Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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小話集

頑張れ女の子!〜それぞれのバレンタイン

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2月14日は聖バレンタインデー。日本において女の子が勇気と気合を振り絞って好きな男の子に想いを伝える日である。

昨今では本命チョコの他に義理チョコ、友チョコ、逆チョコ…挙げ句にはユリチョコやらホモチョコやらなんぞと様々呼ばれているようだが。

さて。そんな日にあやかろうと、とある場所の女の子達は母親の手と知恵を借りてせっせと丹精込めて自分達らしい『チョコ』を作り上げる。

例えキッチンや部屋中がチョコによって甘ったるい匂いが充満しようと全くお構いナシだ。

「…はいっ、出来上がり~!」
「きゃー!出来ました~!頑張ったねーっ。」

同じ市内のそれぞれの家では、娘を持つ母が各々が頑張った娘を褒め称える。

「「じゃあ行こっか!」」

それぞれは娘の小さな手を取り、娘の『大好きな人』の元へといそいそと向かった。

ピンポーン!とドアフォンが鳴って出迎えるのは、第三子次男の陽介を抱っこした圭介の妻美優だった。

「こんにちは、志穂さん。香穂ちゃん。」

「こんちゃ、みゆーおばしゃまっ。」

ひと足早く到着したのは南雲瞬の妻志穂と長女の香穂。美優の顔を見た果穂はペコッと頭を下げて挨拶をする。

「ふふふ♪上がって下さい。」

誘われ、中へと入った南雲母娘だったが…

「あえ?おばしゃま…“にいた”は?」

「…。ごめんね、香穂ちゃん…流お兄ちゃん、まだ帰って来てないのよ。」

「あらそうなの?そろそろ学校終わって帰って来てるだろうと思って来たんだけど…」

「はい。今日は司さんがお迎えに行って下さっているんですけど…でも多分、もうすぐに…」

「ふぇっ…にいた、いにゃいの?」

「大丈夫よ。もうすぐ帰って来るって…だから待ってようね。」

「…、…ん…」

「えっ、と…?」

「あぁ、気にしないでね美優さん。」

ニコリと笑った志穂が微妙な予防線を張りつつ娘にナイスフォローを入れる。…事前に言ってしまって、遠慮しいな美優に敬遠されてしまっては本末転倒だ。

志穂にはアイスティーを、香穂にはオレンジジュースとお手製のお野菜サブレを差し出した頃、玄関から再びドアフォンの音が聞こえて来た。

「こんにちは!美優さんっ。」
「こんちゃ…おばしゃま。」

お次の訪問者は霧山の妻ほのかと双子の長女まなかだ。やはり美優に挨拶するとぺこりと頭を下げる。

「…もしかして…どちら様かいらしてます?お客様なら出直して…」

「ちょっと前に志穂さんと香穂ちゃんが。大丈夫ですから上がって下さい。」

「…。あ、ははっ…カブっちゃいましたねー。…すいません、お邪魔します。」

後手となった霧山母娘が中へ入ると、母親同士バッチリと視線が合う。

「こんにちは志穂さん、香穂ちゃん。」

「あらら…ほのかさん、まなかちゃん。…こんにちは。」

「……、…」

お互い『うふふ♪』、『えへへ♪』と笑い合う両家の母親だが…間にいる美優には何やら黒いものが入り混じっているように見えひっそりと汗を流す。

「ところで…今日はどうされたんですか?」

「えっと、ちょっと若様にお渡ししたい物がありまして。…ウチのまなちゃんが。」

「あら…ウチもなの。香穂が流くんに直接渡したいって。」

「…え、流くんにですか?…、…あ、…え?何を…」

「美優さんっ、今日は『バレンタインデー』ですよ♪私も悠斗さんにチョコ、作ったんですぅ…まなちゃんに便乗して♪」

「バ、バレンタイン…デー…はぁー、すっかり忘れてしまってました。何だかもう日にち感覚がごちゃまぜで…」

「小さな子がいればそんなモノよ。大丈夫。」

今日のこの日が女性にとって正に『一大イベント』であるにも関わらず、美優の頭からはすっかりと抜けていた。その事がショックで僅か肩を落とす。…まぁ志穂が言うように、小さな乳児を抱えていては無理もない。

「あら~陽(よう)ちゃん♪お座り出来るようになったの?」

「はい、ついちょっと前から。…身体ががっしりして来たと言いますか…こういうのを見るとやっぱり圭介さんの子なんだなぁと。」

母にされるがままにソファーにデンと座っていた末っ子の陽介は、クリクリの両目をキョロキョロと彷徨わせた後『にゃは♪』と笑う。

…だがやはりというべきか、父親譲りの僅かな“吊り目”は健在らしく…

「…、…うん、どっからどう見ても清水さんの子ね…」

「で、でも!それ以外のパーツはどことなく美優似ですよー。女の子の服着たらそれっぽく見えるっていうか?」

「…清水さんの吊り目DNAは相当強いわねぇ…」

「あ、ははっ…」

そんな事を話しているとドアフォンが三度鳴り、直後にガチャ!と開くと…「母ちゃ~ん!ただいまー!」と元気な声が響いた。

「お帰りなさい、流くん。」

「ただいま!…っ、こんにちは!志穂ママ、ほのかママ!」

「こんにちは流くん。」

「お帰りなさい若様っ。」

「にいた!にいたっ♪」
「こんちゃ!」

「わ!かほちゃんとまなちゃんだっ。」

ウズウズとしていた香穂とまなかに両側から飛びつかれビックリしたような表情をした流だったが、すぐにえへへ♪と笑顔になる。そんな子らの横から司がにへらっとしながら美優に寄る。

「あの姐さん…コレ。」

「へ?…何でしょう?」

「ほら!今日はバレンタインじゃないすか。若が学校で女子達からもらったみたいで…」

「…え。」

やや大きめの紙袋には、これまたたんまりと可愛らしいラッピングがされた小箱が。ここまでになるまでに色々とあったらしく…

「やーびっくりす。自分、学校の昇降口にいたんすけど…若が靴を履く合間にも『清水くん!あげる♪』って、車乗るまでに次から次へと。中には高学年の女子とかもいまして…やっぱ若はモテるっすね!さすが会長の『倅』す。」

「……、…」

「す、凄いわね…流くん。」

「いーやー!まなちゃんの敵だらけー!」

「ど、どうしましょう…流くん、ありがとうってちゃんと言ったの?」

「うん!いったよっ。もらったら“ありがとう”しないと母ちゃんにおこられるから。」

予想を上回る実情に、志穂もほのかも気を引き締めて手に力が入る。やもしてると

「にいた!あげゆ♪」

「りゅーにいた…あい。」

両手に花状態のその両側から黄色と水色のラッピングがされた小箱を差し出される。

「…ふぉ?…くれるの?ぼくに。」

「「うん!」」

「ありがとう!かほちゃん、まなちゃん♪」

「…え…え?」

「母ちゃん!かほちゃんとまなちゃんからもらった!…たべてもいい?」

ペリペリと包みを開けあーんと大口を開ける流は、好物のチョコを沢山もらえてホクホク顔だ。

そんな息子の姿を見て、母美優は軽く頭痛を覚える。

「す、すみません…志穂さん、ほのかさん…」

「あらあら気にしないでって言ったじゃない。…良かったわねー果穂。頑張って作ったんだものねー。」

「ん!うれちいっ。」

南雲母娘の傍らで、霧山母娘もハイタッチで渡し食べてもらえた事を喜び合う。そんな中でも美優は早くも来月やって来るお返しの事で頭がいっぱいになるのだった。

・・・・・

「…ほぉ、ンなもらったのか流は。…やっぱオレの倅だなぁ…くっくっく。」

「…笑ってる場合じゃないですよ?圭介さん。…香穂ちゃんやまなかちゃんからも頂いてしまって…」

その夜、帰宅した夫圭介に事の次第を話し報告した美優は完全なる困り顔だった。だが対する圭介はわはは!と笑うばかり。

「ンな細かく気にしなさんな。巷のイベントだ…オレも昔はめったくそもらったモンだぜ。流だって好物もらえてツイてるぐらいにしか思ってねぇだろ。」

「…むぅ。」

「陽介もデカくなって、お兄みたいに女から沢山もらえよ?」

「…もぐもぐ…」

「よぅ、ところで…オレにはないのか?バレンタイン。」

「…知りません。」

それとコレは別と言わんばかりに僅かせがんでみた圭介。息子2人にはどうやら渡したらしく、流は嬉しい余りに小躍りし末っ子陽介は父に抱っこされながらももらった卵ボーロをもっきゅもっきゅと食べている。

だからといって美優も用意していない訳ではなく…やがて立つとキッチンに向かい冷蔵庫から何かを持って来た。

「…。コレは圭介さんの分です。ラム酒を効かせてあるので、子供達の目に入らないようにしてました…」

出されたのは1人で十分に食べ切れるサイズの小さなチョコケーキ。甘い物は好まない夫の為、ラム酒を効かせてビターチョコで作り上げた手作りだ。それを無言で穴開く勢いでしばしジッと見つめる。…どうやら感動している様子だ。

「…マジか。別にめちゃくちゃ欲しいって訳じゃねかったんだが…」

「じゃあいいです。食べてもらえなくても。」

「バ、バカやろっ…そういう意味じゃねぇっての。あー、悪かった…頼むから持ってくなよっ。」

陽介を抱えながらもチョコケーキを奪還し、早速ご相伴にあずかる。料理上手な美優の事…言わずもがなに美味くて更なる感動が湧く。

「…めちゃくちゃうめぇ…ありがとな美優。」

「どう致しまして。…ふふ♪」

「なぁ…美優。お礼は『4人目』で良いか?」

「えっ、それってお礼なんですか?そ、それにまだ陽くんも1歳なってないのにっ…」

「…ほぅ。1歳になったら『良い』と。…ヨシ!陽介っ、早くなれっ。」

「…、…う?」

「だ、だからっ…そういう事ではっ…もう!」

『子作り打止め』という言葉は一切頭にない夫は再び楽しげに声を上げ笑う。

だがそのおかげで流と小梅にチョコケーキの存在を知られてしまい…

「あー!父ちゃんズルい!りゅうもたべたい!」

「うーも!うーもたべちゃい!」

「だぁー!ダメだ!父ちゃんしか食えねぇんだ!腹痛くすん…あ。」

「…はわ…」

子らに体当たりされ揉みくちゃになっている中、末っ子陽介の目の前に差し出される形となり…何もわからないままに陽介は小さな手でケーキをワシ!と掴んでしまった。その本人はご満悦でにゃは♪と笑う。それはまるでイタズラが成功したかのような小悪魔な笑みである。

「…陽くん、お手ふきふきしようね。…あっダメ、手ってお口に入れないのっ。」

母美優はグスグス言いながら末息子の手を拭き、父圭介は倅と娘に奪われたチョコケーキを奪還しようと追い回す。

…ようやく取り上げられたそれは、しばらくの間を父圭介の頭の上に避難させられていたのだった。何につけても大騒ぎな清水家である。
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