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三
一
しおりを挟む梵天丸が産まれ、五年が経過した。利発な子と重臣の間でも評判だった。そしてもう一人の子、竺丸は大人しくいつも義のそばを離れようとしなかった。
その間にも、二人を連れて一度戻ってこないかと兄からの催促が何度かあった。
行ってしまえば、戻って来れない可能性もある。夫が「里帰りはいつしてもいい」という言葉を、竺丸の人見知りに託けて延ばしていた。
――いい加減、一度父上に孫の顔を――
その手紙を見て、義は笑う。あの父上が? 孫が見たい? そこまでして見たいというなら来ればよろしい。夫のためにも人質にさせてたまるか。
その年、天然痘が領内で流行った。そして、その病に梵天丸も罹患したのだ。
天然痘は罹患率も高く、死に至る病である。誰しもが、梵天丸の死を覚悟していた。
輝宗は祈願をするためだけにどこからともなく僧を呼び寄せ、義はひたすら喜多と共に看病に明け暮れていた。
そして、また義は夢を見た。目を欠いた竜が空翔る夢である。
――汝は子の目を取るか? 命を取るか?――
天を翔け、戻ってきた竜が義に問う。迷いもなく命を取らないでくれと懇願した。
――その望み叶えたり――
竜は目を銜え、飛び去っていった。
それから間もなく、梵天丸の命は助かった。だが、右目は何も映すことがなくなっていた。
義は誰にも言うことなく、己を責め立てた。
「母、上」
「竺丸。いかがいたしました?」
「兄上のご病気は治られたのですよね? 何ゆえ、いまだ私を兄上は避けるのでしょうか?」
右目を失い、痘痕の残った顔。そんな自分の顔を梵天丸は忌嫌うようになっていた。
利発であった梵天丸は、あの一件以来近しい者しか寄らせない。剣術も勉学もひっそりとおこなうようになり、竺丸以上に内気な子供へと変貌していた。
それは、幼くも兄を慕う竺丸にすら影響を及ぼしていた。
「梵天丸はまだ具合がよくないのですよ。よくなりましたら……」
そこまで言って義は言葉につまった。あの状態からよくなるとでも言うのか? どうやって? それ以上に、己があの梵天丸を避けているのだと痛感していた。
己が選んだのだ。もし出来うることなら己の命を盾にすることも出来たはずだ。
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夢の話は神無の創作です。悪しからず。
それから梵天丸と竺丸は年子という説をここでは使っています。
五歳ほど歳の離れた兄弟という説もありますが。
天然痘に罹った事実は間違いないようですが、右目の視力を失ったということに関しては、諸説があります。
一つに、政宗はオッドアイであったというものです。最近ではよく言われるようですが、あえて右目の視力を失ったという説でいきます。
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