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二
一
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二
輿入れの籠の中で義姫は思う。あの二人の価値観の違いはどこから来るのだろうかと。父、義守は伊達との融和を図りたかった。逆に兄、義光は伊達からの完全な脱却をしたかったのだ。だから兄はこの婚儀には当初から反対の意を示していた。
――お義、この婚儀どう思う?――
兄に問われた言葉だ。どう思うと言われても、この婚儀に意味は無い、そう言いたいのがよく分かった。
――兄上、この婚儀により最上と伊達、戦が起きなければよき事にございましょう――
――よき事とな?――
――はい。兄上が思うておりますこと、この義も分かっているつもりです――
その上で自分は嫁ぐのだと、兄に諭す。だが、兄はそれでもなお、渋っていたのだ。
――できうることなら、お義は家臣の誰かに嫁がせたい――
――兄上、それは兄上の我が侭にございます――
兄が自身を頼りにしている事も知っていた。父は多少自分に手を焼いていた。それもそうだろう。すでに兄が元服する頃には「義守の娘は鬼姫」そう奥州中から揶揄されていたのだ。
――某の我が侭とな――
困った顔をした兄をじっと見つめて、その後頷いた。
――この『鬼姫』を嫁にもらうという物好きがいらっしゃるのですから、それも父上には嬉しき事にございましょうとも――
そう言って笑い、自身の意思は変えぬと兄に言った。
そういう経緯はあったが、こうやって米沢に嫁いでいる。それはまぎれもない事実だ。これから夫になる輝宗は義光よりも一つほど年上と聞く。自身とは三つ違う事になる。
「…の鬼…が通…」
外から声が聞こえてくる。自分を「奥州の鬼姫」と揶揄する声だ。自身の意思を持って行動し、父や兄に意見するのが「鬼」になるのか、毎回そう思ってしまう。
「鬼姫」と呼ばれる所以はそれだけでない事も自分は知っているが、それもだから何なのだ、そう言いたくなってくる。
「……姫様。米沢に入りましたよ」
「左様か。なれば我が殿になられる方とも間もなくお会いできるという訳か」
外にいる従女を労いつつ、義姫は返す。どんな方なのだろう。信心深い人と聞く。兄も信心深い。そんなものは慣れている。
「わざわざありがとうございます。輝宗様は何処ですか?」
出迎えてくれた伊達家家臣団を見渡して義姫が言う。
「御堂におられます。いつもの日課で…」
家督を継いでからはなおのこと、日々神仏に祈りを捧げていると家臣の一人が言うのを聞いて義姫は驚いた。兄以上の信心深さだ。
「お部屋の方でお待ちくださいとのことです。ご案内いたします」
そう言って従女が義姫を促してきた。
「今、輝宗様が御堂にいらっしゃるというのなら、わたくしも御堂に行きとうございます」
それを聞き、出迎えた家臣も従女も、無論自身が連れてきた従女も驚いていた。
「輝宗様が御堂で祈りを捧げるのが日課ならば、わたくしもそれに倣うのがよろしいかと」
「では、それは明日からという事で、今日のところはお部屋へ。間もなく殿もお戻りになられるかと」
「承知いたしました。ではご案内よろしくお願いします」
そう義姫が言うと、出迎えた従女が義姫を促した。案内した先は米沢城の東側に位置する場所だった。これより先、義姫は「お東の方」と呼ばれる事になる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
義守、義光……最上義守・義光のこと。義守は義姫の父、義光は兄。仲が悪かったとされているが、その辺りは創作ではないかとすら言われている。義光は嫁いだ妹を大変に頼りにしていた。ある意味シスコン。でも、羽州の狐と呼ばれるほど、頭は切れていたらしい。知将としても名高く、名君でもある。
輿入れの籠の中で義姫は思う。あの二人の価値観の違いはどこから来るのだろうかと。父、義守は伊達との融和を図りたかった。逆に兄、義光は伊達からの完全な脱却をしたかったのだ。だから兄はこの婚儀には当初から反対の意を示していた。
――お義、この婚儀どう思う?――
兄に問われた言葉だ。どう思うと言われても、この婚儀に意味は無い、そう言いたいのがよく分かった。
――兄上、この婚儀により最上と伊達、戦が起きなければよき事にございましょう――
――よき事とな?――
――はい。兄上が思うておりますこと、この義も分かっているつもりです――
その上で自分は嫁ぐのだと、兄に諭す。だが、兄はそれでもなお、渋っていたのだ。
――できうることなら、お義は家臣の誰かに嫁がせたい――
――兄上、それは兄上の我が侭にございます――
兄が自身を頼りにしている事も知っていた。父は多少自分に手を焼いていた。それもそうだろう。すでに兄が元服する頃には「義守の娘は鬼姫」そう奥州中から揶揄されていたのだ。
――某の我が侭とな――
困った顔をした兄をじっと見つめて、その後頷いた。
――この『鬼姫』を嫁にもらうという物好きがいらっしゃるのですから、それも父上には嬉しき事にございましょうとも――
そう言って笑い、自身の意思は変えぬと兄に言った。
そういう経緯はあったが、こうやって米沢に嫁いでいる。それはまぎれもない事実だ。これから夫になる輝宗は義光よりも一つほど年上と聞く。自身とは三つ違う事になる。
「…の鬼…が通…」
外から声が聞こえてくる。自分を「奥州の鬼姫」と揶揄する声だ。自身の意思を持って行動し、父や兄に意見するのが「鬼」になるのか、毎回そう思ってしまう。
「鬼姫」と呼ばれる所以はそれだけでない事も自分は知っているが、それもだから何なのだ、そう言いたくなってくる。
「……姫様。米沢に入りましたよ」
「左様か。なれば我が殿になられる方とも間もなくお会いできるという訳か」
外にいる従女を労いつつ、義姫は返す。どんな方なのだろう。信心深い人と聞く。兄も信心深い。そんなものは慣れている。
「わざわざありがとうございます。輝宗様は何処ですか?」
出迎えてくれた伊達家家臣団を見渡して義姫が言う。
「御堂におられます。いつもの日課で…」
家督を継いでからはなおのこと、日々神仏に祈りを捧げていると家臣の一人が言うのを聞いて義姫は驚いた。兄以上の信心深さだ。
「お部屋の方でお待ちくださいとのことです。ご案内いたします」
そう言って従女が義姫を促してきた。
「今、輝宗様が御堂にいらっしゃるというのなら、わたくしも御堂に行きとうございます」
それを聞き、出迎えた家臣も従女も、無論自身が連れてきた従女も驚いていた。
「輝宗様が御堂で祈りを捧げるのが日課ならば、わたくしもそれに倣うのがよろしいかと」
「では、それは明日からという事で、今日のところはお部屋へ。間もなく殿もお戻りになられるかと」
「承知いたしました。ではご案内よろしくお願いします」
そう義姫が言うと、出迎えた従女が義姫を促した。案内した先は米沢城の東側に位置する場所だった。これより先、義姫は「お東の方」と呼ばれる事になる。
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義守、義光……最上義守・義光のこと。義守は義姫の父、義光は兄。仲が悪かったとされているが、その辺りは創作ではないかとすら言われている。義光は嫁いだ妹を大変に頼りにしていた。ある意味シスコン。でも、羽州の狐と呼ばれるほど、頭は切れていたらしい。知将としても名高く、名君でもある。
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