6 / 25
三
二
しおりを挟む
それから半年後、事態は動いた。
「東の方様」
「小十郎か。いかがした?」
喜多の異父弟であり、輝宗の小姓でもある片倉小十郎景綱が廊下から声をかけてきた。
小十郎が義に声をかけるとき、理由は二つある。一つは夫の出陣や身の回りのこと。……そしてもうひとつが、梵天丸のことだ。
「梵天丸様に刀を向けるお許しをいただきたく」
その言葉で、侍女たちにまで緊張が走った。
「理由は? それから我が君は何と仰せじゃ?」
「あのようになった理由の右目を抉り取りたいと思いました。殿は、……身体に傷をつけるは忍びないと」
それを聞いた義はこの男が梵天丸に刀を向けるという心意気を賞賛すると共に、ため息が出てしまった。忍びないという優しい輝宗を説得しろということだ。
「東の方様にかようなことは求めません。それにて梵天丸様が今より暗くなるなれば、この片倉小十郎景綱、腹を切るつもりです」
「我が君の代わりに見届けよ、そういうことか?」
「御意に」
その言葉に義はふっと笑う。
「よかろう。わたくしが見届けましょう。……消毒用の酒をすぐさま用意しなさい」
「……東の方様が見届けになることを期待して、我が実家にて神酒を用意しております」
相変わらず手際のいい男だと、義は思う。輝宗の覚えもめでたいのは、分かるというものだ。
「喜多は」
「既に梵天丸様のおそばに」
「なればすぐに行きましょう。殿に知られればそれこそ厄介じゃ」
義はすぐに立ち上がり、侍女にはここにいるよう命じた。悲鳴をあげられてはたまったものではない。
「御意に」
一瞬だけ驚いたように眉を上げていたが、すぐさま何事もなかったかのように景綱が先を歩いた。
「東の方様は、乳母と一緒に御堂へ」
途中、景綱が声をかけ一人梵天丸の部屋へと向かった。それを義は見送り、それと入れ違いに来た喜多と共に、御堂へと向かう。
「手を煩わせたの」
「それは、私の言葉にございますれば。東の方様」
すぐさま喜多が返してきた。あのあと明るく出来ないのは、己たちのせいだとすらのたまった。
それは違う。義はそう思う。あれ以降梵天丸が暗くなったのは、己が避けること、そしてあの姿を見て皆がぎょっとした顔を一瞬してしまうことが原因なのだ。
暫くして、離してくれと懇願する梵天丸を抱えあげた景綱が御堂へと来た。
「東の方様」
「小十郎か。いかがした?」
喜多の異父弟であり、輝宗の小姓でもある片倉小十郎景綱が廊下から声をかけてきた。
小十郎が義に声をかけるとき、理由は二つある。一つは夫の出陣や身の回りのこと。……そしてもうひとつが、梵天丸のことだ。
「梵天丸様に刀を向けるお許しをいただきたく」
その言葉で、侍女たちにまで緊張が走った。
「理由は? それから我が君は何と仰せじゃ?」
「あのようになった理由の右目を抉り取りたいと思いました。殿は、……身体に傷をつけるは忍びないと」
それを聞いた義はこの男が梵天丸に刀を向けるという心意気を賞賛すると共に、ため息が出てしまった。忍びないという優しい輝宗を説得しろということだ。
「東の方様にかようなことは求めません。それにて梵天丸様が今より暗くなるなれば、この片倉小十郎景綱、腹を切るつもりです」
「我が君の代わりに見届けよ、そういうことか?」
「御意に」
その言葉に義はふっと笑う。
「よかろう。わたくしが見届けましょう。……消毒用の酒をすぐさま用意しなさい」
「……東の方様が見届けになることを期待して、我が実家にて神酒を用意しております」
相変わらず手際のいい男だと、義は思う。輝宗の覚えもめでたいのは、分かるというものだ。
「喜多は」
「既に梵天丸様のおそばに」
「なればすぐに行きましょう。殿に知られればそれこそ厄介じゃ」
義はすぐに立ち上がり、侍女にはここにいるよう命じた。悲鳴をあげられてはたまったものではない。
「御意に」
一瞬だけ驚いたように眉を上げていたが、すぐさま何事もなかったかのように景綱が先を歩いた。
「東の方様は、乳母と一緒に御堂へ」
途中、景綱が声をかけ一人梵天丸の部屋へと向かった。それを義は見送り、それと入れ違いに来た喜多と共に、御堂へと向かう。
「手を煩わせたの」
「それは、私の言葉にございますれば。東の方様」
すぐさま喜多が返してきた。あのあと明るく出来ないのは、己たちのせいだとすらのたまった。
それは違う。義はそう思う。あれ以降梵天丸が暗くなったのは、己が避けること、そしてあの姿を見て皆がぎょっとした顔を一瞬してしまうことが原因なのだ。
暫くして、離してくれと懇願する梵天丸を抱えあげた景綱が御堂へと来た。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
影武者の天下盗り
井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」
百姓の男が“信長”を演じ続けた。
やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。
貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。
戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。
炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。
家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。
偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。
「俺が、信長だ」
虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。
時は戦国。
貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。
そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。
その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。
歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。
(このドラマは史実を基にしたフィクションです)
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる