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6章

6-7 眩暈

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 療法士さんたちは患者さんに合わせて、病室へ迎えに来て一緒にリハビリ室へ行ったり、患者さんに来てくださいと言って患者さんにリハビリ室へ来させたりしていた。 

 私は当初お迎えに来てくれるのを待つ身だったので、病室の自分のベッドに座って待っていた。 
 待っている時はいつも手の自主トレリハビリにと1人の作業療法士の女性が作ってくれた”糸巻き”をぐるぐるしていた。
 その”糸巻き”は、サランラップの芯のようなものに太目のブルーの紐をつけたもので、この紐をその芯にぐるぐる巻きつける動作を左手でやっていた。 

 紐をぐるぐるするだけの単純な動作だけど、スムーズには出来なかった。かくかくするのだ。なめらかに出来なかった。
 だからなめらかに出来るようになるために毎日ぐるぐるしていた。 

 この糸巻きを作ってくれた女性はリラックマ好きの私のためにリラックマの折り紙をプレゼントしてくれた。手のリハビリに折り紙を、ということだった。
 嬉しかった。
 その折り紙の完成形はお弁当箱とお弁当の中身だった。リラックマのイラストの入ったお弁当箱。
 お弁当の中身はウィンナーや枝豆やチーズボールなどなど。リラックマの顔のついたスプーンやコリラックマの顔のついたフォーク。
 折り紙でそれらを作るというものだった。もちろん作り方の書かれたものも入っている。
 私はこれを作り上げて完成したものをこれをくれた作業療法士の女性にプレゼント返しをしようと決めて、作り始めた。
 毎日折り紙の作り方を見ながら1つずつ作っていった。 

 

 ある日、病室のベッドに腰掛けて糸巻きをしていた時のこと。
 いっときすると次のリハビリの時間だったのでいつでも立てるようにスニーカーを履いてスタンバイOKの状態でだらだらと糸巻きをしていた。
 少し眠気があったので、上半身をベッドに倒した。枕の方に頭がくるように横に上半身だけ倒した。 

 するとその時、眩暈がした。 

 眩暈はすぐには止まなかった。 

 その眩暈は、まるで倒れた時の眩暈のようだった。 

 倒れた時の眩暈と同じ眩暈がきたので怖くなった。 


 あの時の眩暈だ 

 同じだ 

 止まらない 

 なにこれ 

 なんで 

 怖い 

 またあの吐気がくるの? 

 せっかく身体が良くなってきてるのに振り出しに戻るの? 

 いやだ! 

 いやだ! 

 絶対にいやだ! 

 

 怖くてたまらなかった。 

 目をつむって眩暈が止むのを祈って身体を動かさないようにした。 

 目をつむっても眩暈が続いているのはわかった。 

 そうしていっとき目をつむってじっとしていた。 

 このことを療法士さんに言うかどうか悩んだ。
 もし言ってリハビリが止められたら困ると思った私はこの時は言わなかった。 
 でも、その後また同じようなことがあった。その時はさすがに2度目なので言うことにした。 
 担当の療法士さんに言って、彼は担当医に話してくれたそうだが、特に検査をされたりすることはなかった。 


 この眩暈はその後もふとした時に私を襲ったので、退院後にお医者さんに相談すると「脳が障害を受けてるんだろうねぇ」と言われた。 
 

 障害で眩暈・・・ 

 てことは、良くならないってこと? 

 もうずっとこの眩暈はあるってこと? 

 ちょっとでも頭を動かすと眩暈がくるの? 

 ずっと? 

 その日は落ち込んだ。 
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