12 / 25
三
八
しおりを挟む籠の用意された場所まで行って、義は言葉を失うほどの驚きというものを味わうことになった。
「……ばれましたか」
悪戯が成功した顔で笑う梵天丸。いでたちは小姓さながらだ。
「な……なっ……」
「『父上を迎えに行く』だけでしょう? だったら私が一緒に行っても問題ないはずです」
危険だと言おうとした義に、梵天丸はあっさりと言い放った。
「万が一に備えて、綱元が供として来てくれると言ってくれました。それに山形は母上の故郷。一度でいいので行ってみたいと竺丸とも話しておりました」
なんと小賢しいことか。初めて義は梵天丸を邪険にした。
それに堪えることなく、それどころか当たり前のように義の乗る籠に入ってくるあたり、肝が据わりすぎた。
この戦乱の時期を乗り越えるにはこれくらいの度量は必要かもしれない。しかし、それは十にも満たない子供の役目ではない。
「母上が私の眼を腹に収めてくださったときに、私の謙虚さも一緒に持って行ってくれたようです」
「そのようなごたくは聞きとうないわ!!」
思わず怒鳴ってしまった。しかし外から漏れ聞こえる笑いに、義は己から力が抜けていった。
米沢から戦のある上山までは、いくつか山を越えていく必要がある。
その間に泣き言をいうようであれば、まだ可愛げがあった。
義や、山形からついてきた侍女から義守と義光の話を聞くあたりで、今回の騒動の本質をある程度知っているのだ。
「梵天丸よ……」
「いろんな方から話を聞くのも大事だと、母上も仰っていましたよね」
それはそれ、これはこれ。そう言えればどれくらい楽なのだろうか。くすくすと年配の侍女が笑みを漏らした。
「ほんに、梵天丸様は義様の幼き頃にそっくりでございますな」
「左様でございます。義光様とご一緒に動かれると、家臣一同困り果てたものです」
山形からついてきた侍女たちがそう言いだすと、喜多たち米沢から義についた侍女たちが興味津々といった顔で食らいついていた。
「余計なことを言うでないっ」
「ならば義様がお二人のことを梵天丸様に教えて差し上げればよろしいのです。つっけんどんになさるから、わたくし共が気を利かせてお話しているだけでございます」
何故、己に仕えるはずの侍女に恥ずかしい話を披露されるのか、解せぬ。そう思いつつも、母親が昔己を邪険にしたことがあったと思い出していた。
「東の方様、間もなくつきます」
綱元の声に、緊張が高まった。
義自身も戦場に向かうが、義守、義光、輝宗の三者を同時に止めねばならない。
輝宗のところには梵天丸が行き、義守のところには山形からついてきた侍女を。義光のところにも義守と同じでいいとして、問題は義が一番に顔を出す陣営はどこかということだったりする。
三者どれに顔を立てても、納得はすまい。だからといって己が出ないわけにもいかない。
「籠ならば少しの矢くらい大丈夫かの」
「姫様……」
「仕方あるまい。三者へ早馬を。わたくしと綱元に喜多で戦場の真ん中へ。二人はわたくしを戦場の真ん中に置いたら去れ」
周囲がざわめいた。
「わたくしは替えがきくが、他はきかぬ」
義の替わりは後妻でも貰えばいい。
「なら、私の替えもいますね。
綱元、私も母上と一緒に籠に残る」
「梵天丸様! 東の方様!!」
「それに私がいると分かれば、父上は攻撃しないでしょうし、伯父上も母上がいると分かればしないでしょう。祖父上一人なら、皆が抑えられるのでは?」
幼いながら、きりっとした顔で梵天丸が言い放った。
誰も言い返すとこが出来ず、梵天丸と二人籠の中に残った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
梵天丸ェ
一応、義守と義光が戦を起こし、義守が輝宗に援軍を頼んだというのは史実の中にあります(六割くらいの確率だと思ってます)。そして、その戦を終わらせるために義姫が乗り込んでいったという話が……(こちらは不確か)。
で、そこに梵天丸が一緒に行っていたという事実はどこにもありません(完全なる創作です)。
いやね、プロットの時点ではついてこなかったのです。気が付いたら乗ってやがりました。
さっさと義姫が義光と輝宗に怒り狂ってほしいのですけど(ヲイ)
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
影武者の天下盗り
井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」
百姓の男が“信長”を演じ続けた。
やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。
貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。
戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。
炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。
家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。
偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。
「俺が、信長だ」
虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。
時は戦国。
貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。
そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。
その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。
歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。
(このドラマは史実を基にしたフィクションです)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる