供を命がけで産んでくれた美優の為なら、この命すら惜しくもないと思える。…それは無事産まれて、日々成長していく息子も同じ事。
圭介は近頃、自分が『極道者』である事をたまに忘れる事がある。それだけ彼の過ごす毎日が充実していて幸せな証拠とも言えよう。
そんな圭介と美優の幸せな『日常』が…変わろうとしていた。
それが動き出したのは、息子が産まれてから半年程経ち、流が自力でお座りし出した頃だ。
夕飯を済ませ、ホッとした時間をマットの上で息子を遊ばせながら過ごしていたその時…『ピンポン♪』とドアフォンが鳴った。
圭介が「うぃー…」と出ると、そこには笛木と南雲が立っていた。
「突然済まないね清水、美優さん。…おや流、もう1人で座っていられるのですか?子供の成長は早いですねぇ。」
「ほら流っ。お子ちゃま煎餅持ってきたぞー…好きなんだってな?」
「あーうっ♪」
「あ、南雲先生っ…すいません、ありがとうございます。」
因みに南雲が言う『お子ちゃま煎餅』とは、米粉で作られた有名なものである。赤ちゃんならば必ず喜んで食べると言って過言ではないそれは、例にもれず流も大好きで食い付きが良い。
その話を圭介から聞いていた南雲は、手土産に持って来たのだった。そして渡された流は小さいながらもお子ちゃま煎餅に執着を示し、抱きしめて離そうとしない。
「り、流くんっ…もうぽんぽん、いっぱいでしょう?お母ちゃんにちょうだい?」
「…っぷぅ…だぅ…」
「うーん…じゃあ、1コだけよ?あとは『ナイナイ』。…わかった?」
「…すげぇ、さすが母。たったあれだけなのに会話が成立してる…」
「最近じゃ、流もこっちの言ってる事わかるみてぇでな。ジーッとオレら親の顔見るんだよ。」
「そうともなると今度は真似をするようになりますね。…清水、本気で気をつけないとマズいですよ。」
「…ま、その辺は…。ところで会長、今夜はどうしたんすか?」
「それは俺も知りたいっすね。…何も説明ナシにただ『付いて来なさい。』じゃあ。」
「はは!申し訳ない。…実は2人に込み入った話がありましてね。」
「…。あ、あの…私と流くんは失礼します…」
「いえ、美優さん。…貴女にも聞いて欲しいんです。なのでこの時間に訪ねて来たんですよ。」
「…、…え?」
「……。」
「私は…『北斗聖龍会』の会長から退く事を決めました。」
「ッ?!っ会長!!」
「…ッ、笛木さんッ…」
「……っ…」
…事態は急速に、そして確実に変化の時を迎えていた。
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